農業技術大系・野菜編 2017年版(追録第42号)


2017年版「追録42号」企画の重点

・イタリア野菜の生理と栽培

・ネギ類の生理と新技術

・アスパラガスの最新研究と経営事例

・トマトの最新研究と経営事例

〈イタリア野菜の生理と栽培〉

 本追録では、近年直売所やレストランでよく見かけるようになったイタリア野菜29種の生理と栽培を一挙収録した。イタリア野菜はすでに広く受け入れられ始めており、直売所向けの有望な品目として、差別化を図りたい営利栽培品目として、また家庭菜園の楽しみを広げる品目として、注目が集まっている。

 イタリア野菜はイタリアをはじめヨーロッパで栽培されている野菜の俗称であり、西洋野菜とよばれることもある。『農業技術大系野菜編』では第11巻「特産野菜・地方品種」の発刊時(1988年)に「ハーブ類」として収録したのが最初である。当時は、肉料理などの臭み消しやスープの香りづけという位置づけであったが、近年ではスーパーの野菜棚に占めるサラダ野菜の割合が拡大していることからもわかるように、野菜をサラダで食べることが増えた。そこで本追録では、「ハーブ類」というコーナー名称を「西洋野菜・ハーブ類」に改め、新しい品目を新規に収録したほか、収録ずみの品目も約10年ぶりに改訂した。30種近くにわたる改訂の労を引き受けていただいた元京都府立大学の藤目幸擴氏に厚く感謝申し上げる。

 今回新規収録・改訂したものの中から、注目の品目をいくつか紹介しよう。

 まずは、タルディーボ(写真1)。赤色と白色のコントラストが美しい葉を食べる赤チコリの一種。赤チコリの仲間では、赤色で丸く結球するトレビスが知られているが、タルディーボは細長い葉が特徴である。トレビスのほろ苦さに加えてほのかに甘味があり、おもにサラダで食べ、ボイルしてもおいしいといわれている(本追録では、それぞれの食べ方や栄養価に触れていることも特徴の一つである)。




写真1 タルディーボ

 タルディーボ栽培のポイントは軟白処理である。赤色と白色の鮮やかなコントラストはこの軟白処理によって高められる。本場イタリアでは小屋の中に山からの湧き水を引いて軟白処理をするそうだが、今回執筆をお願いした宮城県ではハウスの中の容器に湛水し、遮光して軟白処理をしている(写真2)。処理を始めるタイミングから処理期間まで、宮城県農業・園芸研究所の澤里昭寿氏にくわしく解説していただいた。




写真2 軟白処理のようす

 もう一つ、読み応えがあるのはフローレンスフェンネル(写真3)。フェンネルといえば、細い葉をスープに浮かべて香りを楽しむハーブが知られているが、フローレンスフェンネルはセルリーの根元を太くしたような球の部分を食べる。独特の香りと甘味があり、サラダはもちろん、煮込み料理にも合う。




写真3 フローレンスフェンネル

 フローレンスフェンネルの和名はイタリーウイキョウといい、国内でも意外なことに1970年代から栽培されていた。『農業技術大系野菜編』でも、岡山県農業試験場の川合貴雄氏に1988年に執筆していただいている。今回は川合氏自身に約30年ぶりに改訂していただいた。品目名を「イタリーウイキョウ」から「フローレンスフェンネル」に改め、内容も大幅に加え、導入後に直面しやすい課題と対策についてまとめていただいた。

 フローレンスフェンネル栽培の課題は、高温障害、抽台、凍害をいかに防いで良球生産につなげるかである。そのためには播種時期(作型選び)が重要であり、3月播種では球肥大期に高温に遭って軟腐病が発生し、4月から6月上旬にかけての播種では抽台して良球ができない。8〜9月の播種はかなり温暖な地域でないと結球期に肥大部が凍害を受ける。したがって良球ができる基本的作型は7月播種の夏まき栽培だとしている。

〈ネギ類の生理と新技術〉

 今回は、ネギ類の新技術についても、いくつか収録した。いずれも6月、7月といったネギの単価の高い端境期をねらった作型開発の成果である。

 ネギの栽培を振興している秋田県には、「7月どりハウス越冬大苗栽培」をご執筆いただいた。積雪のある秋田県では、春先の定植が早くても4月中旬になるため、8月中旬からしか収穫ができなかったが、大苗を植えて定植から収穫までの期間を短くすることで単価の安定している7月出荷を可能にした(写真4)。秋田県のネギの出荷量は過去20年間で約2.8倍となり、販売額はじつに約5倍となっている。




写真4 6月10日生育中のネギ
セルトレイ育苗によるハウス越冬大苗(左)と慣行育苗の小苗(右)

 同じくネギの栽培の盛んな鳥取県には、「6月どり無被覆栽培」をご執筆いただいた。鳥取県では6月に出荷するためには、9月末に播種し、11月末に定植、12月中旬から3月末までは抽台回避のためにトンネル被覆をするが、その被覆作業や積雪時の除雪作業などに多大な労力がかかっていた。そこで、極晩抽性の品種‘羽緑一本太’を使い、抽台の危険性を高める早い追肥はひかえ、2月上旬以降に積極的に追肥して肥大を促進させる作型を確立した。

 東京都からは、「ワケネギ‘東京小町’を利用した葉ネギ周年栽培」をご紹介いただいた。在来系統では春の抽台と夏の品質低下が課題となっており、複数の系統を利用して対応していたが、新品種の開発によって1品種のみで周年栽培が可能になった。

 また、タマネギでは、「球貯蔵の生理」について岩手大学の金澤俊成氏に約40年ぶりに改訂していただいた。タマネギの貯蔵中の発根、萌芽と温度、湿度の影響など貴重な研究成果をまとめていただいた。

〈アスパラガスの最新研究と経営事例〉

 アスパラガスでは、いくつかの最新研究と経営事例を収録した。

 経営事例は、長野県埴科郡坂城町の瀧澤民雄さん。食品企業を53歳で早期退職して就農し、始めたアスパラガスで農林水産大臣賞を受賞した経歴をもつ。最大の特徴は茎枯病の防除である。定植初年と2年目に茎枯病が大発生した経験から、感染源からの胞子の分散を防ぐために、地表を完全に覆い隠すように堆肥を圃場前面に散布したり、茎枯病菌を越冬させないために、親茎を抜き取ったり、収穫後の残茎を刈払い機でうね間にかき下ろしたり、蔓延を防ぐ管理法をくわしく紹介いただいた。

 農研機構の浦上敦子氏には、「アスパラガスの来歴と特性」を改訂していただいた。アスパラガスは以前、ユリ科に分類されていたが、現在ではキジカクシ科クサスギカズラ属とするのが一般的となっている。わが国におけるアスパラガスの収穫量と10a当たり収量の推移など、栽培の現状を表わすデータが豊富に読める。

 広島県からは、「長柄収穫鋏利用による収穫作業の軽労化技術」をご紹介いただいた。民間企業などと共同開発した電動式の長い柄の鋏を使い、その鋏を効率的に利用できる母茎地際押し倒し法という栽培方法を組み合わせることで腰の負担を大幅に軽くする効果が認められた。

〈トマトの最新研究と経営事例〉

 本追録では、トマトの最新研究と経営事例もいくつか収録した。

 明治大学の元木悟氏には、「トマトのソバージュ栽培」をご執筆いただいた。トマトは側枝を摘んで1本の主茎で育てるのが一般的だが、ソバージュ(野性的という意味)栽培では側枝をほとんど取り除かず、逆U字柱に張ったキュウリネットに誘引する(写真5)。しかも露地栽培とすることで導入経費も少なくすみ、大幅な省力化が得られる。品種はこの栽培に向いたミニトマトの「シシリアンルージュ」などを用いる。




写真5 ソバージュ栽培のようす(島根県邑生町)

 このソバージュ栽培を4年前から導入している兵庫県篠山市の新規就農者・鎌塚忠義氏には、経営事例をご執筆いただいた。鎌塚氏はこの栽培のメリットとして、1)導入コストが抑えられる、2)管理作業が省力化できる、3)端境期をねらうことができる、の3点をあげている。この栽培法では収穫終盤の9月以降も樹勢が衰えず、端境期に十分な売上が見込めるという。枝を制限しないことによって根量や葉面積が多いためではないかとしている。

 栃木県には、「温度統合の概念を利用したトマトの省エネ温度管理」をご執筆いただいた。温度統合とはオランダなどで実証されている概念で、1日から数週間の間で、積算(平均)温度が同じであれば、ある程度の振れ幅内で高温帯と低温帯は相殺され、生育速度、生産性が従来と同様に確保できるというものである。この概念を利用した温度管理をすれば省エネとなる。温度処理設定の実際やその結果としての収量などを報告している。

 温度統合による温度管理は環境制御技術の一つだが、本追録では、熊本県八代市の宮崎正吾さん・章宏さん親子の環境制御導入事例も収録した。環境制御といえば、高軒高ハウスが必須だと思われている向きもあるが、低軒高ハウスで大玉トマト28tどりを実現しているのが特徴である。

 その他、山梨県には、「トウモロコシの早出し作型」をご執筆いただいた。おもに一重トンネルを利用した早出し作型では、低温障害の被害が課題であったが、それを軽減するためには分げつを発生させるとよいことがわかり、そのためのトンネル管理法をまとめていただいた。

 宮城県からは、「カラーピーマンの光照射による追熟方法」をご紹介いただいた。カラーピーマンの夏秋栽培では、栽培終盤の低温によって着色遅延が課題となっているが、蛍光灯を使って光照射すると、収穫後からでも着色を促進できることがわかった。

 東京都からは、「イチゴの露地品種‘東京おひさまベリー’の生理と栽培」も紹介いただいた。従来の露地向き品種‘宝交早生’に代わる、果実のいたみにくさが売りである。

 また、元京都府立大学の藤目幸擴氏には、「ブロッコリーの品種生態と環境反応」もご執筆いただいた。現在流通している品種の早晩性と温度反応についてまとめていただいた。

 この特性をうまく利用してブロッコリーの端境期の4月どりを実現している鳥取県東伯郡琴浦町の生田稔さんの経営事例を、東伯農業改良普及所の岩田侑香里氏にまとめていただいた。

 鹿児島県には、「ハクサイの4〜5月どり無トンネル栽培」をご紹介いただいた。4〜5月に出荷するためには従来、抽台を防ぐためのトンネル保温が必須だったが、極晩抽性の品種を使うことで無加温育苗、べたがけ被覆による4〜5月どり作型を開発した。