農業技術大系・果樹編 2011年版(追録第26号)


果樹栽培を安心して続けていくために
――作業がらくになる樹形や省力技術・作業機械・植調剤の活用法


 果樹栽培は女性や高齢者が中心になり作業を担ってもらうことが多くなっている。そのため,経験のない人でも安全かつ安心して管理ができる技術が求められている。

〈作業がらくになる樹形と工夫〉

 まずジョイント仕立て(写真1)。ナシの主枝先端部と主枝基部を接ぎ木でつなげるもの。主枝先端部は隣接樹からの養水分の供給によって強化され,逆に主枝基部の樹勢がやや抑制されることで,各部位の樹勢が平均化して,定植4年目には成園並みの収量が確保できる。片側の樹冠下を直線的に歩くだけで授粉などの作業ができ,作業動線が単純化できるので,作業効率が慣行の1.5倍に向上する(写真2)。




写真1 樹齢16年目を迎えた幸水ジョイント樹



写真2 ジョイント栽培の作業動線

 現在,各樹種でもこのジョイント仕立てが試みられていて,今後の果樹栽培を革新してくれそうだ。

 果樹の栽培は,収穫まで細かな管理が続くが,一つでも手を抜くと品質や収量を落としてしまうことになる。そんな各作業がちょっとでもらくになれば,より確実に実行できる。以下はそんな技術。

 まずカンキツの「組立式天水槽」。昨年の夏は猛暑が続き,雨も少なかったため干ばつ被害が多かった。手灌水をした人も多いが,十分にはできないもの。費用は水1t当たり2万円以下で,軽量なので畑まで人力でらくに運べる。

 ブドウはまず「リーフソーラー点滴灌水装置」。ハウスデラウェア産地の島根県では施肥量が削減できる養液土耕栽培が増えている。この装置で灌水が自動化できて初心者でも安心して取り組めるようになった。

 同じくブドウでは2008年に収録した花穂整形器に次いで花冠取り器を収録(写真3)。花冠が主体の花かすが満開後も幼果に残ることが多く,灰色かび病やさび果,裂果の原因になる。これらの耕種的防除法として「花かす落とし」が行なわれている。この機器で,その作業が第1回のジベレリン処理と同時に簡易にできる。




写真3 花冠取り器(試作器)
左:構成,右:作業事例

 カキの樹上脱渋では「ヘタ出し袋かけ」(図1)。ヘタ部分は包み込まずに外に出し,ヘタ部分の下と果実部との間を輪ゴムで止めて袋をかける,というもの。従来の方法で発生していたヘタ枯れによる落果がなくなり,袋かけ作業はもちろん,果梗が切りやすいので収穫までの作業時間全体で32%も削減できる。



図1 カキのヘタ出し袋かけの方法

〈作業がらくになる機械・道具の利用〉

 果樹を栽培している人の61%が60歳以上という。その方々が今後も栽培を続けていくために,機械の活用は欠かせない。今追録で,第8巻に「果樹作業に使用する機械,道具」のコーナーを新設した。

 傾斜地で栽培されることが多い日本の果樹栽培に対応した高性能の小型機が開発されている。小型で機動性の高い乗用草刈機,狭い園地でも旋回動作の必要がないスイッチバック運転ができる電動の運搬車(写真4),リフト機能がある歩行型運搬車,旋回半径約2mの小回りが利くだけでなく,電動張出し板を備えていて効率的に作業ができる高機動型高所作業台車など。




写真4 スイッチバック運転が可能な電動クローラ運搬車

 最近は快適性や安全性にも力が入れられている。刈払機では,とっさのときに刈刃が止まったり,エンジンが自動的に停止するものも出てきた。乗用型草刈機では,作業者が幹周の際まで草を刈ることに集中してしまい,直前に迫った下枝に気づかず,下枝と本体との間に作業者が挟まれて死に至ることもある。それには,座席にセンサーを搭載して,作業者が下枝と本体との間に挟まれると,自動的に走行を停止させ,ゆっくり後進したあとに完全に停止させる安全装置を装備したものも登場している。

〈省力化に欠かせない植物調整剤の活用〉

 植調剤は摘花,摘果,摘房・摘粒など各作業の省力化に貢献してきたが,現在利用できる植調剤の活用法を特集した。

 カンキツでは2009年にNAA剤が再登録され,隔年結果対策で最も重要な摘果がより確実にできるようになる。浮皮対策に登録されたジベレリンとプロヒドロジャスモンの混用が注目。効果が高いのはもちろん,プロヒドロジャスモンを混用することで,ジベレリン単独利用で発生しやすい薬害が回避できるとともに,値段の高いジベレリンの処理濃度を少なくすることができる。

 ブドウでは種なし生産に利用されてきたジベレリンを,その花穂伸長効果を利用して摘粒にも活用する方法が開発された。

 また,鮮度保持剤の1-MCPが昨年農薬登録された。常温でも品質保持効果が高いのが特徴で,完熟で出荷できたり,評価が高くても日持ちが悪くて日の目をみなかった品種も販売できるようになるなど,さまざまな活用法が期待できる。

〈注目新研究・新技術〉

 1)水稲育苗ハウスを利用したブドウのアーチ栽培(写真5):育苗期以外は遊んでいることが多い水稲育苗ハウスを有効に活用するため,そこでブドウの短梢剪定栽培を行なうもの。肥料なども含めても1a当たりの7万円弱で導入できる。




写真5 ブドウのアーチ栽培(水稲苗搬出直前)

 2)ナシの盛土式根圏制御栽培法で底面給水:盛土式根圏制御栽培法(2008年に収録)で,底面給水による方法も開発。従来のドリップ灌水で必要だった灌水制御盤や点滴装置が不要になってコストの削減が可能になった。

 3)カンキツの隔年結果対策:その要因と対策が明らかに。根量を増加させる高水圧剥皮機による土壌改良,点滴灌水同時施肥法などの根域管理から枝梢管理,結実管理など,具体的な方法がまとめられている。

 4)ナシ白紋羽病の枝挿入法による診断と温水点滴処理による治療。

 5)西洋ナシ食べごろ判定法:カラーチャートや判定用テスターなど可食時期がより正確に判定できる方法が開発される。

 6)消費を増やせる新品目,新品種:安定栽培法が確立した中晩柑の‘不知火’‘はるみ’。中生種を中心に有望品種が登場しているリンゴ。国産ワイン生産を支える醸造用ブドウ品種。果実重が110~120gと大きく食味の良い生食用の‘サニーコット’‘ニコニコット’が育成されたアンズ。