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花卉の減農薬は野菜や果樹に比べて遅れていたが,薬剤抵抗性害虫が増え,薬剤散布労力も増すばかりのなか,いよいよ天敵利用をはじめとした減農薬栽培技術が広がり始めた。また,減農薬栽培された花卉の需要は,店内装飾用などを中心として徐々に高まりつつある。
今回の追録では,ガーベラ・施設バラでの天敵カブリダニ(写真1)での防除実証について片山晴喜氏(静岡県農林技術研究所)に紹介いただいたほか,村上健次氏(村上バラ園)による天敵カブリダニでの防除を用いた施設バラ栽培事例(写真2)について編集部記事で収録した。天敵以外の減農薬技術では,光防除と耕種的防除を組み合わせた輪ギク・エディブルフラワーの減農薬防除実例を,それぞれ鈴木玖美佳氏(愛知県東三河農林水産事務所田原農業改良普及課)と横山直樹氏(横山園芸)に,品種選択による露地草花での減農薬技術を菅家博昭氏(草花栽培研究会)に,切り花やエディブルフラワーの自然栽培技術を鈴木義啓氏(Suki Flower Farm)に紹介いただいた。
写真1 ハダニを捕食するミヤコカブリダニ
(写真提供:片山晴喜(静岡県農林技術研究所))
写真2 熊本県の施設バラ農家・村上健次氏の圃場
(写真撮影:赤松富仁)
ハダニがいない場合にえさとなるバラの花粉と,有機物マルチとして敷き詰めているカヤにより,天敵カブリダニが増殖しやすい環境が形成された
実際技術に加えて,海外での花卉の天敵利用について和田哲夫氏(ジャパンアイピーエムシステム株式会社代表)に,国内外における花卉栽培での減農薬に対する関心と技術について彦田岳士氏(MPSジャパン株式会社)に紹介いただいた。
農家自身の負担軽減や,薬剤抵抗性菌や害虫の対策,作土層深部の消毒のために,薬剤に頼らない土壌消毒が花卉品目でも増えている。とくにトルコギキョウではフザリウムによる立枯病対策のために,土壌還元消毒などの方法が各地で模索されている。今回の追録では,菌液を用いたカーネーション圃場の土壌還元消毒について実際に取り組まれている池田浩久氏(長野県実際家)に,トルコギキョウ栽培で用いられるウネ立て後の低濃度エタノール土壌還元消毒技術(写真3)の高知県での技術実証と普及について渋谷淳平氏(高知県農業イノベーション推進課)に,低濃度エタノール土壌還元消毒の実際家技術(写真4)とその効果などを渡辺貴志氏(花族)に,草花連作による土壌病害対策を湯田浩仁氏(株式会社土っ子田島farm)に紹介いただいた。
写真3 低濃度エタノール土壌還元消毒の実証圃場
(写真提供:渋谷淳平(高知県農業イノベーション推進課))
通路に灌水チューブを設置することで,ウネ立て後に還元消毒をする場合でもウネの土が硬くなりにくく崩れにくい
写真4 土壌還元消毒の際にエタノールを注入する動噴
(写真提供:渡辺貴志(花族))
トルコギキョウは2番花まで病害なく収穫できた
スターチスは,宿根タイプ(ハイブリッドなど)と一年草タイプ(シヌアータ)ともにコロナ禍を経て需要が急増。もともとは仏花のイメージが強かったが,ドライフラワーブームやホームユース需要に即した品目として,仏花以外でも使われるようになった。青・紫以外の品種がつくられ,産地のみならず直売農家にも広がっている。北海道では水田転作で栽培が拡大したほか,和歌山県では大規模専作経営が台頭し,需要増にも対応している。今回の追録では,シヌアータの栽培技術(写真5)を宮前治加氏(和歌山県農業試験場暖地園芸センター)に,増殖技術を出口萌氏(和歌山県農業試験場暖地園芸センター)に改訂いただいたほか,寒地のシヌアータ栽培事例を吉田典生氏(北海道空知総合振興局農業改良普及センター北空知支所)に,暖地のシヌアータ栽培事例を岡室秀作氏(和歌山県日高振興局農業水産振興課)に紹介いただき,桑折周一氏(福島県実際家)のハイブリッドの栽培事例を編集部記事で収録した。
写真5 スターチス・シヌアータの冷蔵育苗施設
(写真提供:宮前治加(和歌山県農業試験場暖地園芸センター))
順化後の段階であれば常温での育苗も可能となった
デルフィニウムは数少ない青系の花として,品種や作型を変えながら堅固な需要を保ってきた。コロナ禍前後で,流通量・取扱金額ともに変化が少なく安定した品目である。
品種では,収穫回数の増加,抽台のしやすさなどに焦点が当たるほか,シネンシス系・エラータム系ともに花色や草丈のバリエーションが増え,冠婚葬祭やフラワースタンドのみならずホームユースにも使えるものが登場している。また,発芽技術や夜冷育苗技術が確立し,暖地(宮崎県,JA豊橋など)寒冷地(北海道新ひだか町,青森県など)ともに新たな作型が生まれている。今回の追録では,暖地の栽培技術を中村広氏(宮崎県総合農業試験場)に,寒冷地の栽培・品質保持技術を黒島学氏(北海道立総合研究機構花・野菜技術センター)に改訂いただいたほか,最新品種の育種動向を中村広氏(宮崎県総合農業試験場),磯部知里氏(株式会社ミヨシ),徳弘晃二氏(カネコ種苗株式会社花き育種研究室)に,寒冷地の代表産地である北海道新ひだか町での栽培事例(写真6)を柿﨑由紀氏(北海道日高振興局日高農業改良普及センター)に紹介していただいた。
写真6 北海道のデルフィニウム農家・信田健一氏の育苗施設
(写真提供:柿﨑由紀(北海道日高振興局日高農業改良普及センター)
加温の必要がない夏季には,短日夜冷育苗を自身で実施している
フザリウムによる立枯病などの対策として,隔離土耕栽培が再び注目されつつある。水稲の育苗箱やコンテナを利用すれば,水稲育苗ハウスでも花卉栽培が可能になるため,つくり手の拡大にも一役買っている。今回の追録では,リンドウの隔離土耕栽培による立枯病対策技術を吉野健太氏(栃木県農業総合研究センター)に,水稲育苗箱を利用したフリージアの栽培技術(写真7)について村濱稔氏(石川県農林水産部ブランド戦略課)に紹介していただいた。
写真7 水稲育苗施設でのフリージア隔離土耕栽培
(写真提供:村濱稔(石川県農林水産部ブランド戦略課))
露地プール育苗の導入により,空いた育苗ハウスで花卉栽培ができるようになった