農業技術大系・花卉編 2015年版(追録第17号)


●進化する「日持ち保証」の栽培技術

 全国のスーパーや生花店で「花の日持ち保証販売」が広まり、実施店では売り上げが伸びている。こうした消費側の欲求に対し、現場では日持ち性を向上させる各種技術に関心が集まっている。今号では花の日持ちをよくする栽培管理や出荷前処理、鉢もののハードニングを特集。

▼切り花の日持ち向上

 品質保持剤をつかいこなす 品質保持剤には生産者がつかう「前処理剤」や生花店・消費者がつかう「切り花栄養剤」などがある。宇田花づくり研究所・なにわ花いちば・宇田明氏に、意外と知られていないSTS剤の特性や各種処理剤の基礎情報を整理いただくとともに、クリザール(写真1)、ハイフローラシリーズ、美咲シリーズなど各メーカーにも紹介いただいた。薬剤の処理方法はそれぞれのカタログにも載っているが、個人・産地で最適なやり方を試験する姿勢が重要だ。

写真1 クリザール・BVBエクストラの効果
チューリップ専用で、葉の黄化と茎の伸長を抑制する
左:水道水処理⇒水生け7日後に撮影
右:BVBエクストラ500倍処理⇒水生け7日後に撮影


 生産者事例は、以下アルストロメリア、トルコギキョウ、カーネーションの3本を紹介。

 アルストロメリア 長野県・末広農園は品種ごとの適正なシュート本数の管理と、新開発の水替え不要の一発処理剤で日持ち性を確保。品質が落ちやすい夏出荷の「夏メリア」にも挑戦している。茨城県・久家源一さんは、収量や日持ち性を重視した品種選定とともに、高温期はチラー冷却に加え地下水を循環させることで経費を減らしつつも高品質化を実現している。愛知県・和ファームは冬季の炭酸ガス日中低濃度施用と、夏季のヒートポンプ夜冷で高品質化を実現。最近は、定期的に市場に日持ち検査を依頼し、日持ち性を把握するよう努めている。

 トルコギキョウ 静岡県・遠藤弥宏さんは炭酸ガスの日中低濃度施用で日持ち抜群のトルコギキョウをつくる。遠藤さんは日持ちをよくするには同化養分の蓄積が大事だといい、炭酸ガス施用はそれに貢献している。また活着後の乾燥気味の水分管理も葉と樹を締め、日持ちをよくしている。北海道・堀泰夫さんは夏どりのトルコギキョウで、無遮光による光合成促進と早期摘蕾で高品質化を実現している。

 カーネーション 香川県・真鍋佳亮さんの花はお客さんから「2か月もった」といわれるほど、日持ちがよいことで知られる。通常1,000倍希釈液を10時間給水で出荷するSTS剤(クリザール)を真鍋さんは250倍という高濃度で30分間給水させ、さらに通常100倍で使用する栄養剤(美咲プロ)を50倍でひと晩(10~16時間)給水させる。

 日持ち保証販売 日持ち保証販売とは花屋が客に対して観賞日数を保証すること。全店舗で切り花の日持ち保証販売に取り組むヤオコーの実践と、これから始めるための手順について日本フローラルマーケティング協会・松島義幸氏に解説いただいた。

▼花壇苗・鉢花の日持ち向上

 花壇苗のハードニング 花壇苗でも店頭での棚持ちがよく、定植後の生育も良好な高品質苗が求められている。奈良県では、食塩水を混用した液肥の灌注処理で、気孔を締め蒸散を抑制、耐干性を高める研究を紹介(写真2)。また、パンジーやビオラなど高温時に育苗せざるを得ない品目でも苗冷蔵することにより耐暑性が向上し、出荷時の品質や製品率が高まっている。生産者事例では、群馬県・サトウ園芸の灌水方法を紹介。通常の灌水方法では鉢の下層部中心の偏った根鉢になりがちだが、少量多灌水の手灌水ならば鉢の全層に根鉢を形成させることができ、体力のある株になる(図1)。

写真2 塩化ナトリウム処理したのち給水停止してから7日たったパンジー


図1 サトウ園芸の灌水と通常の灌水方法の比較


 鉢花のハードニング 群馬県・誠養園は、猛暑で知られる地域でも最高品質のシクラメンをつくる。体力のある理想的な株に仕立てるため、定期的に栄養診断をし、生育ステージごとに的確な肥培管理をする。「桂華」で知られる奈良県・華金剛は人気の大輪系ダリアの鉢ものや高温多湿下・低照度でもよく咲くハイビスカスなど、新規性と日持ち性を重視したオリジナル品種に力を入れている。

 パンジーの育苗は高温・長日期に行なうため、これまで徒長防止にわい化剤をつかわざるを得なかった。サカタのタネでは、わい化剤不使用でもコンパクトな草姿を維持でき、長く咲き続ける品種の育種を進めている。

 そのほか、ペチュニアとカリブラコアの栽培の基礎情報や、親水施設を利用して灌水の手間を省ける「据置型水上花壇コンテナ」を紹介。

●環境制御技術――LEDや蛍光灯で花芽分化抑制、トルコギキョウのCO2施用

 環境制御技術では、近年消費電力が少ない新光源への切り替えが進むキクの電照栽培。新光源を導入するときの注意や効果的な暗期中断の方法を解説。またトルコギキョウでは冬季低日照地域で効果が高いCO2施用について、花き研究所・牛尾亜由子氏に解説いただいた。

写真3 トルコギキョウのCO2施用CO2
左:対照区、右:CO2施用区、3月の状態CO2
CO2施用により地上部新鮮重や開花数などが増加し、低日照地域の冬期出荷の作型で品質が大幅に向上


●培土・鉢もの用土――ピートモス、木質廃材、ヤシ繊維資材など

 ヤシ繊維(写真4)は使用後の処理が困難なロックウールや自然破壊が懸念されるピートモスに替わる資材として利用が増大している。その種類や特性を解説。このほか、ピートモス(ピート)、木質廃材、リサイクルできるインドア用土「チャコボール」も解説。

写真4 さまざまなヤシ繊維素材 上段左:ヤシがらマット、上段右:ヤシがらブロック、下段左:ヤシがら、下段中:コイア繊維、下段右:コイアダスト


●生産者による花卉輸出の実践

 日本の花が世界の品評会で高い評価を得るようになり、日本の花・花文化の発信の機運が高まっている。輸出はハードルが高いと思われがちだが、代行業者もあり、敷居は以前に比べ低くなっている。どこまでなら自分でやれるのかの判断も含め、生産者自身が海外輸出する際に知っておくべき検疫や通関手続き、作業などについて専門家や市場の担当者に解説いただいた(写真5)。

写5 コロンビアの箱詰め技術
非常に多くの本数を傷つけずに詰めることができる。箱は輸送に耐えられるよう補強されている