農業技術大系・果樹編 2017年版(追録第32号)


・シャインマスカットつくりこなしと最新技術
・ロケット整枝とこれっきり摘粒法
・未熟粒混入症
・省力・低コストの新肥培管理
・温暖化の影響と各種対策技術
・カンキツ・リンゴ・ナシ注目新技術、ほか品種情報


シャインマスカットつくりこなしと最新技術

 この号でもブドウを大きく取り上げた。メインは‘シャインマスカット’(以下、シャインと略)のつくりこなしの各技術。

 ご存知のとおりシャインは2007年の苗木販売開始以来急速に栽培面積を拡大し、いまや‘巨峰’‘ピオーネ’‘デラ’に次ぐ4番手。この面積は今後さらに増える傾向にある。いっそうの生産量増加が見込まれる(日本大学・山田昌彦氏)なか、シャインの有利販売を続けるうえで注目されるのが、前号でも紹介した収穫時期延長と長期貯蔵による流通期間の延長である。国産ブドウの出荷は8〜10月に集中して、11月以降はきわめて少ない。この時期に出荷できれば、お歳暮やクリスマス、年末年始の需要にもばっちり対応できる。ただ、シャインには果実成熟に伴う果皮障害の問題があり、収穫期を延長する際のネックとなっていた。

 しかし山形県園芸試験場・明石秀也氏によると、緑や青の有色袋で袋内果実の照度を下げてやることで発生を軽減できる。成熟も緩慢に進むため、1か月ほどの収穫遅延効果もあるとのこと。水道水を入れた容器(フレッシュホルダーという)を穂軸に装着、冷蔵庫で保管する穂軸吸水処理と併せ、シャイン長期貯蔵の可能性が広がっている。実際、12月以降まで長期貯蔵する産地も増えている。

 また、シャインの流通期間の延長にかかわる課題としてもう一つ、長期貯蔵によるマスカット香の減少が指摘されていた。マスカット香はシャインの重要な品質要素であり、これが減少すると商品性は大幅に低下する。かといって、マスカット香の維持に有効な10℃で長期貯蔵すると腐敗が増えてしまう。この問題に光明をもたらしたのが、松本光氏(農研機構果樹茶業研究部門)のご研究。長期貯蔵に必要な0℃前後で貯蔵後も10℃で保持し直すことで、かなりの程度マスカット香は回復させられるとのこと。

ロケット整枝とこれっきり摘粒法

 精農家事例もシャインに取り組む農家お二人に登場いただいた。

 一人は、山梨県笛吹市の奴白和夫さん。主枝2本を一文字に配枝、亜主枝はおかず、側枝と返し枝のみで構成するロケット整枝法を考案された。この方式では差し枝(先端に向かう枝)が存在しないので、主枝も側枝もグングン伸びる。ロケット整枝と呼ばれるゆえんである。一方で、平行枝が多いので枝と枝との重なりが少なく、樹の基部から先端まで園全体が同じように明るくなる。長梢剪定でありながら短梢のように作業は単純化、何より夏季管理がいらないので、高品質果がラクづくりできる。大苗移植による早期成園化の技術とともに、いま各地で注目されている(写真1)。



写真1 ロケット式一文字整枝の樹形(写真撮影:赤松富仁)

 もうお一方は、徳島県阿波市の宮田昌孝さん。独自の果穂整形と摘粒法とで、高品質なシャインを省力生産されている。

 宮田さんの花穂整形は先端部から何cm残す、というものでなく、車(支梗・小花穂)の数で決める。ブドウの花は、縦に1対3花、3対9花で一つの単位(車)をつくり、3車が穂軸に対しラセン階段状に一周して1段を形成している。宮田さんによればシャインでは3段9車か4段12車に整理するのがよい。これ以上だと実止まりが悪く、開花が揃わず、有核率も高くなる。またこのように車の数で整形すると、摘粒も1回ですむという。その摘粒法も氏独特で、見た目での判断ではなく、あらかじめ残す果粒の位置を決め、残りは全部除去すればよい。ブドウでも熟練の技術と集中的な手間を要する摘粒が「これっきりの手間で超簡単」と、こちらも各地で取り組む人が増えている。ジベ1回処理、八字整形など、その他の技術とともに紹介いただいた。

 なお、シャインも含めたブドウの摘房と花穂整形の基本技術およびラクカットなど花穂整形器を用いた省力の摘粒法について、農研機構果樹茶業研究部門の薬師寺博氏に整理、ご案内いただいた。

未熟粒混入症

 シャインでは近年「未熟粒混入症」の発生が伝えられている。正常な果粒に比べて軟化・肥大が遅れ、糖度はそこそこ上がるものの食味は悪い。正常果粒に混ざるのが何とも厄介で、贈答用に送られてクレームがついた、などの話もある。原因はまだ特定できてないが、縮果症との関連から調べたところ、果粒軟化期前の強い切返しを伴う新梢管理が要因とするデータが出ている(茨城県園芸研究所・唐澤友洋氏)。成熟時にカラーチャート値が低く、緑色の濃い房や果粒が混じる房は十分な注意が必要である。

 このほかブドウでは、新梢伸張期、開花結実期、果実肥大成熟期、養分蓄積・休眠期各ステージの生育診断(写真2)とその対策をまとめて改訂したほか、長梢剪定から短梢剪定への樹形改造の実際、加温栽培デラウェアの隔日変温管理を新しく収録、また着色不良・裂果(写真3)など近年多い生育障害、ウイルス病や防風および雪害対策なども改訂した。



写真2 収穫直後におけるシャインマスカットの棚面の明るさ(葉面積指数は2 弱,2016年9月12 日)



写真3 うどんこ病の治癒部分から発生した裂果(シャインマスカット)

省力・低コストの新肥培管理――吸収効率にもとづく施肥

 落葉果樹では基肥といえば休眠期に施し、翌春の樹の生育に合わせ吸収させる、という考え方が一般的だが、きちんとした吸収時期の把握からその適期に施肥して、肥料の利用効率を高め、施肥コストを下げ、作業の省力化にもつなげる動きが出てきている。

 ナシでは、冬季の窒素施肥はその多くが流亡してむだになるだけでなく、開花率や着果率を低下させ、胴枯れ、発芽不良の原因になるなどかえって生育に悪影響を及ぼす。最近は関東や北陸でも増えている発芽不良も、秋冬季の窒素施肥による樹体の耐凍性の低下(芽の枯死)が原因とされている。これを踏まえ、農研機構果樹茶業研究部門・井上博道氏はナシ施肥体系全体の見直しが必要と指摘。

 ウメでは、吸収効率の高さから実肥(4〜5月)と礼肥(6〜7月)を重視した体系となっており、全施肥量の7割をこの時期に施されている。残りの基肥についても、「冬に施用して根が活動し始める早春から吸収させる」から「寒くなるまでに十分吸収させて貯蔵養分として翌年の生長に利用できるよう」、9月中旬〜10月上旬までの施肥がよいとしている(和歌山果試・岡室美絵子氏)。

 カンキツでは省力化を目的に、春秋2回の施肥を秋1回に集約する方法が提案されている(愛媛県果樹研究センター・三堂博昭氏)。カンキツ園が多い傾斜地での施肥管理は、高齢化が進む現場ではかなりの重労働。年2回から1回に半減すれば軽労化の恩恵は計り知れない。カギを握るのは、成分の溶出時期、量をコントロールでき、肥効が一定期間持続する肥効調節型肥料(被覆肥料)の活用である。施用後速やかに肥料が溶出する即効型と、一定期間をおいて徐々に溶け出す遅効型を組み合わせ、11月上旬に施肥。窒素量は基準の2割減、リン酸、カリは半分でも、樹体生育、果実品質とも慣行施肥区と遜色ない結果が得られた。愛媛県では‘伊予柑’ですでにこの施肥法の普及が進み、年4回だった施肥が2回にまで減っている。被覆肥料にかかるコストも考えながらだが、温州ミカンでの普及も期待される。

温暖化の影響と各種対策技術

 先のナシの発芽不良は、「自発休眠打破」が不十分なことも原因として指摘されている。注目されているのが、マメナシ台木の利用である。ニホンヤマナシに比べ自発休眠打破に必要な低温要求量が著しく少ないのが特徴で、今後利用が期待されるその効果とメカニズムについて、鳥取大学・竹村圭弘氏が解説。

 暖冬化による発芽不良はブドウでも対策が求められている。植調剤のシアナミド剤の利用もその一つ。岡山県ではシャインの主枝延長枝への処理で、結果母枝並みの発芽促進効果があるとの報告や、温暖化最前線といえる鹿児島県では、無加温栽培のピオーネの収穫期前進技術として1月中旬に処理、環状剥皮処理と組み合わせることで、着色良好な果房を盆前に安定出荷できることを明らかにしている。こうした各県の取組みとともにシアナミド剤利用の基礎を、日本カーバイド工業(株)・冨山政之氏に整理、解説いただいた。

 気象異常の影響はモモでもある。近年は夏季の異常高温や多量の降雨などによって生じる果肉の生理障害が、西日本を中心に多くなっている。果肉が軟化すると一部、または全体が赤色となる「赤肉症」と、成熟後期に果肉の一部が水浸状となり、のち褐変する「水浸状果肉褐変症」である。赤外線を遮断する機能性果実袋(写真4)や透湿性マルチシートによる対処のほか、熟期促進効果のある植調剤の散布によって高温遭遇期間を短くしたり、早期着果制限により生育を促進したりする方法など対策が検討されている。一方で、非破壊評価によって障害発生果を選別する方法も開発されており、障害果の市場流通を未然に防げる。岡山大学・森永邦久氏のご報告。



写真4  酸化チタンを塗布した果実袋を被袋したようす

カンキツ・リンゴ・ナシ注目新技術、ほか品種情報

 ナシの盛土式根圏制御栽培法は、ほかの果樹でも注目されている。遮根シートを敷き地面と隔離した盛土に苗を植え付け、樹の生長に合わせて設定した養水分管理を行なう栽培法で、「二年成り育成法」と組み合わせることで、植付け2年目から2t、3年目に3t/10aと慣行(平棚地植え栽培)成園以上の早期多収が可能となる。開発者の栃木農試・大谷義夫氏に解説いただいた。

 カンキツでは、花芽抑制による樹勢維持をねらいとしたジベレリンの使用が、従来の10分の1という低濃度(2.5ppm、液剤2,000倍)で適用が拡大された。マシン油乳剤の混用散布も可能に。尿素との混用やマシン油の替わりに機能性展着剤(スカッシュ1,000倍)との混用散布も有効という(後者は2017年4月現在、適用拡大申請中)。温州ミカンだけでなく、着花が多く樹勢低下しやすい‘不知火’‘はるみ’での試験も好結果で期待は大きい(写真5)。河瀬憲次氏(河瀬技術士事務所)のご報告。


上:無処理区,下:処理区
隔年結果防止には,先行摘花(ジベレリン)により新梢を発生させることが先決

 このほかリンゴでは岩波宏氏(農研機構果樹茶業研究部門)に、葉取らずならぬ葉取りしながら、味を落とさず、色づきだけをよくする効率的な葉摘み法を、本多親子氏(同)には、リンゴの果皮着色の温度依存性について解説いただいた。本多氏によると、品種ごとの果皮着色の特性を活かし、例えば‘シナノスイート’は収穫4週間前にはどの温度区でも着色能が低いので早めの葉摘みは効果的でないが、‘ふじ’は早くから始めても有効である、など判断できる。

 今号も改訂・新規とも力作が揃った。ご一読のうえそれぞれにお役立ていただければ幸いです。