農業技術大系・作物編 2017年版(追録第39号)


稲作名人に学ぶ

 ポット成苗の疎植&深水栽培で多収,反射シート平置き出芽&プール育苗で省力,多品種栽培で大粒米多収など――。以降,それぞれ冒頭は記事タイトル,文末のカッコ内は著者の所属と氏名(敬称略)。

▼ポット成苗坪33株,水深30cmの疎植水中栽培で850kgどり,防除いらずの健康稲作

 分げつ力の強いポット成苗(分げつ3本,5.5葉以上)を,坪33株の疎植と,10~30cmの深水でじっくり育て,登熟のよい太茎大穂の豪快イネに仕上げる。生育は前半が伸長型,中期から分げつ型。少ない基肥でもテンポよく分げつし,伸長が遅れる分,太い茎が揃う。施肥・水管理は出穂40日前に茎肥3kg,その後3段階で落水し,溝を切って溝水管理。出穂30日前に穂肥1.2kg,出穂直前に実肥1.3kg,出穂10日後に味肥(ケイ酸,リン酸,苦土),出穂60日後までイネを生かす。この疎植水中栽培で坪当たり茎数1,000本,有効茎歩合95%以上,株当たり穂数34~35本,登熟歩合90%以上,1穂粒数130粒,千粒重23g,反収850kgを実現(福島県須賀川市・薄井勝利,photofarmer・依田賢吾)。

▼反射シート平置き出芽&プール育苗で作業競合改善,100gまき健苗育成

 誰でもラクラク,反射シート平置き出芽&プール育苗で作業競合を解消し,苗質も改善できる。出芽は平置きした苗箱に反射シートをかけるだけ,育苗管理はプールに水を張るだけ,換気も灌水の心配もいらない。反射シート平置き出芽は,ダイヤカットの苗箱に籾がらを敷いて苗床をならし,播種量90~100gの薄まきで播種時にたっぷりと灌水。シートは通路も被覆してサイドぎわを二重にし,早めに剥がす。プール育苗は,おそい芽が出揃う1.5葉期まで底面給水,1.5葉期から本格的に湛水開始。マット形成,揃いがよく,茎が太くて葉幅も広く,病気の出ない,根張り抜群の健苗を育成。田植え適期幅が広く,活着がよく,倒伏せずに安定多収(福島県須賀川市・藤田忠内,photofarmer・依田賢吾)。

図1 反射シート平置き出芽&プール育苗の水稲苗(福島県須賀川市・藤田忠内さん)

(写真提供:依田賢吾)


▼品種の特性に合わせた多品種栽培,千粒重23g以上の売れる大粒米を反収660kg

 搗き減りの少ない,売れる大粒米で,米価低迷に負けない経営を追究。品種の特性に合わせて7~8品種を栽培し,いずれの品種も千粒重23g以上,反収660kgを確保。登熟をよくするには生育中期が成否を分ける。すなわち,減葉しない生育を目指し,つなぎ肥で生育停滞させないようにする。穂相から品種の特性を見きわめて施肥設計し,穂数,1穂粒数を抑え気味にする。2次枝梗型品種は基肥をひかえめに,1次枝梗型品種はつなぎ肥が不可欠で穂肥も早めに打つ。水管理は土中に酸素を供給し,ガスが沸きにくく,根が働きやすい環境に整える。鶏糞とケイ酸資材で土つくり(山形県鶴岡市・菅原 進,photofarmer・依田賢吾)。

▼手づくりのボカシ肥でJAS有機認証の米を栽培し,低温貯蔵・炭酸ガス処理で販売

 水稲の面積が減り続ける登米市で,有機JAS認定を受け,米・食味鑑定コンクールで5年連続金賞を受賞した無農薬有機栽培米を生産。自家採種した種籾を温湯消毒し,炭・くん炭で土壌・水質を改善,周辺の野山から採取した菌でボカシ肥を手づくり。基肥を抑えて初期生育をゆっくりにし,通常よりも1か月近く遅れて最高分げつ期を迎え,登熟の完了を見きわめてから刈り取る。課題だった梅雨以降の食味低下を玄米の低温貯蔵,精米の炭酸ガス処理で防ぎ,常温でも食味を保つ「冬眠米」として産直販売(宮城県登米市・石井 稔)。

▼地域で生まれ育まれた米「龍の瞳」,その理念と販売戦略

 コシヒカリの棚田で見つかった品種‘龍の瞳’は,玄米千粒重32gの大粒で,甘く粘りがあり,香ばしい食味。仲間とともに生産組合を立ち上げ,食味向上,無農薬栽培にこだわり,品種特有の発芽不良,苗の徒長,胴割れなどの栽培課題を克服してきた。食味コンクールで入賞,お客様アンケートを重視,龍の瞳物語,テーマソングや絵本を制作。管理水準を担保するため,国外へのアピールのため,グローバルGAPも取得。地域で生まれ育まれた米「龍の瞳」で,地域資源の再生と中山間地の活性化をはかる(岐阜県下呂市・今井 隆)。

品種の持ち味を活かす

●水 稲

▼米の食味ポテンシャルを発揮させる栽培管理技術

 食味ポテンシャルを発揮させるため,これまでの知見を整理するとともに,良食味米の食味に差をもたらす要因や生育の特徴について紹介する。おいしい米をつくるには,健全な根を発達させるための土をつくり,活着が良好となる健苗を育成し,高温登熟を緩和できる適期移植で,低タンパクな玄米を生産する低次位・節位分げつを確保したあと,深水管理や中干しにより速やかに過剰な分げつを抑制する。また,幼穂形成期の栄養診断に基づく穂肥施用で籾数を制御し,出穂期以降は高温対策と根の機能維持のための水管理(かけ流し,間断灌漑)を行ない,適期収穫したあとは,低めの温度設定で素早く乾燥調製することが重要である(農研機構東北農業研究センター・松波寿典,秋田県農林水産部・金 和裕)。

▼多収水稲品種北陸193号の早植栽培に適した育苗法

 ‘北陸193号’は早植栽培で出穂が早まり,秋口の低温を避けることで登熟が向上する。しかし,春先の低温時に育苗すると,苗の草丈が短くなるなどして移植後,埋没による枯死や,植付け姿勢の悪化や浅植えによる浮苗の増加により,欠株が増加するおそれがある。さらに移植後の低温で分げつが不足し,減収することもある。育苗期や移植後初期が低温となる早植栽培では,苗の草丈を伸ばし,窒素含有量を高めることが移植後の活着や生育の改善に重要である。出芽期伸長,マルチ被覆,深水プールで移植精度を担保する十分な苗長を確保できる。深水プールで多めの追肥を1度行なうだけでも移植後初期の生育が改善される(農研機構中央農業研究センター北陸研究拠点・大角壮弘)。

▼北海道の酒造好適米(酒米)の農業特性と酒造適性

 北海道の酒米品種は兵庫県の‘山田錦’に比べて短稈で倒伏しにくく,穂長が短くて穂数が多く多収である一方,千粒重が軽く,20分吸水率と蒸米吸水率が低く,タンパク質含有率が高いといった酒造適性上の欠点がある。それらの欠点を改善するためには育種による大粒遺伝子の導入,栽植密度や施肥法の改善が必要である。低タンパク質な酒米生産のためには,産地を選定することが重要であることに加え,食用米生産と同様に耕種的な方法もある。さらに,登熟気温が高い年は20分吸水率,蒸米吸水率が低下する可能性が高いため,そのような情報を,北海道の酒米を使用する酒造会社に対して酒造前に提供することも重要であると考えられる(道総研上川農業試験場・田中一生)。

●ダイズ・アズキ

▼トヨハルカ―低温に強く,コンバイン収穫と味噌加工に適した品種

 白目大粒でダイズシストセンチュウ抵抗性強の品種‘トヨムスメ’は,煮豆,惣菜,味噌のほか,豆腐用として糖の含有率が高く,おいしさに優れているため,実需者から高い評価を得ている。しかし,開花後の低温により,へそやその周辺に着色が発生しやすいなど,収量と外観品質が不安定である。また,分枝数がやや多くて繁茂しやすい,最下着莢位置が低い,裂莢しやすいなど,コンバイン収穫適性が不十分である。そこで,‘トヨムスメ’よりも冷害年に強く,コンバイン収穫適性が高く,さらに低温着色による品質低下が少なく,外観品質,煮豆や味噌の加工適性に優れた‘トヨハルカ’を育成した(道総研中央農業試験場・田中義則)。

▼ほまれ大納言―土壌病害抵抗性と高い加工適性を併せもつ大納言アズキ品種

 アズキ品種‘アカネダイナゴン’は加工適性の評価は高いものの比較的小粒であり,整粒歩留りが著しく低下することもあった。その後に育成された‘ほくと大納言’は成熟期前後の降雨によって種皮が黒変しやすくなる問題があった。‘とよみ大納言’は百粒重25gの極大粒で,降雨による黒変粒の発生も少なく,落葉病抵抗性もあり,収量性が高いため,栽培が増加した。一方,‘ほまれ大納言’は大粒で歩留りも高く,土壌病害抵抗性をもち,風味など加工適性の評価も高く,‘アカネダイナゴン’同様に老舗の和菓子メーカーを中心に需要があり,道南地域を中心に生産されている(道総研道南農業試験場・田澤暁子)。

図2 雨害により黒変したアズキ。ほまれ大納言(左)は,ほくと大納言(右)より黒変しにくい


●ソ バ

▼難脱粒性ソバの登熟中および収穫時の子実損失

 ソバのコンバイン収穫では適期を逃すと自然脱粒が多発する。さらにコンバインとの接触によって生じる頭部損失,子実が脱穀されずにコンバインを素通りする脱穀選別損失,収穫されずに圃場に残る刈残し損失もある。花弁が緑であるグリーンフラワー型の系統は強く太い枝梗をもつため引っ張り強度が強く,脱粒抵抗性が大きい。北海道の主要品種‘キタワセソバ’と比較したところ,自然脱粒の低減に効果的であったものの,脱穀選別損失は難脱粒系統のほうが多かった。そのため,花房の基部を強化した育種素材の開発,早すぎない収穫時期,難脱粒系統に最適化したコンバインの運転条件が必要である(農研機構北海道農業研究センター・森下敏和)。

▼倒れにくいソバ品種にじゆたかの根の特徴

 ソバは収量が低く,年による変動も大きい。その原因の1つとして倒伏しやすさがあげられる。しかし,耐倒伏性品種‘にじゆたか’の倒伏程度は標準品種‘階上早生’に比べてかなり低い。これは根の形質によるところが大きい。1次側根の硬い部分の開帳角度が大きく,より水平方向に向いており,より横に長く張り出し,全長が長く,数が多いためである。一方,播種密度が低いほど,これらの形質に加えて主根長,主根直径が増大する傾向があり,‘階上早生’であっても倒れにくくなることがわかった。播種密度の低下は収量に影響する場合もあるので,両品種とも収量を確保しつつ,倒伏が防げる播種密度を検討する必要がある(農研機構西日本農業研究センター・村上敏文)。

●ジャガイモ

▼さやあかね―高品質で強い疫病抵抗性をもつ青果用ジャガイモ品種

 ジャガイモ疫病は,1度発生すると急激に圃場全体に拡がって茎葉を枯らし,塊茎にも感染して腐敗させるため,収量と品質が大きく低下する。‘さやあかね’は‘花標津’並の強い疫病抵抗性をもちながら,青果用としての品質が高い。上いも重は‘花標津’並だが,上いも平均重が重いため,青果用の規格内いも重で‘男爵薯’‘花標津’より多収である。また,ジャガイモシストセンチュウや暖地で発生の多い青枯病に抵抗性をもち,Yモザイク病や粉状そうか病に中程度の抵抗性をもち,全体的に耐病虫性が非常に優れている。生産者のみならず消費者や加工業者のニーズを満たし,広く受け入れられていくことが期待される(道総研北見農業試験場・池谷 聡)。

▼春作マルチ栽培における西海31号の栽培技術

 ‘西海31号’はアントシアニンを含む赤肉で,油加工に適し,食品加工用向けに期待できる品種であるが,既存の生食向け品種に比べて収量が少ない。そのため,春作マルチ栽培(2月下旬植付け,6月上旬収穫)を導入したところ,生食向けの慣行栽培(2月上旬植付け,5月中旬収穫,透明マルチ)による収量を上まわった。使用する被覆資材は,2次生長の発生を抑制し,商品重量を確保できる黒マルチが適していた。また,うねにポリフィルムを被覆したあとの半自動野菜移植機による植付けは,芽出し作業が不要となる。さらに,黒メデルシートの使用は,芽出し作業が黒マルチに比べて削減でき,既存の植付け機が利用できる(長崎県農林部農産園芸課・森 一幸)。

水稲の省力栽培技術

▼高密度播種した稚苗(密苗)による水稲移植栽培技術

 密苗移植栽培技術は,水稲育苗箱1箱当たり乾籾換算で250~300gの種籾を播種して育苗後,専用の田植機で正確に1株当たり4本程度移植することにより,単位面積当たりの使用苗箱数を慣行の3分の1へと大幅に削減できる。種子消毒や浸種などの種子予措や播種後の出芽,ビニールハウスでの育苗管理などはすべて慣行と同様でよく,使用する育苗箱,培土などの資材や加温出芽器,機械施設も慣行と同じものが使用できる。播種は専用播種機を導入するか,部品交換や外付けホッパーの増設で対応できる。育苗期間は,慣行の稚苗が20~25日であるのに対し,密苗では15~20日間である。目標とする葉齢は2~2.3葉,苗丈は10~15cmである(石川県農林総合研究センター・宇野史生)。

図3 高密度に播種した催芽籾とその苗。育苗箱当たり播種量(乾籾)は左が慣行120g,右が密苗300g


▼麦立毛間水稲直播技術による飼料用イネ―ムギ栽培体系

 三重県での飼料用イネと飼料用ムギの生産は,大規模な耕種農家や土地利用型農業生産法人が食用ムギ生産と併行して二毛作体系で実施している。しかし,5~6月に行なわれる飼料用ムギと食用ムギの収穫作業が,後作の飼料用イネの育苗や移植作業と競合し,飼料用イネの移植時期が遅れて十分な収量が得られなくなる。そこで,麦立毛間へイネを播種する栽培体系について,飼料用ムギ‘ニシノカオリ’と飼料用イネ‘タチアオバ’を用い,慣行移植体系と比較した。その結果,全刈収量は同等で,10a当たり合計作業時間,軽油消費量,費用合計は,麦立毛間体系で3.2時間,17.9l,8万8,489円,慣行移植体系で4.9時間,21.0l,8万9,745円となり,その有利性が示された(三重県農業研究所・川原田直也)。

▼乾田直播栽培での圃場鎮圧による減水深の低減

 グライ層をもつ圃場は,漏水が問題になることは少なく,低鎮圧条件やロータリシーダのような無鎮圧条件でも乾田直播が導入しやすい。下層の透水性が低い重粘土圃場は春先の播種作業の準備のさいに圃場の乾燥が得にくいため,弾丸暗渠の施工などで暗渠排水の効果を高める必要がある。代かきしなければ適切な減水深が保てない圃場では,ケンブリッジローラやカルチパッカなどの畑作用の圃場鎮圧機械により,縦浸透量を低減できる。畑作との輪作のため下層の透水性が高くなった場合でも鎮圧で浸透抑制効果が得られる。黒ボク土壌は透水性に富むが,高水分で締め固めると透水性が低下する性質を利用し,鎮圧による減水深低減が可能である(農研機構東北農業研究センター・冠 秀昭)。

▼長野県における雑草イネに対する総合防除対策

 長野県での雑草イネは1980年代に発生が収束したものの,湛水直播栽培が増加し始めた1990年代から再び拡大している。雑草イネの種子は,成熟すると自然に圃場にこぼれ落ち,翌年以降に発生した雑草イネに対して一般的な水田除草剤の効果が期待できない。そのため,防除にはていねいな代かき作業で発生した雑草イネを埋め込んだうえで,有効な除草剤を適期に3回使用し,仕上げに手作業による除草を組み入れる必要がある。寒冷地では冬期間を不耕起状態にして,低温や乾湿にさらして死滅させ,鳥類による捕食を促すのもよい。畑転換も簡便で有効な防除手段となる。一方,雑草イネを知らず,被害や防除法がわからずに放置すると地域に拡散してしまうので,組織的な情報共有や早期防除への着手を迅速に行なうことが重要である(長野県農業試験場・青木政晴,酒井長雄)。

▼「集落ぐるみ型」地域営農組織による水田活用と収益確保―岩手県・門崎ファームの事例―

 基盤整備事業を契機に設立された地域営農組織「門崎ファーム」では,構成員から農地を借り上げ,オペレーター層,自作農家層の順に再配分することで,オペレーター層の作業効率を高めつつ,自作農家の営農を継続させている。大型機械による効率化が困難な水管理や除草作業は,経営を縮小させつつある自作農家層や農地貸付農家層に作業委託することで,地域内の労働力を残さず利用している。さらに環境保全型農業にも取り組み,特別栽培米の認証を取得するだけでなく,門崎地区の水田に生息するメダカを地域農業のシンボルに活用している。農業体験や物産展などに積極的に取り組み,首都圏を含む新たな販路が生まれている(青森中央学院大学・庄子 元)。

減収しない転作ダイズ

▼地下水位制御システム「FOEAS」における弾丸暗渠の機能

 地下灌漑での用水の流れは給水栓を起点に暗渠管(本暗渠),本暗渠直上の疎水材,弾丸暗渠,表層全体へと行き渡る。地下灌漑ではほとんど湛水状態を生じさせることなく圃場全体に湿潤状態をつくり出すことが可能である。しかし,水の流れがどこかで阻害されると,耕作者が意図した水管理を行なうことができなくなる。そのため,弾丸暗渠はFOEASの効果を発揮させるうえで重要な役割を担っている。また,地下灌漑の実施中は給水栓付近の水位に合わせて取水の停止や再開が判断されるため,圃場全体に用水が行き渡る前に取水が停止する可能性がある。そのため,設定水位を目標よりも高くするなど,圃場の透水性に応じて地下灌漑の方法を調整する必要がある(農研機構中央農業研究センター北陸研究拠点・坂田 賢)。

▼関東地域FOEAS圃場でのダイズ不耕起狭畦栽培

 水ストレスを回避できるFOEAS(地下水位制御システム)圃場で,関東地域の慣行の栽培方法,ロータリ耕うんによる狭畦栽培,不耕起狭畦栽培の効果を検証した。その結果,不耕起狭畦栽培は苗立率,生育量,莢数,百粒重の増加によって,慣行ロータリ栽培よりも55%の増収になった。また,ロータリ狭畦栽培と比べて地耐力が高いので降雨後も速やかに作業でき,播種速度が速く,苗立率も高く,倒伏指数が低く,雑草発生量も少なかった。さらに慣行ロータリ栽培との比較では,中耕培土を省略でき,増収が可能となった。したがって,FOEAS圃場と不耕起狭畦栽培の組合わせは,FOEASによる水管理や土壌面の均平,適正苗立数の確保などの前提条件がかなえば,ダイズの安定生産に大きく貢献できる栽培法である(農研機構中央農業研究センター・前川富也)。

▼水田転換畑で栽培されるダイズの欠株と収量補償作用

 さまざまな原因から,植えたはずの作物が生えていない,あるいは枯死してしまうなど,圃場内に欠株が発生することがある。しかし,欠株は必ずしも減収に直結しないという指摘もあり,欠株の周囲の株の生育がよくなり,収穫量が増すことも知られている。この現象は収量補償作用と呼ばれる。そこで,欠株がダイズ収量へ与える影響について検討を行なった。その結果,水田転換畑で栽培されるダイズ(うね幅75cm,株間15cm)の収量補償作用は,欠株による減収を補填するには不十分であり,1株単独の欠株が生じても減収する傾向にあることがあきらかとなった。したがって,安定した高い収穫量を確保するためには欠株を生じさせない圃場管理が求められる(農研機構中央農業研究センター・高橋真実)。