農業技術大系・果樹編 2006年版(追録第21号)


●第8巻「果樹共通編」に各地で広がる観光農園のコーナーを新設

●果樹の輸出戦略の最新情報を収録

●ナシの波状棚栽培やブドウの一文字片側整枝など省力新樹型とドリップ灌水による盛土式根圏制御栽培(ブドウ)や根域制限高うねマルチ栽培など新技術を大特集

●温暖化対応品種‘石地’‘せとか’など新品種,アロニア,ピタヤなど新品目をつくりこなす。多様になったブルーベリー品種の全面改訂

●葉柄中硝酸イオン濃度による栄養診断,RDIとPRDによる水分制御での灌水管理など新たな生育診断法と灌水方法を収録


観光農園 成功のカギ――事例に学ぶ5つのポイント

 ゆったりと自然に親しみながら,おいしい新鮮な果物を味わえる観光農園は,果物経営のありかたを大きく変えてきている。市場価格に左右されない観光農園の魅力をどのようにして成功に導くか? 今追録では,第8巻『果樹共通編』に観光農園のコーナーを新設した。収録したのは次の6つの農園。もともと観光立地のあるところだけではない。それぞれの個性的な工夫が農園を成功に導いている。

 北海道壮瞥町・浜田英彰,群馬県沼田市・松井りんご園,山梨県南アルプス市・塚原山フルーツ農場,滋賀県高島市・マキノピックランド,広島県三次市・平田観光農園,愛媛県内子町・冨岡孝宏

〈集客のための工夫〉

 観光農園は観光地の近くにあるほうが有利な条件には違いないだろうが,それだけでうまくいくわけではない。観光地と観光農園をいかに結びつけるかが勝負どころ。塚原山フルーツ農場では,開園から数年間,奥さんが県内の温泉地を宣伝に歩いた。「直接販売してみたら?」という温泉旅館のご主人の一言で大きく展開した。その時の頑張りが,観光地の人たちとの結びつきを強め,口コミも加わってようやく名が知れるようになった。

 近くに観光地もないし……とあきらめることはない。中国地方の山間で,観光地らしいものはほとんどない山村にある平田観光農園は,1985年に開園して以後,過疎地の豊かな自然のなかに「果物のテーマパーク」をつくりあげ,地域丸ごと交流の場にした。今や年間10万人の観光客が訪れ,年間を通して賑わうようになっている。

 ホームページはお客さんとの距離をゼロにするツールである。しかし,まめに更新されないとかえってマイナスになる。塚原山フルーツ農場では農場の日々の様子を掲載し,来客した人の写真を撮ってすぐにアップ。それが楽しみで訪れるお客さんも多いという。

〈開園期間を延ばす工夫〉

 開園期間を延ばすことが,集客数を増やすカギをにぎる。収録した事例には,樹種を増やし,同じ樹種では品種をふやし,野菜と組み合わせるといった工夫が満載されている。塚原山フルーツ農場は7品目で6月から11月まで。松井りんご園ではリンゴなど5品目を組み合わせ,メインのリンゴは‘ぐんま名月’など12品種で8月から12月までの開園を実現。浜田さんは8品目の樹種とイチゴを組み合わせて6月から11月まで開園。

〈「また来たい!」と思わせる,施設と園地の工夫〉

 観光農園で大事なことはリピーターを増やすこと。お客さんに「また来たい!」と思わせるのは,園内で快適に過ごせる環境である。塚原山フルーツ農場では,果樹が整然と植えられ,園地を草生栽培にしてお客さんの靴に泥がつかないように工夫している。意外と重要なのがトイレ。当初設置したレンタルトイレが不評だったため,すぐに快適な水洗トイレに変えた。深澤さんは,「観光農園を経営していくうえで最も重要だ」と書いている。冨岡さんは洋式トイレを設置している。さらにカートを導入して,幼児や身体障害者の方も入園できて,園内での移動に時間がかからないように工夫している。洋式トイレだから身体に障害があるお客さんも利用できる。

〈お客さんが収穫しやすく,管理しやすい樹型〉

 塚原山フルーツ農場では,全樹種で垣根仕立て(写真1)を導入。お客さんが収穫しやすいだけでなく,生産者も管理しやすい。冨岡さん(ブドウ)は,独特の吊り棚方式(写真2)にしている。作業の省力化や台風対策で導入したものだが,お客さんは園内の視界が広がって開放感を味わえる。


 写真1 垣根仕立てのナシ


 写真2 吊り棚方式のブドウ園

 きれいに管理された園内はお客さんにとってもうれしい。農家にとっては,いかに省力的に管理できるかがカギを握る。平田観光農園では,ブドウはX字型樹形で短梢剪定にして(図1)パートでも作業できるようにし,摘粒や花穂整形も省力的な方法を導入し,従来の3分の1程度の労力ですむようになっている。


〈品質の高さとオリジナル品種,商品〉

 リピーターを増やす究極の方法は「味」。塚原山フルーツ農場はプラムの‘李王’の育成者で,この味がお客をひきつけている。松井りんご園はセンサーを利用して蜜入りを確認して品質を維持。‘ふじ’の雪中貯蔵リンゴも評判を呼んでいる。

 加工を導入する農園も多い。浜田さんはイチゴのジャム(写真3),ブルーベリーの事例で紹介した鈴木農園は8年かけてジュースなどの加工・販売にこぎつけた。


 写真3 加工品も魅力の一つ(浜田氏・ジャム工房「杏の樹」)

 園地でお客さんが直接収穫するから,減農薬,無農薬栽培も大きな魅力。塚原山フルーツ農場では,誘蛾灯と防蛾灯を組み合わせて夜蛾対策を万全にして農薬を大幅に削減。マキノピックランドでは天敵を導入して,化学肥料と化学農薬は慣行の半分に。

片山りんご園の園主が語る果樹の輸出戦略

 華々しい話が飛び交う農産物輸出だが,今追録では,海外へのリンゴ輸出の先頭に立っている青森県の(有)片山りんご園の片山寿伸さんに,この間の生々しい取組みを紹介していただいた。

▲欧州では小玉で意外なリンゴ品種が狙い目

 1998年にヨーロッパにサンプルを送ったのが輸出のスタート。‘ふじ’など最高級の大玉を選び,布で拭いてつやを出してフルーツキャップに包んで送った。ところが,先方から「もっと小さいリンゴを送れ」という答えが来た。そこで今度は250g前後の中玉。ところが「‘ふじ’は珍しくないからいらない」。次いで日本ではジュース原料になる200g以下の‘王林’。今度は「これはすばらしい」と。日本では商品価値のない‘王林’の小玉(46玉)が最高の評価を受けたことで,ヨーロッパへのリンゴ輸出の手応えをつかんだ。一番人気は46〜40玉の‘シナノゴ−ルド’。「酸味があり,ぱりっとしている」ことから,すべてのバイヤーがEU向きだと高い評価を与えた。

▲青果物輸入商社のチェックポイント

 1999年産のリンゴから本格的な輸出が始まった。輸出に先立ってイギリスの青果物輸入商社の役員が来日し,農園と選果場が「輸出者心得」に適合しているか審査した(写真4)。審査官が途中で急に「トイレに行きたい」というので案内したが,これも審査項目のひとつだったと思われる。


 写真4 イギリスの商社による園地審査

▲輸出で必要になったユーレップギャップ

 2002年7月に,イギリスのEWT社からの書簡で,ユーレップギャップ(適正農業規範:詳しくは本文参照)という言葉を初めて目にした。2005年1月以降の取引条件として,ユーレップギャップの審査を受け,そのなかの「必須項目」すべてをクリアすることが提示された。

 片山さんは,日本でも独自のGAP(適正農業規範)を導入すべきだ提案する。日本の生産現場にふさわしいGAPを導入し,世界標準GAPとの互換認証を実現すれば,国産農産物の輸出が容易になるのではと考えている。

▲中国へは超特大サイズの最高級品

 片山さんは,日本の高級品種が中国で定着しつつあった2003年産から中国の富裕層をターゲットに輸出を開始した。中国では,日本国内販売には大きすぎるサイズが好まれる。しかし,中国は世界最大のリンゴ産地であり,中国の消費者が日本産の品質の高さを確認できるよう,最初の輸出には美しいピンク色が特徴の有袋‘むつ’の大玉最高級品を選んだ。

▲リンゴの海外輸出のメリットは何か

 片山りんご園の取扱量約600tのうち,輸出向け商品は20t程度にすぎない。‘王林’の小玉は,日本国内の豊作年には加工原料になり,1個1円未満の農家手取りだが,イギリスでは1個約100円で売れる。とはいえ,イギリス向けリンゴだけの生産では赤字になる。それでもヨーロッパ向け輸出を継続しているのは,為替相場が輸出に有利になる時(円安)には日本のリンゴ農家の生き残り策のひとつになると思うからである。

省力新樹型・新技術の大特集

 ナシの波状棚栽培,ヤマブドウの雨よけ栽培,温州ミカン定植苗の無剪定斜幹植え法,‘せとか’のネットハウス栽培,ブドウの一文字片側整枝など,新たに開発された仕立て法や栽培法を一挙掲載。

 そのほか,ブドウのドリップ灌水による盛土式根圏制御栽培,温州ミカンの根域制限高うねマルチ栽培,ハウスブドウの根域集中管理栽培,イチジクの超早期成園化など新技術を特集した。

●新品目をつくりこなす

 温州ミカンでは,温暖化対応品種‘石地’をつくりこなす広島県の落海政博さん,晩柑類の注目品種‘せとか’をネットハウスで高品質多収する愛媛県の木元孝二さんを収録。

 ブルーベリーでは品種コーナーを全面改訂。さらに,活性酸素を消去する機能性成分が評判で栽培が広がる北方果樹アロニア,果実だけでなく,花芽や花,茎や果皮も野菜として利用できる熱帯果樹ピタヤを新たに収録。レモンは,先進地の広島県で芽かきによって低樹高化に成功している倉本静行さん,愛知県で土着天敵を利用して無農薬栽培の技術を確立した河合果樹園を紹介した。