農業技術大系・野菜編 2016年版(追録第41号)


2016年版「追録41号」企画の重点

・これなら稼げる! 野菜の新作型 ――誰でもできる露地・トンネル・無加温ハウス栽培

・イチゴの新品種と多収技術

〈これなら稼げる! 野菜の新作型〉

 近年,農産物直売所やスーパーの地元農産物コーナーが消費者の人気を集め,少量多品目栽培の直売農家が増えている。直売経営の技術課題は,地元野菜を長く販売するための「作期拡大」や,播種・定植・収穫といった作業を周年でこなすための「管理作業の省力化」などである。

 そこで,本追録では,直売野菜の作期拡大や,産地における端境期出荷などのために開発された野菜の新作型を集めた。管理作業が省ける,資材をあまり使わない露地・トンネル・無加温ハウス栽培が主体である。

 いずれも技術のポイントは,品種の選択と資材による環境調節技術である。

●葉菜類

 東京都農林総合研究センターが直売農家向けに開発したのは,「無加温育苗のブロッコリー4月どり栽培」。ブロッコリーはお弁当の食材などに欠かせない人気野菜だが,4月には出回りが少なく,端境期となっている。そこで,低温に遭ってもすぐに花芽分化しない中早生種や中晩生種を12月にまき,定植後に2枚重ねの被覆をすることで4月に収穫できる作型を開発した。2枚重ねというところがポイントで,2段トンネルだと支柱が多く必要になるが,2枚重ねて1段トンネルにすることで労力を減らす。低温に感応しにくい品種を選ぶことで無加温で育苗できるのも大きな魅力である。

 この技術を実際に直売経営に導入した農家の事例も「直売経営にとり入れたブロッコリー4月どり栽培」として収録した(東京都中央農業改良普及センター)。暖房や電熱温床などの資材費をかけずに端境期出荷できるのが大きな成果だが,収穫期間が短いことが課題だとしている。

 山梨県総合農業技術センターでは,県内の主力野菜(スイートコーンやナスなど)の端境期である冬期から早春に葉菜類の栽培を振興するため,新しい作型「内陸地における冬どりコマツナ,チンゲンサイ,コカブのトンネル栽培,無加温ハウス栽培」を開発した。そのポイントは,やはり品種。耐寒性,低温伸長性の高い品種を選ぶことで,一重トンネル,無加温ハウスで厳冬期から早春期に連続で出荷ができる。

 キャベツでは4〜5月が端境期となっている。これまで,前作のレタスのトンネルを利用した4〜5月どりはあったが,神奈川県農業技術センターではまったくの露地で収穫できる「寒玉系キャベツの4〜5月どり栽培」を開発した。新たな品種と作型組み合わせによるもので,夏まきでは晩生種または中晩生種を使うことで4月どりが,秋まきでは中早生または早生種を使うことで5月どりができる。

 いっぽう山梨県では,県内野菜の端境期の冬期から早春期にキャベツを完全な露地で収穫する作型も開発(「内陸地における寒玉系キャベツの冬どり栽培」)。耐寒性に優れ,冬期の結球肥大がよい2品種を組み合わせることで,2〜3月に連続して収穫ができる。その生育は当初,11月の晩秋期までに外葉を大きく育てたうえで,12月ごろまでに結球肥大させた株を翌年まで越冬させる予想だったが,想像とは違い,12月ごろまでに外葉を大きく生長させた株が,1〜2月の厳冬期に結球肥大する結果となった。気温がもっとも下がる2月の早朝に,外葉が結球部を包み込み,冷気から守るような草姿が見られたとしている。

 キャベツのほか,ブロッコリー,カリフラワーなどでは,定植適期を延ばすことで結果として作期拡大につなげる技術がある。それがスーパーセル苗 ――定植適期のころにセル培地内の肥料がなくなるよう施肥量を調節した培土で育てた苗を,水だけで育てると,強健な長期保存苗となる。この技術の開発者のひとりである元徳島県立農林水産総合技術支援センター農業研究所の河野充憲氏に「スーパーセル苗移植栽培」をご執筆いただいた。河野氏は県を退職後,キャベツなどを直売所出荷しており,今回はスーパーセル苗を利用した周年栽培のポイントを紹介していただいた。

●根茎菜類

 タマネギでは機械化体系が確立し,集落営農や大規模農家が新規に取り組む動きがある。そのうえ,従来北海道の春まき秋どりと兵庫や佐賀などの秋まき初夏どりが中心だったが,近年東北中心に春まき夏どりの新作型が開発された。従来端境期だった7〜8月に収穫できるため,業務加工用需要の高まりに対して,輸入に頼らず国産で対応できる。「春まき夏どり栽培」として,その開発経緯から栽培のポイントまでを東北農業研究センターにまとめていただいた。ポイントは品種の選択,播種時期,病害虫防除など。品種は秋まき用品種の中生から春まき用品種の中晩生まで幅広く対応できる。生育期間が秋まきと比べて短く,生育期間を確保するために播種時期はなるべく早いほうがよい。生育期が高温・多雨なので,病害虫防除に細心の注意を払うことが最大のポイントとしている。

 一般的なタマネギの主力作型である「秋まき普通栽培」を,元兵庫県立農林水産技術総合センターの大西忠男氏に全面改訂いただいた。現在,栽培されている秋まきタマネギのF1品種には,育種素材として泉州群や愛知白群などの固定種のすばらしい遺伝子が受け継がれていることや,苗の大きさで球重と抽だい率が決まること,肥大開始までに葉数を確保することなど,生育生理にもとづいた栽培のポイントをまとめていただいた。冬に新タマネギが出荷できるので直売農家に人気がある「オニオンセット利用の冬どり栽培」も大西氏による執筆。現在タマネギを直売所出荷している経験から,適した品種や,葉数3枚で直径2〜2.5cmのオニオンセットをつくることなど,技術のポイントをまとめていただいた。

 積雪地帯である富山県では,水田転作に秋まきタマネギを導入し,平均収量を2t台から4.3tまで引き上げることに成功。その栽培面積を100haまで増やしているJAとなみ野たまねぎ出荷組合の事例を「積雪地帯における水田を活用した機械化体系による秋まき初夏どり栽培」として富山県農業技術課広域普及指導センターにまとめていただいた。ポイントは,高温期の育苗技術,排水対策,年内生育量確保のための10月定植などである。

 東京都農林総合研究センターでは直売農家向けにダイコンの「被覆資材の特性を活かした春どりおよび夏どり栽培」も開発した。従来,春どりは温暖地,夏どりは高冷地と産地が棲み分けられてきたが,地元需要に応えるために新作型を開発。春どりでは,寒害が出にくく低温伸長性のある晩抽性品種を使い,株間を広げて地温を確保し,べたがけの上に穴あきフィルムを被覆することにより,換気作業を省力化したうえで密閉トンネルと変わらない保温性が確保され,2〜4月どりができる。いっぽう夏どりでは,白マルチを使い,株間を狭めて地温を下げることで8〜9月どりができる。

 山梨県では,低温障害を回避することができる「内陸地におけるニンジンの冬どり栽培」を開発。ポイントは根部の肩部分が地上部に出ることなく地中に埋まっている品種を選ぶことである。

●果菜・マメ類

 山梨県ではさらに,「内陸地におけるつるありインゲンの秋どり栽培」と「内陸地におけるカボチャの無加温ハウス抑制栽培」も開発した。ともに,主力野菜であるスイートコーンや夏秋ナスのあとを補完する野菜の栽培を振興するのがねらい。栽培期間が台風や長雨の発生する時期と重なるため,排水対策や支柱の補強などがポイントになる。

〈イチゴの新品種と多収技術〉

●新品種の特性と栽培のポイント

 本追録では,イチゴの新品種と多収技術についても重点的に収録した。

 「よつぼし」は,わが国で初めて実用化される種子繁殖型品種。ランナーによる栄養繁殖ではないため,親株から病害虫が伝染することがなく,育苗管理が大幅に省力できる。生産者は種子を購入するか,セル苗を購入する。‘よつぼし’は早生性と長日性を併せ持つ特異な花成特性を持ち,基本的には低温短日に反応して花成形成するが,25〜27℃以下では,24時間日長の長日条件で花芽が誘導される。花芽分化には,十分な大きさの株(クラウン径9mm以上)に育てておくこともポイントになる。三重県農業研究所による執筆。

 「おいCベリー」は,ビタミンC含量が安定して高いため,健康機能性をアピールできる品種。収穫開始期が‘とよのか’より2日程度遅いため,年内収量や早期収量を増やすためには,夜冷短日処理をして普通促成作型と組み合わせるのがポイントである。九州沖縄農業研究センターによる執筆。

 「すずあかね」は,夏秋どり栽培向けの四季成り性品種。高温期にも連続収穫が可能で,市場が品薄となる8月末〜9月にも安定した収量が確保できる。四季成り性による高温期の着果負担から心止まり症を発症しやすく,摘果や高温対策のほかに,主芽のほかに腋芽を残しておくことがポイントである。種苗メーカーのホクサン(株)植物バイオセンターによる執筆。

 ‘すずあかね’を導入して182aという大規模経営をしている宮城県の(有)杜のいちごの事例も「すずあかね・夏秋どり養液栽培」として,宮城県農業・園芸総合研究所にご執筆いただいた。

●多収技術

 環境制御を利用した多収技術の最新研究が「加湿およびCO2長時間施用と培養液管理」。CO2施用は従来,早朝施用が行なわれてきたが,愛知県西三河農林水産事務所では日中長時間施用の効果の有無を確かめた。その結果,1月までの初期収量はCO2と加湿を組み合わせたほうが増収する傾向だった。ただし高湿度を継続すると,地下部に比べて地上部の発育を進めてしまう危険性がみられた。早朝のみのCO2施用よりも日中施用のほうが有効で,かつ日中施用により肥料吸収が高まることがわかり,増収のためには肥料濃度をやや高めたほうがよいことがわかった。

 イチゴの受粉にはミツバチが多く利用されているが,厳寒期のマルハナバチとの併用により増収できるというのが,「マルハナバチの利用」。アリスタ ライフサイエンス(株)による執筆。