農業技術大系・花卉編 2012年版(追録第14号)


低コスト,省エネの課題に応える
 輪ギクのトップ産地が提案するコスト低減の総合対策,コギクの機械一斉収穫,変温管理,新光源の活用法など。

進む温暖化と高温の影響と対策
 花卉生産での温暖化の影響の実態と,植木産地,プリムラ・ポリアンサ,シクラメン,アルストロメリアなど生産者の取組み。

新しい花の魅力の創造――新花色,香り
 青いバラ,カーネーション,シクラメン。(有)メルヘンローズ,福島県の(有)矢祭園芸などの香り育種,群馬県・関口政行氏のオステオスペルマムの育成など。

元気のある花,期待の素材
 ヒマワリ,ダリア,シャクヤク,アジサイからエキウム,アキメネスとその仲間などの新素材。


1.低コスト,省エネの課題に応える

 2011年夏に発行された『キクをつくりこなす』でもその第1部で紹介した「キクのコスト削減対策」は,愛知県渥美半島の産地の取組みをまとめたもの。低温開花性品種の利用や変温管理,発根苗などの利用による圃場占有期間の短縮,暖房機の排熱回収装置,省エネ電球の利用など総合的な対策で,ほかの品目でも学ぶ点が多い。

 小ギクでは収穫機による一斉収穫法も紹介(写真3)。同じ品種でも開花が1〜2週間ばらつくが,蕾切り花を葉色,花色などの品質を落とさずに開花させる栽培法や,一斉収穫に向く品種の選定,倒伏対策なども開発されている。

写真3 小ギクの収穫機


 省エネ対策で現在最も注目されているのがLEDなど省エネ電球。そこで,今追録から「花卉生産での光の利用」を新設し,その活用法を収録していくことにした。「光をめぐる研究と人工光源の利用」では,各光源の光質の特徴,光応答など光の活用で必要な基礎知識が解説されている。さらに,植物の避陰反応を応用した明期終了時(EOD)の短時間FR(遠赤色光)照射(EOD-FR)処理の各品目での研究も紹介。ストック,キンギョソウ,ユーストマなどでは生育促進ともに開花促進効果が確認されている(写真2)。

写真2 OD-FR処理による伸長・開花促進(ストックの例)
左側:無処理区,右側:処理区


 LEDの鉢花や観葉植物での活用法も紹介。各品目で開花調節や,コンパクトな草姿などそれぞれの目的での各波長の効果が整理されている(写真1)。

写真1 遠赤色光(745nm)で開花時の花茎が30%以上に(スパティフィラム)
左:埋設容器から取り出したところ。グリップが落下を防いでいる
右:地下式になった状態。グリップが固定の役目をしている


2.進む温暖化と高温の影響と対応策

 昨年新設した「温暖化と高温への対策」は今追録でさらに強化された。農研機構花き研究所の全国調査によって現在の状況が整理されている。病害虫では高温性Pythium菌,キク立枯病,C. cassiicolaによる病害,ウイルス媒介昆虫類の北上と虫媒伝染性ウイルス病の増加などが明らかになっている。千葉県の植木産地では,落葉樹では葉焼けや幹焼きが起こり,針葉樹ではムレ症状,高温を嫌うカルミヤやローソンヒノキでは根腐病が発生。害虫はアザミウマやゾウムシといった温暖地の害虫が多発するようになっている。

 この植木では,千葉県富里市の森重緑樹園で行なっているポットインポット栽培を紹介。「ポットに直接日射があたらず根鉢部分が温まらないため,生育遅延がみられない。乾燥が防げるので灌水回数が減り,肥料分の流亡も軽減されることから,根も活発に活動し始める」という画期的なもの(写真4)。

写真4 遠赤色光(745nm)で開花時の花茎が30%以上に(スパティフィラム)
ポットインポットの仕様(コロラドビャクシン)


 プリムラ・ポリアンサでは,早期出荷のために高冷地での山上げ栽培が行なわれているが,埼玉県では,近年は夏場の気温が高くて,低温に十分に遭遇することができず,予定する開花の促進が図れないことがある,という。それに代わる方法として開発されたのが,冷蔵庫を利用した暗黒条件での冷蔵処理。開花促進と草姿改善効果を考えると,0℃1週間後・10℃3週間の処理が最も適することもわかっている。

 アルストロメリアでは,シュートの発生サイクルが微妙にずれたり,花芽形成に低温を要求する品種や葉焼けを起こしやすい品種でロスが多くなっていた。長野県の宮下善人さんは,地中冷却,カーテンや遮熱吹付け材による遮光,夜間冷房,ミスト冷房など総合的な対策をとって,切り花品質を安定させている。

 シクラメンは,株のボリューム低下や開花遅延が問題になっている。埼玉県の本多農園では,4.5mの軒高にしたり,側窓をスライドにして換気効率を高めている。さらに地下水利用の冷房装置やアルミ系スクリーンの遮光・遮熱ネット,ヒートポンプによる冷房,除湿など徹底した対策をとっている。これらで温室内の労働環境も快適になって,家族や雇用者の人たちにも喜ばれているそうだ。

3.新しい花の魅力の創造―新花色,香り

 CO2排出権取引も事業の一環として取り組んでいる大分県の(有)メルヘンローズは,オリジナル品種の育成では香りにも力を入れている。ダマスク・クラシック,ダマスク・モダンなどの香りの種類に加え,ストレス解消やスキンケア効果などの機能性も含めて育種を続けている。

 福島県の(有)矢祭園芸も,香り育種に取り組んでいる。ダイアンサスでは‘パープルアロマ’‘ピンクアロマ’などを育成してきたが,愛好者が増えてきたと実感している。プリムラ・マラコイデスでも「香りメラコ」という商品認知がされたという。‘メローシャワー’に次いで,石鹸の匂いに近い品種や葉からではなく花から香りを出す品種も見出している。

 これまでマーガレットで31品種も育成してきた静岡農技研伊豆農業研究センターでも,ハナワギクとの属間交雑でラベンダーに似た香りを放つ品種の育成に成功している。キクでも中部電力(株)が野生種との交雑で甘い香りの‘アロマム’の育成に成功している。

 さて,これまでなかった世界初の青色の品種がバラ,カーネーション,シクラメンの育成に成功していることは衆知のことだが,今追録では,シクラメンで,青色で八重咲きの芳香性品種を育成した北興化学工業(株),バラとカーネーションで育成したサントリーフラワーズ(株)に育成の経過と方法を紹介していただいた。これまで出せなかった青色を出すための植物色素の合成経路や遺伝子の仕組みなども詳しく解説されている。今後もさらにより青い品種の育成が進むようである。

 民間育種家や県も頑張っている。オステオスペルマムでは,群馬県の関口政行氏と群馬県農技センターとが共同でイオンビーム照射によって,これまでなかった色調の品種の育成に成功した。

4.元気のある花,期待の素材

 アジサイは厳寒期の1〜2月に出荷できる品種が登場(群馬県農業技術センター育成の「冬あじさい・スプリングエンジェル」)。これまでの花壇や鉢花だけでなく,半日陰のガーデニング材料,都市緑化へと用途を広げたサルビアも充実。和の素材として人気を復活したシャクヤクも品種のコーナーを一新し,9つのタイプの特徴と使いこなし方,エッジサーモン,ピロートーク,レッドグレスなど今後需要を喚起できる品種も紹介。切り花の主力品目になったヒマワリも品種情報を一新。

 シュッコンカスミソウでは‘ニューホープ’という匂いのない品種も登場している。

 ダリアは,切り花栽培の広がりとともに問題になってきたウイルス病対策,品質の保持方法,そして茎長培養苗からの球根の大量増殖と挿し芽苗を利用した冬春切り栽培技術のマニュアルを紹介。

5.新研究・新技術

 世界に先駆けて発見された,自在に花を咲かせる夢のホルモン,フロリゲン(図1)について,その機構と花き栽培での活用法を第1巻で収録。また,現在進められている日持ち保証販売を支援する,花弁の老化制御機構についても最新の研究がコンパクトにまとめられている。

図1 フロリゲンの受容と機能の仕組み(Taokaら,2011)