農業技術大系・果樹編 2009年版(追録第24号)


●期待の新食感,食味の品種大特集―カンキツは‘デコポン’に続く中晩カン類の有望品種‘天草’‘西南のひかり’‘せとみ’,カットフルーツやフレッシュジュースに利用される‘ブラッドオレンジ’など。リンゴは‘シナノスイート’‘シナノゴールド’‘秋映’に加えて各県育成品種。




 クリの超低樹高整枝法(兵庫方式)での剪定




 ブラッドオレンジ‘タロッコ’

 ブドウは皮ごと食べられる‘シャインマスカット’と‘瀬戸ジャイアンツ’。ナシは‘愛甘水’‘あきづき’に‘彩玉’。カキは「梨のようなシャリシャリとした食感」と人気を呼ぶ甘ガキ‘太秋’‘早秋’と渋ガキの‘太天’‘太月’。クリは渋皮が簡単にむける‘ぽろたん’。モモは観賞用品種‘ひなのたき’や黄肉品種の‘つきあかり’など。




 ブシャインマスカット

●肥料代べらし―カンキツでの鶏糞や牛糞堆肥の活用,ナシの肥効調節型肥料の利用と根圏集中管理など。

●「地球温暖化(異常気象)の影響と対策」のコーナーを新設―ブドウの着色不良,モモの果肉異常(みつ症),ナシの眠り症,クリの凍害,休眠・開花への影響など要因と対策を解明。

●「果物の輸出戦略」のコーナーを新設―主要輸出国の果樹消費の現状と課題の検疫,害虫除去法,鮮度保持対策など。

●省力化を実現する新技術・仕立て法―モモの一文字形整枝,クリの超低樹高整枝法(兵庫方式),ブドウの養液土耕・密植栽培,ハウスイチジクのコンテナ栽培。


〈期待の新食感・食味の果実が勢揃い〉

 果樹の消費が低迷するなかで,従来の果樹のイメージを一新する品種が続々と登場している。果樹の消費と販売を伸ばすチャンスである。

 カンキツ 中晩カン類の有望品種を一挙収録。果皮の着色が早く紅が濃い‘天草’,露地栽培で年内出荷が可能な‘西南のひかり’,じょうのう膜が薄く独特な食感の‘せとみ’,果皮・果肉が赤くてカットフルーツなどに利用される‘ブラッドオレンジ’や‘麗紅’など。

 リンゴ 中生品種として各地で導入が進む‘シナノスイート’‘シナノゴールド’‘秋映’について,着色管理や収穫適期の判断,‘シナノスイート’で問題になる心かび病の対処法などが的確に紹介されている。

 ブドウ 急速に人気が高まってきた‘シャインマスカット’は,育成者の山田昌彦氏が長梢剪定,短梢剪定それぞれでのつくりこなし方や各品種との違いについて詳説。ハチミツのような甘さの幻のブドウと称される‘瀬戸ジャイアンツ’は短梢剪定・無核栽培法。

 ナシ ‘幸水’より10日以上早く収穫可能な‘愛甘水’,食味も外観もよく変形果の発生が少ない‘あきづき’,贈答用として期待の‘彩玉’。

 カキ「梨のように多汁でシャリシャリとした食感」と人気を呼ぶ甘ガキ‘太秋’‘早秋’は,先行して導入している生産者事例を収録。‘早秋’は福岡県朝倉市の角野英穂さん。汚損果が多いのが課題だが,果実が乾いているときに収穫することと,湿気の多い園地では通風採光をよくすることで克服している。‘太秋’は熊本県益城町の坂本利明さん。ナシの棚を再利用した棚仕立て栽培。課題の果実の条紋発生は袋かけなどで克服。食感を保つためにカラーチャートを利用した熟期の判断など,収穫法でも工夫がされている。

 渋ガキは‘平核無’の倍にもなる大玉品種の‘太天’‘太月’。

 クリ 渋皮が簡単にむける‘ぽろたん’は果実は30gと大きく,皮がむけたらそのまま栗ご飯などの調理に利用できる。

 モモ 観賞用品種だが,早生で食味もよい‘ひなのたき’(写真1),人気の‘黄金桃’に続けと登場した黄肉品種の‘つきあかり’など話題の品種を収録。




 写真1 モモ(品種:ひなのたき)

〈肥料代を削減―鶏糞,牛糞堆肥,ナシの根圏集中管理〉

 昨年の追録では,施設栽培での変温管理など省エネ対策を特集したが,今追録では価格が急騰してきた肥料の削減策をとり上げた。

 まず,カンキツでの鶏糞と牛糞堆肥の活用法。鶏糞は,主な窒素分が尿酸で速効性。施用時期は春か秋がよい,ミミズやトビムシなどの土壌小動物が増えて土壌生物の活性が高まることなどが明らかになった。

 牛糞堆肥は,中晩カン類では樹勢の維持や果実の肥大に有効で,10a当たり3~5t程度を春か秋に施用すれば,窒素を化学肥料などで補うことでリン酸とカリの施用が不要になるという。

 ナシの肥効調節型肥料の利用と根域集中管理による減肥策。被覆肥料を利用すれば,通常年5回の施肥が2回ですみ,肥料代も56%削減できる。また,主幹周りだけを重点的に管理すれば,15~56%の肥料代が削減できるという。

〈年ごとに問題になってきた地球温暖化(異常気象)の影響と対策〉

 果樹の生育などから,温暖化の影響を実感される方が多くなっているようだ。そこで今追録では,第8巻に「温暖化の影響と対策」のコーナーを新設し,果樹栽培でどのようなことが問題になっており,どのように解決できるのか,明らかになったものを毎年収録していくことにした。

 トップに収録した「地球温暖化が果樹栽培に与える影響と対策」では,気温の上昇はもちろん,極端な大雨が多くなっている一方で干ばつもあるという雨の降り方の変化,全国の各樹種での影響の出方や対策など,これまでの調査・研究成果が網羅されている。そして,カンキツグリーニング病,ブドウの着色不良,モモの果肉異常(みつ症),クリの凍害などを収録した。

 ブドウの着色不良対策では,これまで難しかった環状剥皮が,専用のナイフも開発されて安定した効果が発揮できるようになっている。

 クリの凍害対策では,糖蜜処理や「株ゆるめ」処理など根の吸水を抑制する方法が開発されている。

 なお,ブドウ(第2巻)とナシ(第3巻)各巻で,福岡県の施設栽培の生産者事例を収録。ブドウは八女郡黒木町の内藤義則さんで,課題の着色不良を房重と結果量を適正にすることで克服。ナシは筑後市の大石芳勝さんで,今年は露地栽培でも発生するようになってきた「眠り症」を,1年枝でも長果枝に積極的に利用することなどで対処する方法を開発している。

〈省力化を実現する技術・仕立て法〉

 実用化が進んできたナシの溶液受粉。花粉を懸濁したものをスプレーなどで柱頭に散布するもので,作業時間の大幅な短縮が可能になる。花粉を懸濁する溶液「液体増量剤」にはショ糖などの糖類のほかに,ペクチンメチルエステラーゼ(PME)など花粉の生理活性を保持するもの,寒天やキサンタンガム(XG)などの増粘剤,受粉が済んだ花を識別できる色素や散布機などが開発されてきた。今後の展開に期待したい。

 仕立て法では,まずモモの一文字整枝法。作業する高さが120~190cmなので,脚立を使わず立ち姿で快適・安全に栽培管理作業ができる(図1)。




 図1 モモの一文字形整枝の仕立て法棚の構造

 次いでクリの超低樹高仕立て(兵庫方式)。新規就農者でも取り組めるよう開発されたもので,従来よりもさらに低樹高になり,剪定作業も脚立なしでできる。

 ブドウでは島根県出雲市の大野弘一さん。密植栽培や炭酸ガス発生装置の導入のほか,養液土耕も導入して施肥と灌水の大幅な省力化を実現している。

 ハウスイチジク栽培では,株枯病や疫病を防止できて,樹をコンパクトにできるコンテナ栽培を収録。

〈今後の果物輸出に向けて戦略を練る〉

 昨2008年からの円高と経済状況の悪化などで水をさされた感はあるが,国内での販売に苦戦するなかで,果物輸出への期待が高まっている。品質の高い日本の果物への評価は高く,最近はロシアや東南アジア,インドなどでも需要が増加しているそうだ。今追録では,輸出の現状や国の施策,台湾や東南アジア各国の果物消費の実態と輸出に向けた課題,輸出のためにクリアしなければならない検疫措置や輸出の手順,低温処理や揺動噴射式果実洗浄機による害虫除去法,鮮度保持方法などを収録した。今後の追録でさらに内容を充実させていく予定である。