農業技術大系・花卉編 2009年版(追録第11号)


●第3次石油危機の経験を活かし脱石油でコスト削減―新たに開発された暖房・保温対策からキク‘新神2’など低温性品種の活用まで

●輸入攻勢と不況を吹き飛ばす―カーネーション,キンギョソウ,ストック,ユーストマ,アルストロメリア,ラナンキュラスなど元気な花の戦略と最新情報

●自生植物の利用―自生地での保護法と日本の環境にあった新素材の開発。カタクリ,サギソウ,ホトトギス類など9種を一挙収録


1.施設の省エネ対策大特集――第3巻に「省エネ対策」を新設

 2006年から始まった第3次石油危機。2008年の冬から急速に原油が高騰したため,やむを得ずハウスの設定温度を下げた方もあった。その後,暖房費のかからない品目に転換したり,ヒートポンプやペレット暖房機など新たな暖房システムを導入した方も多い。重油ボイラーの燃費効率は,30年前の石油危機当時から各段に高くなっているとはいえ,暖房費の比重の高さを痛感させられたものと思う。その後,一転して昨年の秋から石油の価格は急落しているが,この経験を今後に活かしていただきたい。

 「各種省エネ暖房方式」では,ヒートポンプ,地熱水,風力,木質バイオマス,廃タイヤなど石油を使用しない暖房システムや,暖房機の排気ガスを有効活用する排熱回収装置などを一挙掲載した。それぞれ経営に合わせた有効な導入方法,コストなどが詳細に解説されている。

 「保温・暖房の省エネ方式」で収録したのは,根圏局所暖房,空気膜2重構造ハウスのほか,中国の日光温室,夜間の変温管理など。

 まず根圏局所暖房。トルコギキョウなどの切り花では,電熱ケーブルをうね下10〜15cm程度に埋設することで生育を促進できるという。加温機を併用する方法もあって,暖房経費が大幅に低減できる。

 愛知県の和田朋幸先生らが開発したのは,電熱線などの温床線で根圏だけを加温して生育を促進する方法。アフェンドラやシェフレラでは,施設暖房温度15℃条件下で培地温度25℃の根圏局所暖房をすると,施設暖房だけよりも生育が良好になる。スパティフィラムやカラテアなど各植物でも詳細に検討されているが,この生育促進効果は,各植物の最適生育温度よりも低い施設暖房温度で効果が大きいことも明らかになっている。

 また,図1のような,「チャンバー(仕切られた空間)暖房装置」も開発。温室は10℃にして,チャンバー内だけを20℃に暖房すれば,温室全体を20℃にする全体暖房と同等の葉数,側芽数,株高,株張りになるという優れものである。

図1 チャンバー暖房装置の設置方法

 空気膜2重構造ハウスでは,簡易なパイプハウスでも導入できるシステムや,地下水を利用するウォーターカーテンと組み合わせる方法が開発されて,各地で導入が進んでいる。

 なお,生産者の取組みでは,福島県の白鳥文雄さんと広島県の今井ナーセリーを紹介した。今井ナーセリーは,まだ重油価格が1リットル当たり30円だった2003年に,切りバラとファレノプシスでヒートポンプをいち早く導入し,「エコモード」という重油暖房機と併用した効率的なシステムを開発して燃料費54%削減を実現。

 白鳥さんは,1985年に輪ギクでDIFによる生長調節技術を導入して暖房費や植物成長調整剤処理を削減してきた。2003年には,それに加えて,大型鉄骨ハウスの中に小さなパイプハウスを設置して約40%の重油削減に成功している。

 なお,省エネといえば,一輪ギクで低温性品種として注目の‘新神2(あらじんつー)’を収録。鹿児島県農業開発総合センターが育成したもので,生育ステージを平均すると通常より2〜4℃以上低い温度ですむので,冬場の重油代が半分程度に減らせるという。今後,各品目でこのような低温性品種が育成されることを期待したい。

2.輸入攻勢と不況を吹き飛ばす各花卉の戦略と最新情報

 今追録で改訂したのはカーネーション,キンギョソウ,ストック,ユーストマ,アルストロメリア,ラナンキュラス。

 ストックは冬季も5℃程度の温度で栽培可能と,低温性の花なので,今回の重油高騰下で一躍注目された品目。国内の優れた育種家によってスプレー咲きなど魅力的な品種場が続々と登場しているのも成長の理由である。また,直播栽培技術も開発されて大幅な省力化が可能になっている。生産者事例で山形県(砂丘地)と鳥取県を収録したが,両者ともに直播栽培で,スイカやメロンなどの後作で導入している。鳥取県では70aを超す大規模経営も登場している。

 鉢ものが中心だったラナンキュラスは,複色や希少な花色だけでなく,インパクトのある大輪系も登場して,アレンジメントや結婚式のブーケなど用途が広がって人気が高まり,切り花生産が急成長してきた。これもやはり低温で栽培できる品目である。

 カーネーションは,輸入攻勢で苦戦してきたが,高度な栽培技術やオリジナル品種の育成などで再び元気を取り戻している。今回,品種のコーナーを一新したが,これまでのイメージをくつがえす‘スターチェリー’(写真1)‘ミニティアラピンク’(香川県育成)といった剣弁の品種も登場するなど新たな提案をしている。生産者事例で紹介した長崎県の(有)本田園芸(本田敏秀さん)は,仲間のJAながさき県央諫早カーネーション部会で2009年度の「第38回日本農業賞・集団組織の部」を受賞。ハウスや品種ごとに施肥量をタッチパネル方式で自在に設定できる養液土耕栽培システム(図2)を地元企業と共同開発して,省力化と高品質生産を実現している。

写真1 話題のカーネーションの品種‘スターチェリー’

図2 「JAながさき県央諫早カーネーション部会」が地元企業と共同開発した養液土耕システム

 洋花やアレンジメントなどへと用途が広がるキンギョソウも,無摘心栽培など新技術も収録して全面改訂。

 種苗費が高く,通常4年ていど据置栽培がされるアルストロメリアも,ハイブリッドタイプやバタフライタイプなど多様になった品種の選択法や補光による生育促進,鮮度保持技術をめぐる最新技術が盛り込まれてさらに充実した。

 ユーストマでは,覆輪品種で問題になってきた「色流れ」について,施肥量の削減,日中の加温といった対策が明らかにされている。

3.自生植物の魅力と保護・園芸化を追求

 自生植物は,日本の環境に合った新たな花卉素材として注目が高まってきた。今追録ではカタクリ,サギソウ,シダ植物(西表島),デンジソウ,ノハナショウブ,ホトトギス類,ミセバヤ,エッチュウミセバヤ,ユキノシタを収録。これら絶滅が危ぶまれている植物の保護・増殖法とともに,観賞植物として活用する方法も充実している。