いわゆる釜揚げうどんで、うどんに火が通り食べ頃になったら鍋から直接お椀にとり出し、ねぎやかつお節、ゆずなどの薬味を入れ、醤油をかけて食べます。山間部の奥多摩町では稲作ができず、麦やそば、あわ、きびなどの雑穀が多くつくられていました。小麦は製粉所で粉にしてもらいます。寒い冬には、炭焼きなどの山仕事……
県南部の東毛地域や西毛・中毛の平坦地は冬期の日照時間が長く乾燥しているため、米と麦の二毛作が行なわれます。かつては1日1食はうどん、おきりこみ(おっきりこみ)、すいとんなどの小麦粉を使った料理で、うどんが打てないと嫁に行けないともいわれました。 根菜類を入れた汁に生の麺を入れて煮たおきりこみが、……
県北西部にある津久井地域では、煮こみうどんのことを古くから「にごみ」と呼びます。この地域は水田が少なく、米よりも小麦や大麦が多くつくられ、ご飯の足りない分にうどんやすいとんなどが食べられました。とくに夕飯にはうどんの日が多くありました。 生のうどんを直に煮こむので、塩辛くならないように塩を少量に……
辛味大根のしぼり汁と味噌のつゆで食べるうどんは、長野の寒い冬に体を温めてくれます。辛みの強い地大根は県内各地で栽培されており、埴科郡坂城町《はにしなぐんさかきまち》周辺では、特産のねずみ大根を使います。ねずみ大根は標高400~500mの高地で育ち、小石混じりの条件のよくない畑でこそおいしくできる……
上野原市周辺では、七五三、結婚式、還暦の祝いなど、祝いごとの膳の最後に必ずといっていいほど、このお祝いうどんが出ます。上野原市は県の最東部で、かつては養蚕がさかんで「甲斐絹」で有名な織物業により栄えた地域です。河岸段丘の地形と水利に恵まれないことから、水田は少なく、おもに陸稲、小麦、大麦、雑穀、……
山がちで平地が少ないため水田が少ない峡南地域では、米の代用として、地元の小麦を粉にした地粉のうどんを一年中日常的に食べていました。粉はひきたてがおいしく、最近は異常気象で夏が暑く秋になるとおいしくなくなってしまうので、自家用に小麦を栽培して製粉する家では粉を冷凍保存します。昭和40年代まで冷蔵庫……
きしめんは、名古屋市の名物料理を指す「名古屋めし」の中でも江戸時代から伝わる、約400年という長い歴史を持ちます。ゆでた麺の上に刻みねぎ、油揚げ、削りかつお節などを添えて、醤油味の汁をかけて食べます。平たい形状が生む独特の舌ざわりと、のどごしが特徴です。 この地方では、八丁味噌にみるように濃厚な……
だし汁に八丁味噌を溶き、生のうどんを入れて煮こんだうどんです。山梨県の「ほうとう」を参考に、味噌で調味しただし汁でうどんと野菜を煮たのが由来、とされる説があります。だし汁で煮たうどんはかたく、知らない人には「火が通っていない」と勘違いされることもありますが、このかたさも魅力です。だしや具の鶏肉に……
伊勢うどんは非常にもちもちした太い手打ちうどんで、たまり醤油のつゆをかけ、刻んだ葉ねぎをかけて食べます。見た目は黒く、辛そうですが、だしがよく出たつゆは見た目ほど濃く感じません。伊勢、鳥羽を中心にごく日常的に昼食や間食として食べられており、地域の人はこのうどんじゃないとうどんを食べた気がしないと……
うどんに甘く炊いた油揚げと九条ねぎを加え、とろみをつけてあんかけにし、しょうがのすりおろしをたっぷりとのせます。油揚げを使っていますがきつねうどんと呼ばないのは、とろみをつけたあんをかけて化《ば》かしているからともいわれています。 底冷えのする冬の京都では、本当に体の芯から温まる一品です。夏の暑……
具は少し甘めに煮た薄揚げとねぎだけですが、うま味のきいたかつお節と昆布のだしが際立つ一品です。うす口醤油で味をつけるので、汁の色は薄く、だし汁を味わいます。うどんはやや、やわらかめ。大阪ではそばよりもうどんが好まれ、家庭でも店でもよく食べます。うどんとかやくご飯という「うどん定食」もあります。 ……
小麦粉をこねて包丁で切り、太めのうどん状にのばし、たっぷりの煮汁で煮こんだ料理です。包丁と呼ばれる麺は太さも長さも不ぞろいですが、細いところはつるつる、太いところはしこしこと、均一でないのが味わい深いのです。手でのばすのでエッジは立っていませんが、ところどころのねじれた部分に適度に角があり、おも……
大分市の戸次《へつぎ》地域でつくられている料理で、2~3mもの長さにのばした麺をつゆにつけながら食べます。戦国時代に大分を治めていた大友宗麟《おおともそうりん》に、好物のアワビの腸《ちょう》に見立ててこの料理を出したところ大層喜ばれたそうで、このことから「鮑腸《ほうちょう》」と呼ばれるようになっ……
焼きさばを甘じょっぱい調味液で炊き、その旨みを含んだ煮汁でそうめんを煮て合わせた料理です。焼きさばは、かつては福井の若狭湾から運ばれてきたものを購入して使っていました。さばは傷みやすいので、運ばれてくるのは焼きさばか塩さばです。海がない滋賀では海の魚は貴重なものだったのでしょう。湖北に位置する長……
手で薄くのばした小麦粉の生地「はっと」を具だくさんの汁に入れた県北の料理で、「つゆはっと」「はっと汁」とも呼ばれます。県北の仙北地域や大崎地域は米どころですが、かつては伊達藩による「買米制度」(年貢米以外の余剰米を安値で強制的に買い上げる制度)により、米農家でも麦飯や小麦粉を使った料理をよく食べ……
南部地方では、野菜、鶏肉、きのこなど具だくさんの汁と一緒に煮こんだすいとんが年中食べられています。「とって投げ」ともいわれ、人寄せのときは必ずつくられます。普通のすいとんは、小麦粉をこねて薄くのばしたものですが、東北町には長芋とかたくり粉を使ったすいとんがあります。 上北郡の中央部に位置する東北……
高梁《たかはし》市などの県中部から北部にかけては、寒冷な気候で昔は米が十分にとれず、小麦もつくられておらず、雑穀類を栽培して主食の補いとしました。たかきび粉のだんごは、小麦粉のだんごよりもつるっとした口ざわりがとてもおいしいものです。 この汁は保存のきく根菜類とたかきび粉で簡単にでき、だんごのピ……
大阪では小麦粉料理を「粉もん」と呼び、家庭でも店でも大変親しまれています。お好み焼きはたこ焼きやいか焼きと並んで、粉もんの代表格です。粉をだし汁で溶いたところに野菜などの具材を混ぜて焼きます。大阪では肉といえば牛肉ですが、お好み焼きと焼きそば、粕汁、カツには豚肉です。牛肉よりも脂が出るので、これ……
徳島では家庭でも店でもお好み焼きをおやつや軽食としてよく食べます。つくり方は大阪のものとよく似ていますが、具に豚肉の代わりとして魚のすり身を揚げた平天《ひらてん》や、魚のすり身にパン粉をまぶして揚げたフィッシュカツを入れるのが徳島ならではです。 また、どのお好み焼き店にも「豆焼き」「豆玉」といっ……
たたき汁は魚のだんご汁のことで、伊豆諸島の新島《にいじま》や式根島の郷土料理です。たたきの原料は地元でムロと呼ぶムロアジの一種のアオムロ(クサヤモロ)で、新島名物のくさやの原料になる魚です。水分が多く鮮度が落ちるのが早いムロは、島ではくさやに加工します。その日のうちに処理しなければならないので、……
根菜をたっぷり入れたのっぺ汁はのっぺい汁とも呼ばれ、冬になると各地で食べられます。県東部ではとくに赤貝を加えたものが親しまれ、貝と野菜の濃厚な旨みが溶け出た汁は絶品です。島根で赤貝と呼ばれているのはサルボウガイ。すしネタや刺身にするアカガイより小型の貝で、冬の訪れとともに食卓に並びます。身が赤い……
青森県の南部、八戸《はちのへ》は三陸リアス式海岸に面した漁業がさかんな町です。八戸から岩手県の沿岸にかけてはウニ漁がさかんです。いちご煮は、海女さんたちが自分で収穫してきたウニとアワビを使ってつくります。 ウニ漁の解禁日の初日の「初浜」の日に食べられます。ウニ漁は6月中旬から8月上旬まで、アワビ……
真っ黒な見た目がとても印象的な汁ものです。いか、いか墨、かつおと豚のだしでうま味たっぷりでコクのある味わいです。いか墨汁は昔からサゲグスイ(下げる薬)とも呼ばれ、のぼせや血圧を下げ、体の中の悪いものを出し、滋養強壮によいとされてきました。疲れたときや元気をつけたいときにつくります。また、新鮮ない……
料理名からは汁ものと想像することができませんが、栃木県民にはかんぴょうの入った汁ものとして好まれています。決して煮物ではありません。やわらかく煮えたかんぴょうがフワフワの卵をまとって舌触りがよくコクもあります。 かんぴょうそのものは、味に癖がなく、色も白いので、いろいろな料理に使えます。保存性が……
埼玉県は日照時間が長く、気候もおだやかなことから、商業的にもまた自家用にも昔からさまざまな野菜が栽培されてきました。聞き書きをした入間《いるま》山間部、飯能《はんのう》市名栗《なぐり》は、平地が少なく米はつくれない土地でしたが、畑で小麦や大豆、いも、野菜を栽培し、山では山菜、木の実がとれました。……
いもがら(里芋の葉柄)を干して保存食にしたずいきは、煮物や汁ものなどに使われますが、これは生のいもがらを使ったすまし汁です。現在の板橋区高島平周辺にあたる徳丸ケ原は、昭和30年代後半までは東京でも有数の水田地帯で、その南側の徳丸周辺の台地には畑が広がっていました。徳丸では雑煮に八つ頭が欠かせない……
金沢産のれんこんは加賀れんこんと呼ばれ、加賀野菜を代表する食材です。でんぷん質が多く、太く肉厚で粘りが強いのが特徴。8月下旬に収穫される最初のものはシャキシャキ感が強く、新れんこんと呼ばれます。8月から翌年5月まで長期出荷され、ほぼ一年中購入できます。家庭では煮物をはじめ天ぷら、酢の物やちらしず……
伊賀・上野地域は県北西部に位置し、北は滋賀県、西は京都府、奈良県と接しています。古くから「みやこ」との交流が深く、「みやこ」の文化や生活をとりこんだ食文化が息づいています。ただ、海に面していない地域のため、海産物はごちそうで、冷や汁のような自家用の野菜を使った料理が日常食でした。四方を山に囲まれ……
近江八幡や五個荘《ごかしょう》の近江商人宅でよくつくられていた夏の味噌汁です。汁に入れるのは夏にたくさんとれるなすとごまだけで、非常にシンプルです。すったごまで濁った汁が泥のようで、格子に切れ目を入れたなすが亀の甲羅のように見えることからこの名前がつきました。 米どころの東近江では、各家で味噌を……
粕汁は、寒い冬の汁ものとして重宝されてきました。昔は新巻鮭のアラを入れましたが、今は豚肉などでつくります。材料は安価なものばかりですが、濃厚な汁ができ、冷える日の夕食には最適です。小いも(里芋)を入れることもあり、何を使ってもいいのです。そのときある材料と酒のしぼり粕を利用した汁ですが、白さの中……