農業技術大系・野菜編 2009年版(追録第34号)


●もうかる野菜として注目のニンニク,サトイモ,アスパラガス,ニガウリ

 輸入攻勢を跳ね返して再び元気を取り戻してきた。ニンニクは暖地の香川県も加わる。新品種も続々と育成されて魅力が高まってきたサトイモは,基礎編に露地普通栽培のコーナーを新設し,山形県のセル苗利用など5つの生産者事例を追加。全国に産地が広がるアスパラガスとニガウリは,基礎編・生産者事例ともにさらに充実。

●直売所を賑わせてくれる新顔野菜

 独特の食味と多様な加工品も開発されて一躍人気野菜になった食用ホオズキ,アフリカ原産の多肉植物アイスプラント,東京都,神奈川県,埼玉県の中山間地の伝統野菜ノラボウナを収録。

●第12巻に業務・加工用野菜のコーナーを新設

 国産への期待が高まるキャベツ,レタスなど主要野菜の「業務・加工用野菜に求められる品質・規格」。コマツナの刈取り再生栽培など,業務・加工用野菜栽培用に開発された新研究。


〈輸入攻勢を跳ね返す元気な野菜〉

◆ニンニク

 これまで中国産に席巻されてきたが,ここにきて盛り返してきて,全国で栽培が広がっている。安全性はもちろん,国産の品質の高さが再認識されてきたからである。この品質の高さは,長年積み上げられてきた高度で緻密な栽培技術によって支えられている。今追録では,北の青森県と,西の伝統産地・香川県の事例を紹介した。また,基礎編の「寒冷地のニンニク栽培」を最新の研究を盛り込んで全面改訂し,「暖地の栽培」を新設した。

 青森県の田沼誠一さんは「ねらいは大玉の六片球」だという。それを実現するために,ウイルスフリーの優良種球の利用や,稲わら堆肥や米ぬかによる土つくり,土壌診断と塩基バランスを配慮した施肥管理など,緻密な栽培管理を積み上げている。香川県はマルチ栽培や種子冷蔵早出し栽培などによる4〜6月出荷の産地。裂球しやすい‘大倉種’を土入れや除湿乾燥機などで乾燥を防ぎ,色上がりの良いニンニクに仕上げる方法を開発してきた。

◆サトイモ

 サトイモは,地力を収奪せず,ダイコンやニンジンなどで問題になるキタネグサレセンチュウを抑制できることがわかり,ローテーション作目として評価が高まっている。また,水田転作作物としても定着している。やはりこの間,輸入攻勢で苦戦していたが,品質の高さから栽培に取り組む人が多くなってきた。



写真1 ‘媛かぐや’の着生

 今追録で各県の第一線の研究者が総力を挙げ,「サトイモの系統と品種の特性」を一新し,基礎編に「露地普通栽培」を新設した。

 さて,国産の野菜で,これだけ多様な品種群をもつ野菜があるだろうか。‘石川早生’‘土垂’‘蓮葉芋’‘えぐ芋’‘大吉’‘唐芋’‘八つ頭’‘筍芋’の品種群があり,さらに,それぞれに系統・品種がある。そして,各産地で優良な種芋が選抜され,個性的な食味のサトイモがつくられている。

 各県で独自の品種も育成されている。愛媛県は,孫芋が丸く,収量性の高い‘愛媛農試V2号’と筍芋と唐芋との交雑品種‘媛かぐや’を育成。写真1のように芋がきわめて長くて大きく,葉柄も食べられる。肉質が粉質なので加工食材としても利用できる。

 沖縄県は唐芋品種群に属する田芋の多収品種‘沖田香’を育成。京都府は,早生で在来種より5割増収できる‘京都えびいも1号’を,神奈川県は‘神農総研1号’を育成。肉色が白く,肉質が緻密で適当な粘りがあり,煮くずれしにくく,味が良い。親芋1個当たりに孫芋が10〜25個ついて収量性が高い有望品種である。千葉県も,肉質が軟らかく,食味が良い‘ちば丸’を育成している。

 サトイモは三倍体植物なので種子ができないので,栄養繁殖によって栽培されてきた。毎年収穫した芋のなかから種芋を残し,次の年に栽培される。そのため遺伝情報はそのまま次作の種芋に受け継がれるはずなのだが,実際には芽条変異が生じやすく,長年の栽培で特性が変わってしまうことが多い。そこで,種芋の株の選抜には細心の注意が払われている(図1)。



図1 サトイモの株選抜のポイント(丸系品種の場合)
◎:最も良い,○:良い,△×:種芋としては不可

 生産者事例は山形県寒河江市,新潟県五泉市,福井県大野市,宮崎県都城市,鹿児島県大島郡与論町の生産者を収録したが,各産地ともに優良系統を選抜して品質・収量を維持していく努力がなされている。たとえば福井県大野市では,1972年から3年間かけて,丸くて収量の多い5つの系統を選抜した芋を現在まで維持している。鹿児島県与論町の里毅敏さんは,自家増殖を繰り返しているうちにセミ芋など異常な形質の芋が増えてきたことから,産地の特徴ある形質を維持するため,本土産の種芋を毎年導入し,翌年の生産用とする種芋用の作付けをして形質を維持している。

 定植や収穫などの機械化も進んでいて,2haを超える大規模経営も登場している。

 省力化で注目なのは分割・セル成型苗育苗と培養苗。分割・セル成型苗育苗は,種芋を5〜10gに分割して優良株を得るというもの。従来使用できなかった小さな芋や80gを超す芋も親芋として利用できる。慣行では300〜400株/10aが必要だが,この方法では30〜40株/10aですむ。

 培養苗は,種芋の塊茎の腋芽(頂芽,側芽)の茎頂部を摘出して培地に入れて培養し,培養シュートを作出して増殖するもの。種芋由来の病害もなく,育苗の手間もなくなるだけでなく,収穫も早くなるという(写真2)。



写真2 JAさがえ西村山で栽培農家に配布している72穴セルトレイ苗

◆アスパラガス

 アスパラガスは,今追録が大改訂3年目。今回は基礎編の「アスパラガスの一生」「栄養生長」を最新の内容に改訂した。北海道から西南暖地まで産地が広がり,高度になった研究と技術を反映した内容になっている。この研究により,日本のアスパラガスの栽培技術がさらに向上することを願っている。

◆ニガウリ

 沖縄の野菜から,瞬く間に全国の夏の野菜として定着してきた。野菜炒めのほか,天ぷら,酢の物,ジュース,お茶と用途も広い。産地も群馬県まで広がっている。暑さを防ぐための緑のカーテンとしても普及している。

 品種も沖縄県では‘群星’や‘汐風’に加えて‘島風’や‘夏盛’など。鹿児島県では‘か交5号’,宮崎県では‘佐土原3号’や‘宮崎つやみどり’,熊本県では‘熊研BP1号’が育成されている。民間では八江農芸の‘えらぶ’,久留米種苗園芸の‘百成りレイシ2号’などと多彩になってきた。

 いずれも形状は紡錘形で,雌花着生が30%以上と高く,果皮色は濃緑で苦味が弱い。

 栽培技術では,多様な仕立て方と整枝・誘引法が開発されて,空間を有効に活用したり作業性を高める工夫がされている。ぜひ,参考にしていただきたい。

〈野菜の消費を伸ばし,直売所を賑わせてくれる新顔野菜〉

 ホオズキ 観賞用としておなじみの植物だが,食用にされるのはイクソカルパやペルウイアーナなど。生食だけでなく,規格外品はジャムやペースト,ソースなど加工品にも利用できる。秋田県上小阿仁村など,各地で高齢者や女性中心の産地が生まれている。

 ノラボウナ アブラナ科に属するナタネの一種。東京都多摩地区や埼玉県飯能市などの山沿い地域で江戸時代から自給用につくられてきた野菜。この地域で直売所が広がっていくなかで,苦味やくせがなく,ほのかに甘い食味から,早春の野菜として人気が高まってきた。

 アイスプラント 南アフリカ原産の多肉植物(写真3)。ほのかな塩味のする新野菜として,全国各地で栽培され始めた。「外はプチプチ,中はトロ〜リ」という独特の食感が魅力。



写真3 アイスプラント

〈「業務・加工用野菜」のコーナーを第12巻に新設〉

 野菜の業務・加工用需要は年ごとに増えているが,安全・安心な国産野菜への期待が高まってきた。「業務・加工用野菜に求められる品質・規格」では,カボチャ,キュウリ,キャベツ,レタス,ネギなど各品目で,どのような規格や品質が求められているのか,明らかにしてもらった。

 たとえばキュウリの需要はサラダ,巻き寿司,サンドイッチ,浅漬け・ぬか漬け・古漬けなど。キュウリは,いぼやとげが洗浄効率を下げてしまうので衛生面で課題があったが,‘フリーダム’や‘ホリッジ’など,いぼもとげもない品種の栽培が始まっている。

 次いで「業務・加工用野菜に向けた生産技術」では,前述のキュウリのいぼなし系品種の栽培法,カボチャの直播栽培・自然受粉・一斉収穫などを組み合わせた省力栽培,業務用軟弱野菜の刈取り再生栽培法など,業務需要に対応するために開発された栽培技術を紹介した。

 たとえば「業務用軟弱野菜の刈取り再生栽培法」(写真4)。



写真4 コマツナの刈取り再生栽培の刈取りとその後の生育(9月3日播種)
左:刈取り直後(10月4日),中:5日後(10月9日),右:21日後収穫時(10月25日)。切り株から新たに株を再生させて,繰り返し収穫する栽培法。計3〜4回の刈取り収穫が可能で,再生株は葉先の枯れなどの障害もほとんどなく,収量も初回収穫の8〜9割程度,と安定しているという

 その他の記事も実践に役立つ内容になっている。是非,活用していただきたい。