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2021年時点で枝もの(切り枝)の出荷量はカーネーションに並び,花卉ではキク類に次ぐ第2位に上り詰めた。家庭需要が好調であること,季節感を演出できること,比較的栽培に手がかからないことなどから枝ものが好まれている。
今回の追録では,枝ものの消費動向を桐生進氏(大田花き花の生活研究所)に,枝ものごとに異なる品質保持技術を豊原憲子氏(大阪府立環境農林水産総合研究所)に,奈良県の堀園芸株式会社が実施する枝ものの多品目生産・出荷の事例を福山穂奈美氏(奈良県南部農林振興事務所)にまとめていただいた。
また,先進産地であるJA常陸奥久慈枝物部会が注目している品目の栽培法(写真1)を飯塚涼太氏(JA常陸大宮営農経済センター)に,ユーカリを越冬させずに育てる一年草栽培(写真2)について菅家博昭氏(福島県実際家・草花栽培研究会)に,再び注目のあつまるヒバ類の栽培について井上玲子氏(埼玉県花と緑の振興センター)に,グリーンとして人気のベビーハンズの栽培を中村広氏/藤代志緒理氏(宮崎県総合農業試験場/宮崎県西諸県農林振興局),に,マツ類の栽培の基本と大規模栽培事例(写真3)を渡辺賢太氏(茨城県鹿島地帯特産指導所),堀江優衣氏(茨城県鹿行農林事務所)にそれぞれ紹介していただいた。
写真1 JA常陸奥久慈枝物部会のウンリュウヤナギ(左)とドラゴンヤナギ(右)の出荷姿 |
(写真提供:飯塚涼太(JA常陸大宮営農経済センター)) |
写真2 ユーカリを収穫する菅家博昭氏(福島県実際家・草花栽培研究会) |
(写真撮影:田中康弘) | 寒冷地でも越冬させずにユーカリを栽培することができる |
写真3 茨城県神栖市・ミゾグチファームでのマツ(若松)の収穫 |
(写真提供:堀江優衣(茨城県鹿行農林事務所)) | ほぼ全量を正月需要に合わせて出荷するため,毎年3.5haの面積を機械で迅速に収穫する |
夏秋小ギクは露地電照によって開花コントロール技術が大きく進歩してきたが,気温による影響が新たに明らかになったほか,一斉収穫用の機械の販売が始まり,秋田県・富山県などでは水田転換畑を利用した大規模な栽培が可能になった。また,開花調節技術が進んだため単価が安定し,作付け計画に組み込みやすくなり,他の品目と組み合わせた経営も増えている。
今回の追録では小ギクの需要と生産動向について桐生進氏(大田花き花の生活研究所)に,開花と気温に関する研究を中野善公氏/久松完氏(農研機構)にまとめていただいたほか,大規模栽培を可能にした定植機械について清水紗恵氏(井関農機)に,物日に出荷するための保管技術を東明音氏(クリザール・ジャパン),それらを組み合わせた秋田県男鹿・潟上地区園芸メガ団地の大規模栽培事例(写真4,5)を山形敦子氏(秋田県農業試験場)に,ほかの品目の栽培に小ギクを組み込んだ雲仙市・諫早雲仙小ギク新産地組合での複合経営を峯大樹氏(長崎県農林部)にそれぞれ紹介していただいた。
写真4 秋田県男鹿・潟上地区園芸メガ団地での小ギクの露地電照栽培 |
(写真提供:山形敦子(秋田県農業試験場)) |
夏秋品種の開花生理がある程度明らかになり,夏秋小ギクでも電照による一斉開花が可能になった |
写真5 秋田県男鹿・潟上地区園芸メガ団地での小ギクの収穫 |
(写真提供:山形敦子(秋田県農業試験場)) |
電照を用いて一斉開花させることで,機械による一斉収穫が可能になった |
切り花の日持ち保証販売は10年以上前から行なわれているが,鉢花は品目ごとに技術や考慮する点が多様であるため,生産工程などを踏まえた認証販売がされていなかった。しかし,ここ数年で輸送や店頭での日持ちにかかわる要素などが解明され,鉢花の日持ち管理保証販売が近々実施されることになった。生産者は認証を取得し,それを告知して販売することで消費拡大につながることが期待される。
今回の追録では新たな認証の評価項目を西村潤氏(ECASジャパン)にまとめていただいたほか,鉢ものの日持ちを向上させる管理方法について,カーネーションを渋谷健市氏/中島拓氏(農研機構/千葉県農林総合研究センター)に,アジサイ(写真6)を加古哲也氏(島根県農業技術センター)に,ポインセチアとシクラメン(写真7)を虎太有里氏(奈良県農業研究開発センター)に,ファレノプシスを牧田尚之氏(愛知県農業総合試験場)に紹介していただいた。
写真6 アジサイはエチレンによってがく片の落下が引き起こされる(左は無処理,右はエチレン混合気処理) | |
(写真提供:加古哲也(島根県農業技術センター)) | |
出荷資材に通気性に優れるものを選択することで輸送時の品質低下を軽減できる |
写真7 シクラメンはエチレンにより葉の黄変が進む |
(写真提供:虎太有里(奈良県農業研究開発センター)) |
黄変の進行速度には品種間差がある。左はレッドソーラー,右はピュアホワイトソーラー |
ラナンキュラスは大輪で八重の品種が主流だった一方で,ラックスシリーズ(写真8)など野趣感のある品種にも注目が集まっている。今回の追録では近年のラナンキュラスの「品種・系統と栽培特性」を草野修一氏(有限会社綾園芸)に,長野県の実際家・鮎澤農園でのラックスシリーズの栽培事例を加藤彩氏(長野県諏訪農業農村支援センター)に紹介していただいた。
写真8 ラナンキュラスの(有)綾園芸育成品種「ラックス アリアドネ」 |
(写真提供:草野修一(有限会社綾園芸)) |
このほか,主要品目における最新情報も収録した。
生長・開花を促成させることで加温日数を減らし,コストを抑えるポットカーネーションの栽培方法(表1)を中島拓氏(千葉県農林総合研究センター)に,長野県の鮎澤農園が実施する,複合環境制御による高品質なカーネーション疎植栽培について秋山祥恵氏(長野県北信農業農村支援センター)にまとめていただいた。
また,生長段階で異なる施肥管理が求められるシクラメンについて,必要な施肥量を安価で計測する技術を青木論雄氏(神奈川県農業技術センター)に紹介していただいたほか,農産物直売所での切り花販売の動向と課題を豊原憲子氏(大阪府立環境農林水産総合研究所)に最新情報を加えて改訂していただいた。
表1 電球色LEDの照射により,開花時期はそのままに栽培にかかる光熱費を削減することができる |
(提供:中島拓(千葉県農林総合研究センター)) |
栽培方法 | 光熱動力費(a) (円/10年) |
電照代(b) (円/10a/10年) |
(a)+(b) | |
(円/10a) | 対12℃無照射(%) | |||
暖房温度10℃+電球色LED 暖房温度12℃+無照射 |
6,220,000 9,180,000 |
1,145,000 0 |
7,365,000 9,180,000 |
80 100 |