農業技術大系・果樹編 2012年版(追録第27号)


果樹産地と農家が安心して継続していける仕組みと工夫、技術の特集
――剪定の請負集団・消費を伸ばす新品種とつくりこなし方・作業がらくになる新樹形・技術など


〈荒れた園地を守って引き継ぐ組織とシステム〉

 愛媛県喜多郡内子町・愛媛たいき農業協同組合果樹生産出荷協議会柿部会:剪定の請負で高齢化産地を守る 柿部会員250名の60歳以上が68%で、女性中心の農家も多い。請負班はベテランと若手混成の17人。兼業農家や高齢者、突然の病気で作業が困難になった人などの剪定をして、「栽培を続けたい」という意欲のある人たちの助けになっている(写真1)。




写真1 愛媛たいき農協柿部会の剪定作業

 埼玉県久喜市菖蒲町・剪定請負集団:ナシ産地を引き継ぐ女性剪定集団 請負に出す常連は施設農家で、ナシに手が回らないという人。連れ合いを亡くしたり、怪我をした人なども多い。就農したばかりの人もあって、その技術指導や萎縮症などで生産性の落ちた園での苗木の移植作業もしている。彼女たちはこの産地の介護役ともいえる(写真2)。




写真2 埼玉県久喜市の剪定請負グループ

 飛鳥ワイン(株)と竹内街道ワインクラブ:大阪府南河内地域のボランティアによる廃園防止への取組み 栽培面積がこの20年で7割以下になり、遊休農地も約1.7倍に増加。2011年に飛鳥ワイン(株)などを拠点にしたボランティア組織を設立し、消費者に農業の担い手として協力してもらう。ブドウ園が再生され販売も伸ばしている。

 和歌山県有田市・(株)早和果樹園:地域の農業の活性化のために7戸の農家がつくった法人経営 1979年の大暴落時に若手で地域の共撰を脱退して「早和共撰」を立ち上げる。2003年に加工事業を開始し、県下で数%しかとれない「味一みかん」を搾ることにした。全員で販売に走り、大手百貨店や高級スーパーなどで広く扱ってもらうようになる。従業員は現在33人で、農外からの参入も19人あり、地域の雇用の場としても期待されている。




写真3 早和果樹園の加工品
現在のアイテムは17品目に

〈新たな需要を開拓する新品種とつくりこなし方〉

 リンゴは加工や調理にも向く品種を特集。‘紅の夢’の果肉は淡紅色なので、着色料がなくてもジャムやジュースがピンク色に仕上がる。‘御所川原’の果肉は赤で、各種の加工品が開発されている。‘サワールージュ’は着色がよく酸味が強いのでタルトなどの菓子やクッキングアップルに向く。‘もりのかがやき’は果肉が硬く褐変しにくいためカットリンゴや煮リンゴなどにも活用できる。

 青森県平川市の(株)そと川リンゴ園(外川清孝)は、先の‘もりのかがやき’や極早生から晩生まで20品種以上揃え、冷蔵施設と選果機を導入して通年販売も実現。ジュースなどの加工にも取り組む。

 ブドウは品種のコーナーを一新。四倍体品種は‘安芸クィーン’などの赤色品種、‘ハニービーナス’などの黄緑色品種が登場。二倍体品種では‘シャインマスカット’など皮ごと食べられる品種も登場。花穂整形に労力がかからない省力品種‘オリエンタルスター’も注目。

 そういった新品種をつくりこなす山梨県の生産者も紹介した。JAふえふき八代支所ブドウ部会ロザリオ部は、樹勢が旺盛な‘ロザリオビアンコ’を落ち着かせるため、独自に八代式一文字整枝を開発。韮崎市の青木広幸さんは、やはり樹勢が旺盛な‘ゴルビー’の種なし生産に成功。

 ナシは「品種の分類」を一新。結果枝の習性や耐病性、日持ち性、低温要求量などが一覧できる。長野県育成の‘南水’の栽培技術も紹介。

〈イチジク―いや地や凍害、病害虫にも強い新樹形と栽培法〉

 棚栽培、主枝更新剪定法など新たな仕立て方を収録して全面改訂。主枝更新剪定法は、主枝が虫害などで損傷を受けても常に更新でき、主幹を除く部分が3年生以内の枝齢に維持できる。

 超密植栽培は、開園後2~3年で成園並みの収量を上げることができる。無病苗を使用することで株枯病の発病を回避できる、いや地が発生する連作地でも収量を確保できる、凍害にあったときの回復も早い、など画期的な栽培法。

〈カンキツの隔年結果対策と高品質生産を実現する新技術〉

 2011年に収録した「カンキツの隔年結果対策」で紹介した各方法を詳説。 

 後期重点摘果 着果負担をかけて、たとえば‘興津早生’では9月下旬~10月上旬に1回で仕上げ摘果するもの。温州ミカン産地はここ数年の気象変動に対応できず、樹勢低下、着色遅れ、浮皮などが問題になっているが、愛媛県・日の丸共撰のリーダーの一人、岡本義弘さんは、この摘果法とおそく軽い剪定によって連年平均単収5tを実現。

 その他、取り上げたのは次の5つの研究。

 1)高品質生産に向けた土壌タイプや気象変化に対応した灌水指標
 2)日射制御型拍動自動灌水装置の利用
 3)高水圧剥皮機による土壌改良法
 4)可搬型近赤外分光器による窒素栄養診断法
 5)検査シートによる水分ストレス判別法

〈ジョイント仕立ての光合成産物と養水分の動態が明らかに〉

 2011年の追録で収録したナシで開発されたジョイント仕立てでは、つながる仕組みの研究を紹介。

 まず光合成産物の動き。樹体間の通導組織の連結は時間が経つに伴って進むが、それぞれの独立性は保たれる。しかし、主幹を切断すると物質移動が急速に活発になり、樹体間相互コミュニケーションが確立される、など。

 次に窒素を中心とした養水分の動き。主幹が切断されるかあるいは根から養水分が吸収できない状況になったときには、接ぎ木部を通して隣接樹から養水分が供給されて棚面が保持されるなど。ジョイント仕立てで樹勢が強くなったときに、主幹を切断したり生育期に摘心をすれば樹勢をコントロールできる理由がわかってきた。 〈稼げる新栽培法〉

 水稲育苗ハウスを利用した12月収穫ポット抑制栽培 甘ガキを移動可能なポットで栽培し、成熟期以外は露地で管理して8月下旬からハウスに入れて成熟を遅らせ、11月末から収穫するもの。開園費用は苗木とポット、灌水装置程度で済む。年末の贈答向けとして販売できる、すぐれもの(写真4)。




写真4 ハウスでの甘ガキポット栽培

 山形県上山市・黒田実さん:一本棒3年枝栽培 オウトウ1.4haという大面積を夫婦2人で大玉の高品質果実を安定して生産していくために開発した。摘果や葉摘み一切なし。収穫も通常2~3回のところ1回で済ませることができる。

 JM7台木利用樹の幼木期~若木期における低樹高仕立て法 植付け時から毎年主幹延長枝を切り返して斜立誘引した強めの側枝を配置し、成木時の結実部位を2~2.5mにするもの。

〈転換期を迎えるナシ栽培に応える新研究〉

 「生育段階と生理・生態」を30年ぶりに全面改訂 ナシは既存品種の老木化が進んでいる一方で、新品種も続々と育成されて改植期を迎え、斬新な栽培法も開発されている。キーになるのはまず樹勢の維持。そして、進む生育中の着果管理や剪定、夏季の枝管理など一連の作業を、適期に、樹勢を維持しながら適切に行なうこと。そのために必要な休眠や光合成産物の転流と果実の肥大、植物ホルモンの働きなど最新の研究が分かりやすく解説されている。

 また、気象変動などに対応できるナシ台木の選択法も収録。