農業技術大系・土肥編 2016年版(追録第27号)


2016年版「追録27号」企画の重点

地球規模で進む土壌劣化――風食(砂漠化)、土壌塩類化、有機物減耗ほか

 「土壌は農業開発、生態系の基本的機能および食糧安全保障の基盤であることから、地球上の生命を維持する要」(2013年の国連総会)である。しかし、わが国では養分が過剰に蓄積されるいっぽう、風食(砂漠化)、土壌塩類化、有機物減耗、森林消失などで土壌劣化が進んでいる。そのような厳しい現実とともに、解決策を提起(以降、それぞれ冒頭の▼印は記事タイトル、文末は著者の所属と氏名)。

▼養分の過剰蓄積――日本

 2013年の日本の食料自給率(カロリーベース)は39%であり、英国の72%、ドイツの92%など、ほかの先進国に比べて非常に低い。重量ベースの穀物自給率は28%であり、食料・飼料の大半が輸入されている。米や小麦などの主食用穀物も41%が輸入されている。その結果、輸入食料・飼料に含まれる養分は、し尿などの廃棄物となり、環境に負荷を与えている。食料自給率を上げることは、食料の安全だけでなく、環境を守ることにもなる。いっぽう、食料・飼料輸出国では、その輸出にともない、多量の養分が持ち出されている。環境・農地への負荷が大きいわが国とは異なる課題を、食料・飼料輸出国は抱えている。国際農林水産業研究センター・松本成夫氏が解説。

▼風食が引き起こす砂漠化――砂漠化の最前線(西アフリカ・サヘル地域)

 サヘル地域での砂漠化のおもな原因は風食、すなわち風による土壌侵食である(図1)。サヘル地域は農地の土壌が砂質のため、土壌の構造が発達しにくく、強い風が吹く時期に農地がほぼ裸地になっているため、風食に対して脆弱である。一般的に土壌は地表面に近い土層ほど養分に富んでおり、透水性も良い。風食では、そのような最表層の土壌から順に吹き飛ばされる。透水性の良い最表層の土層が数cm失われ、透水性の悪い土層が地表面に露出すると、じつに雨水の4割が土壌へ浸透しなくなる。したがって、ただでさえ少ない土壌養分と土壌水分がさらに低下する。国際農林水産業研究センター・伊ヶ崎健大氏が解説。

図1 風食を引き起こす雨季初期の嵐(西アフリカ・サヘル地域)。土壌が養分ごと削られ、透水性の悪い土層が地表面に露出

▼土壌塩類化――カザフスタン(シルダリア川下流域)、メキシコ、中国

 乾燥地域では、排水の悪い農地に大量の水が供給されると、過剰な水が浅い土層に地下水として停滞する。そして、土壌中の塩類がその地下水に溶解し、それが土壌中の微細な隙間によって地表面まで繋がる。地表面で水が蒸発すると、塩類を含んだ水が上昇し始める。地表面では水のみが蒸発するために、水に溶けていた塩類は地表面に残され、集積する(図2)。また、灌漑水などに含まれているナトリウムイオンが、粘土粒子にくっついていたほかの陽イオンを追い出して吸着すると、粘土粒子が分散して土壌の構造が壊れる(図3)。その結果、土壌の隙間がなくなり、水はけが悪くなり、乾燥すると非常に堅い土になる。鳥取大学・遠藤常嘉氏、山本定博氏が解説。

図2 カザフスタンの元農地と土壌断面。多量の水を用いた灌漑農業の結果、大量の塩類が土壌表面に集積

図3 左はソーダ質化で土壌表面がクラストで覆われている農地(メキシコ)、右は土壌pHの上昇で生じたリンゴの微量要素欠乏(中国)

▼有機物減耗――カザフスタンの肥沃な黒土地帯から

 この地域は灌漑に頼らない天水農業のため、旧ソビエト時代から、土壌水分保持能を高める技術として夏季休閑が行なわれている。夏季に3回程度、耕起することで、土壌水の毛管上昇を抑え、また、雑草の生長を抑えて蒸発散量を低下させ、土壌中に水分を保持する。さらに、土壌有機物の分解を促進させて作物に養分を供給する役割もある。調査によると、自然植生下で蓄積された土壌有機物は、開墾後50年の農業活動により、その2~3割が失なわれている。また、土壌有機物の減耗は通常チェルノーゼム地域や南方チェルノーゼム地域といった有機物賦存量の高い地域ほど大きい。農業環境技術研究所・高田裕介氏が解説。

▼アマゾンの森林消失と表層地温・土壌二酸化炭素濃度の変化

 ブラジル北部のアマゾンは1970年以後、道路建設、入植、森林伐採、地下資源の採掘、牧場・農場開発が進み、20%の森林が消失した。アマゾンの森林は、その林冠の存在で林床まで日射が到達せず、表層土壌の地温・土壌水分・土壌CO2の日変化は年間を通して微細に保たれている。しかし、伐採で日射が直接地面に到達するようになり、とくに乾期に地温の日振幅が増幅し、それに連動して土壌水分・土壌CO2濃度の日変化が起こるようになった。土壌中のCO2は化石燃料と違って植物由来(カーボンニュートラル)であることから大気に出ても問題視されないが、林冠に覆われていれば放出しにくく、大気に出ても地上部の光合成で吸収される。ここに森林消失が懸念される理由がある。今後は保全と利用を両立させる意味で、林内で栽培するアグロフォレストリーの普及が望まれる。広島大学・土谷彰男氏が解説。

 以上、土壌劣化に関する5本の記事を収録。以降、そのほかの収録記事について紹介する。

〈水はけ、水もちのよい田畑に〉

 水田に野菜を作付けて田畑輪換を行なうことは、野菜および水稲の栽培の両方にとってメリットがある。野菜では連作障害や病害虫が減る、水稲では施肥量を減らせ収量が増える、野菜と水稲の両方で雑草害が減るなどの効果がある。しかし、水田はもともと低湿地にあることが多いため、野菜導入のためにはまず排水対策が不可欠である。さらに、安定生産のためには、干ばつ時の灌漑も必要となる。

▼地下水位制御システムFOEASを活用した露地野菜の安定生産

 FOEAS(フォアス)による野菜生産では、地下からの水分供給で作土の水分が高く保たれ、干ばつ条件でも通常の収量が確保できる(図4)。そのいっぽう、地下水位は降雨の影響で水位計の高さよりもかなり高くなる。そのため、根が浅いタマネギであっても、降雨などで短期間、水位が上昇した場合、茎葉の伸びる生育前半であれば生育促進効果もあるが、球の形成期以降は湿害をおこす。根が深いキャベツであれば、土壌が乾燥している場合に一時的に灌漑するのがよく、それ以外は控えめな高さに水位を設定する。とくに雨の多い時期には通常の設定水位下限(-30cm)よりも、さらに(根元のパイプを外すなどして―60cmに)低く設定し、排水を優先する。農研機構野菜茶業研究所・中野有加氏が解説。

図4 地下水位制御によるキャベツ栽培。収穫調査(6月26日)では高水位区(右)の地上部重が低水位区(左)の52%、結球重が60%と小さくなった

▼転換畑ダイズへの地下水位制御システム(FOEAS)の導入

 ダイズの水分欠乏ストレスを軽減・回避する方法として近年、地下水位制御システム(FOEAS)が開発された。暗渠管用のプラスチック製有孔管を使用した幹線・支線パイプと、弾丸暗渠構造の補助孔を効率よく地中に配置して圃場の排水機能を高めるほか、用水をパイプ内に供給して地下灌漑を可能とするシステムである。これまで梅雨明け後の播種は、悪天候により播種の機会を逃した場合や出芽不良などによる再播種など、やむを得ない手段であった。しかし、FOEASの活用は梅雨明け後の晩播でも出芽・苗立ちが安定化し、播種機の有効利用や作付け面積の拡大などに貢献できる。農研機構近畿中国四国農業研究センター・竹田博之氏が解説。

▼イネ・コムギ・ダイズの小明渠浅耕・鎮圧播種

 耕うんロータリ装着式の小明渠浅耕播種機は降雨による湿害や、降雨後の乾燥で土壌表面に形成される硬い土膜(クラスト)による出芽不良を防ぐ。これにローラーを組み合わせ、土壌を鎮圧することで出芽率の向上をはかった(図5)。その結果、鎮圧が強くなるほど、表層の土壌体積含水率が高まり、いずれの作物も16%付近で出芽率がもっとも高くなった。鎮圧は深さ6~8cmの土壌を緻密にし、毛細管現象で約3か月間、土壌水分を高く保つ。水稲乾田直播栽培は強い鎮圧で出芽率が上がるものの収量は変わらず、コムギ栽培は弱い鎮圧で増収し、ダイズ栽培は効果にバラツキがあるため、土壌体積含水率で判断する必要がある。農研機構九州沖縄農業研究センター・佐々木豊氏が解説。

図5 小明渠浅耕播種機に鎮圧ローラを組み合わせてダイズの出芽率向上

▼北海道におけるタマネギ畑の耕盤層破砕による窒素収支の改善

 オホーツク地域のタマネギ畑の土壌物理性を調査した結果、黒ボク土と台地土での耕盤層は平均すると21~22cmと浅かった。そこで、耕盤層の破砕を試みたところ、出現深は無施工が14cmだったのに対し、サブソイラで17cm、全層破砕機で32cmとなった(図6)。そして、これらの土層の深さにタマネギの根張りの深さがほぼ一致し、根域の拡大によって窒素吸収量、総乾物重、収量が増加した。さらに、窒素収支の余剰と超過窒素量を減少させ、収穫跡地に残存する無機態窒素量も減少させた。全層破砕処理は連作条件で利用でき、かつ増収効果をあわせもつ対策であることから、経営的にも取り入れやすい技術である。道総研中央農業試験場・鈴木慶次郎氏が解説。

〈難防除雑草、土壌病害対策〉

図6 振動式全層破砕機(カワベスーパーソイラーSV3)

▼蒸気処理機を利用した雑草埋土種子の駆除技術

 土壌表面の雑草種子を蒸気処理によって死滅させる技術は従来、配管設備など大掛かりな施設を必要とするため、固定式が主流であった。そして、低い稼働効率や高い消費燃料のために施設栽培を中心とした小規模な利用にとどまってきた。いっぽう、自走型蒸気処理機はボイラで加熱した水蒸気を、運搬車後部の鉄製保温カバー内から噴出する仕様である。150℃の飽和蒸気から150~300℃の過熱蒸気まで出力でき、クローラ型運搬車は毎時0.5~2.0kmの速度で走行が可能である(図7)。自走型への改良と処理時間の大幅な短縮により広域処理が可能になり、ムギやダイズ、水稲など土地利用型作物での難防除雑草の防除に適用できる。農研機構中央農業総合研究センター・西村愛子氏が解説。

図7 自走型蒸気処理機による雑草の駆除

▼アスパラガス連作障害回避のための湛水太陽熱処理

 湛水太陽熱処理は、病原菌などの土壌消毒に用いられる太陽熱処理と圃場の除塩に用いられる湛水処理の組合わせであり、アスパラガスの連作障害に対して効果が期待される(図8)。すなわち、太陽熱処理による地温上昇で病原性微生物の菌密度を低下させ、同時にアスパラガス残渣の分解を促し、残渣から土壌中に放出されたアレロパシー物質を湛水灌漑により作土から除去し、さらに、過剰な肥料成分も作土から流出・低減させる。十分な水源が確保できない場合は、ハウス栽培で使用する灌水設備をそのまま利用し、あぜ塗り機でハウス周囲の土壌を固めることで畦畔板設置の労力も縮減できる。佐賀県農業試験研究センター・田川愛氏が解説。

図8 湛水太陽熱処理簡易法。あぜ塗り機でハウス周囲の土壌を固め(上)、栽培時に使用するチューブで灌水(下)

▼施設栽培者の土壌薫蒸剤の使用と自覚症状

 花卉栽培部会の健康診断にあわせて、土壌燻蒸剤の使用状況と自覚症状について面談調査した。クロルピクリン施用者は、38%が土壌燻蒸用マスクを、32%がゴーグルを着用していた。それらを着用しない人の自覚症状と自覚率は、涙目72%、咳31%、鼻水31%、呼吸が苦しい21%、眼がチカチカ19%であった。ピクリンの吸入を低減する工夫は「注入ツメが土壌中を進行していく注入機を用いる」「土壌温度の低い時間帯を選ぶ」「ピクリンを冷蔵しておく」「少し風があるときに作業する」などであった。さらに、近年は難透過性フィルム(シート)の使用により、土壌燻蒸剤の使用量を大きく低減できる可能性も指摘されている。佐久総合病院・永美大志氏が解説。

〈まだまだ進む環境保全型農業〉

▼山形県庄内地域における有機栽培水稲の特徴

 これまでの有機栽培水稲に関する研究は、複数の有機栽培方法を対象に、有機栽培圃場での報告が主だったため、山形県庄内地域で有機栽培と慣行栽培の比較を試みた。その結果、有機栽培は慣行栽培に比べ、穂数が少なく、一穂籾数が多いが、高温年次は穂数が増加した。また、m2当たり籾数が少なく、生育後半に窒素無機化によって窒素吸収量が増加することから、シンクに対しソースが多い栽培体系であり、高温障害にも抵抗性をもつと考えられた。有機栽培土壌は、有機質肥料の連用により、全リン酸量や窒素肥沃度が慣行栽培土壌より高くなっているものの、有機質肥料の種類によって、肥効の現われ方が異なると考えられた。長野県農業試験場・中島宏和氏、山形大学・森静香氏、藤井弘志氏が解説。

▼シカクマメの被覆作物としての効果と栽培技術

 被覆作物は雑草防除のほか、土壌流亡の防止効果も期待できる。つる性マメ科植物の野菜シカクマメは通常、支柱仕立てで栽培されるが、地這いで栽培すれば被覆作物として利用できる(図9)。初期生育が緩慢なため、その時期の除草は必要であるが、それ以外はとくに管理作業が必要ない。葉部や子実の害虫による食害も認められないことから、子実生産を目的としても無農薬栽培が可能である。しかし、子実生産を行なう場合は、ほぼ1年間の栽培期間を必要とするため、利用場面を検討する必要がある。たとえば、耕作放棄地などで雑草の繁茂や土壌流亡を抑制しながらの栽培も想定できる。琉球大学・鬼頭誠氏が解説。

図9 つる性マメ科植物の野菜シカクマメを地這い栽培で被覆作物に利用

▼塩酸抽出による土壌養分の簡易評価法

 常法とされる土壌分析法では、分析する成分ごとに抽出法が異なり、手間がかかる。もし、さまざまな成分を同じ方法で抽出できれば、分析の手間が削減できる。さらに、肥料成分の蓄積程度が標準を超える農地を見つけられればよいのであれば、分析値が少々不正確であっても問題ない。この塩酸抽出法は、市販の安価な塩酸を希釈して調製し、土壌を1時間、振とう抽出するだけである。試薬の計量やpH調整がなく、手間がかからない。また、得られる塩酸抽出液を希釈・補正すれば、小型光度計で硝酸態窒素、アンモニウム態窒素、リン、カリウムの濃度を分析でき、土壌に含まれるこれらの肥料成分量を評価できる。農研機構九州沖縄農業研究センター・原嘉隆氏が解説。

〈堆肥を活かして肥料を減らす〉

▼飼料用イネ(WCS用イネ・飼料用米)栽培における牛糞堆肥の適切な連年施用量

 WCS用イネ・飼料用米生産での家畜糞堆肥の施用量は、無施用から多量施用までさまざまである。そのうち、牛糞堆肥10a当たり2tの連年施用は、水系への養分流出や土壌養分の過剰蓄積が起こる可能性は低く、適正量と考えられる。稲わらを持ち出す場合でも、カリとリンはほぼ無施肥のまま、窒素肥料を節減しながら多収できる。10a当たり10kg程度の窒素を補給的に施用することで、環境に配慮した持続的な多収栽培が実現できる。稲わらを持ち出さない飼料米生産では、無堆肥栽培であっても作土からの大きな養分収奪の心配は少ないが、多収を目指すのであれば牛糞堆肥の施用が効果的である。農研機構中央農業総合研究センター・草佳那子氏が解説。

▼堆肥連用による露地野菜栽培での減肥と環境保全

 家畜糞堆肥には、窒素、リン酸、カリウムなどの作物の生産に必要な肥料成分が多く含まれている。堆肥を連用した露地野菜畑で、堆肥からもたらされる養分を考慮して減肥を進めたところ、堆肥連用8年目の年間窒素施肥量は、堆肥無施用区に対して牛糞堆肥区で33%、豚糞堆肥区で45%減肥することができた。また、肥料を減らしても、野菜の収量は化学肥料だけで栽培した場合に比べ、同等以上確保できた。堆肥を施用して減肥すると畑の余剰窒素(畑に施肥した窒素成分量から収穫物に含まれる窒素成分量を差し引いた残りの量)が減少し、圃場から溶脱する窒素の量も減少させることができた。愛知県農業総合試験場・辻正樹氏が解説。

▼堆肥施用によるリンとカリウムの肥料代替効果

 北海道オホーツク地域で、堆肥を連用したテンサイ、ジャガイモ、コムギの3年輪作体系について、3年間連続で施肥量を減らす圃場試験を行なった。その結果、圃場の土壌特性や堆肥の施用時期により堆肥の肥効が異なるものの、生産性の高い圃場ではリン酸を堆肥施用1年後から無施肥にしても問題なく、カリウムを1年目から無施肥にしても問題なかった。ポット試験によると、少なくとも半量程度は、リンとカリウムの基準施肥量を堆肥で賄えると考えられる。また、堆肥の肥効率は、作物による吸収量から計算した数値とほぼ同等であり、多くの場合、そのまま堆肥成分の肥効として適用しても、まったく問題ないといえる。東京農業大学・中丸康夫氏が解説。

〈未利用資源、身近な資材活用〉

▼熱交換器システムを用いた堆肥発酵熱の利用技術

 近年、堆積物の底部から空気を吸引することで、原料表面から内部方向へ空気を供給する吸引式堆肥化施設や、密閉容器の中で通気する密閉縦型堆肥化施設など、排気を効率よく回収できる構造の施設が普及している。いっぽう、堆肥生産の際に、戻し堆肥(堆肥化で含水率が低下した堆肥)を利用して、副資材の使用量を減らすことが広く行なわれている。そこで、施設から排気される湿熱ガスを用い、熱交換器で外気を加温し、それによって戻し堆肥の含水率を低下できないか検討した。その結果、戻し堆肥の含水率が3日間で70%弱から50%弱に低減し、副資材(バーク)の消費量が約2割低減できた。環境機構畜産環境技術研究所・小堤悠平氏が解説。

▼解砕繊維状竹粉の敷料利用とその堆肥化

 解砕繊維状の竹粉を黒毛和種育成雌牛の敷料に利用し、堆肥化した結果、通常のおがくず堆肥よりもアンモニア態窒素が多く残った。これは竹粉がおがくずに比べて、易分解性有機物を多く含んでいるためと考えられた。そのような竹粉堆肥を土壌に施用すると、作物の発芽に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、竹粉を堆肥化する場合には、通常のおがくず堆肥の1.5~2倍の期間をかける必要がある。また、竹粉を敷料にすると、下層がフェルト生地状に固まり、糞尿が浸透しにくくなった。そのため、堆肥化では切返し回数を増やし、固まった竹粉を粉砕し、成分の均一化をはかる必要がある。鹿児島大学・大島一郎氏が解説。

▼多段土壌層法における通水性の改良と水質浄化

 汚水を浄化するための土壌処理法のうち、多段土壌層法は土壌のもつ機能を強化・制御し、高負荷量での処理を可能にする。この方法に地元で調達が容易な資材を組み合わせ、浄化機能について検討した。ゼオライトは陽イオン交換容量が高く、高い窒素浄化能を発揮したが、交換性ナトリウム含量が高く、土壌粒子が分散して通水性が低下した。石州瓦は強度が高く、通水性が向上した。来待石はアンモニア除去効果が高かったものの構造的に脆く、通水性に難があった。ヤマトシジミの貝がらはカルシウムによる土壌構造の安定化で通水性改善効果が一番高かった。竹炭は多孔質による有機物分解能力に加えて、通水性の改良効果も高かった。島根大学・佐藤邦明氏、若月利之氏、増永二之氏が解説。

〈硝酸を減らして食味も向上〉

▼収穫前の施肥停止による水耕ミズナの品質向上

 低硝酸で食味のよいミズナを栽培するために、水耕栽培で一定期間、施肥を停止することによって、ミズナの生育、硝酸イオン濃度、全糖含量がどのように変化するか検討した。その結果、全肥料成分の施肥停止と窒素成分のみの施肥停止は、いずれも収穫1週間前であれば葉色に影響することなく、硝酸イオン濃度が低くなった。日射量の多い初夏どりでは硝酸還元酵素の活性が高く、窒素同化が進んだため、秋どりよりも硝酸イオン濃度が低くなった。全糖含量は処理期間が長くなるにつれて増加した。収穫3日前に窒素成分のみ施肥停止すれば、生育を維持しつつ、品質を向上できる。鳥取大学・桐村聡子氏、近藤謙介氏が解説。