農業技術大系・作物編 2022年版(追録第44号)


●子実用トウモロコシの栽培・収穫・調製技術

 トウモロコシでは,近年,子実用トウモロコシが注目されている情勢を踏まえ,「子実用トウモロコシ」のコーナーを作物編刊行以来,初めて全面的に改訂・増補した。国内での子実用トウモロコシの生産は,輸入拡大に伴ってほぼ消滅していたが,2010年前後から再び栽培されるようになり,濃厚飼料の自給化や新たな転作・輪作作物として作付けが拡大している。今回の追録では,近年の飼料需給や政策動向,省力性などからみた品目としての特性,子実用トウモロコシ栽培の基本技術,乾燥やサイレージへの調製技術など,子実用トウモロコシ生産の基本事項を収めた(写真1)。生産者事例としては,北海道の柳原孝二氏((有)柳原農場)に栽培技術と経営の概要について執筆いただいた。

写真1 コーンスナッパヘッダによる収穫作業


 また,栽培のポイントとして,品種選び,主要雑草とその対策,主要病害虫とその対策,コーンヘッダをはじめとする収穫機選びなども収録した。

 なお,トウモロコシは利用形態や利用部位,種類などによって登録農薬が細かく区分されている。そのため,子実用,生食加工用,青刈り用(サイレージ用)などトウモロコシの登録農薬区分の全体図についての解説も盛り込んだ(表1)。

表1 トウモロコシの利用形態による使用可能な農薬

作物分類1)利用形態利用部位収穫時期の目安使用可能な農薬
飼料作物青刈りトウモロコシ
(ホールクロップサイレージ)
雌穂(子実,穂軸,苞葉),茎葉黄熟期「飼料作物」「飼料用とうもろこし」「飼料用とうもろこし(青刈り)」に登録があるもの
トウモロコシ子実
(乾燥子実,子実サイレージ)
子実完熟期「飼料作物」「飼料用とうもろこし」に登録があるもの(「飼料用とうもろこし(青刈り)」は使用できない)
穀 類未成熟トウモロコシ
(スイートコーン)
子実乳熟期~糊熟期「穀類」「とうもろこし」「未成熟とうもろこし」または「雑穀類2)」に登録があるもの
トウモロコシ子実子実完熟期「穀類」「とうもろこし」「とうもろこし(子実)」または「雑穀類2)」に登録があるもの
野菜類ヤングコーン
(ベビーコーン)
幼果(雌穂)水熟期「野菜類」「ヤングコーン」に登録があるもの

注 1)農薬の適用農作物の大作物群の名称(2019年3月29日改訂,2021年1月14日最終改正)

  2)2019年3月の改定前の適用農作物の分類ですでに大グループ名「雑穀類」に登録のある農薬も使用可能

●サツマイモの生理,各地の作型

 サツマイモの生理は,生育のステージと生理,生態として,「各器官の発達」「塊根の形成と肥大」「塊根の肥大と物質生産」を田中勝氏(農研機構九州沖縄農業研究センター)に,「開花と結実」を片山健二氏(農研機構北海道農業研究センター)にいずれも既存の記事を改訂いただいた。

 各地の作型と技術の特徴として,「関東・普通栽培」を山下雅大氏(千葉県農林総合研究センター水稲・畑地園芸研究所)に(写真2,3),「徳島・なると金時の砂地畑における栽培」を山田勝久氏(徳島県立農林水産総合技術支援センター農産園芸研究課)に(写真4),「南九州・マルチ早掘り栽培」「南九州・デンプン原料用多収栽培」を田中明男氏(鹿児島県農業開発総合センター大隅支場)にそれぞれ既存記事を改訂いただいた(写真5)。

写真2 千葉県におけるサツマイモのポット苗育苗


真3 関東のサツマイモ栽培におけるマルチの展張のようす


写真4 海岸沿いに広がるサツマイモ砂地畑(鳴門市里浦町)
(写真提供:JA里浦)


写真5 南九州マルチ早掘り栽培におけるサツマイモの植付け作業


●ジャガイモの生産者事例ほか

 ジャガイモの生産者事例として,会社経営,法人経営から部会代表まで幅広く収録した。水田転作として機械化一貫体系で加工用契約栽培する法人事例など,いずれも今の時代に安定経営のヒントになる事例と思われる。

 北海道では輪作体系などに特徴のある事例を2例収めた。「さやあかねなど 自然栽培と特別栽培を組み合わせた大規模経営―北海道幕別町・株式会社折笠農場(折笠健)」を森元幸氏(カルビーポテト株式会社馬鈴薯研究所)に(写真6),「はるか,こがね丸など 土壌診断とカルシウム施肥,生糞土ごと発酵で良品多収―北海道帯広市・有限会社中藪農園(中藪俊秀)」を谷昌幸氏(帯広畜産大学)にそれぞれ執筆いただいた。青森県では種いも生産の事例として,「ジャガイモ32品種の種いも安定生産―青森県深浦町・株式会社黄金崎農場」を同社会長の佐々木君夫氏に執筆いただいた。宮城県では水田転作事例として,「オホーツクチップなど 機械化一貫体系でジャガイモ加工用契約栽培―宮城県東松島市・農事組合法人おおしお北部」を鹿野弘氏・佐藤典子氏(宮城県農業・園芸総合研究所)・石原寛之氏(宮城県園芸推進課)に執筆いただいた(写真7)。長崎県では二期作事例として,「メークイン,ニシユタカなど 早掘りマルチ・春作マルチ栽培―長崎県諫早市飯盛町・JAながさき県央ばれいしょ部会・山口正さん」を平野元氏(長崎県農政課)に執筆いただいた(写真8)。

写真6 ジャガイモ大規模経営の折笠農場の全景(空撮)


写真7 大型のポテトハーベスターによるジャガイモ収穫作業


写真8 島原半島と橘湾を望む飯盛地域の基盤整備畑


 また,今回の追録では海外のジャガイモ生産についても収録した。「オランダのジャガイモ生産」を紀平真理子氏(ライター)に執筆いただいた。オランダのジャガイモは輸出が占める割合が多いこと,日本の浴光催芽と同様に催芽処理が行なわれるが催芽バッグを使ったシステマチックなものであることなど,興味深い内容である(写真9)。

写真9 バッグでの催芽のようす
ラックを縦積みできフォークリフトを使って移動させる


●イネの直播と関連技術

 イネでは,稲作経営の大規模化とともに近年関心が高まっている水稲の直播やその関連技術を3本収録した。このうち「初冬直播き栽培」は,春先の作業の集中回避のために越冬前の播種を行なうことを特徴とする技術。「振動ローラ式水稲乾田直播」(写真10)は,主に二毛作地帯向けの技術として開発された乾田直播技術で,漏水対策としての鎮圧作業と雑草防除体系を柱とする技術。このほか,無コーティング湛水直播栽培で使用される種子について,苗立ち率を高めるための根出し技術の記事を収めた。

写真10 播種工程と鎮圧工程
播種作業(左:トラクタ)と振動ローラによる鎮圧作業(右:トラクタ)。組み作業の場合


●ムギ・ダイズの多収技術と注目品種

 ダイズでは,水田転作の安定多収への効果が注目されている鶏糞施用について,その効果とメカニズムを検証する記事を収録した(写真11)。

 
写真11 ダイズ収穫時の生育状況(品種:リュウホウ)
左:鶏糞圃場,右:対照圃場

 コムギでは,暖地でのパン用コムギのタンパク質含有率と収量を確保できる施肥技術として「穂肥重点型施肥」を収めた。このほか,近年健康機能などが注目される「もち性オオムギ」の主要品種を収めた。