農業技術大系・果樹編 2018年版(追録第33号)


・モモ――生理、品種と基本の技術
・ナシ、リンゴ――果実障害の発生と対策
・カンキツ、ブドウ――技術、事例


モモ――生理、品種と基本の技術

 今号はモモの大特集となった。

 各産地の試験場、とりわけ山梨県果樹試験場の先生方には力をふるっていただき、生育ステージ別の各管理(摘蕾・摘花、人工受粉、摘果、除袋、収穫期の判断)から樹形構成と仕立て方、整枝・剪定の方法(図1)、土壌管理と施肥、開園・新植・接ぎ木、連作障害の回避、樹体凍害・雪害対策(写真1)、ハウス栽培、また、せん孔細菌病、モモハモグリガなど重要病害虫の解説まで、モモ栽培の基本をたっぷり収録。また、近年明らかになった果実の軟化生理のメカニズム(農研機構果樹茶業研究部門・立木美保氏)や、低温要求時間が日本の主要品種の約半分に短縮された‘さくひめ’など新世代のモモ5品種を紹介したほか、モモの多様な血縁関係が概観できる品種の系統分類と栽培特性からみた分類(農研機構果樹茶業研究部門・八重垣英明氏)の解説など、基礎的な生理生態情報も収めた。




図1 モモ主枝先端の縮伐
縮伐後の反発を小さく抑えるには先端として残す枝の選択が重要となる。主枝の方向に対して横方向に広がった枝(A)、または下垂した枝(B)を先端の枝として選ぶ



写真1 アルミ蒸着気泡緩衝材の主幹部被覆によるモモ凍害対策
主幹部にそのまま巻き付け養生テープなどで留めれば、簡単に被覆できる

 生産者事例では、果樹産地ではめずらしい集落営農モデルを紹介。山梨県甲州市の中萩原らくらく農業運営委員会では、既存の樹園地を基盤整備、集約化し、新たに10a当たり7〜8本の疎植でかつ低樹高の園地を造成、省力と収益性をアップするとともに遊休農地の解消、担い手育成も実現している。次世代につながる営農モデルとして山梨県で注目の取組みを、山梨県果樹試験場の曽根英一氏に紹介いただいた。 ウメ――‘露茜’栽培と加工のポイント

 モモと同じ核果類では、近年注目のウメ‘露茜’を取り上げた。ご承知の通り、農研機構果樹研究所(当時)育成の品種で、梅酒や梅ジュースに加工するときれいな紅色がつき、加工業者にとっては魅力的な素材。このつくりこなし技術(写真2)と早期多収のポイントを、和歌山県西牟婁振興局農業水産振興部・竹中正好氏に整理いただくとともに、和歌山県果樹試験場うめ研究所の大江孝明氏には栽培方法と果実品質との関係や、少々若めの果実を収穫しエチレン処理することで果肉の赤みをより深める着色向上技術を併せて紹介いただいた。




写真2 露茜は枝先の切返しにより着果性が向上し、玉揃いも良好となる
上:枝先を切り返していない枝、下:枝先を切り返した枝

ナシ、リンゴ――果実障害の発生と対策

 もう一つの特集は、果肉障害、裂果など果実の生理障害の発生と対策である。

 果実障害は果実の生理、生化学的な変化や、土壌・樹体の水分不足、養分の過不足、さらには品種の特性、樹齢などによって引き起こされるが、温暖化に伴う生育環境の変化や高齢化している作業環境もそれらを促進する。今号ではニホンナシの果実障害をメインに取り上げ、鳥取大学・田村文男氏にその総説とユズ肌症について、また‘あきづき’‘王秋’のコルク状果肉障害を農研機構果樹茶業研究部門・三谷宣仁氏に、‘にっこり’の水浸状果肉障害を栃木県農政部経済流通課・大谷義夫氏にそれぞれじっくり解説いただいた。また大谷氏には、‘豊水’みつ症の挿し木苗や台木利用による発生軽減対策と、その対策につなげるうえで有効なみつ症の発生予測式の活用についてもご案内いただいている(写真3)。




写真3 比重1.031の塩水を用いた簡易なナシ果実生理障害予測法(2007年の結果)

 ところで、生理障害といえばリンゴは「つる割れ」、裂果が古くから課題だったが、1-ナフタレン酢酸ナトリウムの実用化以降、‘ふじ’ではその発生を半減、もしくはそれ以下にさせることも可能となった(青森県産業技術センターりんご研究所・葛西智氏)。また、すぐれた食味から交雑親として後代の品種育成に大きく貢献した‘千秋’はこの裂果性がとくに強く、経済品種としてはなかなか定着できなかったものの、秋田県果樹試験場・上田仁悦氏によれば、裂果という形質が遺伝的であり、栽培管理でコントロールするのはきわめて困難で選抜段階での排除が重要であることを明らかにできた点で意義深い品種であったとしている。

カンキツ、ブドウ――技術、事例

 最後に、カンキツとブドウでも基本的な技術情報と生産者事例を収録した。

 カンキツでは、樹冠下にシートマルチを被覆するマルチ栽培が高品質生産の標準となっている。しかし、今日ではさらに根の生育範囲を防根シートなどであらかじめ限り、水分制御をより確実にする根域制限マルチ栽培が各地で導入されている。今号では2001年から現地栽培が始まり、現在約10haまで栽培面積が広がっている佐賀方式のそれを、佐賀県果樹試験場の田島丈寛氏に整理、解説いただき、本技術のマニュアルとしていただいた。

 また生産者事例でも同じ九州・福岡県の、JAみなみ筑後柑橘部会の実践を紹介。10月中下旬の単価(2017年実績352円/kg)としては日本のトップクラスを誇る品種‘北原早生’をはじめとする同地の「山川みかん」、その生産技術およびブランド化と販売戦略、部会運営などについてJAみなみ筑後営農部の山口亮氏に報告いただいた。

 ブドウでは、生果と異なる醸造用ブドウの仕立てと剪定(山梨県果樹試験場・渡辺晃樹氏)、赤系品種で人気の‘クイーンニーナ’のつくりこなし(山梨県果樹試験場・宇土幸伸氏)、また生産者事例では、排水改善と小さな葉づくりで、‘ナガノパープル’などの裂果を防いで高品質安定生産をしている柴壽氏(長野県実際家)の取組みを収めた。

 今号も改訂・新規とも力作が揃った。ご一読いただき、それぞれにお役立ていただければ幸いである。