農業技術大系・野菜編 2018年版(追録第43号)


2018年版「追録43号」企画の重点

・ネギの生理と栽培

・ニラの基本技術と経営

・ホウレンソウの基本技術と経営

・種なしスイカの育種と栽培

〈ネギの周年化に向けて―ネギの生理と栽培〉

 本追録では、水田転作品目として、また業務用野菜として安定した人気があるネギの栽培技術を多数収録した。

 かつてネギの栽培といえば、東日本では根深ネギ(白ネギ)が、西日本では葉ネギが栽培されていた。耕土が深く土寄せ軟白に適した東日本では伝統的に根深ネギが好まれ、冬が温暖な西日本ではほとんど休眠しない葉ネギが好まれてきたからである。ところが近年は外食(業務)需要が増え、その様相はがらりと変わった。たとえばネギは焼肉のネギだれなどとして、葉ネギはラーメンやうどんの薬味などとして全国どこでも年中使われるようになり、ネギは地域に関係なく周年供給が求められる時代に入った。

 これを受け、供給体制も整備されてきた。晩抽性品種や抽苔抑制技術の利用などによって、新作型の導入による周年出荷への取組みが全国的に広がりつつある。

 これらを支援する技術として、抽苔抑制技術による「5月どりトンネル栽培」、目標時期の定量出荷をめざして生育を促進する「地中点滴灌水装置の利用」、ネギの生育制限要素を探る「栽植密度と窒素施肥量との関係」、小ネギの基本技術として「葉ネギ(小ネギ)の栽培」、ワケギの北九州地域における基本技術として「(ワケギの)露地栽培(北九州地域)」を収録した。また、ネギの来歴から今日までの品種育成の流れをまとめた「ネギの来歴と品種の変遷」、ネギの免疫活性物質に着目した「ネギ粘液の免疫活性化効果」も併せて収録した。




写真1 ネギの5月どりトンネル栽培

〈稼げるニラをめざして―ニラの基本技術と経営〉

 業務需要ということでいえば、ニラも底堅い。ギョウザやチヂミなどの中華料理・韓国料理には欠かせない。だがニラはネギのようには栽培の裾野が広くない。おもな産地は北海道、山形、福島、群馬、千葉、栃木、茨城、高知、福岡、大分、宮崎などに限られる。これはニラの性質として、春に植えて冬に保温開始するまでに株養成しなければならず、お金になるまでに時間がかかるからのようだ。しかしそれを承知で労力を確保したうえで導入すれば、がっちりと稼げる品目であることは確かだ。

 本追録では、主要産地の栃木県と高知県にハウス栽培の基礎生理と栽培の実際を執筆していただいた(「ハウス栽培(関東型)」「ハウス栽培(西日本タイプ)」)ほか、イチゴ農家で利用されているウォーターカーテン保温をニラに導入して省力・高品質化を可能にする「ウォーターカーテン保温」、これを導入した生産者事例「周年栽培品種+夏ニラ専用品種による連続収穫」、露地栽培のニラで問題となっている最重要病害「白斑葉枯病の防除」を収録した。




写真2 ニラの半自動移植作業

〈雇用経営の安定のために―ホウレンソウの基本技術と経営〉

 加工・業務用野菜としては、ネギやニラよりもホウレンソウのほうが古いだろう。栽培技術も確立されてきたということで、今回「暖地秋まき加工・業務用ホウレンソウ機械化栽培体系」として収録した。通常の栽培と違って「収穫草丈は40cm以上」、大きな株にしつつ雑草抑制のために「株間5~10cm、条間30~40cm」の植付け、機械収穫の妨げとなる雑草を抑制するための「除草体系」などが技術の核となる。加工・業務用野菜から生まれた技術は今後の野菜栽培にも大いに役立つことが多そうだ。

 また今回は生産者事例として「ホウレンソウ生育予測システムの導入による周年雇用経営」も収録した。これは35棟のハウスで周年栽培を始めたときに、「いつまけばいつとれるか」が読めなかったために収穫ができず廃棄することになってしまった経験から、温度と日照時間などによる収穫予測システムを考案して安定経営に結びつけている事例だ。同じことが近年急増している葉ネギの雇用経営でもいえる。今後、周年雇用経営が増えるにつれ、このような生育予測システムがさらに開発されていくのではないかと思われる。




写真3 ホウレンソウの歩行型収穫機

〈需要を掘り起こせるか―種なしスイカの育種と栽培〉

 今追録の目玉の一つが、「種なしスイカの育種と栽培」だ。執筆は、みかど育種農場でスイカの育種を担当していた中山淳さん。中山さんいわく、アメリカでは種なしスイカが広く普及しているのに日本では今一つ普及しないことが残念でならない。その理由は、種なしといえどシイナが少し口の中に残るので、繊細な味覚をもつ日本人には違和感があるという味覚の問題がまずある。だが、それをさて置いたとしても、種なしスイカの種子は発芽率が悪い、着果率が悪い、糖度が不安定など栽培上の問題があった。今回、中山さんには栽培上の問題を解決するための「育種の基礎研究」「新しい育種」「栽培」を丹念にまとめていただいた。いずれも育種の専門家から生産者まで参考になる大変貴重な記録となった。

〈その他の新技術と栽培〉

 このほか、ハウスの燃料費削減に有効な「促成ナスの低コスト株元加温技術」「促成ピーマンの株元加温効果と簡易設置法」、芽止め剤使用中止(農薬登録の失効)以後の貯蔵技術まで収録した「寒冷地のニンニク栽培」、10年単位で栽培するアスパラガスを単年(植付けから収穫までは2年)で栽培する画期的栽培法の「採りっきり栽培」を収録した。