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前号追録42号(2020年)から,ジャガイモ・サツマイモ巻を重点的に追録している。前号はジャガイモのほうに力点を置いたが,本追録ではサツマイモに力点を置いた。
サツマイモは,2003年ごろから焼きいもの人気が高まり,今やすっかり定着したようだ。スーパーやコンビニエンスストアでも店内で焼きたてのサツマイモが売られるようになった。本追録では,その「スーパー店舗内焼きいも販売」という新しい販売スタイルを仲卸業者と小売店とともに開拓した茨城県・JAなめがたしおさいなめがた地域センター甘藷部会連絡会の取組みなど,加工をめぐる事例を各産地からご紹介いただいた。
JAなめがたしおさいなめがた地域センター甘藷部会連絡会では,JAの焼きいも戦略の経緯から一年中良食味を維持する品種,栽培,出荷体制の確立までをまとめていただいた。産地では苗はほとんど手挿しだが,自走式機械に乗った挿苗(図1)や,早掘りの作型で晩霜害回避のために行なわれる“もぐら植え”(図2)など,栽培の実際がわかる(「焼きいも向け良食味サツマイモの周年出荷体制構築および高品質栽培技術」)。
写真1 自走式機械に乗った指し苗
写真2 もぐら植え
写真3 永井農業の干しいも加工
茨城県からは,干しいも(写真3)と青果用出荷を組み合わせて周年で収入がある経営を実現している,ひたちなか市の永井農業(永井彰一さん)の栽培と経営も紹介(「定温貯蔵,機械乾燥,加工施設の整備で直売主体の経営――べにはるかなど,干しいもを中心に周年で収入確保」)。鹿児島県からは,炭火焼きによる冷凍焼きいも加工(写真4)で安納いもブランドを確立した,西之表市の有限会社西田農産(西田春樹さん)の栽培と経営をまとめていただいた(「炭火焼きによる冷凍焼きいも加工で,安納いもブランドを確立」)。
写真4 西田農産の焼きいもペースト加工工程
写真5 北海道産の蒸しいも
産地の動きとして注目なのが,北海道だ。昭和初期に救荒作物として栽培されたあと衰退していたが,温暖化により栽培が拡大中。青果用として市場出荷されることはまだ少なく,おもにペーストなどの一次加工や蒸切干し加工(写真5),焼酎原料用に利用されている(「北海道・マルチ栽培」)。また,沖縄の紅いもも菓子類など加工原料として利用され,2012年に登録された品種‘ちゅら恋紅’の栽培が急増している(「沖縄・紅いも栽培」)。
サツマイモの特徴として,品種により温度や土壌条件に対する反応が異なり,地域による適応性があるとされる。最新の品種特性を,食用,原料用,加工用に分けて収録した(「品種の特性と選択」「食用品種の特性と選択」「原料用品種の特性と選択」「加工用品種の特性と選択」)。
なお,サツマイモ基腐病が全国に広がっており,現段階おける発生生態と対策を収録した(「サツマイモ基腐病の発生生態と対策」)。また,サツマイモの塊根だけでなく茎葉も含めた機能性も収録した(「サツマイモの機能性」)。
ジャガイモの栽培にはおもに春植えと秋植えがあり,2020年の追録では秋植えと冬作・春作マルチ栽培を改訂したが,本追録では春植えと,年内植え早春出荷を収録した。春植えはジャガイモ栽培の主流であり,その栽培生理から栽培の要点までをじっくりとまとめた(「普通栽培」)。早春出荷は鹿児島県奄美地域で取り組まれ(写真6),栽培面積は4000ha以上にまで増え,鹿児島県の主要産地となっている(「早掘り無マルチ栽培」)。また,北海道の十勝地域で行なわれている種いも栽培の実際も収めた(「種いも栽培」)。
また,ジャガイモはウイルス感染を防ぐため国で採種した種いもを毎年購入して栽培するが,自家用栽培の一部には種いもを自家採種して栽培を続けている地域もある。この在来種の調査記録も収めた(「ジャガイモの在来種」)。
写真6 鹿児島県奄美地域の風対策を兼ねた増収対策の2条植え
イネでは,登熟期の異常高温によって発生する「白未熟粒」の発生のしくみについて生理的・生態的解明が進み(図1),抵抗性系統・品種の育成が進んできた。その発生のしくみ,追肥による抑制のしくみ,耐性品種などについて,各分野からまとめた(「イネの登熟と「白未熟粒」発生のメカニズム」「高温による背白粒発生と窒素追肥による抑制のメカニズム」「耐性品種と追肥による高温登熟対策技術の開発」)。高温障害の把握技術として,ドローンを使った把握技術も収めた(「熱赤外カメラ搭載ドローンによる水稲高温登熟障害の把握技術」)。
また,種籾の温湯消毒法として,ばか苗病も防げる新技術も収めた(「事前乾燥+65℃・10分間温湯消毒法」)。
ムギでは,近年,全国トップの収量を実現している愛知県,多雪地域で地元向けの生産に取り組む新潟県でのコムギ栽培について,おもに追肥に注目した栽培技術を取り上げた(「愛知県秋まきコムギ:きぬあかりの生育診断と追肥技術」「多雪地帯における秋まきパン用コムギの栽培技術」)。
ダイズでは水稲との輪作で安定的に300kg/10aを実現している農家事例を収録した。中耕と培土を適期に行なうことで初期生育を順調にし(写真7),開花期からは根粒菌の働きと光合成が活発になるよう,基肥を重視した施肥設計を行なうなど(図2),栽培の要点がわかる(「山形県高畠町・(株)萩原農園 水田転換畑でのダイズ安定300kg栽培」)。
写真7 2回目以降の中耕作業
図2 筆者が考える肥効のイメージ
一般的には開花期に肥効がくるイメージであるが,萩原農園では開花期に向けて根粒菌の活動や光合成などが活発になるように作物の体づくりをするイメージである
このほか,水田排水対策として,個人でも施工できるトラクタ装着型の暗渠機・心土破砕機と,暗渠排水管の清掃や地下灌漑ができる集中管理孔システムを収録した(「カットシリーズを用いた営農排水施工技術」「集中管理孔を活用した暗渠排水の清掃と地下灌漑」)。