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デジタル畜産編「2022年版」利用案内


「周年親子放牧」で遊休地活用,「飼料用米」で水田フル活用

■低コスト省力の周年親子放牧で遊休地活用


図1 肉用牛の周年親子放牧。夏(左)も冬(右)も畜舎を用いず,放牧地で飼養

 わが国での牛の放牧は一般的に牧草が繁茂する春〜秋の半年間。そして肉牛の場合,子牛の離乳後から増し飼い開始までの母牛のみ放牧している。

 子牛は育成前期で濃厚飼料を増給し,後期で高栄養粗飼料を多給するため,舎飼い管理が必須である。さらに,胎内外の子牛に栄養を供給し,種どまりも確認するため,分娩1〜2か月前から分娩3〜4か月後までの母牛も舎飼い(濃厚飼料の多給)が不可欠である。

 一方,今回の周年親子放牧では,遊休地をまとめて草地化し,子牛が生まれてから出荷まで,離乳させずに母牛と一緒に過ごさせ,冬の間も牧草ムギ類などで無畜舎のまま育成する。


図2 標準的な繁殖雌牛放牧と新たな周年親子放牧との違い

 2022年版では農研機構を中心に開発した牛の導入,牧草作付け,牧柵整備,家畜飲水,体重計測,個体識別遠隔自動給餌,放牧管理のIT化による支援システムのほか,効率的馴致,クラフトパルプ活用,クリープ草地などについて紹介した。

■飼料用米の流通・利用拡大で水田フル活用

 飼料用米は主食用米からの作付け転換が比較的容易であることから生産が増加している。今後さらに政策誘導などによって増産し,農林水産省では2030(令和12)年度の目標を70万tに設定している。

 現在でも流通の多くは稲作農家(生産)→農協(集荷)→飼料会社(配合)→農協(販売)→畜産農家(利用)となっている。しかし,近年は飼料用米の省力生産から畜産物の有利販売まで統合した大きな組織(経営体)での利用も増えている。

 世界的な物価上昇,為替変動(円安)などから今後,飼料価格の高止まりも予想されており,飼料用米への関心も高まっている。今回は流通・利用の取組み事例を6本収録した。

●青森県つがる市・(株)木村牧場

 地元の飼料用米と食品残渣の積極利用で牧場独自の「つがる豚」を生産&販売。飼料用米専用の保管倉庫で経費削減,耕種農家の増産も促す。木村牧場参与の宮本富樹氏が執筆。


図3 左は養豚場の全景,右は籾米の貯蔵施設

●秋田県・ポークランドグループ

 SPF技術とBMW技術で薬剤に頼らない飼養環境,バイオベッドによる日本型アニマルウェルフェアの実践。東日本大震災での飼料不足も乗り切った,飼料用米による「桃豚」生産。ポークランドグループ代表の豊下勝彦氏が執筆。


図4 左はバイオベッドの室内型放牧,右は飼料用米への取組みフロー図

●山形県庄内地域・(株)平田牧場

 飼料用米の生産・流通・利用体制を整えて持続型の「日本の米育ち豚」。畜産物の高付加価値化への取組みで生産拡大,SDGsにも貢献。平田牧場生産本部の池原彩氏が執筆。


図5 左は飼料用米の作付面積と集荷量の推移,右は庄内地域の自給圏構築構想

●新潟県魚沼市・魚沼市自給飼料生産組合

 飼料用トウモロコシ,イネWCS,飼料用米などのTMRで生産経費低減。汎用型飼料収穫機,モヤシ残渣など,行政・JAの支援で耕畜連携。JA北魚沼の小林和広氏が執筆。


図6 左はJA北魚沼倉庫に保管されている飼料用米,右は破砕した飼料用米を確認しているJA職員

●大分県速見郡日出町・(有)鈴木養鶏場

 地元の飼料用米をベースに,人・鶏・環境に優しいSDGsを目指す。大分県産米の利用で地産地消,鶏糞堆肥の還元で循環型の「豊の米卵」を生産。エンリッチドケージの導入でアニマルウェルフェアにも配慮。鈴木養鶏場会長の鈴木明久氏が執筆。


図7 左は飼料用米を栽培している水田,右は豊の米卵(ブラウン)と豊の米卵(ホワイト)

●大分県北部地域・豊後・米仕上牛販売拡大協議会

 関係者の連携で設備投資を省き,耕畜をマッチングした「豊後・米仕上牛」。飼料用米で濃厚飼料の20%を代替し,高オレイン酸。機動的な乾燥保管体制で安定供給,蒸気圧扁処理で消化率も向上。大分県農林水産部の酒井奏氏が執筆。


図8 左は扁平状に押しつぶした飼料用米,右は豊後・米仕上牛生産者