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本追録では,グリーン素材やドライフラワー(スワッグ含む)素材として需要が拡大中の枝ものの栽培技術を多く収録した。
まずは国産榊生産の取組みから。実はあまり知られていないのだが,神棚やご先祖様にお供えする榊にはおもに2種類あり,西日本ではサカキ,東日本ではヒサカキが使われる(写真1)。両者ともに今はほとんどが中国産で,国産復活をもとめる声があがっているが,そのためには安定した周年集荷や日持ち,表示の工夫,また栽培面では獣害対策や早期成園化など,解決しなければならない課題も多い。国産榊栽培の復活に向けての課題整理を,宇田花づくり研究所の宇田明氏に整理・解説いただいた。
写真1 サカキ(左)とヒサカキ(右)
実際の取組みとしては,ヒサカキを東京都八丈島でつくる奥山完己氏(ヒューマン企画)に,加工業者も巻き込みながら関東~九州の産地間協力による国産榊の周年安定出荷を進める現状とともに,榊の出荷で重要な調製のノウハウや優良苗の選抜・増殖などの技術について紹介していただいた。むだのない作業場の造りや手順など(写真2)は,枝ものに限らず,切り花の栽培農家でも参考になる。
写真2 ヒサカキの選別作業の概要
収穫したヒサカキは,まず,1・2番の水槽で水揚げする(①)。手前(左)のスタッフがサイズごとに品質を確認し,規格サイズにカットする(②)。奥のスタッフが品質とサイズを確認後,50本ごとに結束する(③)。結束後の商品は3~5番の水槽でサイズごとに水揚げ保管。出荷のピーク時には,1・2番の水槽も結束後の水揚げ保管に利用する(④)
枝ものの新しいところでは,キイチゴ(カジイチゴ)をフラワーアレンジメントで最近よく目にするようになった。北海道の故早川英幸氏が育成した品種のベビーハンズは,切り分けるとグリーン素材としても使え,重宝されている(写真3)。栽培時のクセや周年栽培での課題などについて,この種苗を管理する澁谷喜八氏((株)澁谷農園)のご報告。
写真3 ベビーハンズの枝変わり(品種名:彩)の紅葉
ベビーハンズは屈曲していてどの方向でも利用できるため,グリーン素材としても使いやすい
ユーカリとアカシア(ミモザ)も人気がある。火付け役となったのはユーカリだが,枝もの産地の静岡県では現在,これに特化した生産者も増加傾向とのこと。そのお一人,静岡県の山本法秀さんは,優良苗木を自家増殖して5~10年で改植,安定生産を維持するとともに,定植時期を春と秋2回にずらすことで,作業の分散化と生産物の品質向上を実現されている(写真4)。
写真4 2L(115cm サイズ)のグニーユーカリ
出荷ケースの大きさが決まっているため,規格の上限が115cmとなる。115cm以上の規格を出荷する場合,新聞紙やボール紙で包み,適宜ひもでしばり整える
一方のアカシアは黄色い花が国際女性デーの象徴(ミモザの日)として知られ,日本でも徐々に認知が広がっている。祖父の代から先駆的に栽培に取り組む千葉県の(有)長作園・西宮哲也さんは,蒸気式の開花室を使って一枝ごとに開花を揃え,市場に出荷し,高評価を得ている。
このほか,お正月の縁起物として欠かせないセンリョウの施設栽培における被覆と温度管理のポイント(和歌山県・柏木祥亘氏),ほうき性樹形で菊咲きの白・桃色が育成されるなど切り花品種の開発が期待されるハナモモ(山口正己氏・元東京農業大学)の最新情報を収めた。
収益性の高い品目として地位が確立しつつある切り花ダリア。最新の市場データをみると,人気は業務ユーザーがもとめる黒・白系から一般ユーザーがもとめるパステルカラーへ,大輪系から中輪・ボール咲きへシフトしてきていることがうかがえる。近年の品種動向について内谷新悟氏(日本ダリア会理事)に詳しく解説していただいた。一方,数々のダリア品種を生み出してきた秋田国際ダリア園・鷲澤幸治氏は現在,秋田県と共同で「NAMAHAGE ダリア」の品種開発を行なっている。その品種選抜の手法や,宮崎県とコラボした周年出荷にむけた産地リレーの取組みを,髙橋宏彰氏(秋田県農林水産部)にご報告いただいた。
写真5 NAMAHAGE ダリアのリレー出荷用品種
秋田県はオリジナル品種NAMAHAGE ダリアの周年出荷を目指し,宮崎県と産地リレーが行なわれている
ユリは国内流通量が多い品目だが,強い香りがときどき問題となる。香りの発生に関わる酵素の働きを抑える薬剤が製品化されている。開発に携わった大久保直美氏(農研機構野菜花き研究部門)に,香り抑制剤の仕組みと処理の実際を解説いただいた。
また,現在出回る切り花ユリのほとんどはオランダ産である。これらはおもに業務需要だが,山口県では小さな花器で家庭でも飾りやすい小輪品種に的を絞って育種・球根増殖を行なっている(写真6)。尾関仁志氏(山口県農林総合技術センター)に詳しく紹介いただいた。
写真6 ユリ小輪品種プチシリーズ
各品種名は,プチソレイユ(上左),プチロゼ(上中),プチシュミネ(上右),プチセレネ(下左),プチブラン(下中),プチアンジェ(下右)
母の日の鉢花として定着し,最近は切り花でも注目されているアジサイについては,最新品種を一江豊一氏(加茂荘花鳥園)に紹介いただいた。
ハーブ類はドライフラワーやリース素材としても適し,SNSなどで話題となり,ふたたび注目されている。おもなハーブ類22種の生育特性,利用法,経営のポイントなどについて阿部誠氏(長野県実際家)に整理・解説いただいたほか,諸岡淳司氏(長崎県農林技術開発センター)にはハーブの代表種ラベンダーの,暖地でも長く楽しめる二季咲き系統の育成について報告いただいた。
自然栽培でエディブルフラワーをつくる長野県・鈴木義啓氏(Suki Flower Farm)には今回,栽培から加工・販売(写真7)までをご披露いただいた。
写真7 エディブルフラワーの生産と加工・販売
カレンジュラのエディブルフラワードレッシング(左)と土耕栽培による夏のエディブルフラワーのミニブーケ(右)
最近,公共空間で壁面緑化を見かける機会が増えてきたが,ハイドロカルチャーとその関連資材による緑化技術の最新情報を(株)プラネットの大林修一氏に紹介いただいた。
花卉業界では物流や卸売市場法改正への関心が高まっている。市場法の歴史と市場法改正の概要について細川允史氏(卸売市場政策研究所)に,切り花の輸送用梱包と容器について(写真8)桐生進氏((株)大田花き花の生活研究所)に,日持ち性に配慮した輸送技術の最新については市村一雄氏(農研機構野菜花き研究部門)にそれぞれ解説していただいた。
写真8 標準容器とパレットを用いた物流試験
サイズの異なる標準容器をパレットに積んだようす。これまで花卉市場では手作業による荷物の上げ下ろしが主流だったが,パレットに載せることでフォークリフトでの積込み・積下ろしが可能となる