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ダイズは,世界的な穀物高騰や水田転作への関心の高まりとともに,増収への期待が高まっている反面,収量の伸び悩みが続いている。今回の追録は,重要品種・主要品種と,多収・高品質栽培に向けた各種技術の2本柱で構成している。
品種では,「品質・用途と品種選択」を高橋浩司氏(農研機構作物研究部門)に執筆いただき,重要品種として,‘サチユタカA1号’‘フクユタカA1号’などの難裂莢性品種について南條洋平氏(農研機構作物研究部門),食用品種として生産が拡大している‘里のほほえみ’について島村聡氏(東北農業研究センター)に執筆いただいた(写真1,写真2)。このほか,2005年以降に育成された主要品種とそれぞれの特性について,青木恵美子氏(農研機構作物研究部門),小林聡氏(十勝農業試験場),関功介氏(長野県野菜花き試験場)に執筆いただいた。
写真1 サチユタカA1号(左)とサチユタカ(右)の裂莢性の比較
写真2 里のほほえみの倒伏耐性(後方。手前はエンレイ)
栽培技術では,排水対策技術と播種技術を中心に,近年発表された技術を収録した。全体のまとめとして「収量低迷の要因と多収・高品質生産に向けた課題」を吉永悟志氏(中日本農業研究センター)に執筆いただき,「圃場タイプに応じた湿害対策のポイント」を髙橋智紀氏(中日本農業研究センター)に,「真空播種機と高速汎用施肥播種機の特性と利用」を松波寿典氏(東北農業研究センター)と髙橋智紀氏に,「逆転ロータリを活用したディスク式一工程浅耕播種法」を松尾直樹氏に,「チゼルプラウによる深耕を核としたイネ・ムギ・ダイズの2年3作輪作体系」を川原田直也氏(三重県農林水産部)に執筆いただいた(写真3)。このほか,すでに発表されている技術である「不耕起栽培(関東)」「耕うん同時畝立て播種方式」について,現状にあわせて改訂を行なった。
写真3 高速汎用施肥播種機
また,緑肥を使った増収技術について佐藤孝氏(秋田県立大学)・半田春男氏(青森県・出来島種子生産組合)に執筆いただいたほか,「部分浅耕一工程播種によるダイズ・ムギ類の安定栽培と産地振興」を永尾宏臣氏(福岡県・田川普及指導センター)・川村富輝氏(同・朝倉普及指導センター)に執筆いただいた(写真4)。
写真4 部分浅耕一工程播種栽培(右)と慣行栽培(左)の比較
サツマイモでは,近年開発された話題の新品種を収録。特徴ある食用品種として,8月収穫ですぐに甘い‘あまはづき’(写真5),冷涼地でも収量がとれる‘ゆきこまち’,ベニアズマの血統を受け継ぎつつ形状のよい‘ひめあずま’を田口和憲氏(中日本農業研究センター)に解説いただいた。焼きいもブームが定着するなかで,どれも期待度の高い品種だ。
サツマイモ栽培の基礎理論は,1987年収録の基本文献を36年ぶりに改訂。「生産物からみた収量の構成」「総乾物生産量」「分配効率」「多収生育相」「品種(シンク・ソース)と収量構成」を門脇正行氏(島根大学)に,「気象要因」を蔵之内利和氏(農研機構作物研究部門)にその後の研究成果を踏まえてアップデートしていただいた。
写真5 あまはづきの焼きいも
サツマイモ栽培の基本技術では,「苗質といもの品質」を泉澤直氏(全農茨城県本部)に執筆いただいた。良苗とされる「茎が太い6節以上の苗」が形状のよいいもにつながることを詳細な試験結果から解説している。「ウイルスフリー苗の利用によるポット苗育苗」では,今後種いも増殖に替わって拡大が予想されるウイルスフリー苗(写真6)の自家増殖法を収録。種いも増殖は短期間に集約的に増殖できる反面,苗の形質にバラツキが出やすく,種いもによってウイルス病や基腐病などの病気が苗床に持ち込まれる危険性がある。ウイルスフリー苗によるポット苗育苗は育苗労力がかかり出荷作業と競合するなどの欠点もあるが,いもの品質がよくなり,ウイルス病などの病気の発生が減らせる。ポット苗育苗を推奨している千葉県の山下雅大氏(千葉県農林総合研究センター)にまとめていただいた。「土壌管理・施肥・作うね」では,堆肥施用や緑肥すき込みによって土壌の炭素含量が多くなるといもの外観品質がよくなること(第1図)などを人見拓哉氏(茨城県農業総合センター農業研究所)に解説いただいた。
写真6 市販のウイルスフリーポット苗
第1図 土壌の炭素含量とサツマイモの良品(A品)率の関係
また,「育苗条件と苗床管理」を片山健二氏(北海道農業研究センター),「除草体系」を山下雅大氏,「省力機械移植栽培」を村井恒治氏(徳島県立農林水産総合技術支援センター),「機械化栽培での収穫法」を溜池雄志氏(鹿児島県農業開発総合センター),「干しいも用サツマイモの栽培」を荒木田尚広氏(東京農工大学大学院),加工技術として「サツマイモ加工における変色防止と加工食品」を嶋田義一氏(鹿児島県大隅加工技術研究センター)にそれぞれまとめていただいた。
このほか,障害と対策として,「生理障害の原因と対策」「重要病害の原因と対策」(写真7),「貯蔵病害の原因と対策」,「サツマイモネコブセンチュウ対策」を渡邊健氏(元茨城県農業総合センター農業研究所),「重要害虫と対策」(写真8)を上室剛氏(鹿児島県農業開発総合センター大隅支場)にまとめていただいた。
写真7 塊根に生じた立枯病病斑(渡邊健原図)
写真8 ナカジロシタバの老齢幼虫(上室剛原図)
ラッカセイは,近年,北海道でも生産が増えている。今回は寒冷地での栽培のポイントについて,秋本正博氏(帯広畜産大学)にまとめていただいた。イネでは,直播栽培と大規模経営の観点から注目されているイタリアの稲作について,笹原和哉氏(東北農業研究センター)に紹介いただいた(写真9)。
写真9 イタリアの稲作における直播(無代かき湛水表面散播)