農業技術大系・土肥編 2017年版(追録第28号)


有機栽培の新研究―輪作,緑肥,落ち葉堆肥

 輪作,緑肥などで省力化,コスト低減を追究した結果,慣行栽培に引けを取らない収量・品質が得られる有機栽培の体系を確立。国内外で有機栽培をめぐる研究も含めて紹介。以降,それぞれ冒頭は記事タイトル,文末のカッコ内は著者の所属と氏名(敬称略)。

図1 緑肥ヘアリーベッチで水田・畑の地力維持,転作の湿害回避

▼ダイコン―サツマイモうね連続使用有機栽培体系

 うね連続使用栽培は前作の収穫後,前作うねに後作をすぐに植え付ける方式で,植付け以外の作業は施肥,防除を含め,すべて省略できる(図2)。焼酎用サツマイモを天候に左右されず,苗の準備ができ次第,植え付けできるなど,栽培に要するコストと労力が削減でき,同じく作期の長い春ダイコンとの年2作が可能になる。共通うねに,有機質肥料(焼酎廃液濃縮液)の一括施用,ダイコンでの不織布二重被覆栽培,リビングマルチ(うね間エンバク)を組み合わせた結果,ダイコン,サツマイモともに慣行と同等の生産性が得られ,雑草の抑制で除草剤が不要となり,センチュウ害も問題にならず,無農薬でダイコン―サツマイモ4作の商品性を維持できた(農研機構九州沖縄農業研究センター・新美洋)。

図2 共通うねでダイコン収穫後,ただちにサツマイモ挿苗。うね間エンバクで雑草も抑制

▼ヘアリーベッチ植栽による土壌改良とダイズ作への効果

 秋田県では,ダイズ播種から3葉期にかけて(6月中旬~7月中旬),梅雨の時期と重なるため,湿害を受けやすい。そこで,大潟村ではヘアリーベッチを導入したダイズ栽培が行なわれている(図1)。ヘアリーベッチは耐寒性や耐雪性をもつ越冬可能な一年草であり,春から夏にかけて旺盛に生育する。緑肥植物の根の伸長により土壌粗孔隙,亀裂構造を発達させて排水性を高め,同時に植物の蒸散作用による土壌の乾燥化を促進する。マメ科植物なので根粒菌と共生して窒素固定をするため,土壌にすき込めば緑肥効果も大きい。ヘアリーベッチの植栽はダイズ作に効果的なだけでなく,地力を維持するという点でも田畑輪換体系に重要である(秋田県立大学・佐藤孝)。

〈国内外の研究〉

▼有機栽培転換期のレタス・ニンジン収量の変動と土壌酵素活性

 土壌酵素は有機物の分解や養分の循環に重要な役割を果たし,さまざまな土壌管理で活性が変化するため,土壌管理の指標になる可能性がある。そこで,慣行栽培から有機栽培への転換期間に土壌酵素の活性を調べたところ,転換後すぐに活性が高まる一方,作物の窒素吸収は転換2年目まで慣行栽培より少ない傾向にあった。そのため,酵素の活性では転換直後の作物の窒素吸収の少なさや低収を説明することは難しいと考えられた。しかし,6種類の土壌酵素活性の組合わせで有機土壌と慣行土壌の判別分析を行なったところ,転換初年目と2~3年目で判別式が異なったため,転換期の作物の収量変動を説明できる可能性が示された(農研機構中央農業研究センター・唐澤敏彦)。

▼有機栽培におけるグルコシノレートの害虫防除効果と健康増進効果

 おもにアブラナ科植物に存在するグルコシノレートは害虫忌避物質である。有機栽培した作物ではグルコシノレート含量が高まって,害虫防除効果が高まることが知られている。英国のStaleyは,有機栽培の施肥管理によって作物の害虫による被害が減るかどうか検討したところ,ダイコンアブラムシとコナガ幼虫は通常互いに競争しあうことはないが,キャベツ中の防御物質レベルが変化して,両者に競争が生じうることを示した。最近では,グルコシノレートから生ずるイソチオシアネートの抗ガン作用も注目されているが,それらの含量を高める栽培上の重要なポイントは,原則として有機栽培であっても窒素の施用を高くしないことである(元筑波大学・西尾道徳)。

▼有機栽培による抗酸化物質含量の増加とその条件

 ロンドン大学のDangourらは過去50年間の文献でメタ分析を行ない,有機栽培と慣行栽培で農産物の栄養含有量に差が見い出せず,健康に対する効果にも違いがないとした。しかし,ニューキャッスル大学のBarańskiらの分析では,有機栽培で硝酸塩含量の低下,ビタミンC含量,抗酸化物質含量の増加が認められた。これは1991年にEUで有機農業規則が交付され,家畜糞尿やその堆肥の施用量に上限が設定されたが,Dangourらが交付前の論文も含めて分析したのに対し,Barańskiらは交付後の論文で分析したためである。欧米の有機栽培は交付以降,地力増進作物を利用し,有機質肥料をほとんど施用せず,窒素の投入量が少なくなっている(元筑波大学・西尾道徳)。

〈生産者事例〉

▼無灌水,溝掘り深層施用の落ち葉堆肥でメロン,牛糞堆肥でトマトを有機栽培

 ハウスの施肥・土つくりは,トレンチャーで溝を掘り,堆肥を入れて埋め戻すというもので,しかも毎年同じところ(溝の位置)で作業を行なう。灌水できない立地条件ではあるが,この方法なら無灌水でもメロンやミニトマトを連作でき,品質も良いものが収穫できる。また,メロンやトマトなど,ハウス栽培では一般に1~2本仕立てで栽培されているが,栽植密度を3分の1以下にし,多数の側枝を立てて栽培している。こうすると,育苗,定植労力が3分の1以下になるだけでなく,芽かきや摘果などもほとんどしないですむし,追肥や灌水も不要となる。気象の変化や病害虫にも抵抗力が増し,株の寿命が長くなり,収量も増え,食味も改善される(福島県喜多方市・小川光)。

土壌病害を防ぐ

▼地温測定と気象情報を組み入れた太陽熱土壌消毒法「陽熱プラス」

 太陽熱土壌消毒法は,圃場表面をポリエチレンフィルムで被覆し,夏季に40度以上の地温を一定期間維持することで,土壌中の病害虫を死滅させる。病害虫の死滅条件はすでに明らかにされているため,圃場の地温変化がわかれば消毒効果を判断できる。しかし,導入メリットが見えにくいため,必ずしも現地普及が進んでいない(図3)。そこで,従来の太陽熱土壌消毒法の作業手順を見直すことで消毒効果を高めたうね立て後消毒に,温度記録計と気象情報を組み合わせた方法を開発した。さらに,消毒効果や養分供給効果の評価,うね立て後消毒に適した新肥料や有機質資材利用技術の実証,病害虫以外の土壌生物への影響評価も組み入れた(農研機構中央農業研究センター・橋本知義)。

図3 太陽熱土壌消毒では,左のようにハウスで柱の間など被覆していないところ,右のように露地でマルチを押さえる土塊の下は防除効果が劣る

▼太陽熱処理が土壌繊毛虫群集に及ぼす影響

 繊毛虫は,鞭毛虫やアメーバとともに原生動物に分類される従属栄養性の単細胞真核微生物である。土壌環境中で細菌や糸状菌,他の小型の原生生物を食べる捕食者の役割を果たしている。厩肥の施用に伴ってすばやく増殖する一方,農薬や土壌消毒の影響も受けて減少する。太陽熱土壌消毒は,土壌繊毛虫群集に大きな影響を与え,微生物食物連鎖全体に影響が及ぶ。しかし,消毒完了後77日目の土壌では,繊毛虫はかなりの程度回復し,元の群集に近くなる。臭化メチルによるくん蒸処理では繊毛虫を含む原生生物の回復に2年かかるとされており,太陽熱土壌消毒は非病原微生物に対する影響が比較的小さい処理方法であるかもしれない(名古屋大学・村瀬潤)。

▼レタス根腐病の発病抑止土壌および抑止メカニズムと施肥リン酸の影響

 レタス根腐病は,可溶性アルミニウムの多い黒ボクの表層土では菌糸の生育が顕著に抑えられたが(図4),土壌の可給態リン酸含量が増えるにしたがって,可溶性アルミニウムが減少し,菌糸伸長が良好になり,発病度が高くなった。水溶性リン酸は土壌中のアルミニウムイオンと結合して不溶性のリン酸アルミニウムを形成するため,黒ボク表層土の発病抑止力が低下してしまう。それに対して,ク溶性リン酸はリン酸によるアルミニウムの固定が少ないため,根腐病対策として有効な資材と考えられる。また,土壌診断を実施してリン酸過剰と判断された畑やハウスではリン酸施肥を控え,これ以上土壌の発病抑止力を低下させないことが重要である(東京農業大学・大島宏行)。

図4 黒ボク表層土がレタス根腐病の発病を抑止。左から黒ボク表層土,黒ボク下層土,赤黄色土,褐色低地土,灰色低地土

〈生産者事例〉

▼トウモロコシ輪作,暗渠・明渠,合理的な施肥でブロッコリーを安定生産

 経営はブロッコリーが主力で,しかも年2回もつくっているので,連作障害が出てしまう。そこで,まず連作をやめ,輪作体系を組んでいる。トウモロコシ,ネギ,レタス,イネ,ムギ,ニンジンなど,アブラナ科でない種類を組み込む。また,おとりダイコンにより防除する。場合によっては畑を1~2年以上休ませている。そして,ウネを高くしたり,暗渠や明渠などで圃場の排水をよくし,水をためないようにしている。堆肥は窒素,リン酸,カリ濃度の低いものを10a当たり2t,毎年でなく3年に1回の施用に減らしている。化成肥料も基肥を施肥量全体の3分の2とし,残りは生育状態によって追肥したり施すのをやめたりしている(埼玉県深谷市・鈴木時男)。

堆肥の肥料効果,土作り効果

▼豚糞堆肥のリン酸組成,溶解性およびリン酸化合物

 リン酸の肥効率は60~100%と文献によって大きな幅がある。これは土壌のリン酸固定力や土壌リン酸肥沃度,作物のリン酸に対する反応の違い,栽培期間の影響によるためである。肉牛,乳牛,豚,ブロイラー,採卵鶏の堆肥のうち,易溶性リン酸含量(全リン酸含量×易溶性リン酸割合)は豚糞堆肥が最も高くなった。リン酸組成は牛糞堆肥で副資材の種類,鶏糞堆肥で堆肥化方法の影響を受けるが,豚糞堆肥ではそれらの影響が小さかった。豚糞堆肥に含まれる易溶性リン酸はマグネシウムと結合したリン酸(MAP)が主体であると考えられた。コマツナによる試験では豚糞堆肥リン酸の利用率は38~40%で,肥効率は77~81%と評価された(JA 全農肥料農薬部・小宮山鉄兵)。

▼樹園地(ニホンナシ)における堆肥由来窒素の肥効を評価した利用法

 果樹は一年生作物と異なり,根が深く広く張ることから,土壌に残存する有機物などの地力窒素の寄与率が相対的に大きい。そして,長期間にわたって家畜糞堆肥を施用する樹園地の場合,窒素肥効は肥効率を考慮せず,全窒素含量で評価するほうが合理的である。県の施肥基準にしたがって化学肥料を施用する区,基肥窒素をすべて堆肥中全窒素で代替する区,化学肥料による施肥に上乗せで堆肥を施用する慣行区を設定して9年間栽培したところ,収量や生育,窒素吸収量は同等であった。そのため,慣行区の根域土壌の硝酸態窒素はナシ樹が必要とする以上にあり,地下水環境に対する窒素負荷も大きいと考えられる(茨城県農業総合センター・藤田裕)。

▼スラリーおよび堆肥が土壌中の有機物含量に及ぼす影響

 オーチャードグラスを播種し,化成肥料を併用した採草地で,スラリーを1ha当たり年間で66t(2年間の炭素換算で5.5t),または堆肥を36~39t(同9.0t)施用した。炭素収支はスラリー(-7.0t)より堆肥(-1.0t)のほうが土壌有機物の減少量を抑制できた。スラリーに含まれていた易分解性の有機物は,施用後素早く分解したが,堆肥の場合,易分解性の有機物は堆肥化過程ですでに分解されたと考えられる。このため,採草地に施用した後の分解率は,堆肥のほうがスラリーより小さかった。堆肥化の副資材として添加されたオガクズは,比較的分解が遅いリグニンを多く含むため,堆肥の分解率をさらに抑制したと考えられる(農研機構 畜産研究部門・森昭憲)。

〈生産者事例〉

▼地元由来の牛糞堆肥で環境保全型の稲作と野菜作,農家の食卓をそのまま届けたい

 食糧管理法の廃止以降,米の直接販売を開始した。牛糞堆肥による土つくりを続け,商品に対する情報を公開するなかで顧客を増やし,販売量の伸びとともに経営面積も増やしてきた。しかし近年,家族労働力への考慮から,規模を維持したまま売上増を目指す方向に変えた。納屋を改築し,漬物製造加工と菓子製造業の免許を取得し,自家生産したハクサイ・ダイコン・もち米を主とした加工品の販売も始めた。牛糞堆肥の施用で肥料代が安くなるものの,散布作業,燃料費や人件費が増加する。しかし,圃場条件や植付け品種を考慮した施用法,秋起こしなどで米が増収し,品質向上によって売上げが増え,結果的に収益が増加している(福井県三方郡美浜町・西野顕樹)。

飼料畑でリン酸,カリの減肥

▼飼料用トウモロコシ連作畑のリン酸施肥―アーバスキュラー菌根菌の活用

 AM菌(アーバスキュラー菌根菌)の宿主作物跡地でトウモロコシを栽培すると,生育初期の根でAM菌感染率が高まり,AM菌によるリン吸収促進効果が期待できる(図5)。そのリン酸減肥可能割合は黒ボク土で60%,火山放出物未熟土で20%であった。播種床の造成方法では,プラウ耕によって土層30cm程度を反転する慣行法よりも,ロータリー耕などで表層10~15cmのみ攪拌する簡易耕のほうが,初期生育指数は良好であった。トウモロコシ連作畑でのリン酸減肥可能量は,土壌型や耕起法などで変わる可能性があり,さらなる検討を要するものの,現行基準に対して20%程度の減肥であれば,初期生育や収量に影響を及ぼすおそれは少ないと考えられた(道総研根釧農業試験場・八木哲生)。

図5 トウモロコシ播種後約45日目の生育(リン酸無施用)。左はアーバスキュラー菌根菌の宿主作物トウモロコシ跡地,右は非宿主作物シロガラシ跡地

▼飼料用トウモロコシ栽培におけるカリウムの土壌中含量と減肥

 さらなる施肥の省資源化を図るため,飼料用トウモロコシを対象に牛糞堆肥の施用を前提とした,新たなカリ減肥指針の開発に取り組んだ。その結果,土壌の交換性カリ含量が18mg/100g未満のとき,カリ施肥量は10a当たり10kgとする。そして,この施肥量のときカリ収支はマイナスであるため,堆肥を10a当たり2~3t施用する。土壌の交換性カリ含量が18~36mg/100gのとき,カリ施肥量は4kgとする。ただし,これは牛糞堆肥0.5t未満から供給可能なカリの量であるため,牛糞堆肥施用時は不要とする。交換性カリ含量が36mg/100g以上のとき,目標収量に達するカリ吸収量24kgが得られることから,カリ肥料は施用しない(農研機構畜産研究部門・須永義人)。

水田土壌,造成土壌の特性

▼水田の土の色・粒径組成の調査とその意義

 土の色は,土色帖に配置された数百種類の色票と見比べることによって評価されてきたが,より正確で客観的に色を評価するには土色計による測定も有効である。いっぽう,土の粒径組成は砂・シルト・粘土の割合を得るのに約1週間を要するため,砂に注目し,ナイロンメッシュで迅速かつ簡便に砂含量を測定できる方法を開発した(図6)。2003年に田面の均平作業が行われた水田で,2002年と2012年に採取した土壌の特性を調べたところ,特性値の空間分布の経年持続性は黄色度,砂,可溶性鉄,可給態リン,赤色度,明度,全窒素の順に低下した。色と砂含量は均平作業の影響を受けにくく,また迅速に測定できるため,水田圃場の分類に有効である(京都大学・森塚直樹)。

図6 ナイロンメッシュで迅速かつ簡便に砂含量を測定。試料を巾着状に包み,流水中で揉みほぐして粘土とシルトを洗い出し,前後の秤量差を計測

▼耕作放棄後の植生変化と土壌有機物の蓄積

 広島県内の耕作放棄水田で,栽培水田の田植え前,稲刈り前に相当する時期に草刈りを行なった。その結果,1年目にはイネ科のタイヌビエ・スズメノテッポウなどの一年生草本が,2年目以降はキク科のセイタカアワダチソウ,イネ科のメリケンカルカヤなどの多年生草本が優占した。頻繁に草刈りを行なえば多年生草本の繁茂や木本の侵入を抑制できるものの,年数回程度では植生の遷移を止めるのが難しく,多くの休耕地では数年後に大型の多年生草本が優占する。初めは土壌表層の有機物量のみが増加するが,根・地下茎が伸びると深い層にも有機物が供給され,さらに表層の堆積有機物が分解する量も増え,全層で土壌有機物が増加する(農研機構北海道農業研究センター・下田星児)。

▼都市近郊農業地帯での施設栽培造成土壌の特性

 大阪府は平野部が半分程度を占めていることなどから,農地の地目,元の土地利用は水田であることが多い。そこでは湿った環境の圃場で,一定の排水性と通気性を確保して永年畑として利用するために,マサ土や山土と呼ばれる,山間部での宅地や道路建設で生じた土が客土されている。このような造成土では作物の生育が不安定になることも多く,適切な土壌改良が生産性の向上や安定のために必要である。施設栽培は有機資材の投入が多いにも関わらず,造成土では有機態窒素などの肥料分がかなり低い。一般に養分過剰な状態にあるとされる施設土壌であるが,造成土では低い養分元素もあり,土壌診断に基づく施肥設計がとくに望まれる((地独)大阪府立環境農林水産総合研究所・佐野修司,金剛穂波,元(地独)大阪府立環境農林水産総合研究所・内山知二)。

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▼土壌中でのリン酸の長期間にわたる収着と放出

 土壌中でリン酸は鉄やアルミニウムの酸化物・水酸化物,アロフェンやイモゴライトなどに吸着する。リン酸の液相から土壌粒子表面への移動は,鉱物粒子が正荷電を帯び,リン酸が負荷電を帯びるためである。移動後もリン酸の土壌粒子への取込みは続き,土壌粒子の表面だけでなく粒子の内部へも進む。リン酸は土壌の表面にあるマイクロ孔や小さなメソ孔のような微細な孔隙に吸着すると極端に放出されにくくなる。これはリン酸が三次元的に吸着されるためで,脱着しても孔の奥から外へと拡散するのに時間がかかり,その際に吸脱着を繰り返し得るからである。なお,吸着とは別に,鉱物表面に厚さをもって立体的に起きる表面沈殿もある(京都大学・渡邉哲弘)。

▼バーミキュライトの育苗培土原料としての特性

 営農上必要不可欠な資材である育苗培土は,原料の品質が製品の品質に大きく影響する。育苗培土の求められる品質,育苗培土に使用される原料や市販されている培土の原料組成や物理性など,育苗培土原料や品質に関して概括する。そのなかでも培土の主要な原料であるバーミキュライトでは,従来の南アフリカ産と比べて中国産はマグネシウム含量が低いことや,アンモニア性窒素を固定化するものがある。このようなバーミキュライトの原産国や採掘場所ごとの特性や使用上の留意点について紹介する(JA 全農・梶智光)。