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イネでは,有機栽培,減農薬・減化学肥料に向けた技術として,雑草対策,育苗,緑肥・有機物利用などを柱に収録した。雑草対策では三木孝昭氏((公財)自然農法国際研究開発センター)に,秋処理によるワラ分解の徹底・健全な育苗・適切な栽植密度によってイネが雑草に優占する田んぼづくりの要点(写真1)を,川俣文人氏(栃木県・NPO法人民間稲作研究所)には,複数回代かきのポイントを解説いただいたほか,新型の除草機として「アイガモロボ」を中村哲也氏((株)NEWGREEN)に,「WEEDMAN(ウィードマン)」を鈴木祥一氏((株)オーレックR&D)に紹介いただいた。そのほか,イトミミズの抑草効果に関する研究成果を,古川勇一郎氏(新潟県農業総合研究所)に執筆いただいた。

写真1 イナワラの分解率によって変わる雑草の発生状況
左が秋にすき込み,右は春にすき込み
育苗では,種子伝染性病害の防除技術を中島宏和氏(長野県農業試験場)に,有機培土の利用による病害抑制について三室元気氏(富山県農林水産総合技術センター,写真2)に執筆いただき,高橋英樹氏(東北大学)には有機培土による病害予防のメカニズムについて解説いただいた。
写真2 培土の種類によって異なるもみ枯細菌病の発生
減化学肥料では,緑肥ヘアリーベッチの利用を松山稔氏(兵庫県立農林水産技術総合センター)に,高チッソ鶏糞による元肥鶏糞栽培を古川勇一郎氏に執筆いただいた。
生産者事例では,雑草の緑肥利用による地力確保と複数回代かきによる抑草を実践している舘野廣幸氏(栃木県・NPO法人民間稲作研究所,写真3),大規模で有機栽培を実践する中道唯幸氏(滋賀県),除草器「ホウキング」とアイガモを組み入れた有機乾田直播栽培を実践している古野隆雄氏(福岡県)など,特色ある事例を収めている。
写真3 雑草をすき込んで緑肥として利用する
ムギとダイズは,安定多収技術と有機栽培技術の2つを柱に収録した。
このうちムギの安定多収技術では,排水,地力対策など水田転換畑での収量向上に向けた技術を中心に収めた。排水対策は,渡邊和洋氏(農研機構中日本農業研究センター)に改訂いただいたほか,施肥技術ではオオムギ「はるか二条」の施肥技術を秀島好知氏(佐賀県農業大学校)に,減化学肥料の技術としてムギ生育期の牛糞堆肥施用を長島泰一氏(大分県農林水産研究指導センター,写真4)に,秋まきコムギへの緑肥利用の要点を佐々木俊祐氏(岩手県農業研究センター)に執筆いただいた。栽培体系では,北海道で普及している「大豆畦間ばらまき播種栽培」の要点を古舘明洋氏(道総研中央農業試験場)に,耕うん同時畝立て播種と後期重点施肥による排水不良田での増収技術を生井幸子氏(茨城県農業総合センター)に,450kg/10aを実現するハダカムギの栽培体系を森重陽子氏(愛媛県農林水産研究所)に執筆いただいた。
写真4 ムギ生育期での牛糞堆肥散布による地力増強技術
ダイズでは,収量安定技術として,過乾燥対策のための灌水支援システムについて髙橋智紀氏(農研機構中日本農業研究センター),地力増強対策について久野智香子氏(愛知県農業総合試験場)に,有機栽培の安定技術を,小松﨑将一氏(茨城大学)に紹介いただいた(写真5)。

写真5 耕起の有無による有機ダイズの干ばつ時の違い
左が不耕起,右が耕起
農家事例では,もちコムギの安定栽培の事例を村上博範氏(JAいわて中央)・星野次汪氏(東北地域農林水産・食品ハイテク研究会)に執筆いただいたほか,コムギとダイズの有機栽培の事例を加々美竜彦氏(アグリシステム株式会社)に執筆いただいた。ダイズでは独自の培土式除草による雑草対策と休閑緑肥による地力の増強により,低コストの経営を実現している中川農場(北海道音更町),コムギでは少量施肥を柱とした高品質・省力栽培を実践しているノースアグリナカムラ(北海道岩見沢市,写真6)の事例を紹介した。

写真6 順調に生育する有機栽培のコムギ
サツマイモでは,近年開発された4品種を収録した。2018年の発生以降,基腐病に強い抵抗性品種が求められており,本追録では焼酎・デンプン原料用の‘みちしずく’(写真7)と,青果・食品加工用の‘べにひなた’(写真8)をそれぞれ小林晃氏と川田ゆかり氏(いずれも農研機構九州沖縄農業研究センター)に解説していただいた。また,菓子加工用として人気が高い‘高系14号’より多収で黄色味の強い‘みやあかり'(写真9)を末松恵祐氏(農研機構九州沖縄農業研究センター)に解説していただいた。
写真7 みちしずくの塊根
写真8 べにひなたの塊根
写真9 みやあかりの塊根
こうしたサツマイモの品種改良は時代の流れを反映している。今は「基腐病への対応」が求められているが,かつては「救荒作物」として,その後はいも焼酎ブーム,焼きいもブームに対応した「焼酎用と焼きいも用の消費拡大」のために改良が進められてきた。これらの品種改良の歴史を今後の展望も含めて,片山健二氏(農研機構北海道農業研究センター)にまとめていただいた。片山氏によれば,現在は「海外輸出」と「寒冷地進出」という新しいフロンティアへの「攻め」の時代で,今後は食料安全保障の面からサツマイモを含むいも類が再び重要視される時代が来るのではないかと危惧されるとしている。
サツマイモ栽培の基礎理論ページの改訂を昨年から門脇正行氏(島根大学)にお願いしてきた。本追録では昨年に続いて「土壌環境と生育」「生育期と栄養診断」「施肥による生育制御」「栽培条件による生育制御」を改訂していただいた。これで既存の基礎理論記事のすべてがアップデートされた。
サツマイモ栽培の基本技術ページでは「植付け」「収穫適期・収穫方法」を,貯蔵技術ページでは「キュアリング」を荒木田尚広氏(東京農工大学)に改訂していただいた。荒木田氏によると,東京都中央卸売市場ではサツマイモの入荷量の少ない5〜6月が高値となっている(図1)。近年は九州地方で基腐病対策のために収穫時期が前進化している。関東の産地では以前は長期貯蔵後の7〜8月に高単価をねらうこともできたが,現在では貯蔵コストと腐敗ロスを少なくするため,早めに出荷するほうが合理的であるとしている。
図1 東京都中央卸売市場におけるサツマイモの入荷量と平均価格(2020〜2022年)
なお,サツマイモ基腐病の発生生態と対策について最新情報を小林有紀氏(農研機構九州沖縄農業研究センター)に改訂していただいた。
近年,子実用トウモロコシは新しい輪作の作目として注目が集まっているが,その有機栽培も取組みが増えている。荒木和秋氏(酪農学園大学名誉教授)には,子実用トウモロコシの有機栽培での技術的ポイントについて,経営指標を交えて解説いただいた(写真10)。
写真10 有機栽培での除草に効果を発揮するカルチ