農業技術大系・花卉編 2017年版(追録第20号)


●ダリア―切り花ダリア栽培最前線

 ダリアといえばブライダルの花というイメージが強いが,ここ数年は一般向けのカジュアルフラワーとしても広がってきている。そうした需要拡大に向けた栽培の課題は,健全な種苗の確保,日持ち対策,冬切り作型のつくりこなしなどである。今号ではこれら切り花ダリア栽培の課題に向けた最新研究と経営事例を集めた。

 健全な種苗の確保ということでまず第一の課題なのが,ウイルス・ウイロイド病の対策である。一度感染すると治療できないのがウイルス・ウイロイド病。この被害から逃れるためには,健全種苗の育成が必要となる。その決定打となる茎頂培養苗からの挿し芽増殖,そして挿し芽育苗からの球根生産の実際を,仲照史氏(奈良県農業研究開発センター)に詳述いただいた。現在,この茎頂培養は生産者レベルでも取り組む事例が出てきている。

 また,ウイルス・ウイロイド病の診断と対策については同センターの浅野峻介氏に解説いただいた。目視で見分けられる典型的な病徴(写真1)や,健全株選抜のための検定方法がわかる。

写真1 ダリアのウイルス病 病徴
①TSWVによるダリアの輪紋病(左:黄斑,右:植物全体の生育抑制)
②DMVによるモザイク病。葉脈黄化のようす


 一方で,ダリアといえば日持ちがしない花というイメージもある。辻本直樹氏(奈良県北部農林振興事務所)にはその日持ち対策の最新研究および各種資材について解説していただいた。日持ちは品種や収穫ステージ,日長や温度など環境によっても変わるが,最近はダリアに使える品質保持剤が各種販売され,以前より早い切り前で収穫しても花径の拡大が維持できるようになっている。

 ダリアの品種開発については,切り花用とガーデン用のそれぞれを天野良紀氏(株式会社ミヨシ八ヶ岳研究開発センター)に紹介いただいた。切り花用品種の育種目標はやはり日持ち性を最優先とし,需要拡大に欠かせない冬切り栽培の作型に最適なものを目指している。その選抜基準は「日持ち性」「花色・花弁数の変化が少ない」「早生性」「分枝性」など。一方のガーデン用品種は,強健な皇帝ダリアと園芸ダリアをかけ合わせたバラエティ豊かな皇帝ダリアハイブリッドの品種群(写真2)が育成されている。また,育種といえば,経営事例コーナーで紹介した町田ダリア園・北村恒明氏の一年草化(種子繁殖)へむけた取り組み(写真3)も興味深い。大輪咲きタイプの実生群がつくられれば,ウイルス病の問題も克服できる。

写真2 皇帝ダリアハイブリッド「ガッツァリアシリーズ」
上:ガッツァリアダブルピンク,中:ガッツァリアピンク,下:ガッツァリアアプリコット めずらしい花色


写真3 ベルオブバルメラ(①)から出てきたさまざまなダリア
②は町田ダリア園オリジナル品種として選抜した個体で,のちに「町田ハニーレモン」と名付けられた


 その他,ダリアの経営事例では,露地とハウスを組み合わせて長期出荷をする山形県・小形義美さん,巨大輪で有名な愛知県・片山知生さんのきめ細かい栽培管理,宮崎県・富永秀寿さんの冷房育苗による冬春出荷を紹介した。

●キク―夏秋ギクのメジャー品種の栽培体系と防除の最新情報

 輪ギクの施設栽培でのシェアを急速に伸ばした夏秋ギク品種‘精の一世’。無側枝性で秀品率が高いことから重宝がられ,5月下旬から12月中旬まで,夏秋期以上の大変長期に渡る出荷がなされている。ただしこの栽培には,細かなシェード管理が必要。具体的な管理の方法も含め,本種の栽培体系を矢野志野布氏(イノチオ精興園株式会社)に整理していただいた。

 病害虫対策では,ウイルスの媒介虫としても問題となっているミカンキイロアザミウマと生理障害の黄斑病を収録。ヤガ類防除では,キクの開花に影響しない黄色LEDを用いた防蛾灯について石倉聡氏(広島県立総合技術研究所農業技術センター)に紹介いただいた。この防蛾灯はすでに市販されている(写真4)。


写真4 黄色パルス光の放射でキクの開花に影響することなくヤガ類防除が可能なLEDが開発された
露地ギク圃場で行なわれた現地実証のようす

●トルコギキョウ―苗生産に注目

 トルコギキョウは近年,種苗コストが上昇傾向にあり,育苗の出来・不出来が経営に大きく影響するといわれている。そこでトルコギキョウの経営事例では育苗・苗調達の方法に注目してみた。

 長野県の農事組合法人いなアグリバレーでは地元の育種家と組み,地域の組合員用の苗を生産。活着率向上のため,利用者の定植時期によって大苗から小苗までつくり分けている。同県の株式会社フロムシード(伊東茂男さん・雅之さん)は,その「いなアグリバレー」で用いるオリジナル品種の育種を担当,地域をバックアップする一方,生産された苗を利用した大苗で栽培期間の短縮を図っている。

 また,福島県の株式会社土っ子田島farm(湯田浩仁さん)は,作型によって自家育苗と購入苗を使い分けている。とくに自家育苗では省スペース化と高品質化をねらって「吸水種子冷蔵処理」技術を導入している。

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 今号はダリア,キク,トルコギキョウとメイン品目で力のこもった報告,事例紹介を収録できた。それぞれの経営,栽培実践にお役立ていただければ幸いである。

(2018年3月 農文協編集局)