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飼料用や米粉用の米生産は主食用米生産の調整や国産飼料供給、小麦需要の一部代替を通して食料自給率の向上に貢献できる。近年、寒冷地から暖地まで作付け可能で、低コスト安定生産に適した多様な多収品種が育成されている。超多収を実現するためには、炭水化物(デンプンおよび可溶性糖)を詰めるための大きな容器をつくり、その容器にたくさんの炭水化物を詰めなくてはならない。炭水化物を詰めるための容器をつくる能力は籾数で表わされ、その容器に炭水化物を詰める能力は登熟歩合と千粒重で表わされる。また、容器に詰めるための炭水化物は、出穂期までに茎に蓄えた炭水化物および出穂後に新たに葉で生産した炭水化物で表わされる。後者の大部分は、出穂期以降の乾物増加量で表わされる。今回、「水稲多収品種の安定栽培技術」コーナーを新設し、多収研究の背景と歴史、多収事例と栽培条件、多収品種の収量ポテンシャル、栽培の注意点について、中央農研北陸・吉永悟志氏が「多収品種の収量ポテンシャルと多収要因」で解説。
各論は「北海道」での多収技術について北農研・林怜史氏が解説。乾物生産量を増やすには、イネの生育期間を長くするのが有効であるが、生育期間が低温である北海道では困難。そこで、多収品種(きたあおば)の乾物生産性や収量性を一般品種(きらら397)と比較し、多収を得るために必要な要因を明らかにした。また、多収栽培を行なうためには多肥栽培が不可欠であるいっぽう、寒地稲作で大きな問題となる障害型冷害による不稔は、多肥になるほど増加するというジレンマを抱えている。そこで、冷害年でも減収程度の少ない、安定的な施肥設計についても検討。
「東北地域」は東北農研・大平陽一氏が解説。多収性の日本型品種(ふくひびき)、大粒の日本型品種(べこあおば)、インド型品種(タカナリ)を用いて約10年間、移植栽培条件で化学肥料のみを用いた多肥試験を行ない、多収となる品種特性や気象条件の影響を検討。また、安定して多収を示した品種(べこあおば)について、窒素施用量や窒素追肥時期、栽植様式の影響を検討し、想定される多収栽培技術と今後の課題を示す。
「関東地域」は中央農研北陸・吉永悟志氏が解説。関東平野部は障害型冷害の危険性が低く、耐冷性の低いインド型品種(タカナリ、ハバタキなど)の作付けも可能であり、多収研究の材料としても活用されてきた。近年育成された多様な多収品種の生育特性とともに、収量ポテンシャルの品種間差について整理。
インド型多収品種「北陸193号」登熟中期の草姿
「中国地域」は近中四農研・長田健二氏が解説。中国地域の水稲は温暖地の一般的な特徴として生育期間が高温条件で推移するため、超多収をねらって多肥栽培を行なうと地上部の生育量が増大しやすい。窒素吸収量当たりの籾数生産効率が寒冷地と比較して低く、肥料を投入した割には籾数が確保しにくい傾向もある。また、地上部の生育が過剰になると受光態勢の悪化や倒伏が生じやすく、生育後期の乾物生産の低下が登熟不良につながることに加え、出穂後の高温による登熟期間の短縮やたびたび襲来する台風も不利な条件となる。さらに、いもち病や紋枯病、ごま葉枯病、縞葉枯病などの病害や、ウンカ、ヨコバイ類、コブノメイガなどの虫害発生面積も多い。このような栽培条件下で超多収を得るための道筋を示す。
「西南暖地」は作物研・中野洋氏が解説。近年、西南暖地向きに育成された他用途多収品種(ミズホチカラ)は、日本型品種とインド型品種を掛け合わせた品種で、籾数がきわめて多いが、登熟歩合は年により低くなることがある。つまり、ポテンシャルは高いが、それを十分に発揮できていない。収量を高位安定化させる栽培技術を追究。
バイオエタノールは、バイオマスを発酵させ、蒸留して生産されるエタノールである。バイオマスは再生可能な生物由来の有機性資源のうち、化石資源を除いたもの。化石エネルギー源のように局在していないため、経済的に収集できるかどうかが大きな課題であるが、世界中のあちらこちらに広く存在しているため、潜在的な利用可能量は非常に多い。再生可能エネルギーのほとんどが電気の形に変換されるのに対し、バイオマスエネルギーは固体・気体・液体と、さまざまな形で利用できる。なかでもバイオエタノールは液体の形でガソリンと混合して車の燃料にできるため、石油枯渇対策だけでなく、地球温暖化対策としても有効である。今回、「バイオエタノール」コーナーを新設し、総論「バイオエタノール原料作物の栽培研究」を東京大・森田茂紀氏が解説。
各論では水田が活用できるデンプン系&セルロース系資源作物「水稲」を作物研・根本博氏が解説。近年高い収量性と優れた栽培性に重点をおいて開発が進んでいる飼料や米菓原料向けの多収性水稲品種は、バイオエタノール原料として一般の主食用品種よりも期待できる。とくに、飼料用品種にはコメが多収の飼料用米品種と、稲わらが多収の稲発酵粗飼料用品種があり、それぞれ利用できる。
糖質系資源作物「サトウキビ」を九沖農研・服部太一朗氏が解説。搾汁中または粗糖生産後の糖蜜中の糖分を発酵させてエタノールを生産。サトウキビからのバイオエタノール生産技術は、主要サトウキビ生産国を中心に、製糖技術と一体的に発展してきた。最近では、セルロース系の資源作物としての視点からも、サトウキビ育種や製糖産業に新たな展開が生じつつある。
セルロース系資源作物「エリアンサス」を九沖農研・加藤直樹氏らが解説。イネ科のC4植物エリアンサスはサトウキビの近縁種で、定植後3年目には草丈約5m、乾物収量は約40t/haにも達する多年生の植物。乾燥などの不良環境に対する適応性が高く、高い物質生産力をもつ。多年生で収穫後も刈り株から再生長し、一度圃場を造成すれば永続的に継続して収穫できること、施肥量が少なくても高い乾物収量を継続して維持できるなど、省力的に栽培できる。
水田畑作の最大の課題は湿害対策であるが、地下水位を低下させ過ぎると逆に干ばつが発生することもある。従来から実施されてきた暗渠排水施設を利用した地下水位制御は、水閘の開放と閉鎖のどちらかであり、各作物が生育期別に必要とする地下水位の設定が困難であった。そこで、暗渠排水機能の維持に必要な管理と地下水位制御、水稲栽培時の水管理も容易に行なえ、圃場の整備水準の向上に換地などをともなわない地下水位制御システムを開発。農研機構フェロー・藤森新作氏が「FOEAS(フォアス)の特徴と効果」で解説。
雨滴による物理的な破壊やスレーキングなどにより土壌表面の団粒が壊れ、分散した粒子が孔隙の目詰まりを起こす現象がクラスト(土膜)である。クラストの生成は透水性の悪化を引き起こし、土壌侵食を助長し、通気性を低下させ、クラストが乾燥すると緊密な薄層が生じ、出芽を妨げる。とくにダイズは大きな子葉を地上部に持ち上げ出芽することから、出芽時の種子近くの土壌の硬さや土塊の大きさなどの物理的性質が大きな影響を与える。農環研・小原洋氏が「転作ダイズでの土壌クラストの影響と対策」で解説。
ダイズシストセンチュウは、ダイズ作の難防除害虫で、世界的に見ても被害面積が大きい重要病害虫の一つである。昔から「月夜病」と呼ばれ、畑に丸いスポット状に生育抑制、葉の黄化症状を生じる。莢数や粒数の減少、さらに小粒化などにより収量が大きく減少する。発生は連作圃場で多く見られ、激しい場合には枯死する。その耕種的防除技術について、中央農研・田澤純子氏が「耕起法、施肥管理、作付け体系によるダイズシストセンチュウの抑制」で解説。
コムギでは、北海道北見農試・佐藤三佳子氏が「春まきコムギの収量・子実タンパク向上技術」を紹介。春まきコムギは、品種改良により農業形質やパン品質が向上してきたいっぽう、秋まきコムギ栽培よりも生育日数が少なく、収量を確保しづらく、穂発芽や赤かび病などの障害を受けやすく、生産が不安定になりやすい。収量・品質(タンパク含有率)向上のためには、それぞれの品種の特徴にあった栽培管理が重要である。
土地利用型の作物であるダイズ・ムギ類を水田に導入する場合、田畑転換が可能な大区画の乾田が望ましい。しかし、畑への転換が困難な小区画の湿田では転作への具体策に乏しい。土壌が乾かず、常に過湿条件となっている湿田や、湿田以上に田面水が多く貯水されている湛水田でも栽培可能な、有用な作物が適切に導入できれば、今後の耕作放棄地の拡大防止や農業の多面的機能の維持、地域水田農業ビジョンに対応できる有効な手段となる。長野農試・細井淳氏が「湿田・湛水田に適した新規水田転換作物」で、代表的な3種の作物エンサイ、マコモ、タイモの栽培や利用方法、さらに景観作物・長大型飼料作物であるカンナ類の可能性について紹介。
乳苗は稚苗よりも小さく、胚乳が残っているため、水温が多少低くても活着し、分げつ力も強い。厚まきで苗箱数が減り、育苗期間も短く、一般の田植え機で移植できる。しかし、床土にロックウールなどの専用マット、西南暖地の普通期栽培では使用しない育苗ハウスや育苗器、植付け精度を高めるために専用の植付け爪が必要になる。さらに、直播より冠水耐性に優れるとはいえ、苗丈が短く、移植後に苗が水没して農家が不安になり、普及が進んでいない。そこで、新たな資材や施設を必要とせず、農家も安心できる育苗技術を開発。佐賀農試研セ・森敬亮氏が「新たな乳苗育苗法(短期苗)による省力移植栽培」について紹介。
育苗箱全量施肥は、水稲が成熟期までに必要とする施肥窒素分を専用のシグモイドタイプの肥効調節型肥料により育苗箱に施用し、移植時に苗とともにかき取られた肥料が本田に施用される方法である。施肥窒素の利用率がきわめて高く、慣行の速効性肥料による全層施肥栽培に比べて減肥が可能である。慣行栽培に比べて初期生育の茎数が不足するものの、有効茎歩合は高くなる。茎数の不足は低節位からの分げつ発生が少ないためと考えられる。そこで、育苗箱全量施肥栽培での分げつ発生の特徴を検討し、県の目標収量を確保した場合の品質や食味関連形質との関係を明らかに。「育苗箱全量施肥による分げつの特徴と高品質米生産」で秋田農試・三浦恒子氏らが解説。
湛水直播では苗立ち不良が起きやすい。これは水田に張った水のために酸素が土壌中の種子に届きにくいからである。土壌中に酸素を供給するため、過酸化カルシウム剤が種子に被覆されたが、資材費や被覆の手間がかかることから近年、鉄コーティング直播が注目されている。種子に鉄粉を被覆して土壌表面に播種することで苗立ち不良が回避でき、雀害に強く、流れにくい。しかし、被覆後の発熱管理に手間がかかり、軟らかい土壌に播種すると被覆種子が埋没して苗立ち不良になったり、酸素不足で生成する硫化物イオンが苗立ちを阻害する場合もある。そこで、作物の必須元素であるモリブデンを用いることで硫化物イオンの生成を抑制。九沖農研・原嘉隆氏が「モリブデンを用いた種子被覆技術」について紹介。
コシヒカリは、いもち病に弱い。いもち病は収量だけでなく品質にも大きく影響する。優れた防除薬剤の普及により、コシヒカリは栽培が安定化するいっぽうで、農薬に強く依存するようになった。そこで新潟県では、コシヒカリの優れた食味特性はそのまま残し、いもち病に対する抵抗性だけを改良した品種を開発し、いもち病真性抵抗性同質遺伝子系統群から構成されるマルチラインを実用化。新潟農総研・石崎和彦氏が「コシヒカリ新潟BLシリーズ」の開発と普及について解説。
栃木県内のコシヒカリ産地の数十年にわたる調査データを、重回帰分析、クラスター分析、主成分分析といった多変量解析によって、玄米の外観品質を変動させる要因と、生育や収量の地域による違いを整理。外観品質に影響を及ぼす地域特異性を明らかにし、県内の生産環境ごとに水稲栽培の細やかな技術指針を作成。栃木塩谷南那須農振事務所・大谷和彦氏が「栃木県の水稲の品質変動要因と地域間差異」で解説。
疎植栽培は株間を広くして栽植密度を少なくし、必要な育苗箱数を減らすことにより、播種・育苗管理・苗運搬作業の省力化や生産費の削減を可能にする。既存の田植機でも対応できることから、経営規模に関わらず、導入しやすい。そこで、寒冷地北部で疎植栽培した‘あきたこまち’で、標準栽培と同程度の収量が確保され、品質、食味も維持できる追肥技術について検討。秋田農試・松波寿典氏が「寒冷地北部の‘あきたこまち’疎植栽培での追肥技術」について解説。
緑肥は休閑期の土壌浸食を防止し、窒素などの養分の溶脱や流亡が防げる。さらにマメ科の緑肥であれば、根粒菌の窒素固定による土壌への窒素供給を期待できる。堆きゅう肥の入手が難しく、花崗岩母材で低肥沃度土壌(マサ土)の広がる西南暖地では、緑肥の使用が土壌肥沃度向上のために有効である。茨城大・浅木直美氏が「緑肥施用水田の土壌(水)管理が水稲の収量・品質に及ぼす影響」について解説。
水稲有機栽培では、除草剤を使用せずに雑草の発生を抑制したり、生えた雑草を除去する。現在までに多種多様な技術が試行されているが、水田内で放飼した生き物を利用する生物的防除、水田に投入した有機質資材の分解などによる化学変化を利用する化学的防除、農業用機材などを利用して物理的な作用を与える物理的防除がある。より高い除草効果を得るため、これらを組み合わせた技術も含め、「水稲有機栽培での水田雑草の耕種的防除技術」を長野農試・細井淳氏が解説。
アレロパシー(他感作用)は、植物自身がつくり出す天然の化学物質が葉や根から出て、他の植物、微生物、昆虫に対して生育阻害や生育促進などの影響を及ぼす化学的相互作用である。稲作でもイネ自身のアレロパシー活性によって水田雑草が制御できるのではないか? 宮崎大・松尾光弘氏が「イネのアレロパシー活性を利用した雑草制御の可能性」で解説。