農業技術大系・野菜編 2008年版(追録第33号)


●野菜はやっぱり国産で ―高品質で安全な野菜づくりの省力化技術

 国産への期待が高まってきて安定生産技術も開発されてきた夏秋イチゴ,中国の輸入攻勢をしのいで省力化を実現しているネギ,グリーン,ホワイト,紫と多彩になったアスパラガスを特集。

●石油に依存しない野菜栽培を目指す

 省エネ対策として注目のイチゴのクラウン部温度管理や各種被覆資材の使いこなし方。

●コストをかけず,病害も発生しない新技術

 トマトでは,病害を防ぐためにポットを独立させたり,固形培地を収穫後にそのまま廃棄できるなど各種少量培地の養液栽培システムを,イチゴでは10a当たり約25万円ときわめて安価な「きらきら育苗」などを収録。


〈輸入野菜に対抗して奮闘するアスパラガス,ネギ,夏秋イチゴを特集〉

◆アスパラガス

 アスパラガスは,輸入が増加しているなかにあっても栽培面積が増加している数少ない野菜の一つ。生産者事例を北海道から九州まで8人の方々を紹介したが,日本のアスパラガス生産技術のレベルの高さがよくわかる。

 北海道名寄市の伊藤孝義さん かつて500〜600kgあった反収が2003年に157kgまで低下した。そこで「増収プロジェクト」を立ち上げ,2006年には栽培マニュアル「アスパラガス増収革命」を発行。取り組まれたのは,定植前の土壌診断に基づく堆肥や土壌改良材の施用,深耕ロータリーで根が伸張しやすい土壌の環境づくりや倒伏防止対策(写真1)など。現在600kgまで回復してきたそうだ。



写真1 伊藤さんがアレンジした倒伏防止資材

 北海道夕張郡栗山町の大坪昇さん 通常のグリーンアスパラ栽培のハウスにトンネルを設置し,遮光フィルムを利用した生食用ホワイトアスパラガス栽培。

 福島県喜多方市の山口比佐男さん 露地二期どり,ハウス半促成栽培の作型と‘ハルキタル’や‘満味紫’(紫アスパラガス)など6品種を組み合わせた2haの大規模経営。

 長野県埴科郡坂城町 坂城町明日の農業を考える会 長野新幹線の建設で使われた「五里ヶ峰横坑作業用トンネル」を活用したホワイトアスパラガス(商標登録名「銀河の貴婦人」)栽培。1年を通じて気温が16℃前後,湿度90%という環境条件を活用した高品質アスパラの生産。

 長野県下伊那郡豊丘村の池田達雄さん 春どりを早めに打ち切り,立茎をしながら夏秋どりに移行する長期どり栽培。圃場の条件に応じた通路灌水と株元灌水の選択などで安定生産。

 広島県三次市の大前憲三さん 全期立茎栽培による長期収穫。抜く・焼く・覆うの三段戦法とハウスと雨よけ栽培の導入で茎枯病を克服。

 香川県丸亀市の長尾聖さん 若茎頭部の締まりがよい‘さぬきのめざめ’の特性を利用した「50cmアスパラ」の生産も。1,100株/10aの超疎植栽培で大幅な省力化が可能に。

 長崎県南島原市の綾部誠さん 灌水が十分できる排水良好な圃場の選択と土壌物理性の改善やアスパラガスの生理にあった緻密な管理で反収世界一の6t。

 アスパラガスの研究も盛り上がっていて,このような生産者の高い技術を支えている。その成果を元に,基礎編の改訂もスタートした(今年度は「来歴と特性」「分類と形態的特性」「栽培上の特性」)。今後の技術開発に活用していただきたい。東北地方を中心に広がる伏込み促成栽培も収録。

◆ネギ―省力化が進み,品種も多彩に

 品種のコーナーは,買物袋に折らずに入る短葉性ネギ,夏期の高温時でも品質が落ちず,機械利用に向く夏扇系,茨城県在来の「赤ネギ」から品種化された外皮が濃鮮紅色になる‘べにぞめ’や,葉まで食べられる鍋用の‘なべちゃん’など多彩になった。

 「短葉性ネギ栽培」も収録。富山県では,短葉性ネギは収穫までの栽培期間が従来の根深ネギより短いことから,コストを低減できるだけでなく,ほかの野菜との輪作体系もつくれることに着目して,産地化が進められている(商標登録名「ねぎたん」)。それに向いた品種‘越中なつ小町’‘越中ふゆ小町’も育成されている。

 根深ネギでは,育苗,定植,収穫・調製の各工程で機械化が進んでいる。改訂した「育苗管理と失敗しないためのポイント」では,植物体中のリン含量が高まって生育が高まる亜リン酸液肥の利用など,注目新研究が盛り込まれている。

 埼玉県で開発された根深ネギの「平床植え栽培法」は,従来の溝植え栽培で問題になっていた植え溝への滞水がなく湿害が軽減できる,植え穴を垂直に挿すことから曲がりが少なく上物割合が高くなるなどメリットが多い。安価な移植機も開発されていて,この栽培法は急速に広がっている。

◆夏秋イチゴ―進む安定・多収技術の開発

 夏秋期のケーキ用のイチゴは,これまで主にカリフォルニア産が利用されていたが,鮮度が高く品質のよい国内産イチゴへの期待が高まっている。主に四季成り性品種を活用した栽培が取り組まれてきたが,奇形果や着色不良果など規格外品が多く,商品化率が低いという課題があった。現在,各地で安定生産に向けた研究がすすめられており,今追録から夏秋イチゴのコーナーを新設して,その成果を収録していく。

 今回はまず,現在利用されている18品種を収録し,各品種の特性とつくりこなし方を,育成者である各種苗会社,県,独立行政法人の方々にまとめていただいた。

 また,夏秋イチゴの多くは高設ベンチで栽培されているが,高温期での培地温度の上昇が課題であった。そうしたなか,山形県では,気化冷却式の高設栽培装置「二槽ハンモック気化冷却ベンチ」を開発しており,そのシステムと栽培法を収録した。培地を包む透水性資材と受水槽に使用する透湿性資材からの気化熱によって培地槽が冷却されることを活用したもの。夏期の培地温が30℃以下に保てて植物体周囲の昇温を抑えることができるので生育が安定し,20〜100%の増収が可能になる。これに送風システムを追加すれば,花房数の増加と奇形果の減少による上物収量の増加が期待できる(図1)。



図1 送風システムを付帯した二槽ハンモック気化冷却ベンチの基本構造

◆夏秋イチゴのトップランナー2事例

 日本の夏秋イチゴ栽培の先頭を切ってきたのが徳島県と北海道。現在,各地で夏秋イチゴを栽培している方々は,導入時にはこの産地から学んだという。「この産地の動向を知りたい」という要請に応え,今追録でこの二つの産地の生産者事例を収録したが,やはり現在も,夏秋イチゴ栽培のトップ産地といえそうである。

 北海道爾志郡乙部町の(有)宮田農園(宮田仁氏)は,一季成り性品種‘けんたろう’と四季成り性品種‘夏美’を組み合わせた二期どり「檜山方式」を開発。‘けんたろう’は前年の8月に屋外で定植し,12月に高設ベンチ上段に搬入して翌年の4〜6月に収穫。‘夏美’は4月上旬にベンチ下段に定植して6月まで株を養成し,‘けんたろう’の収穫後にベンチ上段に乗せ替えて7月から11月まで収穫するというもの(写真2)。この二期どりで10a当たり6tを確保している。



写真2 檜山方式の二期どりタイプ 棚上段‘けんたろう’,棚下段‘夏実’

 徳島県三好郡東みよし町の野田清市さんは,夏期の炭疽病や萎黄病の発生,異常高温などによって反収が落ち込んでいるなかで,地元メーカーが開発した「とこはるシステム」など各種の高設養液栽培システムを使いこなして安定生産を実現。

〈進む省エネ対策〉

◆イチゴのクラウン部の温度管理で生育制御が可能に

 さてイチゴでは,昨今の重油高騰下にあって大幅な省エネを実現できるクラウン部の局所的な温度制御技術と,そのための実用的な機器が開発された。

 この装置は,冷温水器と一体往復管構造の2連チューブ(写真3)からなり,2連チューブをクラウン部に接触させ,冷温水器で温度調節した水を温度調節した水をチューブに流すことでクラウン部の温度制御を行なう。




写真3 開発した2連チューブ(写真提供:伏原肇氏)

 クラウン部を24℃以下に温度制御することで,第一液果房の分化を促進できる。9月の高温期には冷却することで果実の肥大を促進できる。低温期には,‘あまおう’で11月初旬から電熱線でクラウン部を20℃前後に制御すると,12月上旬に草丈,葉柄長,葉幅ともに大きくなり,第一液果房の出蕾・開花が促進される。ハウス内最低夜温4℃で慣行の10℃と同程度の収量になるとも。

◆被覆資材を使いこなして省エネ対策

 第12巻の「被覆資材の特性と利用・取扱い」も全面改訂。施設栽培の省エネ対策では重油以外の暖房機が話題になっているが,やはり省エネ対策の中心はカーテンの活用などによってハウス内の機密性を高めること。多様な被覆資材を使いこなすために,各被覆資材の特性と選択法,使いこなし方をまとめていただいた。各被覆資材の光環境,水分環境,ガス環境などへの影響についても詳しく解説されている。

◆低コスト耐候性ユニット工法ハウス

 カーテン設備の多層化や省エネルギー装備の設置には大型施設は有利だが,コストの面で課題が多かった。そうしたなかで,屋根部構造を薄板軽量形鋼でユニット化し,建設工期も建設コストも60%も少なくなるユニット工法ハウスが開発されている。この施設の低コスト化はさらに進むようだ。今後の展開に期待したい。

〈低コスト・省力新技術〉

◆トマト・イチゴの養液栽培―少量培地の低コスト技術が続々と登場

 独立ポット耕栽培 岐阜県で開発。1株当たりの培地量は1.2l。1株ごとに独立しているため,土壌病害が発生してもその株だけ更新すればよく,自根栽培も可能。夏期は不織布製ポットで培地温の上昇を抑制し,冬期はベンチ下に温風暖房機のダクトを設置して根域を加温して生育の促進ができるなど,各種の手法も開発されて40tの収量も可能に。

 培地バッグ栽培 茨城県が開発。培地方式では根の残渣が完全に処理できないために土壌病害に悩まされてきた。そこで,固形培地を水の透過性はあるが根を通さないシートで包んで「培地バッグ」とし,この培地バッグを固形培地の代わりに使用する栽培法が開発された。栽培終了後に簡単に根だけ分離して除去できる。

 樽栽培 (株)誠和が開発。30lの培地の樽に4株の苗を定植し,施設内に約500樽設置し,簡易な散水ノズルで灌水する簡易なシステム。移動が簡単なので,水稲育苗ハウスの後作などにも利用できる。

 イチゴのDトレイ栽培 育苗した少量培土の苗をそのまま栽培ベンチに置き,灌水はチューブで行ない,そのまま収穫できる高設栽培システム。株から根を抜き出して根の状態を常に観察できる優れた栽培システム。

◆高齢者や女性も取り組めるイチゴの栽培技術

 「連続うね利用栽培」に灌水同時施肥法が加わる 愛知県幸田町の藤江充氏が実践してきた連続うね利用栽培は,うね立て作業がないことから高齢者や女性でも取り組めるため全国に普及し始めている。ただ,この栽培法では肥料が混和されるのは表層だけのため,慣行の基肥量を施用すると濃度障害が生じることがあった。そこで,液肥による追肥主体の灌水同時施肥法が開発された。この研究で改めて明らかになったのは,「各花房の出蕾を目安に施肥量を増加させる」という高収量篤農家の技術であった。

 簡易で低コストな「きらきらポット育苗」 品種の転換に伴い,炭疽病に加えて萎黄病の発生も多くなってきたことから,活着が良くなる高設ベンチを利用した空中採苗方式が導入されてきたが,高齢者や女性農家にはコストの面で導入が難しかった。この育苗法は,親株を発泡スチロールプランターに定植して,ランナー子株を7.5cm黒ポットで受ける,というごく簡易なもの(図2)。システム経費も10a当たり約25万円ときわめて安価なため,すでに愛知県内の約60%が導入しているという。



図2 きらきらポット育苗システムの概要

 葉菜類の育苗日数が大幅に短縮できる固化培地 固化培地はココヤシ繊維とピートモスを主原料として吸水剤,保水剤,成型剤を加えてトレイ内で成型した培地。根鉢形成前に抜き取っても培地が崩れにくく,若い苗を移植できるので,ハクサイやレタスなどでは移植後に早く活着して根が伸張し,育苗期間が短縮できるとともに生育が安定するという。

◆「ベテラン農家に学ぶ栽培・作業の勘どころ」の第2弾

 野菜作業での詳細な「技」をベテラン農家に明らかにしてもらい,現場の指導者の方や,これから野菜栽培に取り組もうという人の道案内をしていただくことにした。

 今追録では,メロンは千葉県山武郡の若梅健司氏(78歳)を収録。ノーネット系メロン(現在‘ナイル’を栽培)の播種・育苗,圃場づくりから定植,本圃での管理から収穫,片づけまでの各作業をきちんと進めていくポイントとコツを文章と図解,写真でまとめた。昨年収録した同じく若梅さんのトマト栽培や,愛媛県宇和島市の赤松保孝さんのイチゴ栽培などとともに,ぜひ活用していただきたい。