防除改善 地域・農家の事例

市民相談に「防除データベース」を活かす

JA高知の取組み

 JA高知市は組合員数約14,000の農協である。市の中心部は市街化されて農地は減っているが、それを囲むように出作の野菜ハウス圃場が広がる。そんな施設野菜生産拠点の農協らしく、本所の営農相談室の書棚には『農業技術大系』、『農業総覧』がずらりと並んでいる。もちろん最新の追録で記事はメンテナンス済み。さらにパソコンでは『CD-ROM版病害虫・雑草の診断と防除』も使えるようになっている。

◆いろんな人がやってくる!

蓬臺《ほうだい》雅吾さん

対応マニュアル

黄化えそ病の初期症状(竹内原図)『CD-ROM版病害虫・雑草の診断と防除』より
黄化えそ病の初期症状(竹内原図)『CD-ROM版病害虫・雑草の診断と防除』より

「ここ(本所)もそうですが、市街化が進んだ地域が多いですから、市民農園で野菜作りを楽しんでいる人、家庭菜園の人、お年寄り、女性、まあいろんな人が来られます。もちろん組合員以外の人も。ちょうど営農指導員がいればいいんですが、現場回りが多いですからいないことが多いでしょ。そんなとき、パソコンをちょっといじれる人なら『病害虫・雑草の診断と防除』のCD-ROMを入れて、お客さんと一緒に原因をさがしていけますからね。支所とお客さんが仲良くなるんですよ。指導員の○○さんいないから、またあとできてくださいだなんて、せっかく来てくれたお客さんを突き返すわけにはいかんでしょうッ!」
 各支所への『CD-ROM版病害虫・雑草の診断と防除』設置を積極的に働きかけた中岡栄一さん(指導販部営農指導課)は、CD-ROMのおかげで購買の職員もちょっとした問い合わせには応えることができるシステム変わりつつあることに満足げだ。
「それまでは、購買に備えられているパソコンは、ちょっとした文書作成や事務処理くらいにしか使われてなかったんです。まあ、簡単な表計算とワープロの一太郎が打てればいい程度でした。CD-ROMを導入して使い方の指導をしたんですが、若い人はもちろん、50歳前後の購買の女性も積極的でしてね。なかには、指導員よりも使い方に詳しい女性もでてきたんですよ(笑)」

◆功を奏した黄化えそ病退治作戦

「あのときは本当に助かりました…」  中岡さんは「メロン・キュウリ黄化えそ病について 問い合せに関する対応マニュアル」(写真)と書かれた冊子を持ち出してきた。
「なんかおかしい…といって、農家がキュウリとメロンの葉っぱを持ってきたんです。葉っぱの葉脈が透き通 ったみたいになっていて、中にはポチポチとモザイクが現れているものがありました。平成10年に高知県に入ったといわれていたミカンキイロアザミウマが媒介するウイルス病の黄化えそ病じゃないか」
 中岡さんは、高知県農業技術センターに鑑定を依頼して「黄化えそ病」であることを確認すると、普及センターと合同して、すぐに郊外にあるキュウリとメロンのハウス団地をくまなく回った。治療薬はない。すぐに発生していた株を除去。そして、この病原ウイルスを媒介するミナミキイロアザミウマ対策を徹底する。そのときに作製したのが、中岡さんが持ち出してきた冊子だった。
 その冊子には、単行本『ミナミキイロアザミウマ』(農文協刊)の絵解き部分、それに、『CD-ROM版病害虫・雑草の診断と防除』で検索して得た防除情報がびっしりと詰め込まれ、彼ら自身が現地で撮影した黄化えそ病の症状のカラー写真などが組み込まれていた。
 JA高知市、普及センターが一体となった素早い対応が功を奏して、防虫ネットや紫外線カットフィルム、マルチ、青色粘着リボンなどの導入も進み、JA高知市管内ではそれ以上黄化えそ病の被害が拡大することはなかった。
 しかし、この経験は、市街化農協にとって重要なことを教えてくれたのである。それは、市民農園や家庭菜園が、害虫の巣 になる可能性があるということだった。

◆地域的防除は農協の地道な活動が支える

「ハウス団地の農家は、××地区には黄化えそが入ったらしいといった情報が入るのですが、市民農園や家庭菜園で楽しむ人たちにはなんにも伝わらないのです。もともと農薬を使いたがらない人が多いですから、この病気の恐ろしさがわからないと、ついついそのままになって、ウイルスを媒介する害虫の巣になってしまうのです。だから、この地域に黄化えそ病をなくそうとすれば、いわゆるプロ農家だけでなくて、こうした市民農園や家庭菜園で野菜などを楽しむ人たちにも協力してもらわないといけないのです。そのときに、日頃から支所の窓口でも営農相談をやってきた積み重ねが生きたんですね」
 中岡さんたち営農指導課が音頭をとって、なんと家庭菜園向けのパンフレットをつくって、農協、市役所、公民館、さらには町内の回覧板でも回してもらった。そして、営農指導員が市民農園に出向いてミカンキイロアザミウマを見つけ、その被害と結びつけることもやった。
「こんな小さな虫なんて見えないんですよ、ふつうは。だから、市民農園に出かけるときはルーペをたくさん持っていき、キュウリの花にタバコの煙を吹きこんでアザミウマを這い出させて、それをルーペで見てもらったんです」
 タバコ大好きな中岡さんならでは観察法。ルーペで覗いた人から「オーッ!」という声が挙がる。そうして、この虫が黄化えそ病というウイルス病を媒介すること、いったん病気にかかったら治す薬はないこと、などを説いていく。
「『CD-ROM版病害虫・雑草の診断と防除』のいいところは、農薬以外の防除法もきっちりと書いてくれていることですね。市民農園の人たちに対策を説明するための情報もあって、本当に助かりました」 (編集部)