農業技術大系・花卉編 2016年版(追録第18号)


●EOD変温管理で省エネ、高品質を両立する

 花卉生産において燃油・エネルギーコストが経営に占める割合は年々増加し、最近では2割程度にも達しているという。この問題に対し、これまでさまざまな省エネ技術が開発されてきたが、実際には設備のコントロールがむずかしかったり、導入コストが大きかったりとハードルが高かった。そうしたなかでも近年、注目を集めているのが「EOD変温管理」だ。EODとは日没後(End Of Day)の略で、その時間帯に短時間暖房・冷房することで、これまでのように長時間暖房・冷房しなくても、従来通りの、もしくはそれ以上の品質向上・収量増が達成できる。このEOD変温管理は日本発の技術といってもよく、慣行の夜間一定の温度管理に比べ燃油代や電気代を大幅に削減できる。一方、暖房機(冷房はヒートポンプが必要)と安価な変温コントローラー(5万円前後)があれば、だれでも手軽に導入できる。

 今号ではこのEOD変温管理を大特集した。

▼短時間変温処理による生育調節

 農研機構花き研究所・道園氏に従来のDIF(昼夜温較差)なども含め、短時間変温管理の原理を総合的に解説いただいた。実験事例として紹介しているのは、スプレーギク、カーネーション、アフリカンマリーゴールドなど。また、夜間短時間冷房については広島県立総合技術研究所・梶原氏に解説いただいた。キク、バラ、カーネーション、鉢ものシクラメン、鉢ものマーガレットなどでのEODの効果を検証しつつ、ヒートポンプの冷房機能の効用も説き、ヒートポンプがあるならば試してみる価値はあるとのこと。

 このほか、スプレーギクや観葉植物の夜間の変温管理による暖房コスト低減も紹介している。

▼EOD変温管理の生産者事例

 以上のような研究成果が伝えられる一方で、現場では動きだしている例もある。

 EOD加温 秋田県・羽川與助さんは輪ギクでEOD加温を導入。慣行と同等の品質を確保しつつ燃油消費量は34%削減(写真1、図1)。変温管理はその温度差から高湿度となりやすいので、病害の発生に注意し、循環扇を設置することがポイントとのこと。

写真1 秋田県・羽川與助さんの輪ギク‘神馬’
慣行とほぼ同等の切り花品質を確保


図1 花芽分化期の燃油がほぼ半減。トータルで3割強を削減しつつ,秀2L出荷を達成できた


 東京都・坂間園芸はクリスマスローズで導入。開花の前進や燃油消費量3割減を達成。現在、ラナンキュラスやペチュニアでも試験的に導入し、出荷の前進などの成果が出ているという。同じく、東京都・小山園芸では花壇苗で導入。暖房費4割減を達成できた。加温後は慣行の5℃一定よりも低い3℃で管理しても凍害は発生せず、品質への影響はなかった。また、品目によっては開花促進、花数増の傾向も感じられたとのこと。現在、早春出荷のキンギョソウでも検討中。

 EOD冷房 一方、兵庫県・山口浩平さんはカーネーションでEOD冷房を導入。これまで秋出荷は茎が軟らかくなり、廃棄が多かったが、定植3週間後から日没後4時間21度の冷房をすることによって、茎が硬くなり解決。年内の到花日数も短縮した。

●切り花の日持ち性を確保する

 切り花の日持ちはますます重要になってきている。現在は日持ち認証などによって高単価を維持し、販売力をあげてきている生産者も現われている。今号では前号に引き続き、この日持ち保証販売に向けた技術について追究した。

 その一つは、海外でも人気のリンドウ。生育ステージに合わせた窒素施肥や防虫ネットによる訪花昆虫の遮断(写真2)などで、日持ちを確保するポイントを福島県農業総合セ・矢吹氏が解説。収穫後の薬剤による処理以外にも日持ちをのばす方法は栽培管理段階でいくつもある。

写真2 リンドウは授粉を回避することによって日持ちを伸ばすことができる
左は防虫ネットあり,右は防虫ネットなし,収穫8日後の状態


 また「秋色アジサイ」「アンティーク」などと呼ばれ、人気がある切り花アジサイ。国産は日持ちが短いというイメージがあるが、オランダ産は日持ちする。オランダと国内の栽培状況を比較し、鉢栽培による水管理など、日持ちを高める各種ポイントや、切り花用品種と日持ち性の関係について信州大・北村氏に解説いただいた。

 育種による日持ち(花持ち)性向上については、キク、バラ、カーネーション、トルコギキョウを研究例として、品種間差とその要因を農研機構花き研究所・小野崎氏に解説いただいた。カーネーションについては、25℃条件下で一般的な品種の3倍(3週間)も日持ちする品種も開発され、すでに流通している。研究では日持ち日数が30日前後もある超長命性系統の選抜も行なわれ、日持ち性に関連する原因遺伝子を明らかにする研究が進められている。意外かもしれないが、最近まで花卉の育種で日持ち性はそれほど重視されてこなかったようだ。

●生産者による花の開発と栽培

 花卉の需要は業務用が減り、個人消費(普段づかい、家に飾る花)にシフトしつつある。それに伴って、品種開発の重要性はますます高まっている。そのための各種取組みも収録した。

 トレンドと商品開発 もちろん花にも流行があり、せっかく商品化できても顧客ニーズが違ってしまうこともある。流行の規則性やサイクルを少しでも先読みできれば経営にプラスとなる。トレンドの周期分析を中心に、フラワーデザイン(写真3)や人気品目の変化について大田花き花の生活研・内藤氏が解説。

写真3 近年人気のアンティークカラー(褐色がかった中間色)のデザイン
ブーケデザイン:松島理恵子


 バラ 岐阜県・(株)Rose Universeのオリジナルローズ「和ばら」の商品開発から栽培・経営まで。土耕でつくるオリジナル品種の魅力に経営の活路を見出した國枝氏が紹介。

 アジサイ 群馬県・小内園芸のオリジナル品種の商品提案と長期出荷技術を紹介。

 フリージア 埼玉県・高成園はフリージアの本来の魅力を知ってもらいたいと、慣行と同時に季咲き・枝切り採花の「ユーロスタイル」を出荷している。その栽培法を紹介。ほか、石川県の二重咲きなど全7色の品種開発について。

 ネリネ 切り花専用品種「ダイヤモンドリリー」の育成から、主役級の花に仕立て上げる栽培管理までを東京都・横山園芸の横山氏に紹介いただいた。

 リンドウ 三倍体品種で魅力が増したリンドウ。水田転作でつくりこなすJA秋田しんせいりんどう部会の生産者事例を紹介。「鳥海りんどう」ブランドで地域内雇用を生み出している。生育と生理・生態は岩手県農業研究セ・阿部氏が解説。

 カラー 関心の高い「畑地性」品種も加えて元千葉県暖地園試・林氏が解説。

●地域・場の魅力を高める緑化技術

 近年、地域景観や生物多様性に配慮した緑化が求められるようになり、地域性種苗の導入やその生産など、高度かつ多様な技術が開発され、実施されている(写真4)。都市緑化の最新工法やインドアプランツの品質劣化対策、マット植物の育成などを紹介。

写真4 福島県・仲田種苗園の「野の花マット」
地域ごとの植生をモデルにしている