| 電子図書館 > 農業技術大系 > 追録 | ![]() |
今号の特集の一つは,チッソ固定細菌(チッソ固定菌)の生態と資材利用です。近年,化学肥料の高騰や地球温暖化の問題から,チッソ固定細菌の利用が注目されています。なかでも水田は畑に比べて地力チッソの依存度が高く,チッソ固定細菌の働きも大きいとされ,イネでは土壌中のほか,植物体内に内生菌(エンドファイト)として生息しているといわれるチッソ固定細菌の実態の解明が進んでいます。
そこで今号では,「イネのチッソ固定エンドファイトの生態と生育促進機能」について取り上げました。それによると,茎部では茎の最も基部の「不伸長茎部」に炭水化物が多く蓄積しており,チッソ固定細菌はこれをエネルギー源として定着し,チッソ固定していることが確かめられました(図1)。また,根に定着してイネの生育を促進することが確かめられたチッソ固定細菌では,明らかなチッソ固定の増加は見られず,土壌中の施肥チッソの吸収促進をしている可能性が示されたとのこと。植物に内生するチッソ固定細菌には多面的な働きがありそうです。

図1 イネの茎基部と根におけるチッソ固定エンドファイトの存在イメージ図
また,近年はチッソ固定菌もバイオスティミュラント資材としてさまざまな作物に利用されるようになりました。マメ科以外の作物のチッソ固定量は,マメ科の根粒菌ほどには期待できないようですが,今回いくつかの資材の利用と効果を収録しました(写真1,2)。

写真1 イネ用エンドファイト資材「イネファイター」の処理

写真2 緑色蛍光タンパク質標識した細菌エンドファイトのイネ生長点近傍への定着
近年の農業生産の大きな課題は高温対策です。今号では,高温対策としてのバイオスティミュラント資材の利用方法も紹介しました。バイオスティミュラント資材の効果は使い方次第であり,根が優先して張っているかどうかがポイントのようです。あらかじめ遮光して作物周辺の温度を下げておいて,根を張らせてから葉面散布をする,などの効果的な利用方法を収録しました(写真3)。

写真3 根域サポートバイオスティミュラント資材「ライゾー」の灌水施用(右)で,無施用(左)に対して根毛が増え,根が太くなった
今号では土壌病害虫対策も重点的に取り上げました。
土壌病害対策では,作物残渣の分解によるキュウリ緑斑モザイクウイルスやサツマイモ基腐病などの防除,不耕起栽培と太陽熱土壌消毒の組合わせによるミズナ立枯れ症の防除を収録しました。残渣の分解では,水溶解度の高い薬剤を植物体にすばやくとりこませて枯死させる「古株枯死」や,ロータリの多回数耕起,微生物資材を使った土壌混和による防除をまとめています(写真4)。「残渣は圃場外に持ち出して処分する」といわれていますが,すべてを持ち出すことは実際には不可能であり,実践的な研究成果といえそうです。

写真4 そのまますき込んだだけのニラの株(右)は分解されていないが,微生物資材と一緒にすき込んだ株(左)は分解された。ネダニが隠れる部分が失われ,薬剤も届きやすい
センチュウ対策では,ピーマンの永年栽培(不耕起)を試みた研究成果と,センチュウの感染機構について取り上げました。ピーマンを4年間永年的に栽培した試験によると,センチュウ捕食菌や,植物にリンなどを供給する菌根菌が増えていました。永年栽培は土壌生物の多様性の増加をはじめ,毎年の定植などの作業の省力化にもなるため,世界的にも「環境再生型農業」として注目されているようです。
また,土壌病害対策では,畑の健康診断といわれる「ヘソディム」による土壌病害管理も取り上げました。ヘソディムの土壌病害管理は,発病度,pH,菌密度などの「診断」,発病しやすさの「評価」,土壌消毒剤使用も含めた「対策」,の3段階で進められます。これによってカレンダー防除のように予防的に土壌消毒剤を使うことがなくなり,土壌消毒剤を減らせるとして注目されています。この基本的考え方と,三重県のキャベツ根こぶ病,群馬県のキャベツバーティシリウム萎凋病,香川県のブロッコリー根こぶ病の管理方法を合わせて紹介しました。
このほか,減肥や減農薬につながる緑肥利用,畑と水田で減肥につなげる可給態チッソ診断,地域有機廃棄物としての下水汚泥や生ごみの肥料利用なども収録しました。
最後に,土壌肥料をめぐる最新トピック研究を取り上げました。近年は欧米を中心に「土壌の健康」の衰退が指摘されています。土壌の健康とは,「陸上生態系の生産性,多様性,環境サービスを維持する土壌の能力」とFAOでは定義しています。しかしこれらはpHなどの生産性だけではなく全体的な評価が求められるため,評価は困難といえそうです。今号では,土壌の健康の定義,土壌の健康に関する研究史,土壌有機物の減耗と耕起,チッソ肥料の有効利用などのほか,土壌構造と硝酸態チッソの溶脱や温室効果ガスの排出,などを収録しました。
このほか,土壌構造を簡易に診断する土塊分析法,焼成ホタテ貝ガラ粉末の添加で家畜糞堆肥の薬剤耐性菌を制御する方法も収録しました。今号もお役に立てれば幸いです。