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ひろがる「疎植栽培」の基本と応用
近年,イネの苗にかかわる作業の省力,高温障害回避による米の品質向上などをねらい,メーカーによる対応機の開発・普及もあって,疎植栽培が広がっている。今回は第2-(2)巻に新しいコーナー「疎植栽培」を設け,冒頭記事の本田強氏(環境保全米ネットワーク)は次のように疎植栽培の意義を強調する。
「地域ごとに異なる自然とつくり手の共同性,自然のもつ多様性とつくり手の英知や伝承を今日的に活かし引き出すことで,今日一般的である植付け株数(苗数)の規制から開放し,地域性や土壌条件,経営内容をも考慮に入れた栽培を可能にする,また,つくり手の個性を活かしやすい楽しいイネづくりである」(「疎植栽培の歴史と意義,生育の特徴」から)。健苗の疎植によって,茎数過剰による無効茎の増加や活力の低下を回避し,出穂50日前から出穂期までの生育転換をスムーズに進め,確かな登熟へとつないでいく,その筋道を示す。
また,佐藤徹氏(新潟県農業総合研究所)の「密播育苗と疎植栽培を組み合わせた省力技術」は疎植栽培の応用技術である(写真1)。苗箱当たり乾籾播種量と坪当たり植付け数を,慣行の140g・60株から,250g・40株にすると,収量・品質を落とすことなく,使用苗箱数が3分の1に減る。まるで線香のようなヒョロ苗であるが,今は高温登熟を避けるために移植時期を遅らせており,移植後の低温による活着不良や初期生育の不良を心配しなくてよい。
写真1 密播育苗の播種量(2007年,市川撮影)
左:250g播種(密播育苗),右:140g播種(稚苗育苗)
そのほか,物質生産と収量・品質のかかわり,夏季高温による品質低下の抑制,育苗箱全量施肥(箱底施用),基肥窒素無施用,田植機をめぐる技術と課題,地域での体系的な取組みについて収録する。
いよいよ「直播栽培」を農家が展開
直播栽培は乾田・湛水を問わず,多くの研究機関で次々と成果が出されているが,生産現場での技術の蓄積も大きく進んでいる。第3巻では二人の農家事例を紹介する。
青森県青森市の福士武造氏は,既存の暗渠設備に少し手を加えるだけの簡単な施工で,水のかけ引きが早くでき,地上・地下とも水位を自由に決められる「地下灌漑法」を開発した。この地下灌漑法で不耕起V溝直播栽培の苗立ちがよくなり,雑草も抑制できる(「地下灌漑法で寒冷地の乾田直播に成功」から)。
福岡県桂川町の古野隆雄氏は,播種までに生えてくる畑地雑草を耕起で,湛水後に生えてくる水田雑草をアイガモで抑え,問題となる播種から湛水までに生えてくる雑草を冬期サブソイラによる圃場乾燥と中耕除草機による条間攪拌・株間培土で抑える(「アイガモ水稲同時作による有機乾田直播栽培」から)。
そのほか,第2-(2)巻では,ムギの高速播種で用いられる「グレーンドリル」による寒冷地向け乾田直播技術,湛水直播機のフロートに装着する「作溝装置」による苗立ち向上技術も収録する。
除草剤に頼らない「水田除草」技術
有機栽培への関心に応えるべく,第2-(2)巻では除草剤に頼らない水田除草技術を収録する。
「うね立て耕起など耕種的な方法による水田雑草の抑制」では,MOA自然農法が全国調査を行ない,雑草の抑制に成功している農家に共通する管理技術として,秋や春の「うね立て耕起」を見出している。推測されるメカニズムは,排水性向上による土壌中の稲わら分解で還元条件を好む雑草を抑制する,低温・乾燥によって雑草種子が休眠から覚めにくくなったり,多年生雑草の塊茎を死滅させる,トロトロ層の形成で雑草種子を埋没させる(写真2),ゴロゴロ土によるイネの生育促進で雑草の生育を抑制する,としている。
写真2 うね立て耕起による稲株の土壌断面図(青森県南部町)
また,「固定式タイン型除草機による除草方法――有機栽培への適用事例」では,株間が除草でき,水稲への影響の小さな乗用除草機を,移植から中干しまで10日間隔で走らせ,さらに2回の代かきと深水管理を組み合わせることで,85~95%の雑草を抑えている。
ダイズ増収,コムギ・ハトムギ特産化
第6巻ではダイズの増収技術として「優良根粒菌接種・深層施肥による生育促進と晩期窒素供給で多収栽培」「ヘアリーベッチ緑肥による有機ダイズの省エネ・増収栽培――生産性の向上とCO2排出削減を目指して」を収録する。
第4巻では,喜多方ラーメンで親しまれる福島県での「硬質でタンパク質含量が多いパン用コムギゆきちからをラーメンに」,オーストラリア産コムギ「ASW」に引けをとらない北海道での「製粉性・製麺性・穂発芽耐性に優れる多収コムギ品種きたほなみ」,第7巻では多収新品種あきしずくが普及する富山県での「ハトムギの生産・流通・消費・機能性」(写真3)など,いずれも品種に着目した特産化をはかっている。
写真3 ペットボトル飲料「氷見はとむぎ茶」の
ラインアップ
(280ml,350ml,500ml)
そのほか,第2-(2)巻「ノンストップ無人田植えロボット」(写真4),第1巻「新潟県における新形質米の開発と普及」も,ぜひご覧いただきたい。
写真4 ノンストップ無人田植えロボット