農業技術大系・野菜編 2013年版(追録第38号)


2013年版「追録38号」企画の重点

イチゴ8tどりへ 栃木・3名人の技術

 今号では、雑誌『現代農業』でも追跡してきた栃木県を代表するイチゴ農家3氏の‘とちおとめ’栽培技術を30ページにわたって紹介する。生産力の高い強健な苗を育て、花芽分化を確実にし、中休みさせない秘訣、秋冬の温暖化や極端な厳寒期など気候変動にも動じない安定多収の技をくわしく解説し、初公開となる内容も少なくない。

 上野忠男さん(上三川町)は、露地で育てた「力のある親株」から採苗し、セル育苗でも「クラウン径1cm」の生産力の高い大苗を育成して初期収量を確保している。夜冷2回転とウォーター夜冷、3つの作型を組み合わせて収量の長期安定を図り、近年の暖秋傾向を考慮して保温開始を遅らせることで頂花房、一次腋果房の収穫時期を調整している。

 保坂秀樹さん(真岡市)は、2台の夜冷庫ですべての株を同時に早期夜冷育苗している。親株はランナー先端挿しによる無病株の地床定植にこだわり、採った苗は夜冷期間中も葉色を落とさない。こうして育てた体力のある自家製苗で、頂花房の花数は毎年50以上(写真1)。高い観察力で電照とジベレリンを使いこなし、中休みなしの連続出荷を維持している。



写真1 9月1日定植の保坂氏のイチゴ(2012年12月27日)
(写真撮影:赤松富仁)

 三上光一さん(壬生町)は、親株から育苗期にかけて雨よけとし、過湿・過乾燥を避ける灌水管理により充実した苗を育てている。電照は20年ほど前から実施していないが、厳寒期の地温確保、炭酸ガス施用、少量多回数の灌水など、こまめな環境管理により、電照なしでも草勢を維持し、連続出蕾、長期安定出荷を実現している。

 7tどり、8tどりをめざすイチゴ農家にとって、3氏の技術は大いに参考になるだろう(以上、第3巻)。

〈ニガウリの最新知見、トップ農家の技術〉

 近年、東日本にも産地が拡大し、重要な野菜へと成長したニガウリだが、高品質多収を実現する上で不可欠な生理・生態や栽培管理に関する基礎的知見をまとめた資料は意外にも少ない。そこで今号では、生理・生態や栽培管理の最新研究を整理し、主要産地である群馬・宮崎・鹿児島・沖縄各県のトップクラスの農家の技術も紹介する。

◎生理・生態の最新研究

 「生育のステージと生理、生態」では、種子から開花・結実に至るまで、さまざまな生理・生態的特性を解説する。たとえば、ニガウリは雌花の蜜の分泌がほとんどなく、ミツバチの訪花が極端に少ないこと、受粉量が少ないと果実品質が著しく低下すること、ゆえにハウス栽培では人工受粉の方法が重要になることが示される。

 「本圃」では、収量と養分吸収量には相関関係があり、土壌養分の過剰蓄積を避けるには収量レベルに応じた施肥基準が必要となること、着果開始までに葉長25cm程度、茎径5mm程度の強い草勢にすることが重要であり、その後は着果状況を見て草勢をコントロールすることで多収となることなど解説。隔日・午前中の人工受粉が省力的で効果が高いことや、雌花の子房長と受粉21日後の果実長には高い相関があり、子房長の短い雌花は人工受粉せずに摘花したほうがよいことなども詳解する。増収、作業姿勢改善、商品果率向上をねらった各種誘引法、温度管理、灌水のポイントなども紹介し、栽培管理の格好の手引きとなっている。

 病害虫に比較的強いとされるニガウリだが、実際にはうどんこ病、炭疽病、果実腐敗、ワタヘリクロノメイガ、ネコブセンチュウなど、さまざまな病害虫が問題となる。「障害・病虫害と対策」では、これら病害虫の症状・発生生態と対策を解説する。

◎主要産地の精農家の技術

 群馬県館林市の内田邦雄さんは無加温ハウス栽培。無理に作型を早めず株の負担を軽減している。棚誘引と水平誘引でハウス内の空間を立体的に活用し、葉かきなどのこまめな管理、高温対策の白色マルチで品質・収量を高めているほか、7月下旬の切戻しをやめて植替えにし、管理を省力化しつつ後半の品質も維持している。

 宮崎県宮崎市の長友浩二さんは半促成栽培。前作のキュウリの残肥を有効利用し基肥は施さない。不良雌花には交配せずに良品率を高めている。誘引では、従来の斜め誘引に加え、新たにアコーディオン誘引を組み合わせ、交配・収穫作業を省力化している(図1)。



図1 ニガウリのアコーディオン誘引の方法

 鹿児島県霧島市の田中清美さんは半促成・抑制栽培。土壌診断に基づく適正施肥に努め、温度管理、整枝・誘引、摘果・摘葉など管理作業を徹底することで評価の高いニガウリを生産している。また、県の農林水産物認証も取得し、有利販売につなげている。

 沖縄県宮古島市の伊志嶺一之さんは促成栽培(1年1作の長期どり)。10a当たり4tの牛糞堆肥で土壌物理性を改善し、自家製の鋤で耕盤を破砕して作土層を深く保っている。緑肥(クロタラリア)を栽培して根こぶ線虫病を予防、連作障害を回避し、入念な摘葉と良好な雌花を選んだ交配で果実品質を高めている(以上、第1巻)。

〈カリフラワー 花蕾形成の原理に迫る〉

 「生理・生態的特性」では、カリフラワーの初期生育が早く生育期間が短いため、花蕾を肥大させるには生育初期に葉の生育を促すことが重要なこと、「栄養生長の生理」では、生育初期に窒素が欠乏すると、その後いくら窒素を与えても葉数は増加せず、小さい株のまま花芽分化して小さい花蕾しかつけないことなどが示される。「花蕾形成の生理」では、品種ごとに花蕾形成の温度範囲や低温要求量、低温感応開始苗齢などを明らかにし、花蕾形成に必要な栄養状態や開花ホルモンなどについても考察している。

 「花蕾肥大の生理」では、花蕾形成までに葉数を増加させるためには育苗温度を高く保ち十分な葉数になるまで花蕾形成を抑えなければならないこと、しかし、夜温の程度によっては昼温さえ高く保てば花蕾形成を遅らせられることなど、栽培管理のヒントが詰まっている。ほかにも、灌水はたびたびするより回数を減らしてpF3.5のときにやったほうが高収量になること、微量要素のモリブデンは酸性土壌で、ホウ素はアルカリ性土壌で不可給態になるが、十分な堆厩肥を施用していれば欠乏症状は出なくなることなど、役立つ知見が満載である。

 「異常花蕾の生理」では、異常花蕾が発生する温度条件とともに、花蕾が発育するほど異常花蕾発生への抵抗性が増す事実も示され、花蕾の初期肥大を順調にすることが重要だとわかる。「品種生態と環境反応」では、早晩生とさまざまな作型、高単価となる端境期・品薄期を見すえた品種選択、ミニカリフラワー、多様な花蕾色の品種、ユニークな形状のロマネスコタイプ、欧米で利用が広がるグリーンカリフラワーなど多様な品種を紹介。「障害・病虫害と品種」では、異常花蕾や日焼けの防止、主要病害虫への対策なども解説する(以上、第6巻)。

〈レンコン 生理・生態の最新研究〉

 「レンコンの形態」では、葉柄と根茎の基幹気孔がもつガス交換、酸素供給、二酸化炭素排出の機能など、レンコン各部位の形態がもつ意味を明らかにする。

 「種子繁殖と栄養繁殖」では、根茎の発達には種レンコンの大きさよりも質的充実度や芽数が影響すること、そのため種レンコンは無病で頂節まで肥大が充実している中型のもの、芽数が多く芽に傷がないもの、分岐レンコンのついたものがよいことを示す。

 「環境と生育」では、根茎が日長12時間以下の短日条件下で肥大すること(日長反応性、写真2)、品種・耕土深・土質と肥大根茎の分布深度の関係、肥大根茎の表皮への酸化鉄付着やゆず肌症の発生原因、従属栄養から独立栄養への移行期の施肥の重要性など最新の研究成果を紹介する。



写真2 レンコン実生根茎の日長反応性
8時間日長では根茎が肥大するのに対し、14時間日長では根茎が肥大せずに伸長する。13時間以上の日長、8時間日長+暗期2時間光中断では根茎が肥大せずに伸長することが報告されている

 「品種の分類と特性」では、主として栄養繁殖であり、品種分化も複雑なため分類がむずかしいレンコン品種を整理し、早晩性・形状・耐病性などの特性を比較している(以上、第10巻)。

〈トマトの品種動向と最新技術〉

 「養液栽培と品種特性」では、オランダ並みのトマト多収も視野に日本とオランダの品種特性、とくに収量性と品質(糖度)の違いを検証し、多収化に向けた課題と展望を示す。「病害虫抵抗性品種の特性」では、黄化葉巻病をはじめとする主要な病害虫に対する抵抗性品種の最新情報を一覧表にまとめ解説する。「調理・加工用トマト」では、加熱調理により生食用にはない味わいが楽しめる個性的な品種群を紹介する。

 「高接ぎ木法による青枯病総合防除」では、台木品種の体内で青枯病の移行が抑制される機構を明らかにし、それを最大限に活用する高接ぎ木苗の作製方法や、各地で確認された防除効果、土壌還元消毒との組合わせでより効果が高まることなども解説する。

 「ミニトマトの摘心側枝仕立て栽培」では、ミニトマトの苗の子葉直上を摘心し、そこから発生した側枝を利用することで、収量性を確保しつつ着果を揃えられ、収穫作業を省力化できることを実証。この方法に適した品種も紹介する(以上、第2巻)。

〈局所加温で暖房代大幅カット〉

 施設園芸の経営を圧迫する原油価格高騰に対処するため、温風ダクトの配置を変えてトマトの生長点だけを加温する「生長点・花房付近の局所加温」(第2巻)、トンネルと枝ダクトで促成ナスの株元だけを加温する「促成ナスの低コスト株元加温技術」(第5巻)を紹介する。いずれも資材は安価で設置の手間もわずかだが、トマトは26%、ナスは40%の燃料節減ができるうえ、果実の品質・収量も落ちない(図2)。



図2 ナスの株元ダクト加温システムの概要

〈ホワイトアスパラガスを省力生産〉

 近年、ホワイトアスパラガスは独特の風味と食感が見直され、青果用需要が増加しているが、従来の培土法は収穫に手間と熟練を要し、栽培地も砂質土に限られる。しかし、「ホワイトアスパラガスの遮光フィルム被覆栽培」(第8‐(2)巻)なら、培土が不要なので砂質土でなくてよく、収穫作業に手間も熟練も要しない。