農業技術大系・土肥編 2020年版(追録第31号)


〈バイオスティミュラントをめぐる研究〉

 本追録では近年注目を浴びるバイオスティミュラントをめぐる研究をまとめて収録した。「バイオスティミュラントの定義とその意義」(日本バイオスティミュラント協議会事務局・須藤修氏)によると,バイオスティミュラントは直訳すると生物刺激剤。それを与えることで作物が高温や低温などの環境ストレスに強くなる(図1,表1)。今回収録したものでは,「ボカシ肥料(発酵肥料)」「大豆かす由来ペプチド」「トレハロース」「酢酸」「タケニグサ抽出物」「高機能液肥」がそれにあたる。ほとんどのものが日本バイオスティミュラント協議会(2018年設立)の講演会2018・2019で発表されたものである。


図1 バイオスティミュラントと従来の農業資材の違い

非生物的ストレスとは高温や低温,干害,塩害,雹や風などの環境から受けるストレスを指し,生物的ストレスとは病気や害虫,雑草などを指す。今までの資材では対処不能だったストレスを管理する新しい農業資材がバイオスティミュラントである


表1 バイオスティミュラントの種類と作用(例)        (高木,2019)

種 類作 用腐植質
有機酸
海藻
多糖類
アミノ酸,
ペプチド
ミネラル,
ビタミン
微生物
(生菌)
植物/微生
物抽出物
向上・促進系1)ストレス耐性  
2)代謝向上  
3)光合成促進    
4)開花・着果促進    
調整・コントロール系5)蒸散調整    
6)浸透圧調整    
根の賦活系7)根圏環境改善   
8)根量増加/根の活性向上 
9)ミネラルの可溶化   

 たとえば,「ボカシ肥料」については,「植物に対する乳酸菌培養液の機能性」として,雪印種苗の眞木祐子氏・北海道大学の山口淳二氏にまとめていただいた。生産現場でボカシ肥料は「作物の品質をよくする」「悪天候に強くなる」といわれるが,報告によると,ボカシ肥料に含まれるフェニル乳酸(乳酸菌の代謝物)が発根促進作用を示すことがわかった。発根が促されたことによって微量要素などの養分吸収が高まり,品質向上につながるのだろうか。「大豆かす由来ペプチドによる根毛増殖効果」(立命館大学・久保幹氏)によると,大豆かすを発酵させてできた液体分解物をコマツナに与えたところ,慣行栽培よりも大きく生長し,詳しく調べると側根から出る根毛が顕著に増加していることが明らかになった(写真1)。さらに,この根毛を増殖させるのは,大豆かす由来の液体分解物中に含まれる,12個のアミノ酸が連なった分子量が1,198ダルトンのペプチドであることがわかった。大豆かすはボカシ肥料の材料にも使われる。いずれも生産現場の経験知を裏づける成果である。


写真1 ペプチドによるコマツナの根毛増殖

蛍光標識したペプチドは根毛から吸収され(左),その後,根毛非形成細胞に移動していた


 このほか,「トレハロースによるピーマン,ナスの低温・高温耐性効果」(高知大学・西村安代氏),「酢酸による乾燥・高温耐性の付与効果」(アクプランタ(株)/東京大学・金 鍾明氏),「タケニグサ抽出物による耐暑性向上効果」(富士見工業(株)・金田健吾氏),「高機能液肥の組合わせ散布の考え方・処方の組み立て方」((株)サカタのタネ・高木篤史氏)を収録した。これらは第2巻に新たに「バイオスティミュラント」コーナーを新設して収めた。今後もひきつづき,環境ストレスから作物を守るさまざまなしくみを収録していく。楽しみにしていただきたい。

〈自給有機質肥料・資材の活用〉

 本追録では,ボカシ肥料の材料にも使われる「そばがら」,堆肥素材や育苗培土に使われる「籾がら」など,自給有機質肥料の特性や活用法,効果も収録した。

 たとえば,「籾がらくん炭によるバチルス菌の増殖と抗菌物質生産の促進」(近畿大学の江邉正平氏・阿野貴司氏)によると,籾がらからつくられるくん炭により微生物が増殖し,それらが抗菌物質を生産することが明らかになった(写真2)。「くん炭を施用した畑では作物が病気にかかりにくくなる」といった,昔から農家が経験的に感じてきたことを裏づける研究である。


写真2 バチルス菌IA株の培養液から菌体を取り除いた上澄によるリゾクトニア菌の抗真菌活性

各寒天培地の右に置かれたカップには,@くん炭を添加せずに液体培養を行なったバチルス菌IA株の培養上澄,Aくん炭を添加して液体培養を行なったバチルス菌IA株の培養上澄がそれぞれ入っている。各寒天培地の左には,植物病原性真菌であるリゾクトニア菌を植菌している


 このほか,「そばがら堆肥」「発酵籾がら」や,米ぬかを用いた「有機栽培野菜畑土壌における施用有機物の窒素無機化特性」を収録。いずれもこれからの持続的な農業に欠かせない自給有機質肥料である。この分野もひきつづき重点収録していく。

 資材活用として,施肥管理の見直しを提唱する「カルシウム施肥によるジャガイモの生育と品質の向上」(帯広畜産大学・谷昌幸氏)も収録。作物におけるカルシウムの作用について考えさせられ,読み応えがある。

〈農薬に頼らない土壌病害対策〉

 農薬に頼らない土壌病害対策も多く収録した。「湛水うね立て栽培によるサトイモ乾腐病抑制」(鹿児島県農業開発総合センター・池澤和広氏),「ブロッコリーの前作によるナス半身萎凋病防除」(群馬県農政部技術支援課・池田健太郎氏),「ブロッコリーの輪作と残渣利用の土壌還元消毒によるミニトマト半身萎凋病防除」(北海道石狩市農業総合支援センター・臼澤茂明氏),「土壌消毒剤および転炉スラグによるキュウリホモプシス根腐病の防除技術」(岩手県農業研究センター・岩舘康哉氏),「ネギ黒腐菌核病の防除と土壌・施肥管理」(静岡県農林技術研究所・伊代住浩幸氏)である。いずれも,生産現場で求められ,開発された技術である(写真3)。


写真3 ナスの前作としてブロッコリーを栽培(奥はナス圃場)


 生産者事例として全国環境保全型農業推進コンクールで優秀賞受賞などで知られる静岡県三島市の杉本正博氏の「米ぬか,石灰窒素,太陽熱消毒,管理機利用で減農薬・良食味のコマツナ,多品目野菜」も収録。「アミノ酸によるトマト青枯病の抑制効果」(農研機構 瀬尾茂美氏・中保一浩氏)は,アミノ酸のヒスチジンがトマトの病害抵抗性を高めることで青枯病を抑制することを明らかにした研究で,環境保全型病害対策技術として注目である。

〈広がるライムギ活用〉

 緑肥のなかでも,ライムギの利用が各地で広がっている。目的はさまざまであり,病害軽減をねらった「ライムギによるアブラナ科根こぶ病の軽減」(カネコ種苗株式会社・富田祐太郎氏),肥料効果をねらった「越冬ライムギの肥効を活用したレタスの減肥栽培」(長野県野菜花き試験場・鮎澤純子氏),物理性改善をねらった「岐阜県・飛騨地区夏秋トマト 耕盤破砕,ライムギ輪作による根域拡大・排水改善で生育・収量向上」(岐阜県西濃農林事務所農業普及課・市原知幸氏)を収録した。

〈センチュウの生態と対策〉

 産地にとってセンチュウ対策は今も課題である。対策として「アスパラガスの廃棄根すき込みによるキタネグサレセンチュウ防除」(農研機構野菜花き研究部門・浦上敦子氏),現在までのセンチュウの被害と対策をまとめた「有害センチュウの被害と対策の現代史」(丸和バイオケミカル株式会社/元中央農業研究センター・水久保隆之氏),センチュウの寄生方法の解明に踏み込んだ「サツマイモネコブセンチュウの作物寄生のしくみ」(名古屋大学・近藤竜彦氏)を収録。農研機構中央農業研究センターの岡田浩明氏には「植物寄生性センチュウの種類と生態」(水久保,1999)をこの間の研究成果を踏まえて改訂していただいた。

 このほか,湿害時における作物の根の形態変化として,「湛水状態におけるダイズ根の形態変化」(農研機構東北農業研究センター・島村聡氏),「トマトの湿害と根の構造」(静岡大学・鈴木克己氏)を収録。作物は悪条件に対応する能力があることが実態的にわかる。

 また,土壌の微生物診断として,「SOFIX(土壌肥沃度指標)」による農地診断および施肥設計」(立命館大学・久保幹氏),「土壌微生物多様性・活性値診断と改善」(株式会社DGCテクノロジー・横山和成氏)を収録した。有機栽培を科学的に検証していく際に役立つ。