農業技術大系・果樹編 2013年版(追録第28号)


「新しい経営づくり」につながる栽培,有望品種、技術情報を特集
――リンゴ高密植わい化栽培・カキわい性台木、クリ‘ぽろたん’、キウイフルーツ次世代品種つくりこなし・新規需要(ジュースなど)創出に向け解明進む果物健康機能性ほか


〈効率、熟練不要、早期成園化(すばやい品種更新)の技術、品種〉

●イタリア南チロル地方で開発の新しいリンゴわい化栽培

 収量が上がらず単価も低迷するリンゴ。起死回生の技術として注目を集めている新わい化栽培と、その一層の収量アップをねらったタイプのトールスレンダースピンドルブッシュ樹による高密植栽培。M.9自根の1年生苗を高さ60cmで切り返しビーエー剤を散布、長めのフェザーを10本以上もたせた2年生苗(オランダで開発、カットツリーという、写真1)を定植。側枝は骨格化しやすい水平にではなく、下垂誘引して花芽着生をはかるのがポイント。翌年から本格的に成らせられ、3年で成園化できる。早くから果実が成るので樹は大きくならず、calm tree(静かな樹)といわれるほど徒長枝も出ない。樹勢のコントロールにも悩まず省力で、剪定、着果管理も容易という。イタリア南チロル地方で開発され、EUのほかアメリカやインド、中国、韓国など各国で取組みが増えている。現地に何度となく足を運び、本栽培の実際に詳しい小池洋男氏(JA全農長野)にわが国における導入の可能性、技術のポイントを解説いただいた。

 なお、本栽培様式で用いられるカットツリーの養成はビーエー剤の使用がポイント。その散布回数が2012年11月に5回から10回へと登録変更になった。散布回数が多いほどフェザー本数は多く、総フェザー長も長い。また新梢生育の後半期にも散布できるようになったので、最上段のフェザーより上の主幹延長新梢長が短い、早期多収に有利な苗木ができる。長野果試・小川秀和氏が解説。




写真1 フェザーの多発した2年生苗木(カットツリー)(Kurt Werth原図)

●カキでもわい化栽培が実用化段階に

 わい化栽培といえば、カキでもようやく実用的なわい性台木品種が出願、公表されて話題になっている。2011年、静岡県農林技術研究センターから出願された‘静カ台1号’はわい性、収量性とも優れ、‘静カ台2号’はそれよりさらにわい化能力が高い(写真2)。また、宮崎県から出願された‘MKR1’は新梢の二次伸長がほとんどなく、早期着花するうえ着花枝の割合が高いので樹冠容積当たりの収量も多い。しかも生理落果が少ない、隔年結果性もほとんどないなど、高評価を得ている。一方、独・果樹研究所で現在、生育や果実品質、省力性を評価中の‘No3’‘S22’も期待がもてる。薬師寺博氏(独・果樹研)による報告。

 今後、これらの普及には苗木の供給体制がカギになるが、従来、カキは接ぎ木や根挿しによる繁殖が一般的で、大量増殖はむずかしかった。近年、根から発生した新梢(ひこばえ)を採取、これを挿して繁殖させる方法が開発され、実用化段階に至っている。宮崎大学の鉄村琢也氏がこの方法を用いた、わい性台木の挿し木繁殖の手法を紹介。




写真2 静カ台2号台による前川次郎の生育状況(12年生樹)(写真提供:佐々木俊之)
左:ヤマガキ台、右:静カ台2号台

●ウメ「南高むかで整枝法」、ナシ摘心栽培

 わい性台木によるものではないが、摘心処理による枝梢管理で、高い生産性とともに樹形をコンパクトに維持し、省力栽培を可能にするのは、和歌山県果樹試験場うめ研究所が開発した「南高むかで整枝法」。ナシのむかで整枝をウメの‘南高’に応用した。

 苗木は斜立させて定植、主幹延長枝を主枝として地上1mの直管パイプに誘引、その両サイドに側枝も水平気味に配置して栽培する。こうした樹形にすると新梢が徒長しやすいが、4月と5月の2回、新梢基部を10cm程度残して摘心することで花芽着生のよい結果枝に変えることができる。早期成園化が可能で、しかも、結果位置がほとんど人の膝から胸部に集中するので、作業効率も抜群(写真3)。同研究所の竹中正好氏が紹介。

 このほか、新梢管理による安定多収の一大画期となったナシの摘心栽培も生産者事例(群馬県高崎市・後閑勇氏)で収録。




写真3 低樹高で収穫作業能率にすぐれる、ウメのむかで整枝樹

●注目のクリ品種‘ぽろたん’でつくる経営

 クリでは渋皮剥皮性の高い新品種‘ぽろたん’の増植が各地で進む。ヨーロッパで大人気、グリーンツーリズムの季節の目玉ともなっている農家庭先での焼き栗販売(赤ワインと合う)が日本でも可能になりそうだ。この‘ぽろたん’の植栽にあたっては、異品種の混入を防ぐことが大事で、改植更新は高接ぎを避け、苗木によるものとし、また収穫期が重なる‘国見’や‘丹沢’‘筑波’とは離して植え、これらを授粉樹にしない、など注意する。そのほか、早期成園化のための副梢利用苗の養成法や結果母枝の先端を5分の1切り返す枝梢管理、さらに成木の優良結果母枝の指標など、本品種に新たに取り組むさいのポイントを熊本県鹿本地域振興局の春崎聖一氏が解説。

 以上の技術や品種は、いずれも今後果樹での新しい経営づくりを考えるときの武器になるといえるだろう。

〈キウイフルーツ次世代品種つくりこなし〉

 キウイフルーツといえば長らく品種は‘ヘイワード’だったが、近年存在感を示しているのが、ニュージーランドで育成された‘ホート16A’、いわゆるゼスプリ・ゴールドキウイである。わが国でも、2001年から愛媛県、佐賀県でライセンス生産が開始され、最近ではスーパーでもすっかり馴染みの品種になっている。この‘ホート16A’と、併せてこちらもポスト‘ヘイワード’として人気で、果肉の一部が赤く食味良好の‘レインボーレッド’のつくりこなし方のポイントを紹介。

●中山間地のキウイフルーツ整枝法

 ところで、中山間地につくられることの多い果樹は、主枝を等高線と平行に伸ばすことが多い。当初はそれで樹形が収まっていても次第に傾斜上部に向かって強い枝が発生し、樹形を乱し、その管理に汲々としている栽培者も少なくない。そうした果樹の自然な生育に合わせ、傾斜方向に主枝を1本だけ伸ばす樹形で、圧倒的に管理作業をラクにしているのが、JAふくおか八女キウイフルーツ部会のオールバック一文字整枝。主枝1本に、短縮した亜主枝から結果母枝を取り出す単純な構成で剪定や誘引などの作業導線が単線化し、きわめて効率的。この整枝の実際を、従来樹形からの改造の方法と合わせて、同JAの大久保博文氏が紹介。また氏には、同部会の各栽培管理のポイントも、生産者事例で案内していただいた。

 キウイフルーツ生産者事例ではこのほか、佐賀県ゴールドキウイフルーツ生産組合も収録。‘ヘイワード’からゼスプリ・ゴールドキウイにいち早く切り替え、150戸の農家が現在55haを栽培。厳しい出荷基準で価格維持を図る同組合の取組みについて、(株)アグリの坂本徹哉氏が報告。

〈地球温暖化の影響と対策〉

 施設での果樹栽培にとって自発休眠覚醒時期の把握はその後の生育管理を進めるうえできわめて重要な指標となる。早期出荷する場合の被覆時期、保温方法などの選択は、この把握なしには行なえない。その見きわめが近年、温暖化の影響でむずかしくなっているといわれる。果樹研・伊東明子氏の研究室では、自発休眠覚醒ステージの進行に伴って導管液中の糖含量が大きく変化することに着目、これを手がかりに、ごく簡単な方法で休眠覚醒時期が判定できる方法をニホンナシ(品種:幸水)で開発。今後、その適用可能性や適用条件を明らかにしていく予定。

 温暖化の影響では晩霜害の発生も懸念される。落葉果樹の花芽は気温が高いほど発育が進み、逆にその耐凍性は早期に弱まるからだ。「落葉果樹の晩霜害と発生予測による回避法」では、被害の発生しやすい気圧配置と気象経過の特徴、とりわけ「露点温度」の変化に注意することと、果樹園での最低気温や降霜の予測などを紹介。果樹は地表面から高い位置にあるので樹体と空気との熱交換が起こりやすく、遅霜が発生するようなときは結果部付近の温度は気温より最大で2〜3℃低くなる。これだと、開花期の耐凍性は-2度とされていても、実際には気温0〜1度でも被害が発生することがある。果樹研・朝倉利員氏の報告。

 温暖化の影響はまた、果樹を加害する害虫の生態にも及ぶことが予想される。今追録では果樹カメムシ類について、発育速度や世代数、えさ環境や天敵類への影響と考えられる被害の予測について果樹研究所の外山晶敏氏に解説いただいた。

 温州ミカンの「浮皮」も気候変動の影響が指摘されている。「…浮皮は九州ミカンの泣き所といわれていたが、その原因は成熟期の多湿および果面への結露時間の長いことであるのがわかった」。近年の状況をふまえ河瀬憲次氏に「浮皮の発生要因と防止対策」を改訂いただいた。

 また広島県を代表する高糖系温州の‘石地’はこの浮皮が出にくい優良品種だが、収量性がもう一つで、隔年結果しやすい。今追録では、その弱点を克服する摘果法や夏肥重視の施肥法、灌水管理などについて、主幹形を活用した早期成園化の技術と併せて広島県総合技術研究所の川?陽一郎氏に紹介いただいた。

〈新規需要(ジュースなど)創出に向け解明進む果物健康機能性〉

 わが国の果物摂取量は一人当たり一日平均110.3g。これは欧米先進国の半分以下でかなり少ない。果物は野菜同様、積極的に摂取することでがんや心臓病など生活習慣病予防に有効なことが知られている。そのため国際的には、果物は嗜好品というより生活習慣病などの予防に不可欠な食品との認識が浸透している。「日本人の健康と果物摂取の意義」では果物摂取の有効性を解説し、そのうえで30歳代を中心に落ち込む年齢的な「果物摂取量の谷」の克服が、加齢とともに増える生活習慣病の予防にとって重要な課題と指摘する。

 また「常緑果樹の健康機能性成分」ではそうした果物摂取の具体的な動機づけとなる各種データのうち、とくにカンキツにかかわる内外の知見を果樹研究所の杉浦実氏が整理、紹介。なかでもミカン産地の三ヶ日町で住民を対象に行なわれた栄養疫学研究の結果から、温州ミカンを高頻度に食べている人は、飲酒と高血糖による肝機能障害や動脈硬化、閉経女性の骨密度低下、喫煙者のメタボリック症候群など生活習慣病の危険性が低い、との報告は示唆的。カンキツ以外の落葉果樹でのそれについては、「落葉果樹の健康機能性成分」で庄司俊彦氏が解説。

●ウメの加工適性と栽培・熟度管理

 生食する果物と異なりウメは食味成分を向上させる栽培管理や熟度管理についてこれまであまり検討されてこなかった。近年、健康食品として梅酒の消費が伸びるなかで、その食味品質についても関心が高まっている。いつ収穫すればポリフェノールや有機酸類などの機能性成分や香気成分をもっともよく含む製品に仕上がるのか、和歌山県うめ研究所の大江孝明氏に、梅酒加工を中心に‘南高’の収穫適期の判断について解説いただいた。

 大江氏によると、梅酒加工には「青くて硬い」果実が向くとされているが、むしろクエン酸やポリフェノール含量、抗酸化能、梅酒の褐色度、抽出量を増加させるには果実の熟度を進めてから収穫するのがよく、梅酒もフルーティーに仕上がる。こうした梅酒品質を高める熟度指標としては果皮の黄色みと果実硬度が利用できるが、これら測定方法の簡便化、低コスト化が今後課題になる。

〈スモモ、国産レモン、イチジクほか〉

 スモモでは山梨県甲州市の小川孝郎氏の取組みを紹介。‘太陽’‘貴陽’‘サマービュート’などを立木、棚仕立てとも作業性のよい2本主枝とし、草生と減農薬栽培をベースに、効率授粉で適熟果を揃え、安定生産を実現。全量を宅配業者の「らでぃっしゅぼーや」に出荷している。

 国産レモンといえば広島県が有名だが、同県豊浜町の道法正徳氏は独自の品種と、苗木を植え付けてから新梢先端を上向かせ、芽かきを徹底するつくりで、無農薬ながらかいよう病を出さないレモン栽培を実践。その事例を報告。

 果実が軟弱で日持ちの悪いイチジクは、成熟期に多雨、日照不足になると出荷量がグンと落ち込む。これに対し、白色シート(商品名タイベック)を新梢伸長期から成熟期にかけて樹冠下にマルチすると土壌水分の安定と光環境の改善で果実品質が安定し、しかもアザミウマ類の被害も減少、正品化率を高めることができる。兵庫県立北部農業技術センターの真野隆司氏にその導入と実際管理のポイントを紹介いただいた。

 そのほか、ナシ「年間の生育過程」(鳥取大学・田村文男氏)、「施設栽培の技術動向と課題」(岡山大・森永邦彦氏)、「温州ミカンの花芽分化の生理とその制御」(果樹研・生駒吉識氏)をそれぞれ改訂収録した。