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2011年版「追録36号」企画の重点
昨年(2010年)の追録では「植物としての特性」「生育のステージと生理、生態」を大改訂し、オランダの70tなど多収技術をとり上げたが、今追録では、多彩になった日本のトマト品種をとり上げた。13社と1県で育成された、大玉トマト41品種、中玉トマト8品種、ミニトマト14品種の特徴と導入にあたってのポイントが一覧できる。
さらに、こういった多彩な品種を使いこなして、神奈川県藤沢市という都市近郊で全量直売をしている井上和弘さんを紹介した(写真1)。大玉品種では完熟系(桃太郎系)が主流で、促成栽培は‘桃太郎ファイト’‘桃太郎J’が中心で、黄色品種の‘桃太郎ゴールド’も試作。ミニは‘トマトベリー’‘アイコ’‘イエローアイコ’‘プチキュア’、中玉は‘ティティ’。ミニは黄色品種を多くしている。夏秋栽培や抑制栽培では、トマト黄化葉巻病耐病性品種‘TYアニモ12’‘TYまもる’‘大安吉日’を。ミニや中玉も耐病性の‘ティティ’や‘プチキュア’を作付けている。また、促成栽培では一部を隔離床栽培にして高糖度の差別化商品(1989年にグルメトマトの名称で意匠登録をしている)もつくっている。
さらに4つの作型を組み合わせて(すべて施設内)、年間を通じて収穫できるようにしている。たとえば夏秋トマト(施設栽培)では2007年に、屋根面がすべて開放可能(0.2mm目合いの防虫ネットを展張)で高温時の気温上昇が抑制でき、気象災害の影響も受けにくいフルオープンハウス(写真2)を導入している。夏期の日中でも最高気温は30℃程度に抑えられることから、安定した品質と収量を保つことができる。
◆省エネを実現する温度管理
――高昼温・低夜温管理、有望新品種
新たな設備投資などの生産コストを増加させずに導入できる省エネ型温度管理法として「高昼温・低夜温管理」がある。これは慣行の温度管理に対して、午前中は同じ28℃、午後は3℃高めの28℃、最低気温を2℃低めの10℃とする温度管理法である(図1)。この管理法は、午後の気温を高めに保つ「高昼温管理」により生育促進を図ることで「低夜温管理」による悪影響を緩和する方法である。これにより生育や収量を慣行並みに維持しつつ、燃料消費量を約40~50%削減することができる。
高昼温・低夜温管理の開始時期もより明確になっている(福岡農総試)。促成栽培では9月上旬に定植し、第1、2主枝の摘心が終わる12月上旬から高昼温・低夜温管理を開始し、暖房機の利用が終わる4月中~下旬まで高昼温・低夜温管理するとよい。
新品種も続々と登場している。まず授粉作業が不要な単為結果性品種では、愛知県が育成した‘試交05-3(とげなし輝楽)’。2007年登録の‘とげなし紺美’と同じく果実のへたや葉、茎にとげがなくて作業がしやすい。
高知県では、市場から求められていた、従来品種の‘竜馬’‘はやぶさ’よりもボリュームのある果重80~100gの果実が安定してとれる‘土佐鷹’が育成されている。
◆もうかるナス栽培
以下の5人の生産者を紹介した。それぞれ各地域の条件を活かしながら省力化や作業をらくにする方法、農薬を使わない防除対策、もうかる時期に的確に収穫する方法など、独自の技術をつくり上げている。
新潟県糸魚川市 橋立春雄 越の丸・ハウス栽培 耐雪型ハウスで「すれ」やへた部の汚損防止、出荷期間の延長。徹底した整枝管理で高価格の果実づくり。
群馬県伊勢崎市 千吉良佳彦 式部・半促成(無加温)栽培 ミツバチによる授粉で確実な着果、天敵(スワルスキーカブリダニ)を利用した害虫管理。“下枝”を利用して単価の高い3~4月の収量を確保。
山梨県西八代郡市川三郷町 樋口正治 千両2号・露地抑制栽培 早出しスイートコーンの後作で単価の高い7月下旬~11月出荷。主枝3本誘引と側枝を連続して花直上で摘心し、収穫と同時に切り戻して収穫していく改良U字仕立て・側枝更新剪定法を組み合わせて、A品率アップ。
愛知県額田郡幸田町 加藤徹也 試交05-3(とげなし輝楽)・加温促成栽培 単為結果性品種にホルモン処理、ハチの利用で確実な着果。とげなしなので作業も快適に。
岡山県高梁市 福井勝一 千両2号・トンネル前進栽培 ソルゴーで天敵温存、黄色灯で農薬散布が20回から4回へ。防風ネットのトンネル利用(図2、写真3)などで秀品率を高めて所得率62%。
アスパラガスの大改訂は5年目(今年は「若茎の収穫」)。ブロッコリーは、1983年に書かれたものを全面改訂。
アスパラガスは「若茎の収穫」である。グリーン、ホワイト、ムラサキ、それぞれの規格に合う収穫法が丹念に解説されている。ムラサキアスパラガスを遮光栽培してピンク色にする、など産地の裏技も紹介されている。
なお、西南暖地で開発された新技術「収量に影響を及ぼす気象要因と収量予測」「1年生株の補植による欠株対策」などは、現在の産地の課題に的確に応えるものである。
ムラサキアスパラガスは最近登場した種類で、豊富な機能性成分と栄養面から注目されている。密植栽培による増収法、紫外線強調フィルムを使用するなどして確実に着色させて品質を維持する方法など、現在の研究を集大成したものである。
ブロッコリーはスプラウト(写真4)、頂側花蕾兼用種、茎ブロッコリ-など種類、品種が多くなっている。それらをつくりこなすために必要な生理、生態がわかりやすく解説されている。固化培地による若苗定植、定植遅れや台風、乾燥、病害虫に強いスーパーセル苗、2本仕立てなどの新技術の意義がよくわかる。しばしば発生する異常花蕾についても、発生の要因と対策が明解になっている。
早晩生の異なる多彩な品種の各栽培地や作型での選択法も一覧できる。「障害、病害虫と品種」では、花蕾腐敗病や黒腐病への生物農薬の利用、根こぶ病への転炉スラグとおとり作物の組合わせ、土着天敵の活用など、化学合成農薬以外による防除対策も充実している。
2009年に新設したコーナー。今追録では「業務・加工用野菜に求められる品質・規格」で、トマト、ナス、タマネギ(北海道と府県産)を収録。
タマネギは生鮮輸入量が最も多く、2009年の輸入実績は約20万tで、国内生鮮野菜の生産量の16%にもなる。そうしたなか、北海道では業務・加工用の縦長型タマネギ「北交1号」(写真5)など対抗策もとられている。国内産の加工調理特性での調査によると、淡路産‘もみじ’の品質の評価が最も高かった(表1)。自信をもっていいのである。課題は省力化、低コスト化はもちろん、長期安定出荷体制の確立だという。
アシタバは、近年では、関東地方を中心に健康に良い野菜として食されるほか、アシタバ特有の黄色の色素「カルコン類:主要2成分キサントアンゲロールと4-ヒドロキシデリシン」が注目され、機能性食品の素材としての需要が増加している。
チェーンポットを使った移植栽培、シーダーテープを活用した播種、といった新技術はもちろん、暑い夏に温度を下げてくれる日陰樹であるとともに、圃場への窒素供給源にもなるオオバヤシャブシの活用、といった伝統農法も評価されている。