農業技術大系・作物編 2018年版(追録第40号)


業務・加工用と飼料用の水稲品種

 農地の集積や合筆,機械の大型化・汎用化により,米は1経営体当たりの作付け面積が増えており,低コスト省力的な業務・加工用,飼料用の栽培が広がっている。そこで,次世代作物開発センター・山口誠之氏が総論として「農研機構での業務・加工用と飼料用の水稲品種の育成」について解説。各論でとりあげた品種は次のとおり。

 多収で良食味の業務用品種 ゆきさやか,雪ごぜん,ちほみのり,ゆみあずさ,つきあかり,えみのあき,ほしみのり,ほしじるし,あきだわら,たちはるか,秋はるか。

 多収の加工用品種 やまだわら,とよめき,ときめきもち,ゆきみのり,ふわりもち,やたのもち。

 さまざまな料理に適する品種 華麗舞,和みリゾット,笑みの絆。

 米粉用品種 ほしのこ,ゆめふわり,こなだもん,北瑞穂,あみちゃんまい,越のかおり,ふくのこ。

 地域に適する良食味米品種 恋の予感,きぬむすめ,にこまる。

 飼料用米品種 きたげんき,いわいだわら,ふくひびき,タカナリ,オオナリ,みなちから,ミズホチカラ。

 飼料用米・稲WCS兼用品種 きたあおば,たちじょうぶ,べこごのみ,べこあおば,夢あおば,ゆめさかり,ホシアオバ,もちだわら,北陸193号,モミロマン,クサホナミ,クサノホシ,まきみずほ,モグモグあおば。

 稲WCS用品種 べこげんき,なつあおば,たちはやて,たちすがた,たちあやか,たちすずか,つきすずか,リーフスター,タチアオバ,ルリアオバ。

 さらに道府県別の奨励品種とその特性の一覧表も掲載。

●低コスト省力の稲作事例

 福島県南会津郡只見町・三瓶民哉さんによる高密度播種苗(密苗)の健苗育成技術を紹介。密苗とは,苗箱の播種量を従来の2~3倍に増やすことで田植え時の使用箱枚数を従来の3分の1に減らせる技術(図1)。高密度播種による発芽・生育の不揃い,苗の徒長,初期生育の遅延を防ぐため,催芽籾の低温処理,露地プールでの育苗,ローラーによる苗踏みで健苗を育成。

図1 慣行苗かき取り爪(左)と密苗対応爪(右)


 また,茨城県猿島郡五霞町・有限会社シャリーは,安価な尿素の流し込み追肥で省力的に生育後半の肥切れを防ぐ。圃場の均平化と砕土率の向上,無代かき移植栽培で作業分散(図2)。ラジコンヘリによる鉄コーティング種子の湛水直播で規模拡大。業務需要に特化した販売戦略で経営を安定化。

図2 省力的な無代かき・バーチカルハロー後の田植え
  作業分散がはかられ,移植規模の拡大につながる


 さらに,愛知県西尾市・小野田裕二さんの水稲無代かき鉄コーティング湛水直播は,圃場をレベラーで均平後,ロータリ+鎮圧ローラーで整地(図3)。その結果,代かき圃場のような出芽不良がなくなり,苗立ちが安定した。さらに,代かき時に前作ダイズの残渣が浮かなくなったため,それら残渣による水稲の欠株も出なくなった。

図3 無代かきによる鉄コーティング湛水直播栽培の播種
  ロータリ耕起+ローラー鎮圧で表面の土がきめ細かくなる


●最新技術情報

 拓殖大学北海道短期大学・田中英彦氏は「北海道の水稲湛水直播栽培における落水出芽法と直播向け品種」で播種後落水・湛水,落水管理,地温に及ぼす影響,適切な播種深度,入水日などについて解説。

 農研機構西日本農業研究センター・浜口秀生氏は「種子モリブデン(Mo)含量と根粒超着生ダイズの窒素固定・生育・収量」で根粒超着生ダイズとモリブデン,Mo富化種子試験,Mo富化と根粒着生・生育収量,今後の課題について解説。

 富山県生産者・前田仁一氏は「無資材で迅速・簡単に12cm四方の地下通水路ができるカットドレーン」で現在の排水対策,収量・品質を向上させる排水対策,施工方法,入水速度について紹介(図4)。

図4 カットドレーンによる圃場排水性の向上
  ①土を四角ブロック状に切断,②切断した土を持ち上げ,下にすき間をつくる,③すき間横の土を切断,④すき間に土を寄せる