農業技術大系・花卉編 2014年版(追録第16号)


●農家の商品開発でホームユース需要を拓く

 アレンジメントや個性的な空間づくりに欠かせない素材として人気が出てきたアリウム、クルクマ。また冬の花壇用のイメージだったハボタンは切り花(写真1)やポット用での利用が増えてきた。これらは、出荷期間は短いものの高単価で、バラやキク農家の経営のわきを固める品目として導入が増えている。また、ホームユースで人気の「実付きもの」はカンキツ類とパッションフルーツの事例を紹介。

写真1 切り花用ハボタン 規格ごとに選別し、根付きで出荷


●「日持ち保証販売」のための品質管理

 花き研究所がまとめた「日持ち保証販売に対応した切り花の品質管理マニュアル」を解説。ダリアやラナンキュラスといった日本オリジナルの花など、全30品目についての品質管理法を紹介。

●直売所の切り花需要に対応する

 小型開花調整室を用いた開花調整法や、直売所における品質管理、需要予測の仕方などを紹介。

●フルブルームマム、アジャストマム―新しいキクの商材提案

 短茎多収が可能で花店がのぞむ規格や納期にあわせた商品「アジャストマム」の提案。利点や問題点について解説。また、見たこともない形状や日持ちの良さで注目される「フルブルームマム」を取り入れた香川県・福家和仁さんの経営事例も。その他各メーカーの最新育種情報、営利栽培にも応用できる「趣味ギク」の最新技術。

●バラの二酸化炭素施用―低濃度・局所施用、仕立て方の改良など

 バラ生産では従来の高濃度CO2施用から、大気中の濃度(400ppm程度)に近い低濃度施用や局所施用などに関心が集まっている。環境制御の見直しによって、高品質・高収量を実現している広島県・京果園神田を紹介。


●農家の商品開発でホームユース需要を拓く

▼ハボタン―切り花・ポット・寄せ植えで

 生産者育種が盛んなハボタン。わが国では正月商材の印象が強いが、欧米では夏花壇や冬のカラーリーフとしても利用される。現在、各地の農家が在来の固定種を親株に、ほかのアブラナ科との交雑で新たな品種・系統をつくり有利販売につなげている。「神戸ジェンヌシリーズ」を主力に、メキャベツとの交配でできた品種などをつくる兵庫県・中山高行さんのポットハボタンの育種と生産を紹介。

 またハボタンを切り花で出荷する広島県・西迫和幸さんの施設栽培も紹介。3回の下葉かきで花茎長を確保。大阪府・稲治義彦さんは、露地栽培の切り花と花壇苗に、東京都・石井淳一さんは江戸の縁起物屋にルーツをもつ伝統の縁起物寄せ植え生産に、それぞれ取り組む。

▼アリウム―花茎の曲げ技術による商品開発

 アリウムは省力品目と言われているが、出荷時期の集中による単価の低迷が問題。出荷期の拡大や付加価値の創出が求められている。生産量で高いシェアを誇る熊本県からは、「曲げ技術(写真2)の高度化」による独自の商品開発をしている木村園芸を紹介。

写真2 不織布の被せ曲げによるアリウム‘丹頂’の栽培


 「栽培基礎」のコーナーではバニラのような香りの‘ブルーパフューム’をはじめとした新品種などについて解説。

▼クルクマ―アレンジメント素材に進化

 「仏花」のイメージを払しょくして需要強化を図る動きが、クルクマ(写真3)でも活発化。従来の‘アリスマティフォリア’一辺倒の栽培から少量多品種栽培へ移行しつつあり、これらはアジアンテイストな雰囲気をもつ夏場の装飾用花材として、今後重宝されそうだ。

写真3 クルクマ‘チェンマイチョコレート’(左)と‘ホニチャーオレンジ’(右)


 生産者事例では愛知県・中央碧南クルクマ部会やJA糸島花卉部会・高宮康弘さんを紹介。

▼実付きもの―産地の特徴を生かした有利栽培

 鑑賞に加え、果実も楽しめるためホームユース需要が伸びている実付きもの。最近は温暖化の影響もあり、カンキツ類、トロピカルフルーツが注目され、今号事例で初収録。震災後の節電気運の高まりやヒートアイランド対策でグリーンカーテンとしても注目されたパッションフルーツは千葉県・市川園芸の取組みを紹介。

 福岡県・立石勉さんは温州やデコポン(不知火)、香酸カンキツなど11品目を栽培。接ぎ木や養成期の管理など、カンキツ苗生産の技術を生かしたカンキツ実付きもの(写真4)を紹介。

写真4 カンキツ実付きもの 出荷時の荷姿右)


●新しい販売、高品質を実現する技術、栽培事例

▼「日持ち保証販売」のための品質管理

 花の「日持ち保証販売」が、イオンなど量販店で取り入れられるなど、いよいよ現場で動き始めてきた。花き研究所がまとめた「日持ち保証販売に対応した切り花の品質管理マニュアル」を同研究所の市村一雄氏が解説。ダリアやラナンキュラスといった日本オリジナルの花など全30品目について、その品質管理法を紹介。

▼直売所の切り花需要に対応する

 気軽に新鮮な花を購入できるとして需要が伸びている直売所での切り花販売。一方で、品質の劣化や売り逃しなどの問題も抱えている。このコーナーでは納屋の一部を改造して誰でも簡単につくれる小型開花調整室を用いた切り花開花調整法や、直売所における品質管理のポイント、物日など需要予測の仕方ほかを紹介。

▼フルブルームマム、アジャストマム―新しいキクの商材提案

 キクの消費減の原因のひとつに花店の要望と生産者側のミスマッチがあるといわれる。例えば、生産側が目指す高品質は長茎だが、実際の消費(使用)は短茎である。花店ではわざわざ長い茎を切り捨て短く調整して販売。その残茎の処理に困っているほど。これこそ両者にとって大いなるムダと、なにわ花市場は、花店がのぞむ規格や納期にあわせた商品「アジャストマム」を提案。花店のみならず、生産者側にとっても短茎生産することで多収になるメリットもある。現在は主に物日向けで、目的に合わせて切り花長だけでなく、脱葉、納期を花店の要望に合わせ「調整する」アジャストマムが流通。同市場・宇田明氏に解説いただいた。

 また、見たこともない形状や日持ちの良さで、注目される「フルブルームマム」。現在、利用は迎春用の生け込みなどに限られるが、ブライダルなどさまざまな用途への可能性を秘めている。専作農家はまだいないが、「ダリアのような洋花の用途を増やしたい」と、7~8年前からフルブルームマムを取り入れた経営に取り組む香川県・福家和仁さんの事例を紹介。フルブルームマムとして出荷する品種はディスバッド・マムのなかから、満開にしても形状が崩れず、日持ちのするものを選んでいる。

 その他、キクの育種情報として、精興園、小井戸微笑園、ジャパンアグリバイオから新品種を中心に紹介。

 「趣味ギクに学ぶ」のコーナーでは、営利栽培にも応用できる技術情報を上村遙氏が紹介。「6枚葉挿し穂」や、生長点のみを被陰する開花調節技術など。

▼バラの二酸化炭素施用―光合成を最大化させる仕立てとCO2の低濃度・局所施用

 バラの施設栽培で先行的に始まったCO2施用。従来の高濃度施用から、大気中の濃度(400ppm程度)に近い低濃度での施用(ゼロ濃度施用ともよばれる)や、株元だけに施用する局所施用など、新しい関心が集まっている。

 広島県・京果園神田では日中の積極施用(写真5)と光合成を最大に高めるための仕立て方の改良などにより高品質・高収量のバラ生産を実現している。

写真5 ベッド下部に配置された二酸化炭素施用ダクト