農業技術大系・果樹編 2007年版(追録第22号)


●省力新樹形の大特集―いよいよ始まった,JM系台木を活用したリンゴの日本型わい化栽培,ナシの2本主枝交互配置仕立て法,ビワの二本主枝波状棚仕立てなど

●リンゴ園でネズミ対策を特集―古タイヤを利用した防除法など,薬剤を使用しない各種の防除対策

●新品種,新品目をつくりこなす―‘大秋’など甘ガキの画期的な新品種が久々に登場したカキ,早生系統や無核品種が開発されたビワの品種のコーナーを全面改訂。中晩カン類の注目品種‘はれひめ’を収録

●果樹でも急速に進む栄養診断法の特集―温州ミカンの冬季根中デンプン含有率による着花量の予測,葉の水分吸収率を利用した水分ストレス診断法,画像解析によるリンゴの栄養診断法,モモのNPS(ニヒドリン陽性物質)による貯蔵養分簡易診断法など

●各地で広がる観光農園特集第二弾(第8巻「果樹共通編」)―北海道芦別市・大橋さくらんぼ観光農園など4事例が加わる


 北海道の大橋サクランボ観光農園
 もぎとりやすい樹をつくるのが最大のポイント

省力新樹形の大特集

●リンゴ

 日本のリンゴでわい化栽培が導入されて久しくなるが,実態は「わい性台木を利用した高樹高栽培」といわれる。それについて,1998年の追録で,秋田県増田町の千田宏二さんは次のように述べている。

 「わい化栽培に取り組んだのは1981年からである。ただ1974年の大豪雪禍の後遺症が生々しい時代であり,わい化への要求よりも雪害や衰弱樹,野そ対策が先行した。したがって,根系はマルバ台で,わい性台木M.26やM.9Aを,20〜25cmと短くして中間台として接ぎ木した苗を自家生産して植え付けたものがほとんどである。……樹形は耐雪最優先の要求から,縦形の細型紡錘形を目標としていた。……わい化樹は元気そのもので,たちまち樹高4.5mを超すリンゴ林になってしまった。……年ごとに枝が込み合ってきて,樹高は天を目指すほどになり,強樹勢との際限ない闘いが続くようになってしまった」。

 この千田さんの記事では,この高木化したわい化樹を,間伐や樹形改善によって,7尺(2.1m)の脚立に合わせて低樹高化を実現した取組みが紹介されている。その後,2000年には,長野県梓川村の故・原今朝生さんに,M.9ナガノ台木を利用した新わい化栽培を,2001年には青森県南津軽郡平賀町・成田行祥さんの「斜立・L型2本主枝仕立て,斜立V型」,2003年には「改良ソーレン,ソラックス樹形による低樹高化」(菊地秀喜・宮城県農園研)などと,低樹高化に向けたさまざまな取組みを紹介してきた。

 今追録では,独・果樹研究所で育成されたJM系台木を活用した,地上高2m以下の低樹高栽培の研究を工藤和典氏にまとめていただいた。

 たとえばJM7を使用したものでは,定植年に地上1mの位置で切り返し,発出した側枝を車枝状に配置することで主幹延長枝の生育を抑制させ,翌年に延長枝を地上2mの芽のない部分で切り返すことで,樹高2〜3mの低樹高の基本樹形が定植3年目で形成できるという。岩手県盛岡市の小山田博氏や,奥州市の高野卓郎氏などとともにつくり上げてきたもの(写真1)。


 写真1 リンゴ低樹高栽培の定植8年目の状態

●ナ シ

 いま注目の極早生品種‘愛甘水’の育成者でもある,愛知県安城市の猪飼孝志さんを収録。猪飼さんは,家族3人で135aのナシ園をつくりこなして,連年反収3tを実現している。それを支えているのが,猪飼さんが開発した地上高140cmの低棚栽培であり,2本主枝交互配置仕立て法である(図1)。



●モ モ

 愛知県新城市の河部義通さんの樹高2mの文字形低樹高栽培。徒長枝の乱立を防ぐための,収穫直前まで続ける摘心作業によって毎年安定して良質な結果母枝が確保できる。

●ビ ワ

 ハウス栽培ではこれまでも,高木化するビワの低樹高仕立てが導入されてきたが,鹿児島県農業開発総合センターが開発した二本主枝波状棚仕立てでは,波状棚の角度(主枝角度)を30度にすることで,花芽分化が促進され,結果母枝の着房率が高まるために最も多収になることを解明した。

新品目・新品種をつくりこなす

 カンキツでは,中晩カン類を特集。年内販売できることから期待が高まる‘はれひめ’を新規収録(中川雅之氏・愛媛果試岩城分場)。‘不知火’‘はるみ’では,広島県大崎上島町の金原邦也さんが,大玉果生産のポイントは,樹冠外周部の強い切り返しで樹勢を強めにすることで結果母枝を育て結実させることや,予備枝を必ずつくることなどの両品種のつくりこなし方を詳細に解説。

 導入が多くなっている‘不知火’のハウス栽培は佐賀県唐津市で小加温・無加温栽培に取り組む上野正泰さんを収録。

 カキは‘大秋’‘早秋’など甘ガキの画期的な新品種が続々と登場している。ビワも早生系統や種なし品種が開発されており,それぞれ品種のコーナーを一新した。またビワでは,千葉県で育成された種なし品種‘希房’をいち早く導入している千葉県南房総市の穂積昭治さんの事例を最新の内容にしていただいた(ハウス栽培)。

リンゴの「ネズミ対策」の全面改訂

 各産地ともに新台木を導入した改植が進んでいるが,そこで問題になってきたのがネズミである。青森県中南地域県民局の三浦一昭氏らの調査によると,とくにJM7やM27,M26などを好むようで,せっかく植えた苗木が食害によって枯死させられることが多いそうだ。そこで,大塚薬品工業(株)の荒川治氏に,ハタネズミの生態・習性とそれに基づく,薬剤とそれ以外の防除対策を解説していただいた。下草の管理や他の多様な手法を組み合わせて,ネズミの生息数を被害の起きない一定のレベルに維持管理するIPM的管理も提案している。また岩手県の高野卓郎さん(前出)が開発した古タイヤを利用した防除法(写真2)など各地で開発されている防除対策を紹介した。


 写真2 樹と樹の間に古タイヤを埋める高野卓郎さんの野ねずみ対策

進化する栄養診断法

 各樹種で,高品質安定生産に向けた栄養診断法が開発されている。

 まずリンゴでは,岩手県農研センターが開発した「画像解析によるリンゴ樹の栄養診断法」。従来は,樹体の新梢や葉の繁茂程度から視覚的に判断される樹勢から,生産者の経験をもとに樹体の窒素栄養状態を判断してきた。この診断法は,ある程度の熟練を必要とする。開発された診断法は,画像解析の技術を用いて,生産者の経験を数値化し,リンゴ樹の画像から視覚的に栄養状態を推定するものである(特許申請中)。

 必要なのはデジタルカメラとコンピュータ,画像解析ソフトウエアだけ。7〜8月の新梢伸長の停止時期に,診断するリンゴ樹を撮影する。リンゴ樹の背景にブルーシートを配置し,主幹を中心に,縦1.2〜1.5m,横0.9〜1.2m程度の長方形の領域を解析するもの(図2)。繁茂指数の高い樹体ほど,窒素を多く吸収していることがわかる。



 温州ミカンでは,一つは冬季の根中デンプン含有率による着花量の予測法。これは年々研究が進んでいて,予測された着花量(基準値も設定)に基づく栽培管理法まで解明されている。もう一つは葉の水分吸収率を利用した樹体水分ストレス診断法を収録。マルチ栽培の効果を把握するために必要な樹体の水分ストレスを簡便かつ低コストで診断できる画期的なものである。その他,光量子センサーによる樹勢・樹相診断(ナシ),NPS(ニンヒドリン陽性物質)による貯蔵養分の簡易診断法(モモ)などを収録。

高品質・安定生産・作期拡大を実現する新技術

 現場の課題に応える新技術・新研究を収録した。以下,その概略を紹介する。

 高温処理による減酸促進(カンキツ) 光センサーで除外される品質のものも,カラーリング施設を利用して35℃の処理で減酸と果実腐敗を抑制できる画期的な手法。

 授粉樹の選択と配置(リンゴ) 農薬のドリフト問題のために,従来行なわれてきた,たとえば晩生品種と早生品種を混植するといった,経済品種同士を相互に授粉樹として混植することが困難になってきて,異なる品種の混植を行なわない「単植化」が取り組まれている。そこで,急速に研究が進められている,クラブアップルや野生種など授粉専用品種などの利用法を収録。

 高樹齢化園の回復策―整枝・剪定による樹体管理(ナシ) 反収3tの多収園(幸水)の詳細な樹相分析による実践的な指針が示された。たとえば,早期に展葉する予備枝の利用が最も効果的で,側枝更新が早い茨城県では必要な予備枝密度を3.0本/m2とするなど,基準が明確に示されている。

 針金を用いた新梢基部の結縛処理による収穫の前進化(イチジク) 針金を用いた新梢基部の結縛処理が収穫期の前進にも有効なことがわかった。島根県では「株枯病無病苗」を配布しているが,この無病苗は,若木のときに樹勢が強く,その対策として若木期の樹勢調節として開発したもの。

 草生栽培と土壌微生物相(第8巻) ナギナタガヤやバヒアグラスによる草生栽培の秘められた力を解明。草生栽培はAM菌(アーバスキュラー菌根菌)の増殖を助けるとともに,白紋羽病菌など土壌病原菌に対する拮抗微生物の生息環境をも提供している,など新知見を盛り込んで全面改訂。

 DNAマーカーによる分析法の活用 DNAマーカーによる品種識別の技術が開発されている。海外からの輸入品で多い加工品でも識別できる。これにより,山形県が育成したオウトウの‘紅秀峰’のオーストラリアや中国への無断持出しが判明し,告訴できるなど成果もあげている。国内での品種登録や権利侵害でのトラブル防止にも役立てることが可能になった。

観光農園特集第二弾

 昨年の追録で第8巻に新設し,6つの全国の代表的な観光農園を紹介したが,果樹生産の新たな方向を示しており,勇気づけられた。今追録では次の4つの農園を収録した。

 北海道芦別市・(有)大橋さくらんぼ観光農園 4.7haと日本最大ともいわれるオウトウの大規模農園。すべて雨よけハウスなので,いつでも摘取りができる。40品種以上の多彩な品種構成でお客さんを楽しませている。栽培は難しいが,硬めの肉質と糖度18度以上の甘さがある‘紅秀峰’や‘南陽’‘月山錦’など人気品種を全体の55%にしてお客を引き付けている。

 長野県小諸市・(有)松井農園(松井衛) リンゴ中心の観光農園。多彩な施設を整備してきたが,修学旅行の農業体験実習を受け入れるようになって,リンゴ資料館も設置。

 静岡県掛川市・「体験学習農園」キウイフルーツカントリーJapan 1990年から体験学習農園を経営の柱にしている。約400の体験学習プログラムをもち,年間35,000人が来園するまでになった。

 福岡県久留米市・萬山望・高山果樹園 ブドウ中心だが,特色を出すため‘ハニーレッド’‘レッドクイーン’など品種を多様化。周辺の家々と共同したガーデニングめぐりなど,さまざまな企画力が魅力の観光農園。