農業技術大系・土肥編 2019年版(追録第30号)


施肥改善・土壌改良の取組み事例集

 今回は生産者による施肥改善・土壌改良の取組み事例を収録。環境保全型農業の地域展開,施設・露地畑・樹園地土壌の実例について紹介する。

〈環境保全型農業の地域展開〉

 茨城県ひたちなか市・ひたちなか・東海・那珂ほしいも協議会は日本一の干しいも産地で,原料となるサツマイモを生産している。強風と干ばつによる土壌の飛散を防ぐため,規格外ムギを畑全面に播種し,冬にすき込み。麦間栽培によって良質なサツマイモを生産し,それら有機物の供給と土壌診断で施肥過剰を改善した(図1)。


図1 麦間で干しいも用サツマイモを栽培

 麦で強風と干ばつによる土壌の飛散を防ぐ


 茨城県北西部・奥久慈うまい米生産協議会は,地域の家畜糞堆肥で水田の地力を維持・増進している。施肥の合理化で化学肥料の使用量を減らし,有効茎歩合を高めて高品質米を生産・販売。経費削減と米価向上で稲作経営の所得が増加,中山間地での耕作放棄に歯止めをかけ,農村景観も保全している。

 栃木県芳賀郡茂木町・茂木町有機物リサイクルセンター美土里館では,町内の未利用資源を堆肥化している。原料は酪農家8戸約500頭分の牛糞尿,市街地1,700世帯分の生ごみ,ライスセンターなどからの籾がら,収集され買い取った落ち葉,針葉樹林間伐材のおがこ。「美土里たい肥」で減農薬・減化学肥料栽培が普及。

 熊本県天草市・農事組合法人宮地岳営農組合は,高齢化など地域の課題に対応するため,営農組合を設立・法人化した。作業受託や生産調整,各種制度・事業活用のほか,地力増進,土壌診断などで米の食味が向上。一方,ナタネ栽培で油を特産化,町の景観がよくなり,バイオディーゼル燃料の利用にも取り組む(図2)。


図2 営農組合でナタネを栽培し,油を特産化。町の景観も向上


 愛知県知多郡阿久比町・阿久比米れんげちゃん研究会は,レンゲ緑肥でつくった地元の米を地元の消費者に届ける。レンゲはイネの品種ごとにすき込み時期を変えてイネの倒伏を防ぐ。イネの生育は薄まき・疎植で田植え1か月後から旺盛に。さらに米ぬか施用+深水管理で農薬に頼らない栽培を実現。

〈施設土壌の実例〉

 福島県東白川郡矢祭町の施設鉢花農家の金澤美浩さんは,気相率を維持する鉢土配合と緩効溶出肥料によって,手間のかかる培養土づくりから解放され,安定した生育を実現。改善を重ねてきた各時代ごとの具体的な用土と基肥を収録。

 茨城県筑西市のJA北つくばでは,土壌診断と施肥設計を外部化せず,内部で独自に塩基バランス重視の施肥設計を行ない,薬剤散布回数が少なく日もちする野菜や花の生産を実現。

 茨城県神栖市の施設ピーマン農家の原秀吉さんは,糖度計に加えて,硝酸イオンメーター,カリイオンメーターを使った生育診断とその対処法を解説。化学肥料の窒素成分を慣行の5割減とする特別栽培の具体的な施肥設計も収録。

 栃木県栃木市の施設ニラ農家の清水薫明さんは,牛糞+豚糞+鶏糞の完熟堆肥投入に加え,休作期間を設けてビールムギの緑肥をすき込むことで安定高収量を実現。「弾力があり,軟らかく,じゅうたんの上を歩いているような土」をつくり上げている。

 三重県松阪市の多品目直売農家の青木恒男さんは,不耕起,半不耕起,基肥ゼロ+単肥による追肥などにトウモロコシ残渣すき込みなどを多彩に組み合わせ,手間のかからない効率的な施肥・土壌管理を実現している。

〈露地畑土壌の実例〉

 北海道河西郡更別村のダイコン農家の野矢敏章さんは,その生理を活かした作付けで,密植でも高品質なダイコン生産を実現。エンバクを取り入れた栽培が品質を支えている。

 埼玉県和光市で露地野菜主体の多品目無農薬栽培をする清水誠市さんは,堆肥づくり・運搬の大変さから,堆肥+緑肥+ボカシ肥併用の土壌管理スタイルを確立。緑肥すき込みに嫌気性菌によるボカシ肥散布と浅耕を組み合わせて,安定生産を実現(図3)。


図3 埼玉県和光市で露地野菜主体の多品目無農薬栽培をする清水誠市さん


 千葉県八街市のダイコン農家の小見川修一さんは,ロータリによる作土の耕しすぎと,プラウやプラソイラによる深耕などで下層を混ぜる耕しすぎの両方をなるべくしない土壌管理が特徴。加えて,エンバク作付けでセンチュウ被害を緩和させている。

 長野県南佐久郡南牧村のハクサイ・レタス農家の林拓二さんは,7年1回転の輪作のなかで牧草を,裏作にエンバクを取り入れることで土壌の物理性,化学性,生物性の高位バランスを実現し,高い収量と品質を安定維持している。

〈樹園地土壌の実例〉

 長野県上田市・JA信州うえだ〓(やまじょう)果樹部会クラウンふじの会は,有機栽培で味重視の完熟リンゴ「クラウンふじ」を生産・販売している。堆肥を毎年10a当たり2~4t施用し,基肥も追肥も有機質肥料主体。着果量を減らして樹勢を維持するなど,会員同士の切磋琢磨で品質向上に努め,通常の‘ふじ’より高い価格で販売している。

 佐賀県伊万里市・JA伊万里梨部会では,ナシ幸水の施設栽培に伴う樹勢低下を防ぐため,礼肥を前倒ししている。窒素の遅効き回避で眠り症も防ぐ。収穫後の灌水で礼肥などの効果を高め,秋根を伸ばす。山土の客土で土壌流亡を防ぎ,粉砕剪定枝の表層施用で土作り。