農業技術大系・土肥編 2022年版(追録第34号)


 本追録は肥料特集である。現在,農林水産省が「みどりの食料システム戦略」を打ち出し,2050年までに有機農業の100万ha拡大を提案したことや,化学肥料が高騰していることから,農業生産現場の関心は下水道汚泥の再生リン肥料,家畜糞堆肥をはじめとした有機質肥料・資材に集まっている。いっぽうで,食料の安定生産のためには化学肥料も欠かせない。化学肥料はわが国の食料増産に寄与してきたが,その多くの国内生産量は減少の一途をたどっており,資源循環型農業が求められるなかで,有機質肥料と合わせた効率的な活用が求められている。そこへ登場したのが,指定混合肥料である。国内発生資源の家畜糞由来堆肥と化学肥料,有機質肥料などを混ぜて流通できる制度ができた。

 本追録ではわが国の食料増産を支えてきた化学肥料生産の変遷と,化学肥料,有機質肥料,指定混合肥料の特性と利用をまとめて収録した。

〈化学肥料の特性と利用〉

 化学肥料では,単肥の窒素質肥料,複合肥料の化成肥料,配合肥料を収録した。

 単肥の窒素質肥料は,硫安や尿素などの成分・性質,製造方法,国内生産量と輸入量から,肥効特性,効果的な使用法まで網羅した既存の記事を吉田吉明氏(日本石灰窒素工業会技術顧問,元JA全農)に改訂していただいた。なお,肥料法では複合肥料に分類されるが,農家の自家配合肥料の原料に使われるりん安も単肥の窒素質肥料の項に同氏に新規執筆していただいた。複合肥料に分類されるMAP(りん酸マグネシウムアンモニウム)も,各地の行政やJAで下水処理場から回収したMAPを原料として肥料化が進んでいることから,同様に新規執筆していただいた(図1)。




図1 リン回収設備フロー

 また,化成肥料では,緩効性窒素入り化成肥料,被覆肥料(コーティング肥料),硝化抑制材入り化成肥料などを収めた。被覆肥料は一発肥料などに代表される省力的な肥料として生産量が伸びているが,肥料成分を被覆する樹脂の圃場外流出が問題になっており,ウレアホルム,IB,CDU,オキサミドなどの緩効性窒素入り化成肥料(化学合成緩効性窒素肥料)も再注目されているようだ(図2)。また,配合肥料では,粒状配合肥料(BB肥料)も収めた。化学的操作を加えず物理的に混ぜ合わせるため,安価に製造できるとして,化学肥料のなかでも生産量を維持している(図3,図4)。地域,土壌,作物に合わせて配合できるのも魅力だ。いずれも羽生友治氏(元全農肥料農薬部,開発肥料)に既存記事を改訂していただいた。



図2 被覆肥料および化学合成緩効性窒素肥料の生産量の推移(農水省統計より作成)



図3 化成肥料の生産量の推移



図4 配合肥料の生産量の推移

表1 JAグループ取扱いのひまし油かすの保証成分

肥料名保証成分(%)C/N比
窒素全量(T-N)リン酸全量(T-P2O5)カリ全量(T-K2O)
ひまし油かすN88.03.01.04.6
ひまし油かすN55.01.01.08.5
なたね油かす5.32.01.07.2

表2 蒸製毛粉の含有成分事例

水 分(%)N(%)P2O5(%)K2O(%)MgO(%)MnO(ppm)B2O3 (ppm)Fe(ppm)Cu(ppm)Zn(ppm)Mo(ppm)
94.5~14.10.2~5.30.0712.91,9007~2580~1501

注 有機肥料ガイド,全農肥料農薬部より

表3 鶏ふん燃焼灰の成分分析例(JA全農肥料研究室)(%)

会 社原 料TPCPWPCKWKTMgTCapH
A社
B社
C社
D社
E社
F社
ブロイラー
ブロイラー
ブロイラー
ブロイラー95%+採卵鶏5%
採卵鶏
採卵鶏
28.0
22.2


11.1
24.5
19.1
17.2
16.3
8.3
0.0
0.0
19.6
16.0
18.6
19.8
10.0
10.9
11.0
14.0
14.3
8.3
8.4
5.5



3.0
21.0
27.9



44.8
12.5
11.0

12.0

13.1

注 TP:リン酸全量,CP:ク溶性リン酸,WP:水溶性リン酸,CK:ク溶性カリ,WK:水溶性カリ,TMg:苦土全量,TCa:石灰全量

〈有機質肥料,有機廃棄物の特性と利用〉

 有機質肥料では,植物質肥料,動物質肥料をはじめ,しょうゆかすやグルテンミールなどの副産物肥料,家畜糞処理物などの有機性廃棄物を収録した。なたね油かすや魚かすなどの製法,成分,公定規格から,利用法,銘柄例まで網羅した既存の動物質肥料の記事を浅野智孝氏(朝日アグリア株式会社)と野口勝憲氏(片倉コープアグリ株式会社)に,植物質肥料を山下耕生氏(JA全農肥料研究室)に改訂していただいた。

 なかでも,有機質肥料は窒素成分量が低いといわれるが,窒素成分が高い注目の肥料がある。ひまし油かすを山下耕生氏(JA全農肥料研究室)に,蒸製毛粉(フェザーミール)を浅野智孝氏(朝日アグリア株式会社)に新規執筆していただいた(表1,表2)。このほか,リン酸とカリ成分が高く国産で入手しやすい鶏ふん燃焼灰を前述の山下氏に新規執筆していただいた(表3)。

 なお,これら有機質肥料を選択する際の基礎として,「有機質肥料の分解特性」を郡司掛則昭氏(元熊本県農業研究センター)に改訂していただき,「有機質資材の施用効果のデータベース化」を小柳渉氏(新潟県農業総合研究所畜産研究センター)と大野智史氏(農研機構中日本農業研究センター)に新規執筆していただいた(図5)。



図5 有機質資材の施用効果データベースのトップページ https://www.naro.affrc.go.jp/org/narc/crop_diagnosis/org_db/index.html

〈指定混合肥料〉

 指定混合肥料制度によって,化学肥料,有機質肥料と家畜糞由来堆肥などを混ぜて流通させることができるようになった。このことについて,「指定混合肥料制度」,「指定配合肥料」,「指定化成肥料」,「特殊肥料等入り指定混合肥料」,「土壌改良資材入り指定混合肥料」,「指定混合肥料の粒状加工」,「指定混合肥料の特徴と効果」の項に分けて整理し,浅野智孝氏(朝日アグリア株式会社)に新規執筆していただいた(図6)。堆肥を原料とする肥料を生産する際の実践的技術として「堆肥を原料とする高窒素肥料の生産」を水木剛氏(岡山県農林水産総合センター)に執筆していただいた。



図6 新たな指定混合肥料制度概要 2020年10月28日,肥料制度の見直しに係る説明会(Web会議)資料より https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_hiryo/attach/pdf/1028setsumei-11.pdf

〈バイオスティミュラント,カバークロップ〉

 近年注目のバイオスティミュラント,カバークロップについて,「抗酸化ペプチド・グルタチオンによる光合成能力向上効果」を小川健一氏(岡山県生物科学研究所)に,「カバークロップ導入による持続的生産と炭素貯留機能」を小松㟢将一氏(茨城大学)に改訂していただいた。

 なお,本追録では,今回の肥料法改正にあたって,「肥料の品質の確保等に関する法律の概要②」も山下耕生氏(JA全農肥料研究室)に新規にまとめていただいた。