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●元気な花の生産者たちの取組み
切り花では,ダリアは長野県の唐沢弘之さん,ダリア球根,切り花の奈良県・樋口重範さん。ユーストマは福岡県・末継花園。ラナンキュラスは宮崎県の甲斐美紀雄さん。鉢ものでは,クレマチスの静岡県・(有)渡辺園芸,シクラメンやアジサイの千葉県・(有)大栄花園,苗ものの愛知県・(有)角田ナーセリー。
●新しい魅力を創り続ける日本の育種
青いダリア,秋田国際ダリア園・鷲澤幸治さんをはじめ,加茂花菖蒲園の育種品種「加茂セレクション」,無花粉ユリの育成,突然変異育種,倍数性育種・半数体育種など,世界の市場をリードする日本の育種技術と研究を収録。
●高品質・省エネを実現する栽培管理
超微粒ミストや水熱源ヒートポンプなど夏場の暑さ対策と省エネの技術。コストを抑えて生育を調整できる短時間変温処理。また発光ダイオード(LED)光源活用の最新研究も。
●ダリア切り花の高品質栽培と球根生産技術
近年、ダリアの生産において、球根のウイルス汚染による収量・品質の低下が大きな問題になっている。古くから球根生産が盛んな奈良県の榛原花卉組合・樋口重範さんはウイルスを除去した茎頂培養苗を用いた球根生産と、それを用いた露地夏秋切り花で高品質・多収栽培を実現している。
ハウス栽培では、長野県高森町・唐沢弘之さんの高品質・周年栽培に向けた肥培・灌水管理と挿し芽育苗管理、切り前(写真1)や水揚げなどの出荷調整などを紹介。唐沢さんはピンク系のオリジナル品種‘アヤピー’の生産拡大も行なっている。
写真1 ダリア収穫時の切り前
●課題のユーストマの立枯病を克服する福岡県の末継花園
発生が多くなってきたユーストマの立枯病。福岡県の末継花園・末継聡さんの蒸気消毒・輪作・オリジナルの隔離ベッド(写真2)などを用いた立枯病対策を紹介。
写真2 隔離ベッドでの栽培のようす
●ラナンキュラスの冷蔵球根技術と品質向上
ラナンキュラスの球根は生産量が少なく高価なうえ、ウイルスに感染することが多い。そのため、定期的な球根の更新が必要となる。全国有数のラナンキュラス産地である宮崎県の甲斐美紀雄さんの切り花品質向上と開花調節のための冷蔵球根処理の技術と、球根増殖を収録。
●鉢花で活躍している生産者たち
クレマチスにおいて国内で圧倒的な種苗シェアとブランドを確立した静岡県・(有)渡辺園芸の渡邉偉さん。専用ミスト室や田植式挿し木法など、独自に育苗技術を開発し、エコカーテンやラベル苗、Cリングなどの商材の開発で、需要をつくり出している。
シクラメンで‘パピヨン’や‘キッチンアジサイ’(写真3)に代表されるようなインパクトのあるオリジナル品種を生み出しつづけている千葉県・(有)大栄花園の花業界にトレンドをつくり出す育種の着眼点や販売の面白さについて紹介。
写真3 キッチンアジサイ
夏場の異常高温がすすむなか、苗ものについては秋売り商材をどれだけ確保できるかが課題となっている。愛知県の(有)角田ナーセリーは、ドライミストとパット&ファン冷房を組み合わせた高温化対策によって、秋売り商材の安定を実現している。
●世界の市場をリードする日本の育種技術
アジサイは現在でも新たな変異が発見されつづけている。野生変異と在来品種を活用した加茂花菖蒲園の育種品種、「加茂セレクション」の紹介。
急成長するダリア。切り花生産の、その礎を築いたのが、大人気品種‘黒蝶’を生んだ秋田国際ダリア園・鷲澤幸治さんの育種。ダリアが日本へ定着した歴史や開園までの道のり、日本ダリア会の活動についても紹介。また、人工交配と虫媒交配とを組み合わせ、国内の切り花品種の70%以上を作出した手法を解説。
宮崎県からは、栽培管理を大幅に省力化できる巻きひげのないスイートピー品種の育成について紹介する。
海外の遺伝資源の持ち出しがきびしくなってきたなかにあって、日本の種苗業者がアルゼンチンで法律をつくって合法的な遺伝資源の持ち出しと、品目開発を実現をした。アルゼンチンの園芸開発計画と、メカルドニア(品種:イエロークロサイト)開発までの道筋。
●青いダリアの育成をはじめ、無花粉ユリ、突然変異育種など
ツユクサ由来の青色遺伝子の導入と、導入細胞の組織培養によって、不可能の代名詞だった青いダリア(写真4)が育成された。さらに実用化のため、他品種との交配試験も行なわれている。
写真4 特定網室内での青いダリアの開花
生花店において、ユリの花粉の除去は毎度手間のかかる作業である。長いあいだ、もとめられてきた無花粉ユリ、雄性不稔性4品種が育成された(写真5、品種:秋田プチホワイト)。
写真5 秋田プチホワイトの雄ずいの先端
日本独自の技術、イオン加速器施設で行なう突然変異育種。イオンビームを用いることで、短時間で効率的な新品種育成が可能となる。
花卉育種は花の大輪化や茎葉の大型化を目指すことが多い。そのような場合に威力を発揮する、笑気ガスを利用した倍数性育種や半数体育種も収録。
●コストを抑えられる短時間変温処理
花卉の施設栽培では、草丈などの伸長調節に昼夜温較差(DIF)処理が試みられている。しかし、寒暖差のあるわが国での環境制御は、エネルギーコストの面で問題がある。そこで、短時間、降温または昇温することで生育制御をする短時間変温処理のほうが、わが国では、実用的な手法と考えられる。実験事例として、アフリカンマリーゴールドやスプレーギクなどを紹介。
●夏場の暑さ対策
近年の異常気象、とくに夏場の異常な高温により、花卉生産において開花の遅延や小形化など、品質に悪影響がでている。ここでは、従来の細霧冷房よりも気温を下げる効果が高い超微粒ミストや水熱源ヒートポンプ冷房など、夏場の暑さ対策と省エネをかねた技術を紹介。東京都は簡易で安価なミストを利用した冷房と、省エネで実用性の高い水熱源ヒートポンプを利用した冷房が、ヒマワリ、シクラメン、ガーベラに対する冷房効果について検討を行なった。
●注目のアジサイの切り花
日本で始まったばかりの切り花アジサイの生産。しかし、日持ちの短さが直近の課題となっている。日本の現状とオランダの生産現場(写真6)、鉢花アジサイとの花芽分化生理の違い、切り花アジサイの花持ちを制御する要因について解説。地植えよりも灌水管理がしやすい鉢栽培の可能性についても提案する。
写真6 オランダでの切り花アジサイ生産
プラグ灌水を利用し鉢栽培で管理
●ユーストマ冬季出荷の技術
ユーストマの冬春季出荷は高単価が期待できるが、ブラスチングが生じやすく、生産が不安定である。これまでは「光が足りない」ことがその原因と考えられてきたが、実は糖濃度がブラスチングに関係していることがわかった。そこで、全国の研究者が総力を挙げて開発した、冬季に糖濃度を低下させないための栽培のポイントと1月出荷作型の基本マニュアルを収録。
●情報が錯綜している発光ダイオード(LED)光源活用の最新研究
発光ダイオード(LED)は植物の開花・生育調整や落蕾防止の補光など、その農業利用の可能性が広がっているが、品種間差による反応の違いや照度、光質などの問題がある。今後、クリアしなければならない課題を整理。