防除改善 地域・農家の事例

コムギの赤かび病 ゼロ作戦

コムギの赤かび病対策 「有機」表示できる防除法は?

 コムギの刈り取り時期を迎える東北・北海道では、赤かび病の発生が話題になっています。今年産のムギからものすごく厳しくなった赤かび病粒混入許容限度(※資料1)をクリヤーするには、農薬を使って防除するしかないと言われているからです。クリーン農業を目指してきた北海道の麦作農家にとって、農薬を使って防ぐか、赤かび病発生のリスク(危険性)はあっても無農薬でいくか、厳しい選択を迫られているからです。

 赤かび病は、その病原菌がつくりだすかび毒(マイコトキシン)によって健康被害を引き起こすとして、世界中で話題になっています(※資料2)

 ある農家から、こんな相談を受けました。
「農薬をかけなくちゃ、あの規格をクリヤーするのは難しい…。農薬を使用しても有機表示できる防除方法はあるのだろうか?」
 農文協のホームページの「ルーラル電子図書館」を利用して、一緒にその方法を検討してみました。

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(資料1)
【赤かび病被害粒混入規格(許容限度)の改正】(平成15年産麦から)
赤かび病被害粒 0.0% → これは,800~1000粒を品質検査に使う皿(カルトン)に入れたとき,1粒でも混入していれば「規格外」となる厳しいもの。これまでは昭和38年に制定された、混入許容限度1%でしたから、いっきに100倍もの厳しさになりました。

(資料2)
【健康被害】
規格改正のきっかけとなったのは,後述するFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)がおこなった,カビ毒(マイコトシキン)の一種であるデオキシバレノール(DON)の健康への影響調査でした。このカビ毒を作り出すのが,赤かび病の原因となるフザリウムの仲間のカビです。
デオキシバレノール(DON)を高濃度に含んだ食品を食べると、吐き気、嘔吐、めまい、下痢、頭痛などの症状を伴う中毒症状(急性毒性)。ただ、今までのところ世界的にみても、死亡例はありません。また,2年間にわたる長期投与試験(マウス)でも、発癌性ありという根拠はでてはいません。
日本では,昭和38年に農産物検査規格で赤かび病混入限度は1%と定められました。それ以降,赤かび病にかかった麦が原因で食中毒が発生したという報告はありません。
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■「JAS法」で認められた「有機表示」できる農薬は?

「JAS法」で認められた「有機表示できる」農薬はどれかを調べてみました。
「土壌施肥編」第7-・巻の巻末「JAS法の改正と有機農産物の登録認定機関の現状」の7~8ページにある別表2,3「有機」表示できる農薬と調製用資材をご覧ください。
「有機」表示できるとJAS法で定められた農薬と調整用資材の表は,「水和硫黄剤」「硫黄粉剤」といった「農薬の種類」で表示されており,私たちに馴染みのある農薬の銘柄(商品名)では書かれてはいません。ですから,「有機」表示をしたい場合は,ムギの赤かび病に登録のある農薬のうち,「有機」表示できるものを選び出す必要があります。とりあえず、上記のページを印刷しました。

■「赤かび病」に登録のある農薬を探す

農薬探しは、「ルーラル電子図書館」に新しくできた「農薬検索」サイトが大変便利です。無料で公開されており、作物からも、農薬名からも、また農薬の種類も自由に調べることができます。
まず、「作物・病害虫から」をクリックします。「作物名の索引」が出てきますので,農薬取締法の改正で、作物の分類がちょっとやっかいなのですが、「ムギ」の分類だけでなく「ムギ類」のところも調べてください。その中から「赤かび病」を選んで、この病気に登録のある農薬探します。
「有機」にこだわらないのであれば、「赤かび病」で検索した農薬から、散布するものを選択すればいい訳です。

■「有機」表示できる「赤かび病」登録農薬を選び出す

さて、「有機」にこだわるのであれば,登録のある農薬の中で、「JAS法」で認められた「有機」表示できるものを探すことになります。
赤かび病に登録のある農薬の銘柄(商品名)をクリックすると、その農薬の成分や適用表が表示された画面が現れます。その画面の左上を見てください。たとえば「農薬の種類:水和硫黄剤」のように,青の文字で、農薬分類が書かれています。そこに「水和硫黄剤」などとあれば、「有機表示できる農薬」です。
 そうやって調べてみると、つぎのような農薬がありました。
<水和硫黄剤>
 F.G.クムラス ,イオウゾル , イオウフロアブル , クムラス , コロナフロアブル , サルファーゾル , サルファーフロアブル

 そのほか,「水和硫黄剤」といった「農薬の種類」から調べる方法もあります。「農薬検索」サイトの一番下の「農薬の種類から」をクリックして,「水和硫黄剤」に含まれる農薬銘柄(商品名)を調べ,赤かび病に登録があるかどうかを確認します。この方法は,赤かび病に限らず,どんな農薬が「有機」表示を許されているかを知るときに有効な方法です。

■「土ごと発酵」で,秋冬の間に赤かび病の菌密度を下げる

 注目したいのが,土壌中の微生物を豊かにするという指摘です。
 前述した『農業総覧防除資材編』の「赤かび病」の記事にはつぎのような記述があります。
「▽第一次伝染源は子のう胞子で、子のう殻は野外のイネ、ムギわらなどの植物残渣上に広く生存しているので、耕起の際のすき込みなどでできるだけこれらを除去し、伝染源密度の低下に努める。」
針塚さんのように,まずは,秋冬の間に,赤かび病の原因菌の密度を下げればいい。とすれば,思い切って、秋のうちに米ぬかなどを散布して「土ごと発酵」状態を作り出し、特定のかびを増殖させないという方法もありそうです。微生物同士の競合によって、赤かび病の原因となるかびの密度を下げてやれば被害は減りそうですね。高価な赤かび病特効農薬に頼らなくともよくなるかもしれません。
「土ごと発酵」の記事は,ルーラル電子図書館農薬で検索すればたくさんでてきます。
ほんの一例ですが・・・

「肥料代4分の1で甘くて体にいいジャガイモ、ニンジン」(『現代農業』2001年1月号)
「土ごと発酵に役立つ機械」(『現代農業』2001年10月号)

 「土ごと発酵」で圃場の病原菌を減らして,安価で安全な農薬でぴしゃりと抑える。「有機」表示できる水和硫黄剤が生きるのではないでしょうか。

▼最新の研究成果から

 最後に,赤かび病の最新研究成果をご紹介します(北海道中央農試,十勝農試の研究では)
・品種によるDON汚染程度の違い → 抵抗性“中”の「春よ恋」は,“やや弱”の「ハルユタカ」に比べてDON汚染程度が低い。
・春まきコムギでは,初冬まき栽培にすると,赤かび病の発生が少なくなるし、DON汚染程度も低くなる。
・農薬ではクレソキシムメチル水和剤F、デブコナゾール乳剤、プロピコナゾール乳剤、チオファネートメチル水和剤、イミノクラジル酢酸塩液剤の効果が高く、アゾキシストロビン水和剤Fは防除効果にばらつきがあった。
興味のある方は、成績概要書をどうぞ。
なお,この成績概要書に紹介されている「春まきコムギの初冬まき栽培」については、「<コムギ ハルユタカ>春まきコムギの初冬まき栽培(北海道 片岡弘正氏)」(『農業技術大系 作物編』第4巻 ムギ精農家事例)、初冬まき栽培の理論と実際については、「春まきコムギの初冬まき栽培」(『農業技術大系 作物編』第4巻)