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転作ダイズでは出芽時の湿害を回避すべく、農研機構が開発した耕うん同時畝立て播種(アップカットロータリ利用)が普及し、さらに岩手県が開発した「小うね立て播種」も広がっている。とくに小うね立て播種は、稲作農家なら誰でも持っている代かき用ハローの爪を付け替えるだけなので取り組みやすい。技術開発の背景とねらい、うね立ての原理、圃場の準備とトラクタの選択、爪配列の考え方と特殊なケース、代かきハローへの播種機の装着パターン、オプション部品の装着、播種機の性能、導入効果、普及状況とマニュアルの作成、他作目への応用など、「小うね立て播種栽培」について岩手農研セ・高橋昭喜氏が解説。さらに、耕うん同時畝立て播種や小うね立て播種などの湿害回避技術を巧みに取り入れている岩手県奥州市江刺区「土谷グリーンファーム」について岩手中央農改セ・荻内謙吾氏が紹介。
水田では土壌の酸性化が進んでいる。実際、ダイズの生産性が低下している圃場では、pH5以下の水田も見られるという。生育が土壌のpHに大きく影響されるダイズは8割以上が水田転換畑で栽培されている。各地で進む水田土壌の酸性化とその原因、作物の養分吸収に及ぼす土壌pHの影響、ダイズに対する収量と病害への影響、土壌pHの調整について「水田土壌の酸性化(低pH化)とダイズの生産性」で中央農研・島田信二氏が解説。
ダイズ栽培での湿害回避技術
左:小うね立て播種,右:慣行
ダイズの発芽障害は湿害が原因と考えられているが、じつは土壌病原菌の感染も大きいようである。湛水条件でのダイズ種子の生存、湿害に関与する病原菌、湿害を起こす卵菌類の性質、弱病原性卵菌類による出芽不良の防除対策、苗立枯病、茎疫病、白絹病、黒根腐病、その他の病害による苗立ち不良などについて「ダイズ立枯性病害による出芽障害とその対策」で中央農研・加藤雅康氏が解説。
近年、ヒルガオ科の帰化アサガオ類、ナス科のイヌホオズキ類やホオズキ類、ウリ科のアレチウリなどが新しい問題雑草となってきた。これらはいずれも広葉の帰化雑草で、除草剤の効果が低い。問題雑草の現状、帰化雑草の侵入、雑草防除の基本、除草剤を使った対策技術、最近問題となっている難防除帰化雑草の生態と対策について、「ダイズ栽培での問題雑草と防除技術」で中央農研・澁谷知子氏が解説(以上、第6巻)。
寒冷地の日本海側では、直播水稲の収量水準が移植水稲に及ばず、転作ダイズも土壌の過湿や過乾燥の影響を受けやすく収量・品質とも高くない。そこで、水稲―ダイズ―水稲の3年で一巡する、低コストで生産性の高い輪作体系が構築された。「寒冷地1年1作」で東北農研・白土宏之氏、片山勝之氏が紹介。水稲は直播向け品種の密封式鉄コーティング籾を無人ヘリで湛水直播し、水稲収穫後の秋は明渠のみで耕うんしない。ダイズの施肥は乾土効果が見込めるため必要なく、市販ロータリーの爪を改変して有芯部分耕同時播種を行なう。3年目はダイズ後作なので、基肥窒素を減らして初年目同様にヘリ散播を行なう。
同じく寒冷地の日本海側では秋田農試・佐藤雄幸氏らが「水稲無代かき直播とダイズ無培土栽培の組合わせ」を紹介。水稲は育苗や中間管理作業などで労働時間が多く、物財費が高い。転作ダイズは湿害があり、復元田での水稲の生育は不安定で、降雨などにより適期作業ができない。そこで、代かきをしない水稲栽培と、ダイズの狭畦密植・散播浅耕栽培を組み合わせた輪作体系が開発された。
北陸や東山地域になると2年3作体系が可能であるが、積雪が多く、土壌も重粘土が主で過湿になりやすく、転作ダイズとムギ類の収量が不安定になりがちである。そこで、改良型アップカットロータリを利用したダイズの耕うん同時畝立て播種機のムギ類への汎用利用、中耕・培土など中間管理を省略できるダイズ狭畦栽培を導入し、水稲はエアーアシスト条播機による直播栽培技術を開発。「日本海側・寒冷地2年3作」で中央農研・関正裕氏が紹介。
いっぽう、宮城県古川農試・星信幸氏は「太平洋側・寒冷地2年3作」を紹介。イネ・ムギ・ダイズの播種作業は、アップカットロータリの爪配列を変更して溝をつくり、往復の作業工程で広畝ベッドを成形する。ムギ後ダイズは無中耕・無培土で雑草発生が少なく、収量や粒大を落とさない晩播狭畦栽培を導入。収穫は普通型コンバインを利用し、イネ後は高刈り収穫の残稈をフレールモアで細断し、後作物への切替えを効率化した。
西日本では、三重農研・中西幸峰氏が「イネ・ムギ・ダイズの2年3作輪作体系」を紹介。小明渠浅耕播種機をできるだけ利用して機械費を節約しながら、水稲(コシヒカリ)はダイズ跡の乾田直播栽培で、コムギは小明渠浅耕播種機栽培で、ダイズ(フクユタカ)は無中耕・無培土栽培で収量の安定化をはかった。
九州では、多雨・多湿条件がムギ類で生育・収量・品質の低下、ダイズでまき遅れや出芽不良による収量低減、汚粒による品質低下をもたらしている。また、イネではスクミリンゴガイの食害で直播栽培が広がっていない。そこで、水稲は鉄コーティング種子のショットガン直播・高速点播・低コスト施肥のほか転作による乾田化をはかり、ダイズは種子調湿技術とムギ跡で耕起と播種を同時に行なう耕起一工程播種と収穫時にロール式受け網を導入し、ムギはチゼルプラウによる心土破砕、表層散播栽培を組み合わせて圃場の排水性を改善。「暖地2毛作」で九沖農研・深見公一郎氏が紹介(以上、第8巻)。
総合的雑草管理(Integrated Weed Management)とは、複数の防除技術を組み合わせて、雑草の発生・生育量を経済的許容限界以下に抑える管理システムである。無意識あるいは意識的に行なわれるさまざまな雑草抑制・防除技術をうまく生産現場の状況に合わせて体系化し、長期的な視点で持続的な雑草管理を目指す。「水田での総合的雑草管理(IWM)の基本」で中央農研・渡邊寛明氏が解説。
雑草の抑制・防除技術は圃場によって効果が大きく変動することが多い。これは雑草の埋土種子の量や種構成の違いに起因すると考えられている。潜在的な雑草発生量を推定できれば、作付けの適否や適切な防除法の選択などに役立つ。「雑草の埋土種子調査とリビングマルチ栽培への適用例」について東北農研セ・小林浩幸氏らが解説。
水稲乾田直播栽培での慣行の除草体系では、刈り払いなどが行なわれている水田畦畔を発生源として侵入するイボクサが問題になる。さらに、水稲の早期栽培地帯では、イネ収穫後にイボクサが再生し、種子が生産され、翌年以降の発生源となる。「畦畔管理・耕起による乾田直播栽培でのイボクサ防除」について三重農研・中山幸則氏が解説。
これらIWMのほか、「グラウンドカバープランツによる畦畔管理」では、その種類と特性、育苗・定植と維持管理、日本シバの植栽、チガヤとノシバの混植マット、大規模機械吹き付け植栽などについて兵庫農技セ・福嶋昭氏が解説(以上、第8巻)。
稲作は他の作物栽培に比べて非常に多くの農業用水を必要とする。そのため、中国やインドなど、水資源の枯渇が懸念される地域では、その有効利用が問題となっている。水資源の節約と多収穫を両立する技術「エアロビック・ライス法」について東京大学・加藤洋一郎氏が紹介(第1巻)。
近年は温暖化で高温になることが多く、水稲では登熟障害、玄米の一部あるいは全体が白く濁る「白未熟粒」の発生が多くなっている。玄米品質の収穫前推定の必要性、乳心白粒発生の推定方法、推定方法の検証、推定装置の開発などについて「収穫前玄米から乳心白粒の多発を推定する技術」で九沖農研・森田敏氏が解説(第2-(1)巻)。
山口県では稲の生産量を確保しつつ、化学肥料と化学農薬を慣行基準から合理的に50%以上削減する技術を確立。この「エコ50水稲栽培技術」について山口農技セ・池尻明彦氏が紹介(第2-(2)巻)。
イネでは高温耐性に優れ寿司米に向く‘笑みの絆’(中央農研・笹原英樹氏)、清酒と泡盛双方に向く酒米‘楽風舞’(中央農研・長岡一朗氏)を紹介。
ムギでは北海道で初めての超強力コムギ‘ゆめちから’(北農研・田引正氏)、早生多収の通常アミロース含量品種‘さとのそら’(群馬農技セ・?橋利和氏)、オオムギ縞萎縮病に強く成熟期の稈が折れにくい‘カシマゴール’(作物研・柳澤貴司氏)を紹介(第4巻)。
サツマイモでは形状・貯蔵性に優れる焼酎原料用品種‘サツママサリ’、老化しにくい高品質なデンプン原料用品種‘こなみずき’(作物研・片山健二氏)を紹介(第5巻)。
ダイズでは早生で青立ちが少なく多収の豆腐用品種‘はつさやか’(近中四農研・猿田正恭氏)、晩播・多収の味噌用品種‘あきまろ’(近中四農研・高田吉丈氏)を紹介(第6巻)。
ソバでは多収かつ大粒で製粉特性に優れる品種‘レラノカオリ’(北農研・森下敏和氏)、耐倒伏性で大粒の夏まき栽培用新品種‘にじゆたか’(東北農研・由比真美子氏)を紹介(第7巻)。
さらに、挿し苗が一般的なサツマイモで大幅な省力化が期待できる「直播栽培の利点と播種方法」では、九沖農研・境哲文氏がナエシラズ、ジェイレッド、ムラサキマサリ、タマアカネといった直播用品種も含めて解説(第5巻)。