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2019年版「追録44号」企画の重点
タマネギは,サラダ,野菜炒め,シチュー,カレーなど,さまざまな料理に利用され,野菜の1人当たり年間購入量でも第2位を占める。一方で,中食・外食での利用が多く,タマネギの輸入量だけで全生鮮野菜の輸入量の3分の1以上を占めるなど,野菜の国産シェアを回復するうえで最重要の品目となっている。
2000年以降,輸入野菜の残留農薬が問題になり,タマネギでも2014年に中国産から残留農薬が検出された。国産志向が高まり,加工・業務用でも国産を求める声が強まる中,国産タマネギの端境期である7~8月に収穫する新しい春まき作型が開発された。今号では,この春まき新作型の生産者事例(「宮城県岩沼市 農事組合法人林ライス 秋まき用品種を生かして春まき栽培10a 5.8t」)のほか,現場で問題となる雑草対策(「秋まき普通栽培」の「雑草防除」の項で詳述)や,「おもな貯蔵病害とその対策」,近年の多雨傾向を踏まえた「窒素分施」を紹介した。
ほかに,省力化・規模拡大を可能にする「直播栽培」,水稲跡が中心の府県産地で収穫・調製の機械化体系を構築した「フレコンバッグを利用した暖地タマネギの機械収穫・調製体系」,最新の植物分類を踏まえた「タマネギの原産と来歴」,今日までの育種の流れをまとめた「日本におけるタマネギ育種の歴史」,北海道の春まき栽培の新技術「春まき秋どり栽培(早期播種)」「土壌凍結深の制御と効果」,静岡県の「秋まき超早出し栽培」,兵庫県の「除湿機利用乾燥貯蔵」も収録した。
兵庫県の9tどり農家の碇茂さん(写真1),北海道の春まき多収農家の飯田裕之さんなど,精農家の技術と経営の事例も充実している。
カラー口絵も,雑草防除と薬害,排水対策,収穫機械化体系など,見応えがある。
業務需要が増え,周年供給が求められるネギを,前号に続いて取り上げる。
水田ネギ特有の広いうね間を生かした乗用管理機の導入と出荷・調整ラインの見直しで省力化を進める福井県の農業生産法人(「春どり,夏秋どり」)や,「作期拡大のための7月どりハウス越冬大苗栽培」で注目されるJAあきた白神の事例(写真2),宮城県が開発した「水稲育苗箱を利用した小ネギの簡易養液栽培」,ネギの形態的・生態的特性を明らかにした「ネギの性状と植物としての位置」を収録した。
カラー口絵も,剪葉・剪根の影響,株間・灌水・土寄せと生育の関係,各作型の品種など,貴重な内容となっている。
アスパラガスは年間を通して一定の需要があり1kg単価もこの20年ほど上昇・安定傾向にある。直売所でも人気があり,栃木など新興産地も出荷量を増やしている。しかし,天候不順や病害のため,既存産地の出荷量減少が著しく,周年安定供給のためには端境期出荷も大きな課題となっている。
今号では,アスパラガスの安定生産に必須の技術である茎枯病・疫病などの主要病害への対策のほか,冬の保温に地下水を利用して早出し・長期どりを進める栃木県の「ウォーターカーテン保温栽培」,国産アスパラガスがほぼ皆無となる初冬の出荷を実現した「北海道美幌町での11月初旬出荷の伏込み促成栽培」(写真3)を収録した。
イチゴ栽培の新技術として,低温・寡日照でも活動する在来の授粉昆虫・ヒロズキンバエ(商品名:ビーフライ,写真4)を収録した。ミツバチ,マルハナバチに比べて,活動温度域が10~35℃と広いうえに,活動に紫外線を必要としないので,紫外線カットフィルムと併用できる。軽量で訪花ダメージも少なく,人を刺すこともない。1匹2円で,週250匹/aを放飼する。現場での利用は年々拡大している(2017年度581万匹)。