農業技術大系・作物編 2016年版(追録第38号)


水田雑草の生態と防除

水田雑草は営農に適応して生き残る――。水稲作,ダイズ転作での雑草の実態と防除対策,漏生イネの抑制まで。

 以降,それぞれ冒頭は記事タイトル,文末の( )内は著者の所属と氏名(敬称略)。

▼営農に適応した水田雑草の生存戦略と問題化の要因

 イネに形や性質を似せることで人間の目を欺き生き延びるノビエ,タネ(種子)だけでなくイモ(塊茎)でも繁殖できるクログワイやオモダカ,種子繁殖により除草剤が効かない個体が選抜されることで顕在化するイヌホタルイ,コナギ,ミズアオイ,湛水と畑状態が交互に繰り返される水田輪作で増加するアメリカセンダングサやクサネム,沿岸部に局在し,東日本大震災後の復旧水田で問題化したコウキヤガラ,海外から輸入される畜産飼料に紛れ,水の流れや有機物の流通に乗じて水田地帯に侵入するアレチウリや帰化アサガオ類(図1)。水田雑草の生存戦略を比較・概観すると,いかに巧みに水田農業,「米づくり」へ適応してきたかがわかる(宮城県農業・園芸総合研究所・大川茂範)。

図1 帰化アサガオ類が蔓延する水田転作ダイズ圃場。ダイズを連作する水田で多発。毎年繰り返し発生して圃場内や周辺圃場に蔓延


●水稲の雑草対策

▼麦わらのすき込みによる水田雑草の抑制

 北部九州の米麦二毛作地帯では,麦収穫直後に水稲移植を行なうことから,耕うん・代かきの作業効率を高めるために,麦わらが一斉に焼却されている。そのため,県内の各自治体や地元の農協などでは,貴重な有機物資源としてだけでなく,近隣の一般住民と生産者との間の摩擦を避けるため,麦わらのすき込みを推奨している。麦わらのすき込み処理が雑草の発生消長,水稲生育に及ぼす影響について検討した。その結果,麦わらの焼却よりもすき込みのほうが雑草の抑制効果は高かった。水稲の生育はすき込みで分げつが抑制されるものの,出穂後の登熟が向上し,増収した。ただし,少量処理では雑草の生育を助長する可能性があった(佐賀県農業試験研究センター・秀島好知)。

▼水稲の栽植密度が群落内の光環境とコナギの生育に及ぼす影響

 福島県中通りで水稲有機栽培について現地調査した結果,米ぬかやくず大豆などの有機物の散布と水稲条間の機械除草の組合わせは,水稲の株間にコナギが残草するために防除効果が不十分であった。水稲が群落内を遮光することによるコナギへの抑制力について検討した結果,水稲の群落内に差し込む光の量は,移植後30日目ころから低下し,出穂期以降ほぼ一定に推移した。また,水稲の栽植密度が高くなるほど,群落内に差し込む光の量が減り,コナギの乾物重も減少した。水稲の有機栽培では株間を広げて栽培されていることが多いが,栽植密度を高めることで群落内の遮光程度が強くなり,コナギの生育を抑制できる(元福島県農業総合センター・島宗知行)。

▼イヌビエの出芽に湛水・落水,気温が及ぼす影響

 湛水直播栽培では播種後,圃場内に湛水部分と落水部分が混在する可能性があり,水稲生育期間中に一時的な落水状態になる場合もある。このような環境は好気条件で発芽が良好となるイヌビエの出芽速度や出芽の斉一性に影響し,出芽期間が長期化する可能性がある。一方,秋田県での水稲直播栽培の播種期の目安となる温度域は関東以西に比べて低いが,イヌビエなどの雑草は一般に低温ほど出芽が長期化する。秋田県内の水田からイヌビエ種子を採取し,屋外で出芽させたところ,浅い湛水条件下で出芽可能であるものの,出芽期間が長期化して不斉一となり,それが低温ほど助長され,さらには落水が契機となって出芽が促進された(東京農業大学・松嶋賢一)。

●転作ダイズの雑草対策

▼ダイズ栽培での問題雑草と防除技術

 近年,除草剤が効きにくく,中耕・培土などでも防除しにくい雑草の占める割合が大きくなっている。その背景として,輸入飼料の増加があげられる。外国で防除できなかった雑草の種子が輸入飼料,家畜,堆厩肥を通じて,ダイズ畑にも侵入していると考えられる。難防除雑草の侵入・蔓延を防ぐには完熟堆肥を使用すること,警戒すべき雑草の情報を得て生態を知ること,圃場周辺を含めて分布を把握すること,圃場周辺で生育していたり,圃場内に侵入した場合は,侵入初期に手取りも含めて徹底防除して種子生産を防ぐこと,圃場間で広げないように農作業の順番を考えることなど,地域全体で対策を講じることが重要である(農研機構 中央農業研究センター・澁谷知子)。

▼山口県のダイズ圃場における成熟期の残草の種類と量

 近年,全国的に帰化アサガオ類の発生が拡大し,山口県に隣接する九州北部地域でも,すでに帰化アサガオ類の発生が確認されている。帰化アサガオ類は土壌処理剤の効果が劣り,いったん蔓延すると防除が困難である。ダイズ作ではヒユ類,ホオズキ類,イヌホオズキ類などの外来雑草の侵入事例も増加している。そこで,山口県下全域のダイズ圃場での雑草の発生実態を把握するため,2年間にわたり残草実態調査を行なった結果,帰化アサガオ類が約15%の圃場で残草し,ほぼ県全域に分布し,マルバルコウとマメアサガオが多かった。圃場内に認められなくても,畦畔や農道では確認されているため,今後圃場内への蔓延が懸念される(山口県農林総合技術センター・池尻明彦)。

●漏生イネ対策

▼イネ収穫後の石灰窒素散布による漏生イネの抑制

 多収性水稲品種の種子を秋田県大仙市の水田圃場に秋季に散播し,擬似的に種子が脱落した状態を作出し,石灰窒素散布による漏生イネの抑制効果について検討した結果,秋季から春季にかけて圃場表面で種子が越冬する条件では,散布によって漏生イネの出芽率が低下し,とくに秋季の散布が冬季や春季よりも高い効果があった。秋季は気温が高いことでシアナミドによる種子の休眠覚醒,発芽阻害の効果が高く,その影響が及ぶ期間も長いと考えられた。水稲の収穫後,秋季に10a当たり50kgの石灰窒素を散布して翌年春季まで,または散布後3週間まで耕起せずに放置することで,翌春の漏生イネの苗立ちは6分の1以下に抑制される(農研機構 東北農業研究センター・大平陽一)。

▼飼料イネの漏生を抑制する秋耕の時期と留意点

 飼料用イネ品種は圃場表面よりも,秋季に土中に埋設して越冬させることで発芽指数が低下する一方,冬季の埋設処理は越冬後の発芽指数が表面処理と同等か高くなる。そのため,温暖地では秋季に耕起して,圃場表面に残留した種子を土中に埋没させることが漏生イネの発生抑制につながる。時期の目安は,年内の有効積算温度で地温130℃・日,気温100℃・日が得られる時期までに種子を土中に埋没させることが有効である。また,用水が使える地域であれば秋耕後に湛水するといっそう効果的である。用水が使えない地域では一度秋耕を行ない,降雨を経た後に再び耕起することで,種子がまんべんなく深く位置する頻度が高まるため,有効である(農研機構 東北農業研究センター・大平陽一)。

イネ多収品種をつくりこなす

●籾を増やす施肥

▼鶏糞堆肥施用がモミロマンの窒素吸収と乾物生産に及ぼす影響

 飼料用米品種‘モミロマン’は登熟期間中の窒素吸収能力が高く,穂に十分な窒素を蓄積させるとともに,登熟期間中も葉中の全窒素濃度を高く維持させることが可能であり,登熟期間中の生産が籾収量に及ぼす影響も大きかった。そのため,登熟期間中の土壌中の窒素濃度を高める鶏糞堆肥の多量施用は,‘モミロマン’の籾数や葉面積の増加につながるとともに,登熟期間中も葉身全窒素濃度が高く,生産に有利な受光態勢を維持したため,葉面積当たりの乾物生産効率も大きく,穂重増加に寄与すると考えられた。登熟歩合と粗脂肪含有率は低下したが,粗タンパク質含有率は増加し,粗繊維含有率が減少するなど,鶏への給餌には有利に働いた(東京農業大学・有澤 岳)。

▼籾数の窒素施肥反応からみた水稲多収品種の限界収量

 多収品種に共通する特徴として,籾数や千粒重が一般食用品種に比べて大きく,収量ポテンシャルが大きい,また,葉色が濃く直立した葉身や低い位置の穂をもち,群落の受光態勢が優れていることから,乾物生産能が高いなどの点が挙げられる。それでは,これらの多収品種を栽培した場合,最大でどれくらいの収量が達成可能なのだろうか。この「限界収量」は実際の栽培現場での目標収量の設定や,さらなる多収品種の育成などにおいても参考となる。そこで,窒素施肥に対する単位面積当たりの籾数の反応を手がかりに,インド型品種の‘北陸193号’と,暖地~温暖地に適した日本型品種‘ミズホチカラ’の限界収量について調査,検討した(農研機構 西日本農業研究センター・小林英和)。

●直播栽培で省力

▼無コーティング催芽種子を用いた代かき同時浅層土中直播栽培

 水稲の湛水直播では苗立ち安定のために過酸化石灰資材や鉄の種子コーティングが行なわれているが,資材,機械,および労力が必要であり,直播栽培による省力化効果や低コスト化の効果を損なっている。また,種子の体積や重量を増加させ乾籾換算の播種機積載量を低下させるので,播種作業の能率を低下させている。さらに,過酸化石灰資材コーティングでは剥離による播種機の詰まり,鉄コーティングでは酸化時の発熱による発芽率の低下など,逆に苗立ち不良の原因となっている場合さえある。そこで,仕上げ代かきしながら,コーティングしない催芽種子を浅い土中に播種する技術を開発した(図2)。多めの播種で必要な苗立数を確保する(農研機構 東北農業研究センター・白土宏之)。

図2 無コーティング催芽種子を用いた代かき同時浅層土中直播栽培で省力


▼北海道の湛水直播栽培における窒素施肥と収量・品質

 北海道の湛水直播栽培について,出芽から幼穂形成期までの時期別の土壌中無機態窒素量と,稲体窒素吸収量の相関関係を調べた結果,土壌中の無機態窒素を3葉期から吸収することがわかった。簡易で正確な診断方法を生育量と葉色を使用して検討した結果,幼穂形成期の草丈と茎数の積値は,窒素吸収量と強い正の相関があり,窒素吸収量を推定できることが明らかとなった。また,LP肥料によって25%の減肥が可能である。直播栽培では移植栽培と比べ,吸収した窒素に占める,地力由来窒素割合が高いことから,地力窒素のバラツキが生育・収量に与える影響が大きいと考えられる(拓殖大学 北海道短期大学・岡田佳菜子)。

●浸種の時間と温度

▼飼料イネ専用品種での育苗の留意点

 わが国では水田の有効活用と飼料自給率の向上の観点から,飼料用米や稲発酵粗飼料の生産が奨励されており,多収性の専用品種が用いられることが多くなっている。専用品種の育苗方法は基本的に食用品種と同じであるが,専用品種のなかには,食用品種と遺伝的に大きく異なるものもあり,食用品種とまったく同じ育苗を行なった場合,発芽・出芽が不良となる恐れがある。その対策として,‘タカナリ’‘北陸193号’‘オオナリ’では加温による休眠打破が有効である。ばか苗病防止に薬剤防除を徹底し,温湯消毒は避ける。浸種は初期水温を高めとし,日数をやや短くする。大粒の専用品種は苗箱当たりの播種量を多くすることが有効である(農研機構 東北農業研究センター・福嶌 陽)。

持続的な農業のために

▼東北開田地帯における水田農業の現状と展開方向―岩手県花巻市A地区を事例に―

 水田農業では今後,これまで中心的な担い手であった農家の高齢化により,離農による農地の流動化が見込まれ,その受け手として大規模個別経営とともに集落営農組織が期待されている。集落営農組織の多くは,稲作は構成員が個別で作業し生産調整作物の共同作業を行なう組織であるが,今後は離農農家の農地を集積し,稲作まで共同作業を行なう組織になることが期待されている。東北の稲作・畜産複合地域では,家族経営による稲作経営が今後も地域の中心的な担い手になると見込まれているが,新たに流動化する農地をこれら経営で受け切れない集落では集落営農組織が設立される必要があり,その営農組織としての充実が課題である(農林水産政策研究所・平林光幸)。

▼山梨県小菅村での自給的農業の歴史と課題

 山梨県小菅村では,古くから主食はサトイモで,雑穀類を焼畑によって補ってきた。1780年代に発生した飢饉を受けてバレイショの作付けが増え,1933年以後,コンニャクの栽培で焼畑や麦作をやめる地域もでてきた。さらに焼畑から桑畑に転換が進んだが,戦時~終戦期には食料難で焼畑が盛んになった。その後,森林を伐採し,木炭を製造し,伐採跡地に焼畑を行なっていたが,1970年代からスギ・ヒノキが植栽された。なぜ今日,自給的農業が成立しているのに焼畑が成立せず,「切替え畑」ではなく本畑を使用するのみなのか,調査により検証した。自給的農家があるということが耕作地保全に役立つ根拠も耕作活動から見いだした(東京農業大学・根津基和)。

●地域資源を活かす

▼水稲栽培での豚尿液肥利用の経済的価値

 養豚での排水処理は切実な問題であり,費用をかけて処理・廃棄するのではなく,液体肥料として作物栽培での循環利用が望まれている。豚尿液肥の施肥量は化学肥料と同じアンモニウム態の窒素量になるように決定すればよく,施肥量と施肥タイミングが合えば,豚尿液肥で化学肥料と同等の収量が得られる。液肥施肥による削減費用は秋田で10a当たり6,650円,増加費用は4,832円となり,増減合計で1,818円が削減できた。さらに,アンケート調査では慣行米に比べ,液肥米に新たな付加価値が生まれる可能性があり,その付加価値増加による利益7,789円を合計すると,利益が約9,600円増加することも明らかになった(秋田県立大学・金澤伸浩)。

▼低投入二毛作水田でのヒメマツタケ廃菌床施用

 廃菌床はキノコ栽培後に廃棄される菌床で,キノコの菌糸はもちろんのこと,キノコが培地を分解する過程で分泌する各種の酵素類,菌床の栄養分を分解して産生される分解産物,利用されずに残存した栄養分などを含んでいる。群馬県高崎市の低投入二毛作水田にヒメマツタケ廃菌床を施用し飼料用水稲‘モミロマン’を栽培したところ,土壌細菌,放線菌,糸状菌すべてが増加し,とくに放線菌群数の増加が顕著であった。土壌硬度は低下し,腐植無機態窒素は増加したが,CEC,交換性塩基類は影響がなかった。草丈,稈長,穂長,穂数,1株当たり結実粒数,子実重量,地上部全重は増加した。コメの内部品質は分枝鎖アミノ酸が増加した(第一工業大学・吉本博明)。

●温暖化への対応

▼東日本と西日本のダイズの発育に対する気温上昇の影響

 ダイズ主要品種の発育モデルを作成し,気温上昇が及ぼす影響を推定した。気温の変化による発育速度の変化は,中生品種の‘リュウホウ’と‘エンレイ’で大きく,晩生品種の‘フクユタカ’で小さかった。平均気温から3℃の上昇を想定した場合は,播種期が早く気温が低い東日本で影響が大きく,開花期が5~7日程度早まる地域もみられた。一方,播種期がおそく温暖な九州では気温上昇による発育への影響はほとんどみられなかった。東日本では発育速度の温度反応性が比較的大きい中生品種を用いていることに加え,栽培期間の気温が温度反応性の大きくなる温度域と近いため,気温上昇による発育速度への影響が大きくなったものと推察された(農研機構 農業環境変動研究センター・中野聡史)。

▼冷水かけ流し灌漑が登熟期の水田水温,稲体温度に及ぼす影響

 近年,夏季の高気温による水稲の高温登熟障害が問題となっている。その対策として,かけ流し灌漑は低温の用水を灌漑することで,田面水やイネを冷却し米の品質を向上させようとする方法である。しかし試験の結果,平均的な灌漑水量の下では,かけ流し灌漑による冷却効果は認められるものの,水田全体に対する大幅な水温低下効果は見込めなかった。かけ流し灌漑は,すべての水田に対して平均的な灌漑水量で実施するのではなく,一部の水田に灌漑水を集中させて実施するほうが,より広範囲に冷却効果を及ぼす可能性がある。高温障害に弱い品種や時期の水田にのみ重点的にかけ流し灌漑を行ない,ほかは節水的な管理を実施する方法も考えられる(東京大学・西田和弘)。

▼香川県におけるヒノヒカリの節水栽培

 香川県の平年の年間降水量は全国平均の7割にも満たない。県内の河川も勾配が急で流路延長も短く,降水が短時間で瀬戸内海に流出してしまう。水資源の安定確保のため,水稲の節水栽培技術について検討した結果,移植後15日ころから30日間程度落水すると用水量は約25%節約できるが,処理終了前の土壌は表面に亀裂が生じるほど乾燥し,このため穂数が不足して収量は20%以上も低下した。一方,移植後25日ころからの20日間程度の落水では,節水率は約20%であるが,収量低下は5%前後にとどめることができた。このため,有効分げつ決定期から幼穂形成期までの3週間の落水が,県内の実用的な節水栽培の限界であると判断される(元愛媛大学・崔 中秋)。

ダイズ,ジャガイモで省力技術

▼水田転換畑でのチゼル有芯部分耕による狭畦栽培

 逆転ロータリの爪の配列を変えて,土中に不耕起部分である「芯」をつくり,湿害だけでなく乾燥害の影響を緩和したのが,有芯部分耕による耕うん播種技術である。作業性向上のためにチゼル爪で「芯」をつくり,慣行の全面耕と比較して,作業速度を90%程度高めることを可能にしたのが,チゼル型有芯部分耕による耕うん播種技術である。一方,中耕・培土が不要な狭畦栽培は増収効果やダイズの被覆による雑草抑制効果が明らかにされているが,個体間の競合で主茎長が伸びて倒伏する場合がある。安定多収生産のためには,倒伏を軽減した狭畦栽培技術の確立が必要である。秋田県大仙市の水田転換畑で両者を組み合わせたところ(図3),慣行の播種量を24%削減した疎播栽培が可能になった(農研機構 西日本農業研究センター・片山勝之)。

図3 左は水田転換畑でのチゼル有芯部分耕によるダイズの狭畦栽培。右はチゼル有芯部分耕による狭畦栽培(左)と慣行栽培(右)


▼ジャガイモの茎葉処理機

 ジャガイモの収穫前茎葉処理では,スプレーヤによる薬剤の散布が,比較的低コストで茎葉処理の効果も速やかであるため,広く利用されている。しかし,近年は薬剤に頼らず機械的に茎葉の処理を行なう取組みも見られる。細断方式は地上部の茎葉を処理する能率は高い一方,引抜き方式は根やストロンまで除去し,作物の生育を速やかに停止させることができ,塊茎の表皮硬化が促進され,収穫時の皮剥けが起こりにくい。そこで,収穫時の妨げとならないよう,引き抜いた茎葉を細断する構造も備えることとし,さらに茎葉を引き抜くさいに,うねが崩れ塊茎が露出することを防止するため,うねを押さえながら茎葉を引き抜ける処理機を開発した(農研機構 農業技術革新工学研究センター・貝沼秀夫)。

イネの根,コムギの分げつ

▼イネの過湿土壌への適応に貢献する根の解剖学的特徴

 イネには通気組織とよばれる空隙が広範囲に発達している。通気組織は,水田やその周辺の湿った土壌に自生するイネ科の雑草の根にも発達している。イネ科植物は種ごとの適応環境にかかわらず,共通して根に通気組織を形成する能力を備えている。そして,過湿土壌に適応するために,根端部への酸素供給を効率よく行なうための仕組みを備えている。つまり,土壌の過湿化に応じて迅速に通気組織を形成する,根の周囲からの酸素の漏出を抑える,皮層を肥大させて,通気組織の形成範囲を広げ,呼吸による酸素の消費を抑える,皮層細胞の配列を細胞間隙の拡大と根の物理的強度を保つために最適化するなどのしくみを併せもっている(名古屋大学・山内卓樹)。

▼北海道での秋まきコムギの分げつ性

 現在の基幹品種‘きたほなみ’は,分げつ出現が旺盛なため穂数管理が難しい。穂数過多による倒伏は光合成量の減少や光合成産物の転流阻害によって千粒重を低下させ,収量は大幅に低下する。さらに,細粒による製品歩留りの低下やアミロース含有率の低下によって品質も著しく低下する。その一方,低収圃場は穂数が少ない場合に多く,過剰な穂数抑制は低収につながる。そこで,穂数と密接に関係する分げつ性を明らかにしながら,栽培管理的要因に起因する収量変動を改善できる栽培管理技術について検討した。その結果,北海道の秋まきコムギでは越冬前の出現分げつで穂数および収量が決定され,越冬前主茎葉齢が大きい個体ほど収量向上に有効であることがわかった(北海道十勝農業改良普及センター・荒木英晴)。