農業技術大系・野菜編 2021年版(追録第46号)


2021年版「追録46号」企画の重点

・アスパラガスの生理と栽培

・業務・加工用野菜の新技術

・トウガラシの栽培と加工

〈アスパラガスの生理と栽培〉

 アスパラガスは,北海道から九州・沖縄まで,日本列島の広い地域で栽培され,各地域の気候条件に応じた持続的な株管理が求められる雌雄異株の多年生作物である。主な作型に,寒地・寒冷地を中心とした露地普通栽培・露地長期どり栽培,暖地で課題だった茎枯病を雨よけハウスで克服し高い単収を誇るハウス半促成長期どり栽培,根株の養成・掘取り・伏込みで高単価の秋冬に生産する伏込み促成栽培があり,ほかにも各種の軟白栽培など,さまざまな作型・栽培方法が開発されてきた。それぞれの作型・栽培方法には,適した品種とつくりこなしの技術があり,生理と品種特性への理解が不可欠である。

 そこで今号では,生理と作型・栽培方法,主な品種の特性がわかるカラー口絵に始まり,来歴と特性,光合成特性と草姿,日本国内で取扱いのある品種・系統の特性のデータと品種選びのポイント,育種方法,ハウス半促成長期どりと伏込み促成の基本技術,ホワイトアスパラガス育成袋(アスパラキャップ,写真1)など,栽培の基礎となる生理と品種特性,基本技術から新技術まで,最新の貴重な知見を盛り込んで解説している。

 また,気象・栽培管理と収量の関係,夏秋の高温対策,害虫の総合管理など,現場の課題への対策を収録したほか,主要産地のトップ生産者7人の技術と経営を紹介した。近年,台風・豪雨で冠水などの大きな被害が出ているが,佐賀県の生産者2人の事例には,記録的豪雨による壊滅的被害からの復活の道のりや,少量多灌水を可能にする圃場の排水性改善などが詳細に解説されている。コロナ禍の影響で現地視察が難しい中,各地のトップ生産者の技術や工夫を詳しく知ることのできる貴重な内容となっている。




写真1 ホワイトアスパラガス育成袋(小林製袋産業)

〈業務・加工用野菜の新技術〉

 水田活用で生産が拡大する業務・加工用野菜の最新技術にも注目した。コロナ禍による家庭消費増で冷凍野菜の需要も伸びている。とくにブロッコリーは購入数量が伸び続けている数少ない品目で,単価も安定し,国内の作付け面積・出荷量も増加している。業務・加工用(冷凍品)は輸入品にほぼ独占されていたが,国産シェア奪還に向けた技術の開発と産地の取組みが急速に進んでおり,省力・低コストを実現する大型花蕾生産技術(品種‘グランドーム’,栽培期間延長,やや疎植)と機械化一貫体系(自動移植機・収穫機の詳細,静岡県の株式会社鈴生〔すずなり〕の事例,写真2)を紹介した。また,葉菜類(キャベツ,レタス,葉ネギ)の収穫適期を自動的に予測して生産管理や契約先との出荷調整を支援するシステム(定植日,定植面積,品種,収穫適期サイズなどを入力して予測)も収録した。

 このほか,業務・加工用,家計消費ともに安定した需要のあるタマネギについても,冬期に品薄・高単価となる新タマネギの初冬収穫を実現した東北地域での初冬どりセット栽培(極早生品種,セット球〔小球〕8月定植,暖地より1か月早い11月収穫,写真3)と,夏の端境期を狙った東北地域の新作型・春まき夏どり栽培で喫緊の課題となっているりん茎腐敗についてネギアザミウマとの関係を解明した新防除技術を紹介した。




写真2  ブロッコリー自動収穫機(写真提供:株式会社鈴生)


写真3 東北でのタマネギ初冬どりセット栽培、セルトレイル育苗したセット球の芽出し苗

〈トウガラシの栽培と加工〉

 トウガラシは,辛味種の栽培・加工技術を収録した。着果特性から品種を5つのタイプに分け,タイプごとの品種特性と栽培のポイントを,育苗,定植,仕立てから収穫,乾燥・調製に至るまで豊富な図版とともに詳しく解説している。