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地球温暖化によってイネの登熟期が高温・寡照となり,白未熟粒の増加や充実不足によるコメの検査等級の低下が大きな問題となっている。水田での水管理やイネの植え方,移植時期,施肥の工夫によって高温障害を防ぐ。効率的な育種の考え方も含めて収録。
深植弱深水栽培による白未熟粒の抑制 水深18cmの深水栽培は弱小分げつの発生を抑制し,有効茎歩合が高まる(図1)。穂数が減少し,一穂籾数が増加する穂重型の生育になり,白未熟粒の発生を抑制する。しかし,水深18cmの湛水管理への農家の心理的抵抗感は大きく,また,物理的に湛水できない圃場もある。そこで,稚苗を植付深5cm程度で移植し,湛水深10cmで管理すると深水栽培と同様の効果がある。田植機は最大植付深が5cm程度になっている機種が多く,容易に導入できる技術である。近中四農研・千葉雅大氏が解説。
図 慣行栽培(左)と深植弱深水栽培(右)の草姿。深植5cm+湛水10cmで有効茎歩合を高めて高温障害を回避
長期湛水による生育改善,背白粒・基白粒の発生抑制 移植後から収穫前まで湛水状態を続けると,基白粒・背白粒の発生が抑えられ,整粒歩合が高くなる。これは,土壌中のアンモニア態窒素量の低下が抑えられ,継続的に稲体に窒素が供給されるためである。湛水によって成熟期の窒素吸収量が高くなると玄米タンパク含有率も高くなるが,食味低下には結びつかない。また,確実な中干しの実施によって土壌硬度が確保でき,コンバインによる収穫作業も問題ない。富山農総セ・川口祐男氏が解説。
移植時期・穂肥施用法による高温障害対策と高温耐性品種(元気つくし)の栽培 米の食味には米粒中のタンパク質含有率が大きく影響する。そのため,2回目の穂肥を省略する施肥法が広がったが,収量低下とともに,近年の高温障害による品質低下を助長している。そこで,2回穂肥について検討したところ,1回穂肥と比べて,収量が向上するいっぽう,玄米タンパク質含有率5.5~6.8%の範囲に収まり,食味総合評価への影響も小さかった。福岡県・宮崎真行氏が解説。
高温条件下でコメの外観品質と食味を両立する窒素施肥法 イネの窒素栄養状態は施肥窒素以外に地力窒素(土壌肥沃度)や移植期の影響を大きく受ける。そこで,外観品質と食味を両立する窒素施肥法について検討した。その結果,肥沃度の高い圃場では移植期を繰り下げて基肥量を減肥する方法が有効である。肥沃度が中庸な圃場では窒素不足による収量減少対策として肥効調節型肥料の穂肥施用が有効であり,収量と品質向上の両立が可能である。福岡県・田中浩平氏が解説。
高温障害に強い品種育成に向けた選抜手法 高温耐性に優れる品種の育成では,生産物(玄米)が調査対象となって多大な時間と労力を要するため,イネの形態的特性と生理・生態的特性との関係を解析。出穂15日後の葉色のSPAD値が高い系統は高温耐性に優れるが,玄米タンパク質含有率も高い傾向にあるので,食味の劣る系統選抜になる危険性がある。そこで,SPAD値が高い系統を選抜するのではなく,低い(明らかに玄米外観品質が劣る)系統を選抜しないことが望ましい。高知県・高田聖氏が解説。
堆肥や稲わらは有用な有機物で,イネの増収に大きく貢献する。そのいっぽうで,未分解の稲わらが水田雑草の発生を促し,堆肥の不均一な散布がイネの生理障害を助長する。
有機物連用田での窒素供給の特徴とイネの生育 コシヒカリを化学肥料の慣行施肥で栽培したところ,堆肥を春に25年間連用した圃場と,稲わらを秋に同年連用した圃場は,有機物を施用していない圃場に比べて増収した。堆肥由来窒素の吸収は最高分げつ期~幼穂形成期が中心で,稲わら由来窒素の吸収は最高分げつ期前に高まり,幼穂形成期に低下し,出穂期前に再び高まった。そのため,堆肥の連用は穂数が増加し,稲わらの連用は一穂籾数が増加し,増収するものと考えられた。栃木農試・吉澤比英子氏が解説。
秋耕起と入水直前の有機施肥浅耕による水田雑草害の抑制 稲わらや有機肥料は水稲に養分をもたらすだけでなく,水稲の生育障害の原因となって雑草を増やすこともある。田植えから最高分げつ期までに分解する稲わら量が増えると水稲の生育が抑えられる。つまり,この間の稲わら分解量を抑えることが,コナギなどの雑草害を減らすことになる。田植えまでに収穫時の稲わら50%の分解を目安に,できるだけ早い秋耕と遅い田植えによって期間中の積算温度1,500度以上を確保する。自農研・岩石真嗣氏が解説。
水稲葉枯症の実態と発生メカニズム 長崎県北部の高標高中山間地の水田で,梅雨明け前後の,まだ葉色が濃い時期に,葉縁に沿って幅数cmが枯れ,灰白色となる。時間の経過とともに水田全体に広がるが,全部の株に症状が現われるわけではない。発症は梅雨期間の日射量不足で顕著となる。その原因を追究。イネの生育は日射量不足で根の生長が強く制限され,堆肥が不均一に散布されている水田は,可給態窒素が相対的に多い地点の株で地上部の生長が促進され,軟弱徒長になる,など。長崎県・渡邉大治氏が解説。
中山間地での基盤整備の考え方から,野生動物による作物被害を減らすための対策,害虫の天敵として働いてくれるクモ類の実態,アジア・アフリカの稲作まで。
中山間地での基盤整備の重要性と技術的課題 中山間地域の農業生産は,農地の団地規模,区画が小さい,水路,農道などの占める面積が大きいなど,平坦地域と比較して不利な条件が多い。一般には勾配が急な場所に位置するほど,畦畔,農道,水路などに付帯する法面の面積が増加する。山腹斜面上などに位置する水田は,畦畔を高くすることで耕区を大きく設定できるが,谷沿いの棚田は谷方向の主傾斜が小さくても,耕区形状は谷幅に制限される。農工研・小倉力氏が解説。
景観構造に着目したシカ食害の仕組み解明 シカの密度と農作物被害との関係は農地周辺の景観構造により変化するといわれている。景観構造にもとづき個体数管理の目標密度を局所レベルで設定できれば,限られた被害防除努力をより効率的に配分できる。許容できる被害限界の生息密度を推定して地図化すれば,シカによる農業被害のリスクマップが作成できる。リスクマップと現在のシカ生息密度とを比較し,被害発生メカニズムを考慮した上で被害対策を講じることが可能になる。東京大・高田まゆら氏が解説。
水田転作ダイズ畑でのクモ類 愛知県内の水田転作ダイズ圃場でクモ類について調査した。水田は地表のくぼみに網を張るサラグモ科の一部や,地表を徘徊するコモリグモ科の多くにとって生息に適していない。水田転作ダイズも栽培期間が短く,輪作され,中耕・培土や灌漑が行なわれるため,攪乱が多い。調査では,クモ類の個体数と農薬やダイズ圃場内外の各種要因との間に相関が認められず,圃場のクモ類の豊富さは周囲の雑草量などの環境要因が複雑に関係していると考えられた。愛知農総試・落合幾美氏が解説。
アジア・アフリカ稲作の多様性と発展 零細性,集約性,生態環境の多様性,農村社会や精神文化との深い結びつきがアジア・アフリカ稲作の特徴。ともに著しい人口増加が続くなかで,水や肥沃な土壌など農業生産に不可欠な資源の制約が強まり,貨幣経済の浸透と激しく変化するグローバル経済の影響を受けている。それぞれの地域に応じた稲作発展の道を明らかにしていくことが持続する社会発展に不可欠である。生態環境基盤と稲作の発展過程という2つの視座のもとに農研機構・堀江武氏が概説。
調湿種子,種子粉衣殺菌剤,晩播狭畦密植栽培,うね立て栽培,緩効性肥料の活用で,湿害回避と品質向上を両立させる。
調湿種子と種子粉衣殺菌剤による出芽の安定化 ダイズの種皮は薄くて透水性が高いため,冠水すると子葉の表層全体から水が急激に浸透する。しかし,種子内部への水の浸透は緩慢であるため,子葉に亀裂が発生する。この亀裂で維管束の一部が断裂し,水や養分の運搬が妨げられる。さらに,種子組織が壊れたり細胞内から栄養分が溶出し,土壌微生物が繁殖する。このため,吸水障害の発生しにくい調湿種子と,種子粉衣殺菌剤の併用がダイズの出芽の安定化に有効である。北農研・国立卓生氏が解説。
ダイズの播種期を決定する諸要因 ダイズの晩まきは,子実収量が低下する恐れがあるため,生育期間の短い早生品種を密植するのが有効である。晩まきは子実中のタンパク質含有量が高まり,健康機能性をもつイソフラボン含量も多くなる。莢先熟は収穫時に茎葉の水分が子実に付着して汚粒となり,著しい品質の低下を招くが,晩まきで発生しにくい。ダイズわい化病はウイルスを保毒した有翅虫の飛来時期が限られており,ダイズの播種期を遅らせることで感染を低減できる。日本大・磯部勝孝氏が解説。
水田転換畑ダイズの晩播による高品質安定生産技術 暖地(北部九州)でのダイズ播種適期は,ちょうど梅雨時期と重なり,梅雨末期は豪雨になることも多く,出芽不良が発生する。出芽不良になると収量も皆無に近くなるため,まき直しが必要になる。いっぽう,梅雨明け後の晩播栽培では生育量が不足し,収量が減少する。そこで,狭畦密植により生育量を確保し,収量が低下しないようにする。狭畦密植では子実が高タンパク化し,裂皮粒の発生も低減し,品質が向上する利点もある。福岡農総試・内川修氏が解説。
うね立て栽培とシグモイド型被覆尿素肥料によるちりめんじわ粒低減 近年,新潟県内ダイズの品質低下が大きな問題となっており,等級格落ち理由の約8割がしわ粒に起因する。その一種である「ちりめんじわ」の発生は子実肥大期の光合成の低下および子実への光合成産物の転流の低下が関与している。そこで排水不良転換畑では,うね立播種などにより開花期までの生育を確保し,緩効性窒素肥料の施用により開花期以降の窒素集積量を確保することで収量,品質を向上できる。新潟農総研・南雲芳文氏が解説。
パン用コムギ品種は北海道のニシノカオリに続き,九州でミナミノカオリの作付けが広がっている。増収と品質向上を両立する施肥法について。
ミナミノカオリの収量向上および子実タンパク質含有率制御技術 ミナミノカオリは製パン適性が優れる硬質コムギ品種であるが,栽培面では穂数が確保しにくく,収量がやや少ない。そこで,さまざまな栽培条件が生育・収量にどのような影響を及ぼすか検討した。その結果,穂肥の増施によって増収効果が見られた。追肥量の目安としては,穂揃期の上位第2葉SPAD値と葉身長により子実のタンパク含有率が予測でき,目標値との差から必要量が計算できることがわかった。長崎農技セ・土谷大輔氏が解説。
ミナミノカオリの製パン適性に影響する要因 出穂期後に窒素を追肥すると,グルテンの量が増加して生地物性が強くなり,製パン適性が向上する。しかし,出穂期以降,コムギの稈が伸長して高くなるなかでの施肥は多大な労力を要する。そこで,乗用管理機で尿素を散布。また,登熟期間が多日照になると,光合成によるデンプン蓄積が促進され,千粒重が重くなり,収量が多くなるものの,子実タンパク質含有率が低くなる。そのため,多日照が予想される場合は追肥量を増やすのが望ましい。福岡農総試・岩渕哲也氏が解説。
アズキの機械収穫体系と加工適性 北海道のアズキは従来,圃場の莢がすべて完熟する前にビーンハーベスタなどで刈り倒し,手作業で島立て,ニオ積み,圃場で乾燥してからスレッシャで脱穀していた。現在は完熟期に刈り倒し,ニオ積みせずに拾い上げ脱穀するピックアップ収穫体系が実用化。気温が低く,初霜害発生の危険性が高い地域でも,密植による生育促進で対応。水稲やジャガイモなどの収穫作業と競合する地域ではコンバインの導入によって省力化。北海道総研・竹中秀行氏が解説。
鉄コーティング直播栽培による滋賀県草津市・木川営農組合の多収例 鉄コーティング直播は,鉄を被覆した種子を専用の播種機でまく方式である。鉄の重さによって発芽後,幼苗が浮遊し移動するのを防ぐ。木川営農組合では2013年,鉄コーティングによる湛水直播栽培で550kg/10aの収量が得られ,白未熟粒や斑点米,胴割れ粒などの発生がほとんどなかった。おもな特徴は水管理で,播種5~6日後,土壌を飽水状態に保つことで,種子の死滅や雀の食害を防ぎ,除草剤も効かせる。秋田県大・川島長治氏が解説。
水稲種籾の温湯消毒法 温湯消毒法は60℃の温湯に10分間種もみを浸漬させる(図2)。薬剤による消毒のような廃液処理なども不要である。ただし,精密な温湯の温度管理とともに,処理後ただちに流水で冷却する必要がある。一部のモチ品種などは発芽率が低下してしまうため,処理時間を6~7分に短縮しているケースもあるが,防除効果の低下を招きかねない。そのほか,貯蔵期間の長い種子,充実度が低い種子,催芽乾燥処理で芽が少し動き始めた乾籾も,発芽が抑制される危険がある。信州大・岡部繭子氏が解説。
図 イネ種もみ温湯消毒の処理装置。簡易な小型(左)から全自動タイプの大型(右)まで