農業技術大系・野菜編 2007年版(追録第32号)


●新たに野菜栽培を始める人たちを支援 ―「栽培・作業の勘どころ」を新設

 トマトは千葉県山武郡の若梅健司さん,イチゴは愛媛県宇和島市の赤松保孝さんの技術・作業の全貌が明らかになる。

●高度になった施設と新システムを生かす新研究・新技術

 ネットワーク自律分散(ユビキタス)型の環境制御システム,根域と培地の冷却,補光・電照利用の現状と課題,DIFの利用,ボトムヒート貯蔵による苗生産,有機液肥を利用した有機養液土耕栽培など新研究を一挙収録。

●作業がらくになり,もうかる野菜づくりを大特集

ホワイトアスパラ,紫アスパラガスなど多彩な品種が登場したアスパラガスの大改訂をスタート。省力新品種や技術が開発されてきたナス,新たな作型や商品が開発されてきたネギ,タマネギ,多彩な品種が人気のカボチャ,ハーブ類の最新情報を満載。


〈新たに野菜栽培を始める人たちを支援―「栽培・作業の勘どころ」を新設〉

 「栽培・作業の勘どころ」は,野菜栽培での具体的な作業での「技」をベテラン農家や指導者に明らかにしてもらい,現場の指導者や,これから野菜栽培に取り組もうという方の道案内をしていただくために新設した。

 今回登場していただいたのは,トマトでは千葉県山武郡の若梅健司さん(78歳)と,イチゴでは愛媛県宇和島市の赤松保孝さん(77歳)。

 若梅さんは,『トマト桃太郎をつくりこなす』の著者でもあるが,ハウス抑制栽培の技術と全作業を紹介していただいた。定植作業をらくに効率的にするための道具,うねの表面を平らに仕上げる耕し方,1回でできるうね立て法など,永年の経験から生み出された的確な作業方法と,独自につくり出した道具などが紹介されている(写真1)。



写真1 うね立てと培土板を改良した「自作ベッド作り機

 次いで赤松保孝さんは,低コスト高設栽培システム「るんるんベンチ栽培」を編み出してきた方。「るんるんベンチ栽培」とは,赤松さんたちが自ら開発したもので,培地の6割は籾がら,ベンチは自分たちでトタンなどで組み合わせているため,10a当たり100万円以下でつくれる(図1)。



 やはり自ら開発した「簡易高設育苗」は,市販の園芸用プランターと亀の甲網を利用して組み立てる。棚をつくる架台の資材は,パイプハウスなどの古資材が活用できる直管を使っていて,曲がった管をまっすぐにする器具まで用意している。こういうアイデアや工夫が随所に紹介されている。

〈高度になった施設を生かす新研究・新技術〉

 野菜の施設栽培では,フェンロー型ハウスなど一棟数ha規模の大型施設が導入されている。また,台風害を契機に低コスト耐候性ハウスも多くなってきた。それに伴い,新たな環境制御システムも導入されている。こうした施設やシステムを使いこなすため,第12巻の「共通技術・先端技術」では,「施設の環境条件と野菜の生育」をはじめとする関連項目を一新した。「施設の環境条件と野菜の生育」は,植物の生長に必要な環境項目である,光,温度,湿度,CO2濃度,気流,根域環境などをめぐる研究と技術動向のガイドである。以下,今回収録した記事を紹介する。

◆根域や培地の冷却

 局所的な冷却は低コスト技術として注目されていた。たとえば「根域と培地の冷却」で紹介されている二重ハンモック型栽培槽を利用した高設栽培装置(図2)は,四季成りイチゴなどで成果をあげている。そのほか,ホウレンソウでの紙マルチ(春〜秋にかけて生育促進効果がある)やチラーなど注目新技術が紹介されている。



◆補光・電照利用の現状と課題

 話題の発光ダイオードはもちろん,うね間補光や移動補光などヨーロッパで行なわれている光源の配置方法も紹介。ホウレンソウの電照栽培による長日処理と光中断,安価な夜間電力を利用した深夜間補光栽培(サラダナなどでは2倍の生育量になる)など最新の知見が盛り込まれている。

◆DIFの利用

 昼夜の温度較差を利用して生育制御をするDIFの技術は,キクやユリなど花卉栽培ではすでに草丈調節のために導入されている。いよいよ野菜でも,生育促進や抑制の現われ方が解明されてきた(写真2)。



写真2 メロンでのDIF処理
 昼温より夜温が高い+DIF,しかも温度較差の大きい一番右側のほうがより生育が促進される

◆ボトムヒート貯蔵による苗生産

 ボトムヒート貯蔵は,挿し穂を低温貯蔵するときに,挿し穂の一部(発根部位や接ぎ木接合部)だけ温水に浸けて加温する苗の貯蔵方法。発根直前の状態になった挿し穂を挿し木すると早く発根するので,挿し木後の管理を大幅に簡易化できる。また,長期間貯蔵しておくので生産調整ができる,画期的な育苗システム。

◆有機養液土耕栽培

 これは,養液土耕システムを利用して,有機性の液肥を少量ずつ施用して作物を栽培する手法。土壌の生物性も積極的に活用している点で画期的である。

 使用する液肥は,トウモロコシを原料とするコーンスターチの製造工程からでてくる副産物コーンスティープリカー(CSL)で,これまで主に家畜飼料として用いられてきたもの。また,糞尿をエネルギー源としてメタンガスを生産した後の廃液も液肥として利用できる。さらに北海道では,トマトの夏秋栽培で魚を原料とした有機液肥が,福島県では米ぬかを利用したオリジナル液肥が試験されるなど,研究は裾野を広げて急速に進められている。

〈難病害虫対策〉

◆イチゴの炭疽病を克服する新育苗法

 徳島県で開発された「不織布を利用する株元灌水育苗法」を収録。点滴チューブにより,毛管現象による水の浸透性が強い不織布を通して株元に直接灌水するもの。水の跳ね返りがないため,病原菌の蔓延を防ぐことができる。

◆トマトの黄化葉巻病を攻略する総合戦略

 1996年に発生が報告されて以来,全国のトマト産地が悩まされてきた黄化葉巻病について,この病気をめぐる防除対策の最前線から,総合戦略をまとめていただいた。

 媒介するタバココナジラミ類の生態や発生消長が詳細に解明され,施設の開口の侵入対策,粘着資材による誘殺(写真3),防虫ネットの展張,葉かきと残渣処理,化学農薬の効果的な使用法,ツヤコバチ類など天敵資材の活用法など,各種の方法とその組合わせ方が緻密に解説されている。各産地の防除対策に活用していただきたい。



写真3 ハウスの角に黄色粘着テープを三段に張ってタバココナジラミ類を誘殺

 なお,トマトでは,生産者事例で,トマトの大産地熊本県八代市の山住昭二さん(桃太郎はるかの抑制加温栽培)を収録。黄化葉巻病対策については,「入れない」「出さない」「増やさない」対策を組み合わせて被害を最小限度に抑える方法が紹介されている。

〈作業がらくになり,もうかる野菜づくりの大特集〉

◆ナスの改良U字仕立て・側枝更新剪定

 改良U字仕立ては,山梨県で開発された夏秋ナスの仕立て法。露地キュウリ用の支柱を利用して,主枝3本を2本と1本になるよう交互に振り分けるもの。この整枝法は施設栽培で行なわれていたもので,葉を花の上に残さない。短いサイクルで次々と新梢を更新できることから「側枝更新剪定」と称されている。摘心作業の遅れによる徒長枝の発生が抑えられ,V字仕立より通路内部の空間が3.8倍も広くなって作業性がよくなる。上物率も格段に向上するという。

◆ナスの受粉作業の省力化

 まず受粉作業が不要になる単為結果性品種。昨年の高知県が育成した‘はつひめ’に引き続き,今年度は独・野菜茶業研究所が育成した‘あのみのり’を収録。各県で栽培試験も取り組まれて全国で利用できるようになっている。

 次いでミツバチの利用。これまで授粉用に各地で導入されてきたセイヨウオオマルハナバチが,2006年に「特定外来生物」に指定されたため,利用が難しくなってきたことが背景にある。

 しかし,ミツバチは,トマトやナスの花は花粉が採集しづらいため訪花が不安定だとされていたが,きちんと花粉を採集して受粉に貢献し,ナスの着果率を高めることが明らかになった(写真4)。さらに,平均夜温12℃で管理する,側枝更新剪定で効果が高いなど,効果的な利用法も解明され,群馬県の半促成栽培産地ではセイヨウオオマルハナバチに代わってミツバチの利用が多くなっている。



写真4 セイヨウミツバチのナスに対する訪花行動

◆イチゴ――低温・寡日照下でも草生が低下しない‘紅ほっぺ’

 静岡県が開発した,‘章姫’を種子親にした促成栽培用品種で,静岡県だけでなく,冬季の環境が厳しい山形県や島根県などでも導入が広がっている。静岡県でも7月上旬まで安定して収穫できることから,観光農園にも広がっているという。

◆水田の土を利用するイチゴの少量土壌培地耕

 さらにイチゴでは,滋賀県が開発した,水田土壌の土の力を生かした低コスト養液栽培システム「少量土壌培地耕」を導入した生産者事例を紹介した(犬上郡甲良町の松宮悟・しげ子さん)。これはトマトやキュウリで開発されたものだが,イチゴでも現在,県内の92%にまでなっている。水田土壌を少量だけ使用していることから生育も安定してコストがかからない画期的なシステム。

◆多彩な品種で人気が高まるカボチャ

 品種のコーナーを新設。個性的な食味や形状,果皮色がある多彩な品種があって,人気が高い野菜。伝統品種や,近年開発された小型品種,側枝が少なく短節間性品種(北海道農研センター育成の栗カボチャ「TC2A」)まで収録。

◆新たな作型や商品を開発するネギ,タマネギ

 ネギ(8巻-?)の基礎編の一部「花芽分化と抽台・開花・結実」を34年ぶりに改訂した。脱春化と温度との関係などが詳細に解明されている。この研究により,低温期にトンネル掛けやハウスの密閉によって積極的に高昼温条件にしたり地温を確保することで抽台を抑制できることが明らかになり,その技術を生かした端境期の6月どり作型など実践的な技術も開発されている。

 タマネギでは,「秋冬どり(11〜3月)栽培」を収録。この時期のタマネギは肉質が軟らかく,多汁で辛味が少ない。しかも病害虫の発生が少ない時期なので,無(減)農薬栽培も可能と,メリットが多い。鮮度の高いタマネギは通常より2〜3倍の高値になっているという。この作型に向く品種も‘シャルム’や‘冬スターF’‘グラネックス・イエロー’や赤タマネギ品種も育成されている。それらの特性とつくりこなし方を詳細に解説していただいた。

◆ホワイトアスパラ,紫アスパラガスなど多彩な品種が登場したアスパラガス

 アスパラガスの品種は長らく海外導入品種が中心だったが,ここ数年,続々と国内で新品種が育成されている。また生食用のホワイトアスパラガスや紫アスパラガスの生産も急増している。急速に進む研究と進化する産地の動向を踏まえて,大改訂をスタートする。

 今追録では,‘さぬきのめざめ’(写真5)など各県で育成された品種を収録するなどして品種のコーナーを一新した。また,改植時に問題になる連作障害の最大の要因であるアレロパシー物質とその測定法,各種活性炭利用など対処法が解明されてきた「連作障害,アレロパシーの原因と対策」を改訂。



写真5 さぬきのめざめの夏秋芽

 また,筒状簡易軟白栽培法や遮光シートによる方法など新たな技術が開発されているホワイトアスパラガス栽培も改訂した。また,「寒冷地長期どり栽培」を新たに追加した。

◆消費・流通の動向を的確に捉えたハーブ生産

 一躍重要野菜になってきたハーブ類。今追録では,生産者事例に,ハーブ生産の第一人者である東京都のニイクラファームと静岡県の(有)落合ハーブ園が加わった。

 ニイクラファームは150軒以上のレストランに応えるため50を超える品目を栽培。「土の匂いのする香り高い,味の濃いハーブづくり」のため,腐植5%維持を目標に,耕起前に米ぬか600kg/10aを施用し,籾がらなど繊維分の多い堆肥で土つくりをして,ボカシ肥料主体の施肥にしている。

 落合ハーブ園は三十数種のフレッシュハーブのほかに,ハーブティーやスパイス,入浴剤などドライやハーブ苗の販売まで手がける。たとえばミントでは「収穫時には,根元に近いところから枝ごと切るのがポイント…上位で切ると枝数が増えてきて枝葉がやせてくる」など各種ハーブの栽培のポイントが紹介されている。