防除のアイデア

病害虫対策

今月のアイデア:ハダニ

◎このコーナーでは、『現代農業』や『農業技術大系』の記事から季節にあわせた記事を紹介します。今月はハダニです。

<自然農薬で防ぐ>

  • 話題の「ニームオイル」をバラに使ってみた(『現代農業』2002年6月号)
  • ウサギの糞でヨトウ、ハダニ除け(2000年12月号) →記事全文へ

<物理的な防除の工夫>

  • ハダニ ハウスの周りに「堀」をめぐらそう(2002年6月号)
  • ハダニもあきらめて退散「ダニがえし」の威力 ハウス ナス、ホウレンソウ、イチゴ(1990年6月号)

<天敵を生かす>

  • ミカンハダニ 天敵をいかすには夏マシン油もダメ(2002年1月号)
  • 夏ダニはほっておけ! マシン油1回、ダニ剤1回、ミカン産地・三ケ日のダニ剤減らし作戦(2001年8月号) →記事全文へ 
  • モモの防除暦からダニ剤が消えた リンゴとナシでも半分に フェロモン剤で土着天敵が豊かに!(2000年6月号)
  • わが家の天敵利用 ビニール被覆直後の放飼でハダニ・アブラムシを抑える―観光イチゴ13戸、1haの取り組み(2000年5月号)
  • 茶 捕食ダニの活用でハダニ防除(1991年6月号)

<ハダニ防除の基礎知識>

  • 知っておきたいハダニの特徴(1999年6月号) →記事全文へ
  • ハダニ剤がピシャっと効かないのはなぜ? 薬剤抵抗性発達のしくみ(1991年6月号)

<ハダニを含む害虫の総合防除>

『農業総覧 病害虫防除・資材編』の「総合防除の考え方と実際」より

野菜

▼イチゴ・害虫

総合防除の基本は,1)病害虫のついていない苗を使う,2)施設内に病害虫を侵入させない,3)施設を病害虫が発生しにくい環境にする,4)耕種的防除の実施,5)発生した病害虫を天敵や薬剤によって防除すること。育苗期(育苗圃),定植前(本圃),定植から保温開始期,保温開始期以降というステージ毎に,これらの手法を組み合わせる。主な対象は,コガネムシ,センチュウ,ハダニ類,アブラムシ類,コナジラミ類,アザミウマ類およびハスモンヨトウなど。

▼ナス・害虫(露地栽培)

ミナミキイロアザミウマやアブラムシ類には定植時のイミダクロプリミド粒剤(アドマイヤー)で,ハダニには天敵に影響のない殺ダニ剤を利用することで,ハナカメムシ類,テントウムシ類,クモ類,クサカゲロウ類,ヒラタアブ,ショクガタマバエ類などの土着天敵を保護・利用する防除体系。この方法は現在,埼玉県の本庄地域で,性フェロモン剤の利用も加わって地域全体で取組まれるようになっている。


市街地の中、ソルゴー障壁のあるナス畑

▼ナス・害虫(露地栽培)

福岡県の産地で実際に取組まれている方法。ナスの難害虫ミナミキイロアザミウマの防除に土着のヒメハナカメムシ類に活躍してもらう。ヒメハナカメムシ類はナス圃場のまわりの畦のクローバや水田にいるが,とくにクローバ群落は積極的に保護したい。ヒメハナカメムシ類は農薬に弱いので,アブラムシ類にはアドマイヤー粒剤,オオニジュウヤホシテントウやチャノホコリダニにはアプロード水和剤,ヨトウムシやハスモンヨトウにはノーモルト乳剤,ハダニ類にはコロマイト乳剤といったヒメハナカメムシ類に影響のない選択性農薬を使用する。

▼ピーマン・害虫(施設栽培)

8月の播種から6月まで収穫する,10か月以上の長期栽培が通常。季節の変化と害虫発生の動向と,忙しい株の管理や収穫作業との兼ね合いで防除体系を組み立てている。育苗期は寒冷紗などで苗床を害虫から隔離。定植~栽培初期は害虫の侵入がいちばん多い時期。ただ,まだ収穫の始まらない暇な時期なので,ククメリスカブリダニやヤマトクサカゲロウなど手間のかかる天敵利用がいちばん可能な時期。12月末~3月は害虫の発生が少ないので,1か月に1回程度の天敵放飼で十分防除が可能。4月以降は整枝と収穫作業に追われて防除にまで手が回らなくなる時期だが,湿度が高くなるので天敵微生物のバーティシリウム・レカニ菌が有効。また,長日条件なのであらゆる天敵昆虫が利用できる。

▼メロン・害虫(施設栽培・秋冬作)

施設メロンでは,ワタアブラムシ,コナジラミ類,アザミウマ類,ハダニ類が恒常的に発生。これらに対して生育に合わせて天敵類を利用し,散布薬剤の削減をはかる。天敵類と選択的農薬を組み合わせることにより防除効果を安定させる。天敵類は一般に害虫の密度が高い条件や野外からの侵入が頻繁な時期には効果が十分に発現しないことも多い。そのため,定植時にネオニコチノイド系粒剤を処理し,天敵の効果が発現しやすい条件を整える。また,苗からの持ち込み防止や防虫ネットの利用も防除体系を組み立てる際の基本となる。

果樹

▼カンキツ・害虫

カンキツ産地の害虫発生相と防除体系の現状から提案された少農薬防除体系。ゴマダラカミキリはボーベリア・ブロンニアティー,捕殺,網の利用で。ダニ類では,防除の中心をミカンサビダニからミカンサビダニに転換すべきと提案。ミカンサビダニや土着天敵の定着で密度が下がっているが,ミカンサビダニは果実への被害が大きく,黒点病の防除薬剤が変更されて発生が多くなっているからだ。カイガラムシ類はIGR系など選択性の薬剤とヤノネツヤコバチなど導入天敵の保護を。チャノキイロアザミウマは品質向上にも役立つ光反射フィルムで防除が可能。

▼カンキツ・害虫

和歌山県海草郡下津町の農家が15年以上にわたって取組んできた省農薬体系。クモ類,テントウムシ類,ハナカメムシ類,捕食性ダニ類,クサカゲロウ類など土着天敵が豊富に定着しているためハダニやアザミウマ類に悩まされることはない。問題はヤノネカイガラムシだったが,放飼したヤノネキイロコバチ,ヤノネツヤコバチが定着して,従来行っていた冬期のマシン油散布も不要になる。

▼カンキツ・害虫

古くから導入されてきたヤノネツヤコバチ,ヤノネキイロコバチ,ルビーアカヤドリコバチ,ベダリアテントウ,シルベストリーコバチなどの導入天敵の放飼,ケシハネカクシ類やハダニアザミウマなど有力なハダニの土着天敵の保護,ゴマダラカミキリ対象の天敵資材ボーベリア・ブロンニアティの利用などで,ハダニやアブラムシのリサージェンスや薬剤抵抗性の発達を防ぐ。

▼チャ・害虫

ハダニの天敵のケナガカブリダニの放飼,フェロモントラップや黄色粘着トラップによる発生予察に基づいたBT剤の適期利用に耕種的防除を組み合わせた減農薬防除体系。

▼ナシ・害虫

害虫といっても,放任栽培すると多発する一次害虫(シンクイムシ類,ミノガ類,ドクガ類など)と,一次害虫の薬剤防除により土着天敵が殺されることが原因で多発する二次害虫(ハダニ類,ニセナシサビダニ,コナカイガラムシ類,ワタアブラムシなど)がある。一次害虫は耕種的防除,少量散布,忌避灯,交信撹乱剤の利用などの方法でマイルドにたたき,二次害虫は土着天敵に働いてもらって多発させない。

▼ナシ・害虫

土着天敵を主体に,化学薬剤は補助的に利用する防除体系。越冬するワタアブラムシやハダニ,カイガラムシ類の密度を低減するためには冬期除草とマシン油散布。チョウ目害虫には天敵を保護するためにIGR剤を幼虫発生初期に散布。カメムシ類や鳥類は網で園全体を被覆,シンクイムシ類やハマキムシ類にはコンフューザーPを設置,など。
ブドウ・害虫(デラウェア,施設加温栽培)
主要な3害虫を,カンザワハダニは天敵資材チリカブリダニの2~4月放飼で,ハスモンヨトウは性フェロモン剤のヨトウコンHで,チャノキイロアザミウマは黄色粘着トラップを利用した診断で発生に応じて薬剤散布という防除体系で,年間の防除回数が慣行の5回(7薬剤)から3回(3薬剤)への削減を実現。多忙な冬期間の農作業が楽になる。

▼モモ・害虫(西日本)

ハダニ類の侵入はモモの発芽までの除草で阻止,ウメシロカイガラムシはタワシで樹皮をこすって落とす,といった耕種的防除と,天敵に影響のない薬剤の選択と適期防除(4月中下旬までなら合成ピレスロイド剤であっても天敵のカブリダニ類に影響がない)で土着天敵を保護・活用。農家が独自にやれる害虫発生の観察法も解説。

▼モモ・害虫(東日本)

モモシンクイガ,ナシヒメシンクイ,ハマキムシ類,モモハモグリガ,コスカシバを性フェロモン剤のコンフューザーPとスカシバコンで,防除の難しいハダニ類は土着天敵のカブリダニを保護して防除。成功のポイントは対象害虫の初期密度をできるだけ低くすること。そして,前の世代の密度によって,次の世代の防除が必要かどうかを判断すること。